U過去問を解いていて、ふと気になったことがありました。同じ商品を同じように仕入れて同じように売ったはずなのに、評価方法が違うだけで利益の数字が変わる。最初に問題を見たとき「これは何かのトリックでは」と思いましたが、ちゃんと理由があるのですよね。棚卸資産の評価方法は、財務・会計の中でも計算パターンが明確で、一度しっかり手を動かすと意外とスッキリします。一緒に整理してみます。
棚卸資産の評価方法は、在庫の「払い出し単価をどう計算するか」のルールです。同じ仕入・販売をしていても、先入先出法・移動平均法・総平均法のどれを使うかで売上原価と期末在庫の金額が変わり、最終的な利益にも影響します。1次試験では計算問題として頻出で、物価変動時の影響比較もよく問われます。この記事では共通の数値例を3つの方法で計算しながら、それぞれの違いを整理します。
棚卸資産とは・なぜ評価方法が問題になるのか
売上原価の構造:期首棚卸高 + 当期仕入高 - 期末棚卸高 = 売上原価
つまり「期末在庫をどう評価するか」が直接、売上原価の大小を決めます。期末在庫が高く評価されるほど売上原価は小さくなり、利益は大きくなります。
3つの評価方法を比べる
以下の数値例を3つの方法で計算します。
| 取引 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 期首在庫 | 100個 | @100円 | 10,000円 |
| 第1回仕入 | 200個 | @110円 | 22,000円 |
| 第1回払出(販売) | 150個 | — | — |
| 第2回仕入 | 100個 | @120円 | 12,000円 |
| 第2回払出(販売) | 100個 | — | — |
| 期末在庫 | 150個 | — | — |
先入先出法(FIFO) 古いロットから順番に払い出す
「最初に仕入れたものを最初に売る」という前提で払出単価を計算します。期末在庫には最新(最後に仕入れた)ロットが残ります。
| 取引 | 払出数量 | 払出単価 | 払出金額 | 残高(個数) | 残高(金額) |
|---|---|---|---|---|---|
| 期首在庫 | — | — | — | 100個 | 10,000円 |
| 第1回仕入 | — | — | — | 300個 (100@100 + 200@110) |
32,000円 |
| 第1回払出 | 150個 | 100@100 50@110 |
10,000 +5,500 = 15,500円 |
150個 (150@110) |
16,500円 |
| 第2回仕入 | — | — | — | 250個 (150@110 + 100@120) |
28,500円 |
| 第2回払出 | 100個 | 100@110 | 11,000円 | 150個 (50@110 + 100@120) |
17,500円 |
| 売上原価合計 | 250個 | — | 26,500円 | — | — |
| 期末在庫 | — | — | — | 150個 | 17,500円 |
期末在庫の内訳:50個×110円+100個×120円=5,500+12,000=17,500円(最新ロットが残る)
移動平均法 仕入のたびに平均単価を再計算
仕入が発生するたびに、そのときの残高と新しい仕入を合算して新しい平均単価を計算します。払出はそのときの平均単価を使います。
| 取引 | 残高数量 | 残高金額 | 平均単価 | 払出金額 |
|---|---|---|---|---|
| 期首在庫 | 100個 | 10,000円 | @100.00円 | — |
| 第1回仕入 +200個@110円 |
300個 | 32,000円 10,000+22,000 |
@106.67円 32,000÷300 |
— |
| 第1回払出 150個 | 150個 | 16,000円 | @106.67円 | 16,000円 106.67×150 |
| 第2回仕入 +100個@120円 |
250個 | 28,000円 16,000+12,000 |
@112.00円 28,000÷250 |
— |
| 第2回払出 100個 | 150個 | 16,800円 | @112.00円 | 11,200円 112×100 |
| 売上原価合計 | 250個 | — | — | 27,200円 |
| 期末在庫 | 150個 | 16,800円 | @112円 | — |
※ 106.67円は小数点以下を四捨五入せず計算する方法もあります。試験では問題の指示に従ってください。
総平均法 期末に一度だけ平均単価を計算
期中のすべての仕入(期首在庫含む)を合算し、期末に1つの平均単価を計算します。移動平均法とは異なり、仕入のたびに単価を更新しません。最もシンプルな方法です。
| 項目 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|
| 期首在庫 | 100個 | 10,000円 |
| 第1回仕入 | 200個 | 22,000円 |
| 第2回仕入 | 100個 | 12,000円 |
| 合計(期中取扱高) | 400個 | 44,000円 |
| 期中平均単価 | 44,000円 ÷ 400個 = @110円 | |
| 計算 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 総払出(第1回+第2回) | 250個 | @110円 | 27,500円 |
| 期末在庫 | 150個 | @110円 | 16,500円 |
3方法の結果比較
| 指標 | 先入先出法 (FIFO) |
移動平均法 | 総平均法 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 26,500円 | 27,200円 | 27,500円 |
| 期末在庫評価額 | 17,500円 | 16,800円 | 16,500円 |
| 売上原価の大小 | 最も小さい | 中間 | 最も大きい |
| 期末在庫の大小 | 最も大きい | 中間 | 最も小さい |
※ 仕入単価が上昇傾向のときの比較。期首在庫:10,000円、当期仕入:34,000円(合計44,000円)を確認として。



比較テーブルを見て「なるほど」と思いました。物価が上がっているとき、先入先出法では古い(安い)ものから売ったことになるので売上原価が低くなる。一方、期末在庫には新しい(高い)ものが残るので在庫評価は高くなる。これが逆転するのが面白いですよね。「売上原価が低い=利益が大きく見える」という関係は、最初ちょっと混乱しました。
物価変動時の影響まとめ
物価が上昇しているとき(インフレ)、3つの方法の影響は次のように整理できます。
売上原価:先入先出法 < 移動平均法 < 総平均法(先入先出法が最も低い)
期末在庫評価:先入先出法 > 移動平均法 > 総平均法(先入先出法が最も高い)
利益:先入先出法 > 移動平均法 > 総平均法(先入先出法が最も大きく見える)
後入先出法(LIFO)について
かつて日本でも使われていた後入先出法(最後に仕入れたものから先に払い出す方法)は、2010年の棚卸資産の評価に関する会計基準改正で廃止されています。IFRSでも認められていません。試験では「廃止済みである」という事実が問われることがあります。インフレ時にLIFOは売上原価が最も高くなり利益が最も小さくなる(節税効果)という性質がありましたが、現在の日本基準・IFRSでは選択できません。
低価法と棚卸資産の減損
正味実現可能価額=売却見込価額 ー 見積追加製造原価・販売直接経費
通常の販売目的保有の棚卸資産 → 売上原価に算入
| 区分 | 評価基準 | 評価損の計上先 |
|---|---|---|
| 通常の販売目的 | 正味実現可能価額 | 売上原価(製造業は製造原価) |
| トレーディング目的 | 市場価格(時価) | 売上原価 |
| 収益性が著しく低下した場合 | 正味実現可能価額(特別評価) | 特別損失として区分表示も可 |
過去問で確認する
・期首在庫:50個 @200円
・仕入:100個 @220円
・当期販売:80個
- ア 13,600円
- イ 15,200円
- ウ 15,400円
- エ 16,000円
売上原価=50×200+30×220=10,000+6,600=16,600円
期末在庫=70個(残り)=100-30=70個 @220円=70×220=15,400円
※ 選択肢との対応は問題文の数値設定によって異なります。先入先出法では「期末在庫=最新ロット」という原則を確認することが重要です。
- ア 先入先出法は、後入先出法と比較して売上原価が大きくなる
- イ 先入先出法は、総平均法と比較して期末棚卸資産の評価額が大きくなる
- ウ 総平均法は、移動平均法と比較して常に同じ売上原価となる
- エ 後入先出法は、日本基準においても選択可能な方法である
ア:先入先出法の売上原価は後入先出法より小さい(古い安いロットから払い出すため)。
ウ:総平均法と移動平均法の結果は通常異なります。
エ:後入先出法は2010年の会計基準改正により日本基準・IFRSともに廃止されています。
- ア 低価法は任意適用であり、企業が選択して適用することができる
- イ 棚卸資産評価損はすべて特別損失として計上しなければならない
- ウ 通常の販売目的で保有する棚卸資産について、正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合には、評価減を行う
- エ 後入先出法は物価下落時に選択することで利益を大きくできるため、現在も認められている
ア:2008年以降の会計基準改正で低価法は強制適用になりました(任意ではありません)。
イ:通常の販売目的保有の棚卸資産の評価損は原則として売上原価に算入します。特別損失にするのは収益性が著しく低下した場合の区分表示に限られます。
エ:後入先出法は現在の日本基準・IFRSで廃止されています。
- 棚卸資産の評価方法は「払出単価の計算ルール」。先入先出法・移動平均法・総平均法の3つが現在の日本基準・IFRSで認められている。
- 先入先出法:古いロットから払い出す。物価上昇時は売上原価が最も低く、利益が大きく見え、期末在庫評価が最も高い。
- 移動平均法:仕入のたびに平均単価を更新。計算は都度行うため手間がかかるが、在庫管理ソフトとの相性がよい。
- 総平均法:期末に1度だけ計算するシンプルな方法。物価上昇時は売上原価が最も高く、利益が小さく見える。
- 後入先出法(LIFO)は2010年の会計基準改正で廃止。現在の日本基準・IFRSで選択不可。試験でもこの事実が問われる。
- 低価法は強制適用(2008年基準改正後)。正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合は評価減が必要。評価損は原則として売上原価に算入。
特に過去問では「物価上昇時に利益が大きい方法はどれか」という形で出題されることが多いので、先入先出法が利益・在庫評価ともに高くなるという関係は確実に押さえておきたいところです。後入先出法の廃止も、定番の確認事項として記憶しておくと安心です。









