棚卸資産の評価方法まとめ|先入先出法・移動平均法・総平均法の計算を図解で整理

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過去問を解いていて、ふと気になったことがありました。同じ商品を同じように仕入れて同じように売ったはずなのに、評価方法が違うだけで利益の数字が変わる。最初に問題を見たとき「これは何かのトリックでは」と思いましたが、ちゃんと理由があるのですよね。棚卸資産の評価方法は、財務・会計の中でも計算パターンが明確で、一度しっかり手を動かすと意外とスッキリします。一緒に整理してみます。

棚卸資産の評価方法は、在庫の「払い出し単価をどう計算するか」のルールです。同じ仕入・販売をしていても、先入先出法・移動平均法・総平均法のどれを使うかで売上原価と期末在庫の金額が変わり、最終的な利益にも影響します。1次試験では計算問題として頻出で、物価変動時の影響比較もよく問われます。この記事では共通の数値例を3つの方法で計算しながら、それぞれの違いを整理します。

目次

棚卸資産とは・なぜ評価方法が問題になるのか

DEFINITION
棚卸資産とは
販売目的で保有する商品・製品・仕掛品・原材料などのこと。貸借対照表では流動資産に計上されます。期末に実地棚卸を行い、残高を確定させます。
WHY IT MATTERS
なぜ評価方法が必要か
同じ商品でも仕入れたタイミングで単価が異なります。複数ロットが混在しているとき「どのロットの商品を売ったか」を特定できないため、計算上のルールを決める必要があります。
IMPACT
何に影響するか
払出単価の計算方法が変わると「売上原価」が変わり、結果として「売上総利益」と「期末在庫評価額(貸借対照表の資産)」の両方が変わります。

売上原価の構造:期首棚卸高 + 当期仕入高 - 期末棚卸高 = 売上原価

つまり「期末在庫をどう評価するか」が直接、売上原価の大小を決めます。期末在庫が高く評価されるほど売上原価は小さくなり、利益は大きくなります。

3つの評価方法を比べる

以下の数値例を3つの方法で計算します。

取引 数量 単価 金額
期首在庫100個@100円10,000円
第1回仕入200個@110円22,000円
第1回払出(販売)150個
第2回仕入100個@120円12,000円
第2回払出(販売)100個
期末在庫150個

先入先出法(FIFO) 古いロットから順番に払い出す

「最初に仕入れたものを最初に売る」という前提で払出単価を計算します。期末在庫には最新(最後に仕入れた)ロットが残ります。

取引 払出数量 払出単価 払出金額 残高(個数) 残高(金額)
期首在庫 100個 10,000円
第1回仕入 300個
(100@100 + 200@110)
32,000円
第1回払出 150個 100@100
50@110
10,000
+5,500
= 15,500円
150個
(150@110)
16,500円
第2回仕入 250個
(150@110 + 100@120)
28,500円
第2回払出 100個 100@110 11,000円 150個
(50@110 + 100@120)
17,500円
売上原価合計 250個 26,500円
期末在庫 150個 17,500円

期末在庫の内訳:50個×110円+100個×120円=5,500+12,000=17,500円(最新ロットが残る)

移動平均法 仕入のたびに平均単価を再計算

仕入が発生するたびに、そのときの残高と新しい仕入を合算して新しい平均単価を計算します。払出はそのときの平均単価を使います。

取引 残高数量 残高金額 平均単価 払出金額
期首在庫 100個 10,000円 @100.00円
第1回仕入
+200個@110円
300個 32,000円
10,000+22,000
@106.67円
32,000÷300
第1回払出 150個 150個 16,000円 @106.67円 16,000円
106.67×150
第2回仕入
+100個@120円
250個 28,000円
16,000+12,000
@112.00円
28,000÷250
第2回払出 100個 150個 16,800円 @112.00円 11,200円
112×100
売上原価合計 250個 27,200円
期末在庫 150個 16,800円 @112円

※ 106.67円は小数点以下を四捨五入せず計算する方法もあります。試験では問題の指示に従ってください。

総平均法 期末に一度だけ平均単価を計算

期中のすべての仕入(期首在庫含む)を合算し、期末に1つの平均単価を計算します。移動平均法とは異なり、仕入のたびに単価を更新しません。最もシンプルな方法です。

項目 数量 金額
期首在庫100個10,000円
第1回仕入200個22,000円
第2回仕入100個12,000円
合計(期中取扱高) 400個 44,000円
期中平均単価 44,000円 ÷ 400個 = @110円
計算 数量 単価 金額
総払出(第1回+第2回) 250個 @110円 27,500円
期末在庫 150個 @110円 16,500円

3方法の結果比較

指標 先入先出法
(FIFO)
移動平均法 総平均法
売上原価 26,500円 27,200円 27,500円
期末在庫評価額 17,500円 16,800円 16,500円
売上原価の大小 最も小さい 中間 最も大きい
期末在庫の大小 最も大きい 中間 最も小さい

※ 仕入単価が上昇傾向のときの比較。期首在庫:10,000円、当期仕入:34,000円(合計44,000円)を確認として。

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比較テーブルを見て「なるほど」と思いました。物価が上がっているとき、先入先出法では古い(安い)ものから売ったことになるので売上原価が低くなる。一方、期末在庫には新しい(高い)ものが残るので在庫評価は高くなる。これが逆転するのが面白いですよね。「売上原価が低い=利益が大きく見える」という関係は、最初ちょっと混乱しました。

物価変動時の影響まとめ

物価が上昇しているとき(インフレ)、3つの方法の影響は次のように整理できます。

売上原価:先入先出法 < 移動平均法 < 総平均法(先入先出法が最も低い)

期末在庫評価:先入先出法 > 移動平均法 > 総平均法(先入先出法が最も高い)

利益:先入先出法 > 移動平均法 > 総平均法(先入先出法が最も大きく見える)

先入先出法(FIFO)
売上原価低い(古い単価で計上)
利益大きく見える
期末在庫高く評価
税負担増加しやすい
移動平均法
売上原価中間
利益中間
期末在庫中間
計算タイミング仕入のたびに更新
総平均法
売上原価高い(最新単価が混在)
利益小さく見える
期末在庫低く評価
計算タイミング期末に一括計算

後入先出法(LIFO)について

かつて日本でも使われていた後入先出法(最後に仕入れたものから先に払い出す方法)は、2010年の棚卸資産の評価に関する会計基準改正で廃止されています。IFRSでも認められていません。試験では「廃止済みである」という事実が問われることがあります。インフレ時にLIFOは売上原価が最も高くなり利益が最も小さくなる(節税効果)という性質がありましたが、現在の日本基準・IFRSでは選択できません。

低価法と棚卸資産の減損

低価法
取得原価 vs 正味実現可能価額
棚卸資産は原則として取得原価で評価しますが、時価(正味実現可能価額)が取得原価を下回る場合には、低い方の価額(時価)を貸借対照表価額とします。これを低価法といいます。

正味実現可能価額=売却見込価額 ー 見積追加製造原価・販売直接経費
評価損の計上
強制適用される評価減
2008年以降の日本基準では、棚卸資産の低価法が強制適用されています(以前は任意適用でした)。時価が下落した場合の差額は「棚卸資産評価損」として売上原価または特別損失に計上します。

通常の販売目的保有の棚卸資産 → 売上原価に算入
減損との違い
収益性の低下 vs 市場価格の下落
棚卸資産の評価減は「正味実現可能価額への切り下げ」です。固定資産の減損とは根拠が異なります。棚卸資産の場合は将来の販売価格の見通しが主な判断基準で、使用価値の計算は行いません。
区分 評価基準 評価損の計上先
通常の販売目的 正味実現可能価額 売上原価(製造業は製造原価)
トレーディング目的 市場価格(時価) 売上原価
収益性が著しく低下した場合 正味実現可能価額(特別評価) 特別損失として区分表示も可

過去問で確認する

1次試験 財務・会計|棚卸資産の評価方法(計算) 頻出論点
次の取引データをもとに先入先出法で計算した場合の期末棚卸資産の評価額として、最も適切なものはどれか。

・期首在庫:50個 @200円
・仕入:100個 @220円
・当期販売:80個
  • ア 13,600円
  • イ 15,200円
  • ウ 15,400円
  • エ 16,000円
解説
先入先出法では古いロットから払い出します。販売80個は期首50個@200+30個@220で処理。
売上原価=50×200+30×220=10,000+6,600=16,600円
期末在庫=70個(残り)=100-30=70個 @220円=70×220=15,400円
※ 選択肢との対応は問題文の数値設定によって異なります。先入先出法では「期末在庫=最新ロット」という原則を確認することが重要です。
1次試験 財務・会計|物価上昇時の評価方法比較 比較問題
仕入単価が期を通じて上昇している状況における棚卸資産の評価方法に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 先入先出法は、後入先出法と比較して売上原価が大きくなる
  • イ 先入先出法は、総平均法と比較して期末棚卸資産の評価額が大きくなる
  • ウ 総平均法は、移動平均法と比較して常に同じ売上原価となる
  • エ 後入先出法は、日本基準においても選択可能な方法である
解説
イが正解です。仕入単価が上昇しているとき、先入先出法では古い(安い)単価の在庫から払い出すため、期末には新しい(高い)単価の在庫が残ります。したがって期末棚卸資産の評価額は総平均法より大きくなります。

ア:先入先出法の売上原価は後入先出法より小さい(古い安いロットから払い出すため)。
ウ:総平均法と移動平均法の結果は通常異なります。
エ:後入先出法は2010年の会計基準改正により日本基準・IFRSともに廃止されています。
1次試験 財務・会計|低価法・棚卸資産評価損 R3・H29類題
棚卸資産の評価に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 低価法は任意適用であり、企業が選択して適用することができる
  • イ 棚卸資産評価損はすべて特別損失として計上しなければならない
  • ウ 通常の販売目的で保有する棚卸資産について、正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合には、評価減を行う
  • エ 後入先出法は物価下落時に選択することで利益を大きくできるため、現在も認められている
解説
ウが正解です。現行基準では棚卸資産の低価法は強制適用で、正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合は評価減が必要です。

ア:2008年以降の会計基準改正で低価法は強制適用になりました(任意ではありません)。
イ:通常の販売目的保有の棚卸資産の評価損は原則として売上原価に算入します。特別損失にするのは収益性が著しく低下した場合の区分表示に限られます。
エ:後入先出法は現在の日本基準・IFRSで廃止されています。
この記事のまとめ
  • 棚卸資産の評価方法は「払出単価の計算ルール」。先入先出法・移動平均法・総平均法の3つが現在の日本基準・IFRSで認められている。
  • 先入先出法:古いロットから払い出す。物価上昇時は売上原価が最も低く、利益が大きく見え、期末在庫評価が最も高い。
  • 移動平均法:仕入のたびに平均単価を更新。計算は都度行うため手間がかかるが、在庫管理ソフトとの相性がよい。
  • 総平均法:期末に1度だけ計算するシンプルな方法。物価上昇時は売上原価が最も高く、利益が小さく見える。
  • 後入先出法(LIFO)は2010年の会計基準改正で廃止。現在の日本基準・IFRSで選択不可。試験でもこの事実が問われる。
  • 低価法は強制適用(2008年基準改正後)。正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合は評価減が必要。評価損は原則として売上原価に算入。
Uのメモ
計算問題を解くとき、私は最初に「どの方法か」と「物価は上昇しているか下落しているか」を確認するようにしています。数値例を手で追うと確かに結果が変わるのがわかって、「なぜ利益が違うのか」が腑に落ちる感覚がありました。

特に過去問では「物価上昇時に利益が大きい方法はどれか」という形で出題されることが多いので、先入先出法が利益・在庫評価ともに高くなるという関係は確実に押さえておきたいところです。後入先出法の廃止も、定番の確認事項として記憶しておくと安心です。
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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