U「政府が10兆円使うと、GDPはそれ以上増える」——乗数効果の計算は経済学でほぼ毎年出題されます。消費関数・MPC・乗数の仕組みを、図解と計算例でしっかり理解していきましょう。
消費関数とは——ケインズ型消費関数の基本
消費(C)は所得(Y)の増加関数であるという考え方をもとに、ケインズが提唱した消費と所得の関係式です。
| 記号 | 意味 | 補足 |
|---|---|---|
| C | 消費 | 家計の消費支出 |
| a | 基礎消費(自発的消費) | 所得がゼロでも最低限の消費は行われる(借入・貯蓄取崩しによる) |
| b | 限界消費性向(MPC) | 所得が1単位増えたとき消費が増える割合(0 < b < 1) |
| Y | 国民所得(GDP) | 可処分所得で表すこともある |
具体例: C = 20 + 0.8Y という消費関数の場合
- 所得がゼロでも20(基礎消費)を消費する
- 所得が100増えると、消費は 0.8×100 = 80 増える
- 残りの 20(=100−80)が貯蓄に回る
消費関数のグラフは横軸に所得(Y)、縦軸に消費(C)をとった座標平面に描かれます。傾きがMPC(b)であり、切片が基礎消費(a)です。45度線との交点が「消費=所得(貯蓄がゼロ)」の点を示します。
限界消費性向(MPC)と限界貯蓄性向(MPS)
- 限界消費性向(MPC:Marginal Propensity to Consume):所得が1単位増えたとき、追加的に消費に使われる割合
- 限界貯蓄性向(MPS:Marginal Propensity to Save):所得が1単位増えたとき、追加的に貯蓄に回る割合
追加所得は消費か貯蓄のどちらかにしか使われないため、この恒等式が成り立ちます。
| 指標 | 式 | 値の範囲 | 意味 |
|---|---|---|---|
| MPC(限界消費性向) | ΔC / ΔY | 0 < MPC < 1 | 追加所得のうち消費に回る比率 |
| MPS(限界貯蓄性向) | ΔS / ΔY | 0 < MPS < 1 | 追加所得のうち貯蓄に回る比率 |
| APC(平均消費性向) | C / Y | 1より大きいことも | 所得全体のうち消費に使う比率 |
MPC が高い vs 低い場合の違い
| MPC の状態 | 消費行動 | 乗数効果への影響 |
|---|---|---|
| MPC が高い(例:0.9) | 追加所得のほとんどを消費する | 乗数が大きい → 財政政策の効果大 |
| MPC が低い(例:0.5) | 追加所得の多くを貯蓄する | 乗数が小さい → 財政政策の効果小 |
45度線分析——均衡国民所得の決定
45度線分析(ケインジアン・クロス)は、財市場の均衡国民所得を図解的に求める方法です。
財市場の均衡は「総需要(AD)= 総供給(Y)」が成立するときです。
- 総需要:AD = C + I(閉鎖経済の単純モデル)
- 均衡条件:Y = C + I
- 消費関数を代入:Y = (a + bY) + I
- 整理すると:Y(1-b) = a + I → Y = (a + I) / (1-b)
グラフでは:
- 45度線:Y = Y(総供給を表す)
- 総需要線:AD = a + bY + I(傾きがMPC、切片が a+I)
- 交点が均衡点(AD = Y が成立)
均衡国民所得の計算例
C = 20 + 0.8Y、I = 30 のとき均衡国民所得は?
Y = C + I = (20 + 0.8Y) + 30
Y − 0.8Y = 50
0.2Y = 50
Y = 250
乗数効果——投資乗数の計算
投資(I)が ΔI だけ増加したとき、国民所得は ΔY だけ増加します。
乗数効果が生まれる理由を直感的に理解しましょう:
乗数効果の連鎖(MPC = 0.8 の場合、投資が100増加)
- 投資100増加 → 建設業者の所得が100増える
- 建設業者は 100×0.8 = 80 を消費する → 食品・衣料業者の所得が80増える
- 食品業者は 80×0.8 = 64 を消費する → さらに次の業者へ…
- 合計:100 + 80 + 64 + 51.2 + … = 100 × 1/(1−0.8) = 500
投資の100増加が最終的にGDP500の増加をもたらす!
| MPC | MPS = 1−MPC | 乗数 = 1/MPS |
|---|---|---|
| 0.5 | 0.5 | 2 |
| 0.6 | 0.4 | 2.5 |
| 0.8 | 0.2 | 5 |
| 0.9 | 0.1 | 10 |
財政乗数——政府支出と租税の乗数
政府が関与する場合、財市場の均衡式は次のようになります:
Y = C + I + G(G:政府支出)
消費が可処分所得(Y−T)の関数:C = a + b(Y−T)(T:租税)
| 政策手段 | 乗数の公式 | MPC=0.8 の場合 |
|---|---|---|
| 政府支出乗数(ΔG) | 1/(1−MPC) | 1/0.2 = 5 |
| 租税乗数(ΔT) | −MPC/(1−MPC) | −0.8/0.2 = −4 |
| 移転支出乗数(ΔTR) | MPC/(1−MPC) | 0.8/0.2 = 4 |
乗数の大小関係(MPC = 0.8 の場合)
政府支出乗数(5)> 移転支出乗数(4)> |租税乗数|(4)
同じ金額なら、政府が直接支出する方が、給付金を配る(移転)よりGDPへの効果が大きい。これは、給付金の一部が貯蓄に回るためです。
均衡予算乗数——財政中立の原則
政府支出と租税を同額だけ増加させる(ΔG = ΔT)場合、財政収支を悪化させずにGDPを増加させることができます。
証明(MPC = c として)
- 政府支出乗数:1/(1−c)
- 租税乗数:−c/(1−c)
- 合計:1/(1−c) − c/(1−c) = (1−c)/(1−c) = 1
つまり、ΔG = ΔT = 1兆円 の場合、GDPは必ず 1兆円だけ増加する(MPC の値に関わらず)。
この定理の直感的な理解:
- 政府支出1兆円 → GDP に 1/(1−c) の効果
- 増税1兆円 → 消費が c/(1−c) 減少(GDPへの負の効果)
- 差し引きすると、常に1兆円分の純効果が残る
試験で頻出の計算問題パターン
パターン①:均衡国民所得を求める
消費関数:C = 10 + 0.75Y、投資:I = 50、政府支出:G = 40、租税:T = 40
Y = C + I + G = [10 + 0.75(Y−40)] + 50 + 40
Y = 10 + 0.75Y − 30 + 90
Y − 0.75Y = 70
0.25Y = 70 → Y = 280
パターン②:必要な財政出動を求める
現在のY = 200、目標のY = 250、MPC = 0.8 のとき、必要な政府支出増加ΔGは?
乗数 = 1/(1−0.8) = 5
ΔY = ΔG × 5 → 50 = ΔG × 5 → ΔG = 10
パターン③:均衡予算乗数の適用
ΔG = ΔT = 20 のとき、ΔYは?
均衡予算乗数 = 1(MPC に関わらず)
ΔY = ΔG × 1 = 20
| 問われるパターン | 使う公式・知識 |
|---|---|
| MPCを求める | 消費関数の傾き b = ΔC/ΔY |
| 均衡国民所得を求める | Y = (a + I + G − cT) / (1−c) |
| 乗数の計算 | k = 1/(1−MPC) = 1/MPS |
| 均衡予算乗数 | 常に = 1(MPCに依存しない) |
| MPCが変化したときの乗数変化 | MPC↑ → 乗数↑ → 財政政策の効果↑ |
よくある疑問——FAQ
まとめ——消費関数・乗数の学習ポイント
- 消費関数 C = a + bY:切片が基礎消費、傾きがMPC(b)
- MPC + MPS = 1:追加所得は消費か貯蓄のどちらかへ
- 投資乗数 = 1/(1−MPC):MPC が高いほど乗数は大きい
- 政府支出乗数 > 租税乗数(絶対値):直接支出の方が効果大
- 均衡予算乗数 = 1(MPC に依存しない)
消費関数・乗数は経済学の中でも計算問題として出題されやすいテーマです。公式を単純に暗記するだけでなく、「なぜその式が成り立つか」のメカニズムを理解すると、応用問題にも対応できます。過去問でさまざまなMPCの値を使った計算練習を積み重ねましょう。









