U決算書を学んでいると、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」という3つはよく耳にするのに、株主資本等変動計算書だけなんとなく後回しにしていました。でも、過去問で純資産の変動を問う問題に何度も手が止まったとき、「この計算書の構造を丁寧に整理しないといけない」と感じて向き合ってみました。整理すると、純資産の1年間の動きがとても鮮明に見えてくる、意外と読みやすい財務諸表でした。
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の「純資産の部」が1年間でどう変動したかを説明する財務諸表です。会社が利益を上げる・配当を出す・株を発行する・自己株式を買い戻す——そうした資本に関わるすべての動きが、この1枚に記録されます。財務会計の1次試験では、配当の計算・資本準備金の積立額・自己株式の処理などが繰り返し出題されており、構造を丁寧に理解しておくことで得点源にできます。
B/Sとの関係——純資産の「動き」を見せる第3の財務諸表
貸借対照表(B/S)を見ると、当期末の純資産の金額はわかります。でも、「なぜ去年より増えたのか(減ったのか)」は、B/Sだけでは読み取れません。そこに登場するのが株主資本等変動計算書です。
純資産の合計:○○円
+ 新株発行・準備金の増減
− 配当の支払い・自己株式の取得
± その他包括利益
純資産の合計:○○円
つまり株主資本等変動計算書は、前期末B/S → 当期末B/Sへの「橋渡し」をする計算書です。会社法では「株主資本等変動計算書」、金融商品取引法(上場会社)では「株主資本等変動計算書」に加えて「包括利益計算書」も作成が求められます。
(株主資本・評価換算等・新株予約権・非支配株主持分)
第3の財務諸表
積立限度額の目安
純資産の構成——株主資本・評価換算差額等・新株予約権
純資産は大きく3つ(連結なら4つ)に分かれています。試験では「どの項目がどのカテゴリに属するか」を問われることがあるため、まず全体像を整理します。
| 大分類 | 中分類 | 主な項目 |
|---|---|---|
| 株主資本 | 資本金 | 払込資本のうち資本金に計上した額 |
| 資本剰余金 | 資本準備金・その他資本剰余金 | |
| 利益剰余金 | 利益準備金・その他利益剰余金(繰越利益剰余金等) | |
| 自己株式 | 取得した自己株式(マイナス項目) | |
| 評価換算差額等 | その他有価証券評価差額金 | 時価評価による未実現の損益 |
| 評価換算差額等 | 繰延ヘッジ損益・為替換算調整勘定・退職給付に係る調整累計額 | 同上(連結では退職給付調整も含む) |
| 新株予約権 | 新株予約権 | ストックオプション等 |
| 非支配株主持分 (連結のみ) |
非支配株主持分 | 子会社の少数株主に帰属する純資産 |



最初に「なぜ自己株式がマイナス項目なの?」と引っかかりました。会社が自分の株を持つということは、その分だけ株主に返すべき資本が実質的に減っているというイメージで腑に落ちました。「金庫に眠っているお金は、もう表に出ていない」という感じです。
配当の会計処理——利益剰余金の減少と準備金の積立て
配当は試験で最も頻繁に出題される変動要因のひとつです。配当を支払うと何がどう動くのか、ステップで整理します。
利益剰余金から配当 → 利益準備金を積立て
資本剰余金から配当 → 資本準備金を積立て
積立額=配当額×1/10(ただし「資本準備金+利益準備金の合計が資本金の1/4に達するまで」が上限)
計算例:配当200万円(利益剰余金から)、資本金1,000万円、既存準備金合計150万円の場合
資本金の1/4 = 250万円
現在の準備金合計 = 150万円
あと積立てられる上限 = 250万円 − 150万円 = 100万円
配当額×1/10 = 200万円×1/10 = 20万円
∴ 今回の積立額 = min(100万円, 20万円) = 20万円(20万円が上限100万円を超えないため)
自己株式の取得・消却(金庫株)——「会社が自分の株を持つ」とはどういうことか
2001年の会社法改正(商法改正)以降、自己株式の取得に数量・期間制限がなくなり、「金庫株」として自由に保有できるようになりました。この自己株式の動きを理解することは、純資産変動を読む上で欠かせません。
消却のポイントは「純資産の合計は変わらない」点です。自己株式(マイナス)とその他資本剰余金(プラス)が同時に同額なくなるため、プラスマイナスゼロになります。



「自己株式の消却で純資産の総額が変わらない」という点が最初わかりにくかったです。でも、「左ポケットの借金(自己株式というマイナス)を右ポケットのお金(その他資本剰余金)で返した」と考えると、財布全体の中身は変わっていない、というイメージで整理できました。
その他包括利益累計額——損益計算書に載らない「未実現の評価損益」
株主資本等変動計算書には、当期純利益だけでなく「その他包括利益」も純資産に影響を与えます。代表的な項目を整理します。
これらはすべて「まだ現金収支になっていない」評価損益です。実現したとき(売却・決済等)に初めてP/Lへ振り替えられます。この「未実現だからP/Lに載らない、でも純資産には影響する」という関係が、包括利益の概念と深くつながっています。
包括利益計算書との関係——純利益+その他包括利益=包括利益
2011年度から日本でも導入された「包括利益計算書」。P/Lの当期純利益だけでは捉えきれない、「会社の富の変化の全体像」を示します。
(P/Lの最終行)
(評価差額・換算差額等)
(Comprehensive Income)
| 項目 | P/Lへの計上 | 純資産への影響 | 包括利益への算入 |
|---|---|---|---|
| 当期純利益 | 計上される | 利益剰余金が増加 | 算入される |
| その他有価証券の評価差益 | 計上されない | 評価換算差額等が増加 | 算入される |
| 為替換算調整勘定(プラス) | 計上されない | 評価換算差額等が増加 | 算入される |
| 配当の支払い | 計上されない | 利益剰余金が減少 | 算入されない |
| 新株発行 | 計上されない | 資本金・資本準備金が増加 | 算入されない |
包括利益は「株主との取引(配当・増資など)を除いた純資産の増減」と定義されます。つまり配当や新株発行は純資産を動かしますが、包括利益には算入しません。
資本金・準備金の減少と欠損填補
業績が悪化して繰越損失(欠損金)が生じた場合、資本金や準備金を取り崩して穴埋めすることができます。これを欠損填補といいます。
欠損填補の純資産への影響
資本金を取り崩して欠損と相殺しても、純資産の合計額は変わりません。「資本金(プラス)が減り、繰越損失(マイナス)も減る」ためプラスマイナスゼロです。見た目の資本金は小さくなりますが、会社の資産・負債には影響しません。
家計に置き換えると——1年間の財産の動きを身近な場面で整理する
少し抽象的なまま進んできたので、ここで「1年間の家計の動き」に置き換えて整理してみます。会社の純資産 ≒ 家庭の「手元の純財産(資産−負債)」と考えると、各変動の意味がイメージしやすくなります。
ローン残高100万円
= 純財産200万円
出来事
− 家族へのお小遣い(≒ 配当)
− タンス預金を引出し(≒ 自己株式取得)
± 保有株の評価変動(≒ その他包括利益)
+ 両親からの援助(≒ 増資)
「給与(利益)だけが財産の増減ではない」という点が大切です。保有している株が値上がりすれば(その他有価証券評価差額金)、まだ売っていなくても財産は増えていますし、家族への仕送り(配当)を増やせば財産は目に見えて減ります。株主資本等変動計算書は、こうした「お金の出入りではない動き」も含めて記録しているのです。



「配当は費用でもないのに純資産が減る」という点が最初引っかかりました。でも家計に置き換えると「子どもへのお小遣い」は費用ではなく財産そのものの減少ですよね。だからP/Lを通らずに純資産から直接減額される、というのが直感的にわかるようになりました。
変動計算書の読み方——縦横の構造
株主資本等変動計算書は「縦:各純資産項目」×「横:変動の原因」のマトリクス形式で作成されます。実際の記載イメージを確認します。
| 株主資本 | 評価換算差額等 | 新株予約権 | 純資産合計 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本金 | 資本準備金 | 利益剰余金 | 自己株式 | ||||
| 前期末残高 | 1,000 | 500 | 800 | △100 | 50 | 20 | 2,270 |
| 当期純利益 | — | — | +200 | — | — | — | +200 |
| 剰余金の配当 | — | — | △120 | — | — | — | △120 |
| 利益準備金積立 | — | — | △12 | — | — | — | — |
| 自己株式取得 | — | — | — | △50 | — | — | △50 |
| 評価差額変動 | — | — | — | — | +30 | — | +30 |
| 当期末残高 | 1,000 | 500 | 868 | △150 | 80 | 20 | 2,318 |
ポイントは「利益準備金積立の行では純資産合計欄が変動していない」点です。これは、利益剰余金内での科目移動(繰越利益剰余金から利益準備金へ)なので、外に出ていかない分は純資産の合計に影響しないためです。
過去問の出題傾向——配当計算・準備金積立額が頻出
- ア 0円
- ウ 100万円
- イ 120万円
- エ 200万円
既存準備金合計 = 300万円+100万円 = 400万円
上限まであと = 500万円−400万円 = 100万円
配当額の1/10 = 1,200万円÷10 = 120万円
∴ 積立額 = min(100万円, 120万円) = 100万円(上限に引っかかる)
正解はウ(100万円)。配当額の1/10(120万円)が上限(100万円)を超えるため、上限の100万円が積立額になります。
- ア 自己株式を取得しても、純資産の合計額は変化しない
- ウ 自己株式を処分すると、純資産の合計額は変化しない
- イ 自己株式を消却すると、純資産の合計額は変化しない
- エ 自己株式の処分時に生じた差益は、当期純利益に含まれる
ア:取得すると純資産が減少(誤り)。ウ:処分すると売却差益/差損分だけ純資産が変動(誤り)。エ:自己株式処分差益はP/Lを通らず、その他資本剰余金で処理(誤り)。
Uのメモ
株主資本等変動計算書を学んでいて、一番「なるほど」と感じたのは「配当がなぜP/Lを通らないか」という点でした。給与が費用でないのと同じように、株主へのお金の返還は「事業の費用」ではなく「資本の返戻」だから、P/Lを経由せず純資産から直接減額されるんですね。
また、準備金積立ての「資本金の1/4」ルールは、試験で毎回計算をさせてくる論点です。「まず上限を計算してから、配当×1/10と比べる」という2ステップの手順を染みつかせることが大切だと感じています。
その他包括利益の項目(評価差額・為替換算・退職給付調整)は、「P/Lには載らないが純資産に影響する」という性質が包括利益計算書とセットで聞かれます。「なぜP/Lに載せないか → まだ実現していないから」という理由とセットで覚えると忘れにくいです。
まとめ
- 株主資本等変動計算書はB/Sの純資産を「前期末→当期末」につなぐ橋渡しの財務諸表
- 配当時は「配当×1/10」と「資本金の1/4に達するまで」を比べ、小さい方を準備金に積立てる
- 自己株式の消却は純資産合計が変わらない。取得・処分は純資産合計が変動する
- その他包括利益(評価差額・為替換算・退職給付調整)はP/Lに載らず純資産(評価換算差額等)に直接計上
- 包括利益=当期純利益+その他包括利益(配当・増資など株主との取引は含まない)
- 欠損填補(資本金・準備金の取崩し)では純資産の合計額は変わらない



株主資本等変動計算書は「縦:純資産の項目」×「横:変動の原因」という形が頭に入ると、どの変動がどの項目に影響するか一気に整理できます。配当の計算は毎回同じ手順なので、問題を解いて手順を体に染み込ませることが一番の近道だと感じています。一緒にコツコツ積み上げていきましょう。









