U「関税をかけると国内産業が守られる」という話は直感的にわかります。でも「その分、誰かが損をしているのでは?」という問いが生まれます。消費者余剰・生産者余剰の視点から関税の効果を整理してみたら、意外なことがわかりました。
自由貿易と保護貿易の議論は、経済学の古くて新しいテーマです。診断士試験では「関税をかけたときに消費者余剰・生産者余剰・政府収入・死荷重がどう変わるか」という分析が重要な論点になります。
自由貿易(関税なし)
世界価格(Pw)で輸入が可能。国内価格が下がり、消費者は多くの財を低価格で購入できる。消費者余剰が最大化されるが、国内生産者は低価格に直面する。
保護貿易(関税あり)
関税(t)により国内価格がPw+tに上昇。国内生産者は価格上昇の恩恵を受けて生産量増加。しかし消費者は価格上昇で損をし、社会全体としては死荷重(超過負担)が発生する。
目次
関税の効果を余剰分析で整理する
以下の図で、関税導入前後の余剰変化を確認してみます。世界価格Pwに関税tをかけると国内価格はPw+tになります。
| 余剰の変化 | 自由貿易→関税導入 | 説明 |
|---|---|---|
| 消費者余剰 | 減少(−A−B−C−D) | 価格上昇で消費者が損をする |
| 生産者余剰 | 増加(+A) | 国内生産者が価格上昇の恩恵を受ける |
| 政府収入 | 増加(+C) | 関税収入が政府に入る |
| 社会的余剰(合計) | 減少(−B−D) | B+Dが死荷重(超過負担)として失われる |
死荷重(超過負担)とは
関税によって生じる社会的損失です。B(輸入減少による生産非効率)とD(消費減少による消費非効率)の面積が、誰にも帰属しない純損失として消えてしまいます。
社会全体では「消費者余剰の減少」>「生産者余剰の増加+政府収入」となるため、ネットでは損失になります。
社会全体では「消費者余剰の減少」>「生産者余剰の増加+政府収入」となるため、ネットでは損失になります。



「関税は国内産業を守る」とよく言われますが、守られる側(国内生産者)が得る+Aより、消費者が失う−(A+B+C+D)の方が大きい、というのが経済学の見立てです。Cは政府収入として戻ってきますが、BとDは誰にも戻らない「消えた価値」なんですね。
自由貿易 vs 保護貿易:主な論点
「経済学的には自由貿易が有利でも、現実には保護貿易政策が採られることがある」のはなぜでしょうか。経済学が認める保護貿易の論拠もいくつかあります。
| 保護貿易の論拠 | 内容 | 評価 |
|---|---|---|
| 幼稚産業保護論 | 将来的に競争力を持てる産業を一時的に保護。長期的に撤廃が前提 | △ 「いつ撤廃するか」の政治的困難が課題 |
| 安全保障論 | 食料・軍事・エネルギー等は自給能力が必要 | ○ 一定の合理性あり |
| 交易条件改善論 | 大国が関税で輸入を絞り、相手国の輸出価格を下げる | △ 報復関税のリスクがある |
| 雇用維持論 | 輸入品による国内雇用喪失を防ぐ | × 長期的には比較優位の活用が望ましい |
非関税障壁(NTB)とは
関税以外の貿易制限措置。輸入割当(クオータ)・輸入ライセンス・安全基準・衛生規制・国内補助金などが含まれます。WTOでは関税は認められる保護手段ですが、非関税障壁は原則禁止です。
輸入割当(クオータ)
輸入量の上限を設ける方式。関税と異なり政府収入が生じない(輸入業者が利益を得る)。社会的余剰の損失は関税と同等ですが、政府収入ゼロ分だけ非効率。
比較優位と自由貿易の利益
自由貿易の根拠として、リカードの比較優位論があります。「絶対的に効率が悪い国であっても、相対的に得意な財に特化して貿易すれば、両国が利益を得られる」という考え方です。
日本のコーヒーと米の例
日本はコーヒー豆の生産に適していませんが、工業製品(精密機械など)の生産は得意です。ブラジルはコーヒー豆が得意で工業製品はやや不得意。
日本が工業製品に特化してブラジルに輸出し、ブラジルのコーヒーを輸入する。この分業で両国とも消費できる量が増えるというのが比較優位の利益です。関税はこの「自由貿易の利益」を阻害します。
日本が工業製品に特化してブラジルに輸出し、ブラジルのコーヒーを輸入する。この分業で両国とも消費できる量が増えるというのが比較優位の利益です。関税はこの「自由貿易の利益」を阻害します。
過去問で確認する
関税の効果 — 典型問題①
1次試験 経済学
小国開放経済において、輸入財に対して関税を課した場合の余剰分析に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 消費者余剰は増加し、生産者余剰は減少する。
- イ 社会全体の余剰(社会的余剰)は増加する。
- ウ 生産者余剰と政府の関税収入の合計は、消費者余剰の減少分を上回る。
- エ 社会的余剰は関税導入前に比べ減少し、その差(死荷重)は誰にも帰属しない損失となる。
正解:エ
関税導入で消費者余剰は減少し(ア誤)、生産者余剰と政府収入の合計が増えますが、消費者余剰の減少の方が大きく社会的余剰は純減です(イ・ウ誤)。その差分が死荷重(B+D)として消滅します(エが正解)。
保護貿易の論拠 — 典型問題②
1次試験 経済学
保護貿易の論拠として経済学的に最も認められているものはどれか。
- ア 雇用維持論:輸入増加による失業を長期にわたって防ぐ
- イ 幼稚産業保護論:将来有望な産業を一時的に保護し、競争力がついたら撤廃することを前提とする
- ウ 恒久的な産業補助金による国内企業の永続的な保護
- エ すべての産業を関税で平等に保護することで内外の競争を排除する
正解:イ
幼稚産業保護論は「一時的な保護で競争力をつけ、最終的に撤廃する」ことを前提にするため、経済学的に一定の合理性があります(イが正解)。
ア:長期では比較優位による特化が雇用全体にとって有利。雇用維持論は短期的かつ部分的な議論にとどまります。
ウ・エ:恒久的・全産業的な保護は競争を排除して非効率を固定するため、経済学的に認められません。
ア:長期では比較優位による特化が雇用全体にとって有利。雇用維持論は短期的かつ部分的な議論にとどまります。
ウ・エ:恒久的・全産業的な保護は競争を排除して非効率を固定するため、経済学的に認められません。
まとめ
- 自由貿易では世界価格(Pw)で輸入可能。消費者余剰が最大化される
- 関税導入→国内価格Pw+tに上昇→消費者余剰減少、生産者余剰増加、政府収入発生
- 社会的余剰は減少。差分(B+D)が死荷重(超過負担)として失われる
- 幼稚産業保護論:一時的保護+撤廃前提で経済学的に認められる論拠
- 輸入割当はクオータとも呼ばれ、関税と異なり政府収入が生じない点が違い
- 比較優位論:自由貿易により両国が特化して消費量が増える(自由貿易の利益)
Uのメモ
関税の問題では「誰が得して誰が損するか」を余剰分析(A〜Dの面積)で追う解法が定番です。消費者は必ず損(価格上昇)、生産者は必ず得(価格上昇)、政府は関税収入を得る、という方向性を覚えておくと選択肢が絞りやすくなります。









