U「自己株式を取得したら純資産はどう変わる?」——会社法の資本政策は、株式の種類と財源規制が複雑に絡み合う難所です。自己株式・新株予約権・種類株式の3テーマを図解で整理すると、経営法務の得点源に変わります。頻出論点を体系的に押さえていきましょう。
会社法の資本政策とは、株式・新株予約権・剰余金の配分を通じて会社の資本構造をコントロールする手段の総称です。中小企業診断士試験の経営法務では、自己株式の財源規制、新株予約権(ストックオプション・ライツプラン)の仕組み、種類株式の各類型が繰り返し出題されます。「どの手続きが必要か」「財源はどこから充てるか」「株主への影響はどうか」という3つの視点で整理すると理解が深まります。
目次
自己株式——取得・保有・消却・処分の全体像
自己株式とは:会社が自社の発行した株式を取得して保有するもの(いわゆる「金庫株」)。取得した自己株式は議決権がなく、配当も受け取れません。2001年の商法改正(現在は会社法)により原則自由化され、財源規制の範囲内で取得できます。
取得
→
保有(金庫株)
→
消却
または
処分(再発行)
| 局面 | 手続き | 財源規制 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 取得 | 株主総会の普通決議(取締役会への委任も可)。特定株主からの取得は特別決議が必要 | 分配可能額の範囲内 | 貸借対照表の純資産の部にマイナス表示 |
| 保有 | 特別な手続き不要。保有期間・数量の制限なし | 制限なし | 議決権なし。配当請求権なし |
| 消却 | 取締役会決議で可 | 発行済株式数が減少。資本金は変わらない | 消却により1株当たり価値が向上 |
| 処分(再発行) | 取締役会決議で払込金額等を決定(公開会社の場合) | 分配可能額への影響に注意 | 既存株主との有利・不利発行の問題に注意 |
財源規制の試験頻出ポイント:自己株式の取得は分配可能額の範囲内でのみ可能です。分配可能額=その他資本剰余金+その他利益剰余金(繰越利益剰余金等)±調整額。自己株式の帳簿価額はマイナスとして計算します。財源規制に違反した取得は無効となります。
新株予約権——3つの活用場面を整理する
新株予約権とは:あらかじめ定めた価格(行使価格)で会社の株式の交付を受けることができる権利。活用場面は①ストックオプション②ライツプラン(買収防衛策)③転換社債型新株予約権付社債(CB)の3つが主要です。
ストックオプション(報酬型)
- 役員・従業員に低廉な対価または無償で付与
- 時価が行使価格を上回った時に行使→株式取得→売却で利益
- インセンティブとして機能(業績連動報酬の一形態)
- 無償発行には株主総会の特別決議が必要
- 行使価格>時価なら行使しない(アウト・オブ・ザ・マネー)
ライツプラン(買収防衛策)
- 敵対的買収者が一定割合以上の株式を取得した場合に、買収者以外の株主に新株予約権を無償付与
- 既存株主は低廉な価格で株式取得→買収者の持株比率が希薄化
- 事前警告型と有事導入型がある
- 取締役会限りで発行できる設計が多い(機動性を確保)
転換社債型新株予約権付社債(CB)
- 社債(負債)に新株予約権が付いたハイブリッド証券
- 社債部分:確定利息を受け取る
- 株価上昇時:新株予約権を行使して株式に転換
- 発行会社にとっては低利での資金調達が可能
- 転換前は負債、転換後は資本(株式)になる
| 項目 | ストックオプション | ライツプラン | CB(転換社債型) |
|---|---|---|---|
| 発行の目的 | インセンティブ付与 | 買収防衛 | 低コスト資金調達 |
| 付与対象 | 役員・従業員 | 既存株主(買収者除く) | 投資家(一般) |
| 対価 | 無償または低廉 | 無償付与 | 社債価格で取得 |
| 発行決議 | 株主総会特別決議(無償の場合) | 取締役会決議(事前設計) | 取締役会決議(公開会社) |
| 株式への影響 | 行使時に希薄化 | 買収者のみ希薄化 | 転換時に希薄化 |
種類株式——9種類の特徴と発行目的
種類株式とは:会社法108条に規定された、権利内容の異なる2以上の種類の株式。非公開会社では原則9種類すべて発行可能。公開会社では議決権制限株式は発行済株式総数の1/2以下に制限され、役員選任権付株式は発行できません。
| 種類株式の名称 | 内容 | 主な発行目的 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 剰余金配当優先(劣後)株式 | 普通株に優先(または劣後)して配当を受ける権利 | 資金調達・投資家向け優遇 | 累積型・非累積型、参加型・非参加型の組み合わせ |
| 残余財産分配優先(劣後)株式 | 会社解散時の残余財産分配に優先権 | ベンチャーキャピタル向け | 剰余金配当の優先権と組み合わせることが多い |
| 議決権制限株式 | 株主総会の議決権が制限される | 経営支配権の確保、資金調達 | 公開会社は発行済み株式総数の1/2以下に制限 |
| 譲渡制限株式 | 株式譲渡に会社の承認が必要 | 株主の固定化・会社支配の維持 | 非公開会社では全株式に付けることも可能 |
| 取得請求権付株式 | 株主が会社に対して取得(買取り)を請求できる | 株主の投資回収手段の確保 | 財源規制(分配可能額)の範囲内でのみ取得義務 |
| 取得条項付株式 | 一定の事由発生時に会社が強制的に取得できる | 組織再編・IPO時の種類株式変換 | IPO時に普通株式に転換する設計(強制転換条項) |
| 全部取得条項付種類株式 | 株主総会の特別決議で会社が全部強制取得できる | 100%子会社化(スクイーズアウト) | 少数株主の締め出しに利用 |
| 拒否権付株式(黄金株) | 特定の株主総会決議事項について拒否権を持つ | 敵対的買収防衛・創業者保護 | 1株でも持てば重要事項を単独で否決できる |
| 役員選任権付株式 | ある種類株式の株主のみで取締役・監査役を選任できる | 非公開会社での経営権の分配 | 非公開会社のみ発行可能。公開会社は発行不可 |
優先株の4類型(試験頻出)
- 累積型:当期に配当できなかった優先配当分を翌期以降に繰り越す
- 非累積型:未払い優先配当は翌期に繰り越さない(消滅)
- 参加型:優先配当を受けた後、さらに普通株と同様に追加配当に参加できる
- 非参加型:優先配当分のみで追加配当には参加できない
スクイーズアウトの流れ
- ①普通株主に全部取得条項付種類株式への転換を議決(特別決議)
- ②株主総会特別決議で全部取得を決定
- ③会社が全株式を取得し、対価(金銭・他の種類株式等)を交付
- ④少数株主は締め出されて株主ではなくなる
- → 現在はより簡便な「特別支配株主の株式等売渡請求」制度も利用
資本金・準備金・剰余金の関係を整理する
純資産(株主資本)の構造と分配可能額
資本金
株式発行対価の原則全額。減少には株主総会特別決議+債権者保護手続きが必要
資本準備金
株式発行対価のうち資本金に計上しなかった額(払込超過額の1/2まで)。分配不可
その他資本剰余金
資本準備金の取崩額等。分配可能額に算入される
利益準備金
剰余金配当額の1/10を積立義務(資本準備金との合計が資本金の1/4まで)。分配不可
その他利益剰余金
繰越利益剰余金・各種引当金。分配可能額に算入される中心的存在
自己株式
純資産のマイナス項目。取得・処分・消却が分配可能額に影響する
| 項目 | 減少手続き | 分配可能額への影響 |
|---|---|---|
| 資本金 | 株主総会特別決議+債権者保護手続き(1か月以上) | 直接影響なし(準備金を経由) |
| 資本準備金 | 株主総会普通決議(特別決議ではない) | 減少分→その他資本剰余金へ移動→分配可能額増加 |
| 利益準備金 | 株主総会普通決議 | 減少分→繰越利益剰余金へ移動→分配可能額増加 |
| 繰越利益剰余金 | 剰余金の配当・自己株式取得で減少 | 直接の分配可能額の源泉 |
試験対策——頻出パターンと手続き比較表
| 行為 | 決議機関 | 決議の種類 | 財源規制 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 自己株式の取得(市場買付) | 株主総会 | 普通決議(取締役会への委任可) | 分配可能額 | 特定株主からの取得は特別決議が必要 |
| 自己株式の消却 | 取締役会 | 取締役会決議 | なし | 発行済株式数が減少。資本金は変わらない |
| 新株予約権の無償発行(SO) | 株主総会 | 特別決議 | なし | 行使時に資本金・資本準備金が増加 |
| 剰余金の配当 | 株主総会 | 普通決議 | 分配可能額 | 配当額の1/10を準備金として積立義務 |
| 資本金の減少 | 株主総会 | 特別決議 | なし(債権者保護手続き) | 1か月以上の債権者異議申述期間が必要 |
| 全部取得条項付種類株式の取得 | 株主総会 | 特別決議 | 財源規制あり | 反対株主の買取請求権あり |
自己株式を取得した場合、発行済株式数は減少しますか?
取得しただけでは減少しません。自己株式を消却して初めて発行済株式数が減少します。取得→保有(金庫株)の状態では、発行済株式数はそのままで、議決権数が減少するだけです。1株当たり純資産・1株当たり利益に影響します。
優先株式の「累積型・非累積型」「参加型・非参加型」の違いは何ですか?
「累積・非累積」は未払い優先配当の扱いに関する区別です。累積型は未払い分を翌期以降に繰り越しますが、非累積型は消滅します。「参加・非参加」は優先配当後の追加配当への参加に関する区別です。参加型は普通株と同様に追加配当を受け取れますが、非参加型は優先配当分のみです。投資家にとって「累積・参加型」が最も有利です。
役員選任権付株式は公開会社でも発行できますか?
発行できません。会社法108条1項9号ただし書きにより、役員選任権付種類株式は非公開会社のみ発行可能です。公開会社では発行できないことが試験頻出の論点です。拒否権付株式(黄金株)は会社法上の明示的な禁止規定はありませんが、東証は上場会社での利用を原則不適合としています。
分配可能額の計算で自己株式はどう扱いますか?
自己株式の帳簿価額は分配可能額のマイナス項目として控除します。計算式の概要は「その他資本剰余金+その他利益剰余金(繰越利益剰余金等)-自己株式帳簿価額±その他調整額」です。自己株式を追加取得すれば分配可能額が減少します。試験では貸借対照表の数値を使った計算問題が出るので、純資産の構造と合わせて理解しておきましょう。
資本準備金を減少させるには特別決議が必要ですか?
いいえ。資本準備金の減少は株主総会の普通決議で行えます(資本金の減少は特別決議が必要なので混同に注意)。ただし、資本準備金と資本金を合わせて減少させる場合は特別決議が必要になるケースがあります。減少させたその他資本剰余金は分配可能額に算入されます。
試験直前チェックリスト:会社法の資本政策
- 自己株式取得の財源規制=分配可能額(剰余金の配当と同じ)を説明できる
- 自己株式の消却→発行済株式数減少。資本金は変わらない
- 特定株主からの自己株式取得は株主総会特別決議が必要
- ストックオプション(無償発行)=株主総会特別決議が必要
- ライツプランの仕組み(買収者の持株比率を希薄化させる)を説明できる
- 種類株式の試験頻出4つ(議決権制限・全部取得・拒否権・役員選任権)を説明できる
- 役員選任権付株式は公開会社では発行できない
- 資本準備金の減少→株主総会普通決議(特別決議ではない)
- 資本金の減少→株主総会特別決議+債権者保護手続き(1か月以上の異議申述期間)
- 累積型優先株=未払い優先配当を翌期以降に繰り越す(投資家に有利)
会社法の資本政策は「誰の決議が必要か」「財源はどこから充てるか」の2軸で整理すると、正誤問題の選択肢を素早く判断できます。自己株式・新株予約権・種類株式それぞれの手続き要件を体系的に押さえて、経営法務の得点源にしてください。









