U経営法務の過去問を解いていたとき、選択肢に「善管注意義務」「忠実義務」「競業避止義務」が並んで、どれがどの場面に対応するのか迷ってしまいました。名前は聞いたことがあっても、似たような言葉が重なって区別が難しくて。今回は取締役に課される義務・責任をひとつひとつ整理し直してみました。
この記事では取締役・取締役会に関する経営法務の頻出論点を整理します。取締役の4つの義務(善管注意・忠実・競業避止・利益相反)、取締役会の権限と決議要件、報酬の決め方・任期・解任の手続きまで、試験に出やすいポイントを一通りカバーしています。法律の条文は難しく見えますが、「なぜそのルールがあるのか」という背景が分かると記憶にも残りやすくなります。
まず、取締役がどういう存在かという基本から確認してみます。
取締役の義務と責任
取締役は会社(株主)から経営を委任された立場であるため、複数の義務が課せられています。4つの主要な義務をカード形式で整理してみます。



4つ並べてみると、すべて「会社(株主)の利益を守るための義務」という共通軸があることに気づきます。取締役は会社と委任関係にある、という基本を押さえると、なぜこれだけの義務が課されるのかが腑に落ちてくるのです。
取締役会の権限と決議要件
取締役会が持つ権限と、各決議の要件を整理します。試験では「どの決議に何が必要か」という点が繰り返し問われます。
②取締役の職務執行監督:各取締役が適切に職務を行っているかを監督する
③代表取締役の選解任:会社を代表する取締役を取締役会が選解任する
次に、株主総会の各決議要件を比較してみます。取締役会の決議(普通決議)との違いも確認しておきましょう。
| 決議の種類 | 定足数(定足数要件) | 可決要件 | 主な対象事項 |
|---|---|---|---|
| 取締役会決議取締役会 | 過半数の出席 | 出席者の過半数 | 業務執行の決定・専決事項 |
| 普通決議株主総会 | 議決権の過半数(定款で1/3まで引下げ可) | 出席者の議決権の過半数 | 取締役の選解任・報酬決定・計算書類承認など |
| 特別決議株主総会 | 議決権の過半数(定款で1/3まで引下げ可) | 出席者の議決権の2/3以上 | 定款変更・合併・解散・有利発行・役員の責任免除(一部)など |
| 特殊決議株主総会 | 総議決権の半数以上 | 総議決権の2/3以上 | 公開会社→非公開会社への定款変更など(株主全体への影響が大きい変更) |
取締役の報酬・任期・解任
取締役の報酬・任期・解任はそれぞれ手続きが決まっています。誰がどの場面で決定・変更・終了させられるかを整理してみます。
| 論点 | ルール | ポイント・試験頻出箇所 |
|---|---|---|
| 報酬の決定 | 定款または株主総会の普通決議で定める(会社法361条) | 取締役会・個々の取締役が自ら決定することはできない。「お手盛り防止」のためのルール |
| 報酬の種類 | 確定額報酬・不確定額報酬(業績連動)・非金銭報酬(ストックオプション等)の3類型 | 上場会社は各種類ごとに具体的な内容を開示義務あり(2021年改正) |
| 任期 | 原則2年以内(会社法332条)。非公開会社は定款で10年以内に延長可 | 「2年」は「2年以内」であり、定款で短縮することも可能。公開会社は短縮のみ可 |
| 解任 | 株主総会の普通決議でいつでも解任可(会社法339条) | 正当な理由なく解任された場合、取締役は損害賠償を請求できる(会社法339条2項) |
| 解任(監査等委員会設置会社の取締役) | 監査等委員である取締役の解任は特別決議が必要 | 監査の独立性を守るための加重要件。通常の取締役(普通決議)と区別して覚える |
身近な場面で考えてみると
経済ニュースでよく見かける「取締役会の決議」や「役員報酬の開示」は、今まで見てきた会社法のルールが背景にあります。実際のニュースを思い浮かべながら整理してみましょう。



ニュースで「取締役会が〇〇を決議」という見出しを見かけるたびに、「これは普通決議か特別決議か、代表取締役に委任できない専決事項か」という視点で読めるようになってきました。試験勉強が日常の見方を少し変えてくれる感覚は、なかなか面白いと思っています。
過去問で確認する
経営法務の取締役関連問題は、義務の種類・承認手続き・決議要件の正確な理解が問われます。代表的な出題パターンを確認してみましょう。
- ア.取締役の忠実義務は、善管注意義務とは別個独立の義務であり、より高度な注意を要求するものとされている。
- イ.取締役が競業取引を行う場合には、取締役会の承認を得なければならず、承認を得ずに行った取引の損害については会社が請求できる。
- ウ.善管注意義務は、取締役が会社と雇用関係にあることから生じるものであり、委任契約とは関係がない。
- エ.競業避止義務は取締役の在任中のみに適用され、退任後は一切の制限を受けない。
イ:正しい記述です。競業取引には取締役会の承認が必要(会社法356条・365条)。承認なき取引による損害は賠償請求の対象となります。
ウ:取締役と会社の関係は委任(会社法330条)。雇用関係ではなく、委任関係から善管注意義務が生じます。
エ:退任後の競業制限は法律上の当然の義務ではありませんが、定款・契約で設定されることがあります。在任中が絶対ということにはなりません。
- ア.普通決議では、議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要である。
- イ.特別決議の定足数は、総議決権の3分の2以上が出席することが必要であり、定款で引き下げることはできない。
- ウ.普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決議される。
- エ.取締役の解任は、常に特別決議によらなければならない。
イ:特別決議の定足数(過半数)は定款で1/3まで引き下げることができます(会社法309条2項)。
ウ:正しい記述です。普通決議の基本要件(会社法309条1項)の通りです。
エ:通常の取締役解任は普通決議で可(会社法339条)。監査等委員会設置会社における監査等委員の解任が特別決議です。
まとめ
取締役会の決議については「専決事項(委任不可)」の範囲を覚えておくと、問題を絞り込みやすくなります。株主総会の決議要件は「普通→過半数、特別→2/3以上」という数字だけ先に頭に入れ、どの事項がどの決議に対応するかを一つずつ確認していくのが近道だと感じています。
- 善管注意義務と忠実義務は実質的に同一(判例・通説)
- 競業取引・利益相反取引はどちらも「取締役会の承認」が必要
- 取締役会の専決事項(重要財産処分・多額借財等)は代表取締役に委任不可
- 株主総会の決議要件:普通→出席者の過半数、特別→出席者の2/3以上
- 取締役の報酬は定款または株主総会(普通決議)で決定(お手盛り防止)
- 取締役の任期は原則2年以内(非公開会社は定款で最長10年まで延長可)
- 取締役解任は普通決議でいつでも可。正当理由なき解任は損害賠償が生じうる









