取締役・取締役会まとめ|義務・責任・報酬・解任を図解で整理

U

経営法務の過去問を解いていたとき、選択肢に「善管注意義務」「忠実義務」「競業避止義務」が並んで、どれがどの場面に対応するのか迷ってしまいました。名前は聞いたことがあっても、似たような言葉が重なって区別が難しくて。今回は取締役に課される義務・責任をひとつひとつ整理し直してみました。

この記事では取締役・取締役会に関する経営法務の頻出論点を整理します。取締役の4つの義務(善管注意・忠実・競業避止・利益相反)、取締役会の権限と決議要件、報酬の決め方・任期・解任の手続きまで、試験に出やすいポイントを一通りカバーしています。法律の条文は難しく見えますが、「なぜそのルールがあるのか」という背景が分かると記憶にも残りやすくなります。

4
種類
取締役に課される主な義務
2
年以内
取締役の任期(定款で短縮可)
2/3
以上
特別決議に必要な議決権割合
過半数
で可決
取締役会の普通決議要件

まず、取締役がどういう存在かという基本から確認してみます。

取締役とは
株式会社の業務執行・意思決定を担う機関。株主総会で選任され(会社法329条)、会社と委任関係にある(同330条)。委任関係であるため、受任者として善管注意義務を負う。
取締役会とは
取締役全員で構成される会社の意思決定機関(会社法362条)。業務執行の決定・取締役の職務執行監督・代表取締役の選解任という3つの権限を持つ。取締役会設置会社では必置。
目次

取締役の義務と責任

取締役は会社(株主)から経営を委任された立場であるため、複数の義務が課せられています。4つの主要な義務をカード形式で整理してみます。

会社法330条・民法644条
善管注意義務
善良な管理者として通常期待される注意を払う義務。委任契約から当然に生じる。「自分の物と同じ注意でいい」という自己物保管義務より高い水準が求められる。
違反した場合:会社に対する損害賠償責任(会社法423条)
会社法355条
忠実義務
法令・定款・株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実に職務を執行する義務。善管注意義務を会社法で明文化したもの(実質同一説が多数)。自己利益を優先させることを禁止する。
違反した場合:会社に対する損害賠償責任(会社法423条)
会社法356条・365条
競業避止義務
会社の事業と競合する取引(競業取引)を行う場合、取締役会の承認が必要。取締役の任期中だけでなく、退任後も定款や契約で制限されることがある。違反すると会社が損害賠償を請求できる。
承認なき競業:介入権行使・損害賠償(会社法423条)
会社法356条・365条
利益相反取引の制限
取締役が自己または第三者のために会社と取引する場合(直接取引)、または会社が取締役の債務を保証する場合(間接取引)は取締役会の承認が必要。会社が不利益を受けることを防ぐためのルール。
承認なき取引:無効主張可・損害賠償(会社法423条3項)
試験のポイント:善管注意義務(民法由来)と忠実義務(会社法355条)は「同一説」と「別個説」の議論がありますが、判例・通説は実質的に同一とみています。競業避止義務・利益相反取引はどちらも「取締役会の承認」が必要という点が問われやすいポイントです。
U

4つ並べてみると、すべて「会社(株主)の利益を守るための義務」という共通軸があることに気づきます。取締役は会社と委任関係にある、という基本を押さえると、なぜこれだけの義務が課されるのかが腑に落ちてくるのです。

取締役会の権限と決議要件

取締役会が持つ権限と、各決議の要件を整理します。試験では「どの決議に何が必要か」という点が繰り返し問われます。

取締役会の3つの権限
①業務執行の決定:重要な業務執行事項を取締役会が決定する(代表取締役に委任できる範囲は限定)
②取締役の職務執行監督:各取締役が適切に職務を行っているかを監督する
③代表取締役の選解任:会社を代表する取締役を取締役会が選解任する
取締役会の専決事項(委任不可)
重要な財産の処分・多額の借財・内部統制システムの整備・支配人その他重要な使用人の選解任など(会社法362条4項)。これらは代表取締役に委任できず、必ず取締役会で決議しなければならない。

次に、株主総会の各決議要件を比較してみます。取締役会の決議(普通決議)との違いも確認しておきましょう。

決議の種類 定足数(定足数要件) 可決要件 主な対象事項
取締役会決議取締役会 過半数の出席 出席者の過半数 業務執行の決定・専決事項
普通決議株主総会 議決権の過半数(定款で1/3まで引下げ可) 出席者の議決権の過半数 取締役の選解任・報酬決定・計算書類承認など
特別決議株主総会 議決権の過半数(定款で1/3まで引下げ可) 出席者の議決権の2/3以上 定款変更・合併・解散・有利発行・役員の責任免除(一部)など
特殊決議株主総会 総議決権の半数以上 総議決権の2/3以上 公開会社→非公開会社への定款変更など(株主全体への影響が大きい変更)
覚え方のヒント:普通決議と特別決議の違いは「可決要件」だけです。定足数は同じ(過半数)で、普通は過半数、特別は2/3以上。特殊決議はさらに厳しく、定足数自体が総議決権の半数以上に引き上がります。

取締役の報酬・任期・解任

取締役の報酬・任期・解任はそれぞれ手続きが決まっています。誰がどの場面で決定・変更・終了させられるかを整理してみます。

論点 ルール ポイント・試験頻出箇所
報酬の決定 定款または株主総会の普通決議で定める(会社法361条) 取締役会・個々の取締役が自ら決定することはできない。「お手盛り防止」のためのルール
報酬の種類 確定額報酬・不確定額報酬(業績連動)・非金銭報酬(ストックオプション等)の3類型 上場会社は各種類ごとに具体的な内容を開示義務あり(2021年改正)
任期 原則2年以内(会社法332条)。非公開会社は定款で10年以内に延長可 「2年」は「2年以内」であり、定款で短縮することも可能。公開会社は短縮のみ可
解任 株主総会の普通決議でいつでも解任可(会社法339条) 正当な理由なく解任された場合、取締役は損害賠償を請求できる(会社法339条2項)
解任(監査等委員会設置会社の取締役) 監査等委員である取締役の解任は特別決議が必要 監査の独立性を守るための加重要件。通常の取締役(普通決議)と区別して覚える
報酬規制の趣旨(お手盛り防止)
取締役自身が報酬を決定できると、自分に有利な金額を設定する(「お手盛り」)おそれがある。そのため、報酬の決定権を株主総会に置くことで、株主による牽制が働く仕組みになっている。
解任と損害賠償
取締役は株主総会決議でいつでも解任できるが、正当な理由がない解任の場合は残任期間の報酬相当額の損害賠償が発生しうる。株主の権利と取締役の保護のバランスを取ったルールといえる。

身近な場面で考えてみると

経済ニュースでよく見かける「取締役会の決議」や「役員報酬の開示」は、今まで見てきた会社法のルールが背景にあります。実際のニュースを思い浮かべながら整理してみましょう。

上場企業の役員報酬開示
大手企業の有価証券報告書に「取締役の報酬:〇〇百万円」と開示されているのは、株主総会で承認された報酬枠の範囲内で個別に支払われているから。「なぜ取締役が自分で決めないのか」という疑問の答えがお手盛り防止(会社法361条)というわけです。
競業避止義務違反の典型例
例えば、A社の取締役が、同じ事業を営むB社の取締役も兼任するとき。A社の取締役会の承認なしにそれを行えば競業避止義務違反となり、A社は損害賠償を請求できる。退任後に同業他社を立ち上げるケースも、在職中から義務は意識しておく必要がある。
利益相反の身近な例
取締役Cが個人的に所有する不動産を、自身が取締役を務めるX社に賃貸する場合。これは直接取引(利益相反取引)にあたり、取締役会の承認が必要。承認なく行うと、X社は無効を主張できる場合がある。
U

ニュースで「取締役会が〇〇を決議」という見出しを見かけるたびに、「これは普通決議か特別決議か、代表取締役に委任できない専決事項か」という視点で読めるようになってきました。試験勉強が日常の見方を少し変えてくれる感覚は、なかなか面白いと思っています。

過去問で確認する

経営法務の取締役関連問題は、義務の種類・承認手続き・決議要件の正確な理解が問われます。代表的な出題パターンを確認してみましょう。

過去問イメージ①|取締役の義務 H27年度 第9問 イメージ
取締役の善管注意義務・忠実義務・競業避止義務に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア.取締役の忠実義務は、善管注意義務とは別個独立の義務であり、より高度な注意を要求するものとされている。
  • イ.取締役が競業取引を行う場合には、取締役会の承認を得なければならず、承認を得ずに行った取引の損害については会社が請求できる。
  • ウ.善管注意義務は、取締役が会社と雇用関係にあることから生じるものであり、委任契約とは関係がない。
  • エ.競業避止義務は取締役の在任中のみに適用され、退任後は一切の制限を受けない。
正解:イ 解説
ア:忠実義務(会社法355条)は善管注意義務を会社法で明文化したものとされ、判例・通説は両者を実質的に同一とみています。
イ:正しい記述です。競業取引には取締役会の承認が必要(会社法356条・365条)。承認なき取引による損害は賠償請求の対象となります。
ウ:取締役と会社の関係は委任(会社法330条)。雇用関係ではなく、委任関係から善管注意義務が生じます。
エ:退任後の競業制限は法律上の当然の義務ではありませんが、定款・契約で設定されることがあります。在任中が絶対ということにはなりません。
過去問イメージ②|取締役会の決議要件 R3年度 第7問 イメージ
株主総会の決議の種類とその要件に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア.普通決議では、議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要である。
  • イ.特別決議の定足数は、総議決権の3分の2以上が出席することが必要であり、定款で引き下げることはできない。
  • ウ.普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決議される。
  • エ.取締役の解任は、常に特別決議によらなければならない。
正解:ウ 解説
ア:2/3以上は特別決議の可決要件です。普通決議の可決要件は「出席者の議決権の過半数」。
イ:特別決議の定足数(過半数)は定款で1/3まで引き下げることができます(会社法309条2項)。
ウ:正しい記述です。普通決議の基本要件(会社法309条1項)の通りです。
エ:通常の取締役解任は普通決議で可(会社法339条)。監査等委員会設置会社における監査等委員の解任が特別決議です。

まとめ

U のまとめメモ
取締役の義務は「委任関係」という根本を押さえると整理しやすくなります。善管注意義務・忠実義務は「会社のために誠実に動く義務」、競業避止義務・利益相反取引の制限は「自己利益を優先させないための規制」という軸で区別できます。

取締役会の決議については「専決事項(委任不可)」の範囲を覚えておくと、問題を絞り込みやすくなります。株主総会の決議要件は「普通→過半数、特別→2/3以上」という数字だけ先に頭に入れ、どの事項がどの決議に対応するかを一つずつ確認していくのが近道だと感じています。
  • 善管注意義務と忠実義務は実質的に同一(判例・通説)
  • 競業取引・利益相反取引はどちらも「取締役会の承認」が必要
  • 取締役会の専決事項(重要財産処分・多額借財等)は代表取締役に委任不可
  • 株主総会の決議要件:普通→出席者の過半数、特別→出席者の2/3以上
  • 取締役の報酬は定款または株主総会(普通決議)で決定(お手盛り防止)
  • 取締役の任期は原則2年以内(非公開会社は定款で最長10年まで延長可)
  • 取締役解任は普通決議でいつでも可。正当理由なき解任は損害賠償が生じうる
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

目次