情報の非対称性|逆選択・モラルハザードを図解と実例で徹底整理

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市場ってなんでうまくいかないんだろう、と思った場面があって。たとえば中古車を買うとき、売り手はその車の本当の状態を知っているのに、買い手はわからない。これが「情報の非対称性」という概念で、1次試験の経済学でも繰り返し問われるテーマのひとつです。逆選択・モラルハザード・シグナリングまで整理しました。

高頻度難易度 ★★★
目次

情報の非対称性とは何か

情報の非対称性(Information Asymmetry)とは、取引の当事者間で持っている情報の量・質に格差がある状態を指します。売り手は商品の品質を詳しく知っているが、買い手はわからない――そのような情報格差が市場の失敗を引き起こします。

1970年にアカロフが発表した「レモン市場の理論」で注目を集め、2001年にはノーベル経済学賞を受賞。中小企業診断士の試験でも市場の失敗・外部性・公共財と並ぶ頻出テーマです。

市場の失敗の4類型(試験での整理)
① 外部性(正の外部性・負の外部性)
② 公共財(非排除性・非競合性)
③ 独占(自然独占など)
情報の非対称性(逆選択・モラルハザード) ← 今回のテーマ

逆選択(アドバース・セレクション)

逆選択は、取引が成立するに生じる問題です。情報を持たない側(例:保険会社・雇用主)が、不利な相手を選んでしまうメカニズムです。

アカロフの「レモン市場」

中古車市場で、売り手は車の品質を知っているが買い手は知らない。買い手は「もしかしてレモン(ハズレ)かも」と考え、平均的な価格しか払わない。すると良質な車を持つ売り手は「それでは売れない」と市場を去り、悪質な車ばかりが残る。最終的に市場が崩壊する可能性がある。

情報格差
売り手だけが
品質を知っている
買い手の行動
平均的な
価格しか払わない
売り手の反応
良品の売り手が
市場を離れる
市場の結果
低品質品だけが
残る(市場崩壊)
医療保険の逆選択

健康な人は保険に入らず、病気がちな人が多く加入する。保険会社は高リスク者ばかりを集めてしまう。

労働市場の逆選択

採用企業は求職者の能力を見極めにくい。高賃金を提示しても能力の低い求職者が多く集まる傾向がある。

金融市場の逆選択

銀行は融資先の信用リスクを完全には把握できない。金利を上げると優良企業が去り、リスクの高い企業だけが借りようとする。

モラルハザード(道徳的危険)

モラルハザードは、取引が成立したに生じる問題です。契約や保険などによって当事者の行動が変化し、リスクが増大するメカニズムです。

保険加入後のモラルハザード

火災保険に入ると「どうせ保険がある」と火の扱いが雑になる。自動車保険に入ると運転が荒くなる。当事者が不注意になることで、保険会社(情報を持たない側)のリスクが高まる。

場面情報を持つ側情報を持たない側モラルハザードの内容
火災保険契約者保険会社加入後に防火対策を怠る
雇用契約従業員雇用主採用後にサボる(エージェンシー問題)
医療保険患者保険会社「どうせ無料」と不必要な医療を受ける
金融(Too big to fail)金融機関政府・納税者「救済される」と高リスク投資を行う

プリンシパル=エージェント理論

モラルハザードの典型的な分析枠組みがプリンシパル=エージェント理論です。

  • プリンシパル(依頼人):情報を持たない側(株主・雇用主・保険会社)
  • エージェント(代理人):情報を持つ側(経営者・従業員・被保険者)
  • エージェンシー問題:エージェントが自己の利益のために行動し、プリンシパルの利益を損なう
株式会社における典型例:株主(プリンシパル)は会社の日々の意思決定を見られないが、経営者(エージェント)はその情報を持つ。経営者が私的利益を優先して行動するリスクがある。これを防ぐのがコーポレートガバナンスや業績連動報酬

情報の非対称性を解消する手段

シグナリング
情報を持つ側が発信

品質・能力を証明するシグナルを出す。学歴・資格・保証書・ブランドがその例。

スクリーニング
情報を持たない側が選別

保険の健康診断・採用試験・審査など、情報を持たない側が相手を見極めようとする。

インセンティブ設計
行動を変える仕組み

業績連動報酬・自己負担額(免責)・ストックオプション。エージェントの利益をプリンシパルと一致させる。

規制・制度
政府・市場ルール

情報開示義務・認可制度・格付け機関。第三者が情報を整理・保証する役割を担う。

スペンスのシグナリング理論

マイケル・スペンスは「学歴はシグナル」という理論で2001年にノーベル賞を共同受賞しました。学歴が実際の能力を高めるかどうかに関係なく、「コストをかけて学歴を得た」という行為が「能力が高い」ことのシグナルになる、という考え方です。

過去問で確認する

  • 保険市場において逆選択が生じるメカニズムを説明し、その対策として保険会社が行うスクリーニングの具体例を述べよ。H26年度 類題
  • プリンシパル=エージェント問題において、エージェンシーコストが発生する理由と、それを削減するための仕組みとして適切なものはどれか。R2年度 類題
  • アカロフの「レモン問題」が示す市場の失敗の内容と、シグナリングがその解決策となる理由を述べよ。H30年度 類題
  • モラルハザードが発生しやすい状況として最も適切な記述はどれか。ア)取引前に情報格差がある場合 イ)契約後に行動を観察できない場合 ウ)公共財が過剰供給される場合 エ)外部不経済が内部化された場合正解:イ

まとめ

逆選択:契約・取引のに生じる。情報格差により不利な相手が選ばれる(中古車・保険・採用)
モラルハザード:契約・取引のに生じる。情報を持つ側の行動が変わりリスクが増大する(保険・雇用)
解決策:シグナリング(情報を持つ側が発信)/スクリーニング(情報を持たない側が選別)/インセンティブ設計

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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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