U市場ってなんでうまくいかないんだろう、と思った場面があって。たとえば中古車を買うとき、売り手はその車の本当の状態を知っているのに、買い手はわからない。これが「情報の非対称性」という概念で、1次試験の経済学でも繰り返し問われるテーマのひとつです。逆選択・モラルハザード・シグナリングまで整理しました。
情報の非対称性とは何か
情報の非対称性(Information Asymmetry)とは、取引の当事者間で持っている情報の量・質に格差がある状態を指します。売り手は商品の品質を詳しく知っているが、買い手はわからない――そのような情報格差が市場の失敗を引き起こします。
1970年にアカロフが発表した「レモン市場の理論」で注目を集め、2001年にはノーベル経済学賞を受賞。中小企業診断士の試験でも市場の失敗・外部性・公共財と並ぶ頻出テーマです。
① 外部性(正の外部性・負の外部性)
② 公共財(非排除性・非競合性)
③ 独占(自然独占など)
④ 情報の非対称性(逆選択・モラルハザード) ← 今回のテーマ
逆選択(アドバース・セレクション)
逆選択は、取引が成立する前に生じる問題です。情報を持たない側(例:保険会社・雇用主)が、不利な相手を選んでしまうメカニズムです。
中古車市場で、売り手は車の品質を知っているが買い手は知らない。買い手は「もしかしてレモン(ハズレ)かも」と考え、平均的な価格しか払わない。すると良質な車を持つ売り手は「それでは売れない」と市場を去り、悪質な車ばかりが残る。最終的に市場が崩壊する可能性がある。
品質を知っている
価格しか払わない
市場を離れる
残る(市場崩壊)
健康な人は保険に入らず、病気がちな人が多く加入する。保険会社は高リスク者ばかりを集めてしまう。
採用企業は求職者の能力を見極めにくい。高賃金を提示しても能力の低い求職者が多く集まる傾向がある。
銀行は融資先の信用リスクを完全には把握できない。金利を上げると優良企業が去り、リスクの高い企業だけが借りようとする。
モラルハザード(道徳的危険)
モラルハザードは、取引が成立した後に生じる問題です。契約や保険などによって当事者の行動が変化し、リスクが増大するメカニズムです。
火災保険に入ると「どうせ保険がある」と火の扱いが雑になる。自動車保険に入ると運転が荒くなる。当事者が不注意になることで、保険会社(情報を持たない側)のリスクが高まる。
| 場面 | 情報を持つ側 | 情報を持たない側 | モラルハザードの内容 |
|---|---|---|---|
| 火災保険 | 契約者 | 保険会社 | 加入後に防火対策を怠る |
| 雇用契約 | 従業員 | 雇用主 | 採用後にサボる(エージェンシー問題) |
| 医療保険 | 患者 | 保険会社 | 「どうせ無料」と不必要な医療を受ける |
| 金融(Too big to fail) | 金融機関 | 政府・納税者 | 「救済される」と高リスク投資を行う |
プリンシパル=エージェント理論
モラルハザードの典型的な分析枠組みがプリンシパル=エージェント理論です。
- プリンシパル(依頼人):情報を持たない側(株主・雇用主・保険会社)
- エージェント(代理人):情報を持つ側(経営者・従業員・被保険者)
- エージェンシー問題:エージェントが自己の利益のために行動し、プリンシパルの利益を損なう
情報の非対称性を解消する手段
品質・能力を証明するシグナルを出す。学歴・資格・保証書・ブランドがその例。
保険の健康診断・採用試験・審査など、情報を持たない側が相手を見極めようとする。
業績連動報酬・自己負担額(免責)・ストックオプション。エージェントの利益をプリンシパルと一致させる。
情報開示義務・認可制度・格付け機関。第三者が情報を整理・保証する役割を担う。
スペンスのシグナリング理論
マイケル・スペンスは「学歴はシグナル」という理論で2001年にノーベル賞を共同受賞しました。学歴が実際の能力を高めるかどうかに関係なく、「コストをかけて学歴を得た」という行為が「能力が高い」ことのシグナルになる、という考え方です。
過去問で確認する
- 保険市場において逆選択が生じるメカニズムを説明し、その対策として保険会社が行うスクリーニングの具体例を述べよ。H26年度 類題
- プリンシパル=エージェント問題において、エージェンシーコストが発生する理由と、それを削減するための仕組みとして適切なものはどれか。R2年度 類題
- アカロフの「レモン問題」が示す市場の失敗の内容と、シグナリングがその解決策となる理由を述べよ。H30年度 類題
- モラルハザードが発生しやすい状況として最も適切な記述はどれか。ア)取引前に情報格差がある場合 イ)契約後に行動を観察できない場合 ウ)公共財が過剰供給される場合 エ)外部不経済が内部化された場合正解:イ
まとめ
モラルハザード:契約・取引の後に生じる。情報を持つ側の行動が変わりリスクが増大する(保険・雇用)
解決策:シグナリング(情報を持つ側が発信)/スクリーニング(情報を持たない側が選別)/インセンティブ設計
関連記事:市場の失敗と政府の役割 エージェンシー理論 ゲーム理論









