U過去問を解いていて、「貸倒引当金の繰入額を求めなさい」という問題で手が止まりました。計算自体は単純なのに、何を計算すべきかの判断で詰まってしまって。同じように感じている方のお役に立てましたら嬉しいです。
この記事では、令和7年度 中小企業診断士1次試験「財務・会計」第1問を丁寧に解説します。貸倒引当金の繰入額を求める問題ですが、「どの債権を販売費及び一般管理費に含めるか」という判断が核心です。計算よりも分類の理解が問われています。
【資料】
・決算整理前残高試算表の借方には、売掛金が10,000,000円、営業活動から生じた未収入金が4,000,000円、短期貸付金が5,000,000円計上されている。これらはいずれも当期に生じたものであり、期首にあった売掛金等は全額回収済みである。
・決算整理前残高試算表の貸方には、貸倒引当金が50,000円計上されている。これはすべて前期末に売掛金について設定された貸倒引当金の残額である。
・売掛金の期末残高に対しては2%の貸倒れを見積もり、未収入金と短期貸付金の期末残高に対しては20%の貸倒れを見積もっている。
・貸倒引当金繰入の処理にあたっては、差額補充法を採用している。
- ア 200,000円
- イ 950,000円
- ウ 1,000,000円
- エ 1,150,000円
与件を整理すると、債権が3種類・貸倒率が2種類・既存残高ありという構成です。「販売費及び一般管理費に含まれる金額」という絞り込みが、この問題の核心になっています。


この問題がどこに位置するかを把握しておくと、関連する論点と一緒に学びやすくなります。
├── 第1章 財務会計の基礎(仕訳・B/S・P/L・C/F)
├── 第2章 決算整理
│ ├── 減価償却
│ ├── 棚卸資産の評価
│ ├── 有価証券の評価
│ └── 【引当金 > 貸倒引当金】 ← 今ここ
├── 第3章 原価計算
├── 第4章 財務分析
└── 第5章 管理会計・企業価値評価
決算整理とは、日々の帳簿を「経済的な実態」に近づける年度末の作業です。貸倒引当金はその中でも「将来の損失を今期に先取りする」という考え方に基づいています。
判断の軸はひとつです。
① 債権を分類する
| 債権 | 残高 | 貸倒率 | 必要残高 | P/L区分 |
|---|---|---|---|---|
| 売掛金 | 10,000,000円 | 2% | 200,000円 | 販管費 ✅ |
| 未収入金(営業活動由来) | 4,000,000円 | 20% | 800,000円 | 販管費 ✅ |
| 短期貸付金 | 5,000,000円 | 20% | 1,000,000円 | 営業外費用 ❌ |
→ 3つの債権はそれぞれどこに行くか
商品・サービスを売った代金
一般管理費
問題文に「営業活動から生じた」と明記
一般管理費
財務活動から生まれた債権
→ P/L上での位置づけ
一般管理費
② 販管費対応の必要残高を合計する
+ 未収入金 800,000円
販管費対応の必要残高 = 1,000,000円
③ 差額補充法で既存残高を控除する
△ 既存残高 50,000円(前期・売掛金対応)
当期の繰入額 = 950,000円
→ 差額補充法のイメージ(バー比較)
販管費対応分のみ抜き出した残高の変化



「短期貸付金を含めるかどうか」で迷いました。でも「本業から生まれた債権かどうか」という軸を持つと、迷わなくなりました。貸付金は商売ではなくお金の貸し借りなので、営業外なんですね。
(差額補充法)
Yes → 販管費
No → 営業外費用
| 選択肢 | 金額 | 正誤 | この選択肢を選んだ場合の思考パターン |
|---|---|---|---|
| ア | 200,000円 | ✗ | 売掛金のみを計算した。未収入金も販管費対象と気づかなかった |
| イ | 950,000円 | ✓ | 正解 |
| ウ | 1,000,000円 | ✗ | 分類は正しかったが、既存残高50,000円の控除を忘れた |
| エ | 1,150,000円 | ✗ | 短期貸付金も販管費に含め、かつ既存残高を控除した |
間違えた場合の立て直しルート
試験委員がどこで間違えさせようとしているかを知っておくと、同じ罠に引っかかりにくくなります。



選択肢の設計を逆から読むと、試験委員が「ここで間違えてほしい」と思っている箇所がわかります。問題を解き終わった後に「どのミスをするとどの選択肢になるか」を確認する習慣がとても役立ちました。
もし貸倒引当金がなかったら
売掛金が1,000万円ある会社が、取引先の経営悪化で回収が怪しくなったとします。でも「実際に回収不能になるまで損失を計上しない」というルールだったとしたら、決算書は綺麗に黒字のまま。翌期に突然1,000万円が焦げ付いて赤字転落する。外から見ていた人は「なぜ突然?」となります。これが経営実態を隠した決算書です。だからこそ会計は「損失の予兆が見えた時点で、今期の費用として認識しなさい」と求めています。これが貸倒引当金の存在理由です。
仕組みと用語の整理
B/S(貸借対照表)での表示のしかた
貸倒引当金はB/S上では「資産のマイナス」として表示されます。売掛金から差し引いた純額が、実質的な回収見込み額です。
負債・純資産の
変動は問われない)
貸倒引当金は
資産のマイナス表示。
簿記の「評価勘定」とも呼ぶ。
負債ではない。
差額補充法と洗替法の違い
| 方法 | やり方 | 今回の問題 |
|---|---|---|
| 差額補充法 | 必要残高と既存残高の差額だけ繰り入れる | 採用 ✅ |
| 洗替法 | 一度全額を戻入してから改めて全額を設定する | ― |
→ 差額補充法 vs 洗替法 仕訳の違い(売掛金のケース)
必要残高 200,000円 / 既存残高 50,000円 の場合
差額(200,000 − 50,000)だけ追加設定するのみ
②(借)貸倒引当金繰入 200,000 / (貸)貸倒引当金 200,000
一度全額を戻してからゼロベースで再設定する
試験で問われるバリエーション
| 出題パターン | 今回の問題 |
|---|---|
| 販管費 vs 営業外費用の分類 | ← 今回はここ |
| 差額補充法 vs 洗替法の計算 | ― |
| 一般・貸倒懸念・破産更生債権の3分類 | ― |
| B/S・P/Lへの影響額 | ― |
会計はここで「待った」をかけます。「回収できないリスクが見えているなら、その損失を今期に認識しなさい」と。これを知らずに経営していると、決算書は黒字なのに翌期に突然大口の回収不能が発覚して赤字転落する。いわゆる「黒字倒産」の構造のひとつです。
さらにこの問題には、もう一つ大切な視点があります。「本業の損失」と「財務活動の損失」を区別して管理するという考え方です。売掛金の貸倒れは本業の問題。短期貸付金の貸倒れはお金の運用の問題。この二つは性質が違うので、P/Lの異なる場所に表示されます。経営者がどこで損をしているかを正確に把握するための設計です。
押さえておきたいポイント
- 売上債権・営業由来の未収入金の貸倒引当金繰入 → 販売費及び一般管理費
- 貸付金など財務活動由来の貸倒引当金繰入 → 営業外費用
- 差額補充法 → 必要残高 ー 既存残高 = 繰入額
- 洗替法 → 一度全額を戻入してから全額を再計上(差額補充法と対になる)
- 判断の一軸:「この債権は本業から生まれたものか?」
次にセットで学ぶと効率がよい論点
| 論点 | つながり |
|---|---|
| 減価償却 | 同じ決算整理の隣接論点。「将来のコストを今期に計上する」という考え方が共通 |
| 棚卸資産の評価 | 決算整理の同列論点。資産の実態把握という目的が共通 |
| 有価証券の評価 | 時価と簿価の差を決算で認識するという点で構造が近い |
| 引当金全般 | 退職給付引当金・賞与引当金など、同じ「将来の費用の先取り」という概念 |
1次試験は「知識の確認」、2次試験は「経営判断への応用」です。
この軸を持って問題文を読む習慣が、試験本番での速さと正確さに直結します。









