U「財政政策は有効なのに金融政策は無効?それとも逆?」——マンデル・フレミングは「固定か変動か」でまるっきり答えが逆転します。この裏返しの論理を一度理解すると、試験で確実に得点できる分野になります。
マンデル・フレミング・モデルの概要——開放経済のIS-LM拡張
マンデル・フレミング・モデル(Mundell-Fleming Model)は、ロバート・マンデルとマーカス・フレミングが1960年代に独立して提唱した開放経済マクロ経済モデルです。閉鎖経済のIS-LMモデルに「国際資本移動」と「為替レート制度(固定か変動か)」を加えた拡張版と理解すると整理しやすいです。
IS-LMモデルとの違い
| 比較項目 | IS-LMモデル(閉鎖経済) | マンデル・フレミング(開放経済) |
|---|---|---|
| 経済の範囲 | 国内のみ(貿易・資本移動なし) | 貿易・資本移動を含む開放経済 |
| 為替レート | 考慮しない | 固定相場制または変動相場制で分析が変わる |
| 国際資本移動 | なし | 完全資本移動を前提(利子率が国内外で均等化) |
| 財政政策の効果 | 有効(乗数効果) | 制度によって有効or無効 |
| 金融政策の効果 | 有効(流動性の罠除く) | 制度によって有効or無効 |
モデルの前提条件
- 完全資本移動(Perfect Capital Mobility):資本は国境を自由に移動でき、国内金利が世界金利(r*)と乖離した瞬間に大規模な資本移動が生じる
- 小国開放経済:世界金利・外国物価・外国所得に対して政策の影響がない(自国は「価格受容者」)
- 固定物価水準:短期分析のためインフレは考慮しない(ケインズ的短期モデル)
- BP曲線の水平化:完全資本移動下ではBP曲線(国際収支均衡線)は世界金利水準で水平になる
固定為替レート制——財政政策が有効・金融政策が無効になる理由
固定相場制 → 財政政策:有効、金融政策:無効
変動相場制 → 財政政策:無効、金融政策:有効
この「完全な逆転」がマンデル・フレミングの核心です。
固定相場制下の財政政策(拡張的)
- 政府が財政支出を拡大(IS曲線が右シフト)
- 国内所得が増加し、輸入需要が増える→国際収支が悪化(経常収支赤字圧力)
- 同時に金利上昇圧力が生じ、海外資本が流入(資本収支黒字)
- 固定相場制下では、中央銀行が為替を固定に保つため、流入した外貨を買い取りマネーサプライを増やす
- LM曲線が右シフト→金利が世界金利水準に戻る
- 結果:所得増加効果が維持される(クラウディングアウトが生じない)
固定相場制下の金融政策(拡張的)
- 中央銀行がマネーサプライを増加(LM曲線が右シフト)
- 国内金利が世界金利を下回る
- 完全資本移動下では、低金利の国内から高金利の海外へ資本が大量流出
- 自国通貨の売り圧力(為替が減価方向に動こうとする)
- 固定相場を維持するために、中央銀行は自国通貨を買い支え(外貨準備を放出)→マネーサプライが減少
- LM曲線が元に戻る→金融緩和の効果が完全に打ち消される
変動為替レート制——財政政策が無効・金融政策が有効になる理由
変動相場制下の財政政策(拡張的)
- 政府が財政支出を拡大(IS曲線が右シフト)
- 国内金利が世界金利を上回る(金利上昇圧力)
- 完全資本移動で海外から大量の資本が流入→自国通貨の需要増→自国通貨が増価(円高方向)
- 変動相場制では為替レートが自由に動くため、通貨高が進む
- 通貨高→輸出が減少・輸入が増加(純輸出NXが減少)
- IS曲線が左シフト(財政拡張のIS右シフトを打ち消す)
- 結果:所得は元の水準に戻る(財政政策の効果ゼロ)
変動相場制下の金融政策(拡張的)
- 中央銀行がマネーサプライを増加(LM曲線が右シフト)
- 国内金利が世界金利を下回る(金利低下)
- 完全資本移動で国内から海外へ資本が流出→自国通貨売り→自国通貨が減価(円安方向)
- 変動相場制では為替が自由に動くため、通貨安が進む
- 通貨安→輸出が増加・輸入が減少(純輸出NXが増加)
- IS曲線が右シフト
- 結果:所得が増加する(金融政策の効果が発揮される)
政策有効性 2×2 マトリクス——試験の最重要整理表
| 為替制度 | 財政政策(拡張的) | 金融政策(拡張的) |
|---|---|---|
| 固定相場制 | ✅ 有効(所得増加) 理由:資本流入→中銀が外貨買取→MS増加→LM右シフト→クラウディングアウトなし | ❌ 無効(元に戻る) 理由:金利低下→資本流出→為替維持のため中銀が自国通貨買支→MS減少→元に戻る |
| 変動相場制 | ❌ 無効(元に戻る) 理由:金利上昇→資本流入→通貨高→純輸出減→IS左シフト→効果相殺 | ✅ 有効(所得増加) 理由:金利低下→資本流出→通貨安→純輸出増→IS右シフト→所得増加 |
閉鎖経済(IS-LMモデル)との比較
| 条件 | 財政政策 | 金融政策 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 閉鎖経済(IS-LM) | 有効(ただしクラウディングアウトで一部相殺) | 有効(流動性の罠を除く) | 資本移動・為替がないため国内のIS-LM均衡のみ |
| 固定相場・完全資本移動 | 完全有効(クラウディングアウトなし) | 完全無効 | 資本移動が為替介入を強制しMSを内生化 |
| 変動相場・完全資本移動 | 完全無効 | 完全有効 | 為替変動が財政効果を相殺し金融効果を増幅 |
国際収支の3分類——経常収支・資本移動収支・外貨準備
国際収支表は「その国が海外との間でどのような経済取引を行ったか」を記録した統計です。マンデル・フレミングを理解するうえで、各項目の意味を押さえることが重要です。
| 大分類 | 小分類 | 内容 | プラスになる条件 |
|---|---|---|---|
| 経常収支 | 貿易収支 | 商品(モノ)の輸出入差額 | 輸出 > 輸入 |
| サービス収支 | 輸送・旅行・金融・知財サービス | サービス輸出 > サービス輸入 | |
| 所得収支(第一次所得) | 対外投資からの利子・配当収入 | 受取 > 支払 | |
| 金融収支 | 直接投資 | 海外工場建設・M&A | 海外への直接投資増加(資本流出) |
| 証券投資・その他投資 | 株式・債券・貸借 | 海外資産取得(資本流出) | |
| 外貨準備増減 | (中央銀行) | 外貨準備資産の変動 | 外貨準備増加(介入で外貨買取) |
経常収支と貯蓄・投資バランス
マクロ経済の恒等式から:
経常収支 = 国民貯蓄 − 国内投資 = 財政収支(政府貯蓄)+ 民間貯蓄 − 投資
これは「経常収支黒字の国は貯蓄超過(資本輸出国)」「赤字の国は投資超過(資本輸入国)」であることを示します。日本の経常収支黒字は「国内の高い貯蓄率と相対的に低い国内投資」を反映しています。
購買力平価説(PPP)と為替レートの決定
| 理論 | 内容 | 意味 |
|---|---|---|
| 絶対的購買力平価 | 同一財は世界中で同じ価格(一物一価の法則) | 為替レートは物価水準の比率で決まる |
| 相対的購買力平価 | 為替レートの変化率 = 両国のインフレ率の差 | 高インフレ国の通貨は減価する |
| 金利平価説 | 為替の期待変化率 = 内外金利差 | 高金利通貨は将来減価することが期待される |
マーシャル=ラーナー条件——通貨安で必ずしも貿易収支は改善しない
変動相場制で金融政策が有効とは「通貨安→純輸出増」という経路を前提しています。しかしこの経路が成立するには条件があります。
マーシャル=ラーナー条件:「輸出の価格弾力性の絶対値 + 輸入の価格弾力性の絶対値 > 1」のとき、自国通貨の減価は貿易収支を改善する。
Jカーブ効果:短期的には、契約済み取引の影響で通貨安でも貿易収支がむしろ悪化します(輸入価格が上がり輸入金額が増える)。時間が経つにつれ輸出量増・輸入量減が表れ、最終的に改善(グラフがJの字を描く)。
| 時間軸 | 通貨安の効果 | 理由 |
|---|---|---|
| 短期 | 貿易収支が悪化 | 価格効果(輸入品が割高)が数量効果(輸出増)より先行 |
| 中長期 | 貿易収支が改善 | 輸出企業が生産増・輸入代替が進み数量効果が表れる |
よくある質問(FAQ)
マンデル・フレミングは「固定か変動か」で政策効果が180度逆転するという直感に反する結論を持ちます。「なぜ逆転するのか」——固定相場制では中央銀行が為替を守るために行動し、その行動が金融政策を無力化する一方で財政政策を補強する。変動相場制では為替自体が動くことで財政政策を相殺し、金融政策の効果を増幅する。この因果連鎖を頭で追えるようになると、暗記ではなく理解として定着します。試験直前には2×2の有効性マトリクスを自分で書き起こして確認してみてください。









