U「70歳以上の経営者が急増し、後継者不在率は60%を超えている」——この数字を白書で見たとき、制度の話としてではなく、どこかの街の商店街が静かに閉まっていく光景として浮かんできました。事業承継関連法制は、そういった中小企業の存続を法律の側から支えるための仕組みです。経営法務の頻出テーマとして出題されるだけでなく、社会の実態と直結した分野なので、少し丁寧に整理しておこうと思います。
事業承継の課題と法的整備の経緯
日本の中小企業では、長年にわたって「親族への承継」が主流でした。しかし少子化と経営者の高齢化が重なり、後継者が見つからないまま廃業を選択する企業が増加し始めます。廃業そのものが違法ではないとしても、それにともなって雇用が失われ、地域に積み重なってきた技術や取引関係が消えていく——この連鎖が社会問題として認識されるようになりました。
こうした背景を受けて、2008年に経営承継円滑化法が制定されます。それ以前から相続税・贈与税の猶予制度は検討されていましたが、遺留分の問題や資金調達の困難さなど複合的な課題があり、包括的な法整備が必要とされていたのです。
経営承継円滑化法とは
経営承継円滑化法は、中小企業の事業承継をスムーズに進めるための支援制度を一体的に整えた法律です。単独の制度ではなく、3つの柱から構成されています。それぞれが連動して、承継にまつわる「資産の課税問題」「遺産分割の問題」「資金調達の問題」を同時にカバーしています。
(贈与税・相続税の納税猶予)
この法律が対象とするのは、中小企業者(中小企業基本法の定義に合致する法人・個人事業主)です。株式会社だけでなく、持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)も含まれます。なお、同族会社でなくても適用は受けられますが、実務上は「先代経営者→後継者」という親族間・役職員間での承継を念頭に設計されています。
各措置の利用にあたっては、都道府県知事への確認・認定が必要です(金融支援・遺留分特例)。事業承継税制については税務署への申告で手続きが行われます。
事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)
事業承継税制は、後継者が非上場株式等を取得した際に課される贈与税または相続税の納税を猶予する制度です。猶予期間中に要件を継続して満たしていれば、最終的に猶予税額が免除されます。2018年の法改正で「特例措置」が新設され、一般措置と特例措置の2本立てになりました。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置(2018年〜) |
|---|---|---|
| 贈与税の猶予割合 | 発行済株式総数の2/3まで・100%猶予 | 発行済株式総数の全部(上限なし)・100%猶予 |
| 相続税の猶予割合 | 課税価格の80%猶予(≒実質40%猶予) | 課税価格の100%猶予 |
| 後継者の人数 | 1人 | 最大3人 |
| 先代経営者の要件 | 筆頭株主かつ代表者であったこと | 同左 |
| 雇用維持要件 | 5年間平均で8割以上の雇用維持(下回ると猶予取消) | 5年後に雇用が下回っても、理由を記載すれば猶予継続可 |
| 特例承継計画 | 不要 | 2024年3月31日までに都道府県知事へ提出が必要 |
| 適用期限 | 期限なし(恒久措置) | 2027年12月31日までに相続・贈与が発生した場合に限る |
猶予対象の上限
猶予割合
贈与税・相続税猶予割合
認められる後継者の最大人数



特例措置には時限性があります。特例承継計画の提出期限は2024年3月31日で、すでに過ぎています。ただし試験では「特例措置の適用要件として、特例承継計画を2024年3月末までに提出し、2027年12月末までに相続・贈与が発生すること」という正確な数字が問われます。制度の趣旨とともに、この数字は確実に覚えておきたいところです。
遺留分に関する民法の特例
民法上、相続人(配偶者・子・直系尊属)には遺留分が保障されています。これは遺言や贈与があっても一定割合の相続財産を受け取る権利で、後継者以外の相続人もこの権利を持ちます。
問題は、後継者に自社株式を集中させようとしても、他の相続人から遺留分を主張されると株式の一部を渡さなければならなくなる点です。株式が分散すると経営の安定が損なわれます。経営承継円滑化法は、この問題に対処するため民法の特例を設けています。
金融支援措置
事業承継には資金が必要になる場面が多くあります。相続税・贈与税の納税資金、株式の買取資金、経営改善のための設備投資など、承継直後に財務的な余裕がない状態に陥りやすいのです。経営承継円滑化法の金融支援措置は、こうした資金ニーズに対応するための仕組みです。
これらの金融支援措置を受けるには、都道府県知事による認定が必要です(特例的信用保証・低利融資の場合)。認定を受けることで、通常よりも有利な条件での資金調達が可能になります。
事業承継の種類と関連法制の整理
事業承継には大きく3つの類型があり、それぞれ関連する法制度の組み合わせが異なります。試験では「どの承継形態に、どの制度が適用されるか」という対応関係が問われることがあります。
| 承継の種類 | 概要 | 事業承継税制 | 遺留分特例 | 金融支援 |
|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子・親族への株式・経営権の移転 | 適用可 | 適用可 | 適用可 |
| 役員・従業員承継(MBO) | 内部の役員・従業員が株式を取得し経営権を引き継ぐ | 適用可 | 原則なし | 適用可 |
| 第三者承継(M&A) | 外部企業・個人への株式譲渡・事業譲渡 | 適用外 | 適用外 | 一部適用可 |
後継者不在企業が増えるにつれ、M&Aを活用した第三者承継が注目されています。2021年には「中小M&Aガイドライン」が策定され、仲介機関・FAの行動規範も整備されました。また事業引継ぎ支援センター(各都道府県)が後継者不在企業のマッチング支援を行っています。



この分野を整理していて、特に印象に残ったのは「制度の複合性」でした。税の問題、遺産分割の問題、資金調達の問題——それぞれが別々に存在していたものを、一つの法律の傘のもとで連携させたのが経営承継円滑化法の特徴のようです。試験では各措置の名称・要件・数字が個別に問われますが、「3本柱がなぜセットで必要なのか」という背景を理解しておくと、記憶の定着がずいぶん変わってくると感じています。
過去問で確認する
- ア 特例措置の対象となる株式は、発行済株式総数の3分の2までとされている。
- イ 贈与税・相続税ともに納税猶予割合は100%であり、特例承継計画を2024年3月31日までに提出することが要件の一つとされている。
- ウ 後継者は1人のみとされており、複数の後継者に承継することはできない。
- エ 雇用を5年間で平均8割以上維持しなければ、猶予税額が即時に取り消される。
ア:3分の2という上限は一般措置の贈与税の話であり、特例措置は発行済株式全部が対象です。
ウ:特例措置では後継者を最大3人認めています(一般措置は1人)。
エ:一般措置では8割未満になると猶予取消でしたが、特例措置では理由を記載することで猶予を継続できます。
- ア 遺留分の特例合意は、後継者と先代経営者の2者間で締結できる。
- イ 固定合意とは、後継者に贈与された株式を遺留分算定の基礎財産から完全に除外することをいう。
- ウ 除外合意と固定合意は併用することができ、手続きとして経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要である。
- エ 特例合意が成立すれば、推定相続人の全員の同意は不要である。
ア:推定相続人全員の合意が必要です。2者間だけでは成立しません。
イ:除外合意の説明です。固定合意は「評価額を合意時点に固定する」合意で、算定基礎からの除外ではありません。
エ:推定相続人全員の同意が必要であることが、この制度の重要な要件の一つです。
- ア 事業承継税制・事業引継ぎ支援センター・創業支援
- イ 事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)・遺留分に関する民法の特例・金融支援措置
- ウ 事業承継税制・M&Aガイドライン・信用保証
- エ 遺留分特例・特例承継計画・経営改善計画認定制度
まとめ
事業承継関連法制の要点を整理すると、次のようになります。
- 経営承継円滑化法(2008年制定)の3本柱:事業承継税制・遺留分民法特例・金融支援措置
- 一般措置:贈与税は2/3株式・100%猶予、相続税は80%猶予。後継者は1人まで
- 特例措置:全株式・贈与税相続税ともに100%猶予。後継者最大3人。特例承継計画の提出(2024年3月末)と2027年12月末までの承継が要件
- 遺留分特例:除外合意(算定基礎から除外)と固定合意(評価額を固定)の2種類。推定相続人全員の合意+経産大臣確認+家裁許可が必要
- 金融支援:信用保証の特例・低利融資・資本性ローン。都道府県知事の認定が必要









