相続まとめ|法定相続分・遺言・遺留分の計算と事業承継への影響を図解で整理
「会社の株を後継者に全部遺贈したい」——そう遺言に書いたとしても、他の相続人が「遺留分を侵害している」と主張してきたら、どうなるのでしょうか。過去問を解いていてこの場面に出くわしたとき、相続の計算と事業承継が交差する構造が一気に見えてきました。法定相続分・遺言・遺留分の3つは、それぞれ別々に覚えるより、「どの順番で、何が優先されるか」という関係性で整理すると腑に落ちます。
相続は被相続人(亡くなった人)の死亡によって開始されます。相続人の範囲と各人の取り分(法定相続分)は民法に定められており、遺言があればその内容が優先されます。ただし、一定の相続人には遺言でも奪えない遺留分が保障されています。事業承継の場面では、この3つの関係を正確に把握することが不可欠です。
3段階
相続順位(子・父母・兄弟姉妹)
2019年
遺留分侵害額請求権への民法改正
0(ゼロ)
兄弟姉妹の遺留分(遺留分なし)
目次
相続とは
相続とは、人が亡くなった(被相続人の死亡)ことによって、その人が持っていた財産上の権利・義務を、一定の人(相続人)が包括的に承継することをいいます。プラスの財産(不動産・預金・株式など)だけでなく、債務(借金)も承継の対象になります。
- 相続の開始:被相続人の死亡によって当然に開始(失踪宣告による「死亡とみなす」場合も含む)
- 相続欠格:被相続人や先順位相続人を故意に死亡させた者など、民法891条に定める一定の事由に該当する者は、当然に相続権を失う
- 相続廃除:被相続人が生前に家庭裁判所に申立て、虐待・侮辱等をした推定相続人の相続権を剥奪する制度。遺言でも申立て可能。欠格とは異なり、被相続人の意思が必要
法定相続人と法定相続分
配偶者(婚姻関係のある夫または妻)は常に相続人となります。配偶者以外の相続人には順位があり、先順位の相続人がいる場合、後順位の者は相続人になれません。
子(直系卑属)
養子・認知した婚外子も含む。子が死亡している場合は孫・ひ孫と代襲相続する(代襲相続は何代でも)
配偶者と共に相続する場合:各1/2
父母(直系尊属)
父母がともに死亡している場合は祖父母へ。直系尊属のうち、最も近い世代の者が相続人になる
配偶者と共に相続する場合:配偶者2/3・父母1/3
兄弟姉妹
代襲相続は1代限り(甥・姪まで)。兄弟姉妹には遺留分なし
配偶者と共に相続する場合:配偶者3/4・兄弟1/4
| 相続人の組み合わせ |
配偶者の相続分 |
その他の相続分 |
| 配偶者のみ |
全部(1) |
— |
| 配偶者 + 子 |
1/2 |
残り1/2を子で均等分割例:子2人なら各1/4 |
| 配偶者 + 父母(直系尊属) |
2/3 |
残り1/3を父母で均等分割例:父母2人なら各1/6 |
| 配偶者 + 兄弟姉妹 |
3/4 |
残り1/4を兄弟姉妹で均等分割半血兄弟は全血兄弟の1/2 |
法定相続分の計算例
試験では、相続人の構成が異なるパターンで相続分を計算させる問題が繰り返し出題されています。パターン別に整理してみます。
パターン1:配偶者 + 子2人 (遺産 6,000万円)
子全体の取り分は1/2。子が2人いる場合は均等に分け、各人の取り分は1/4(=1,500万円)となります。子の人数が増えるほど1人あたりの取り分は小さくなります。
パターン2:配偶者 + 父母2人 (遺産 6,000万円)
第1順位の子がいないため父母が相続人に。直系尊属の取り分合計は1/3。父母2人で均等分割すると各1/6(=1,000万円)となります。
パターン3:配偶者 + 兄弟姉妹2人 (遺産 6,000万円)
子・父母ともにいないため兄弟姉妹が相続人に。兄弟姉妹の取り分合計は1/4。2人で均等分割すると各1/8(=750万円)。なお半血兄弟(片方の親のみ共通)は全血兄弟の1/2となります。
代襲相続・相続放棄・限定承認の違いは、試験でも問われやすい部分です。少し整理しておきます。
代襲相続:相続人が被相続人より先に死亡した場合などに、その者の子が代わりに相続する仕組み。第1順位(子の代わりに孫)は何代でも代襲可能。第3順位(兄弟姉妹の代わりに甥・姪)は1代限り。
相続放棄:相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述。プラスもマイナスも一切承継しない。放棄した者の子は代襲相続できない(相続欠格・廃除の場合と異なる点)。
単純承認:すべての財産(プラスもマイナスも)を無限に承継。3か月以内に何もしなかった場合は単純承認したとみなされる(法定単純承認)。
限定承認:相続財産の範囲内でのみ債務を承継する。相続人全員が共同して3か月以内に家庭裁判所に申述する必要がある。
遺言の種類と効力
遺言は法定相続分に優先して相続の内容を決める手段です。ただし有効な遺言と認められるためには、方式要件を満たす必要があります。主な3種類を比較します。
自筆証書遺言
作成方法
全文・日付・氏名を自書 + 押印(財産目録のみPC作成可・各頁に署名押印)
証人
不要
費用
なし(最も安価)
検認
原則必要(法務局保管制度利用時は不要)
紛失・変造リスク
高い(法務局保管で回避可)
公正証書遺言
作成方法
遺言者が公証人に口授→公証人が作成・原本を公証役場に保管
証人
2人以上必要
費用
公証人手数料が必要
検認
不要
紛失・変造リスク
ほぼなし(原本は公証役場保管)
秘密証書遺言
作成方法
遺言者が署名押印の上封印→公証人と証人の前で申述。内容は秘密のまま
証人
2人以上必要
費用
公証人手数料(定額)が必要
検認
必要
実務上の利用
少ない(要式不備で無効になりやすい)
未成年者、推定相続人・受遺者(遺言によって利益を受ける者)およびその配偶者・直系血族は証人になれません(公正証書・秘密証書遺言ともに共通)。
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人に対して法律が最低限保障する財産の割合です。被相続人が遺言によってすべての財産を特定の人に遺贈しようとしても、遺留分を持つ相続人は「侵害された分を返してほしい」と請求できます。
直系尊属のみが相続人
1/3
例:父のみが相続人なら遺留分は1/3
上記以外(子・配偶者等が相続人)
1/2
例:配偶者と子が相続人→遺留分全体は1/2
兄弟姉妹・甥姪
なし
遺留分の主張ができない
各相続人の遺留分は「遺留分全体の割合 × その相続人の法定相続分」で求めます。例えば配偶者と子2人がいる場合、遺留分全体は1/2。配偶者の遺留分は1/2 × 1/2 = 1/4、子A・子Bはそれぞれ1/2 × 1/4 = 1/8となります。
2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法により、従来の「遺留分減殺請求権」は廃止され、「遺留分侵害額請求権」に一本化されました。
- 旧制度(遺留分減殺請求権):遺贈・贈与の物権的効力を遡及的に無効にする → 不動産などを共有状態にしてしまうという問題があった
- 新制度(遺留分侵害額請求権):遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求する権利に一本化 → 財産を共有にしないで済む
- 時効:侵害を知ったときから1年(相続開始を知らなくても相続開始から10年で消滅)
事業承継と相続の関係
オーナー企業の経営者が亡くなったとき、会社の株式は相続財産として扱われます。後継者に株式を集中させたいと思っても、他の相続人の存在と遺留分が大きな障壁になりえます。
株式が遺産として分散するリスク
後継者ではない兄弟姉妹・配偶者などが法定相続分に基づいて株式を取得すると、会社の意思決定が困難になります。株主総会の特別決議(2/3超)や普通決議(過半数)に支障が出ることも。
遺言で後継者に全株式を遺贈しようとすると
他の相続人が遺留分侵害額請求権を行使すると、後継者は他の相続人に対して金銭を支払う義務が生じます。支払いのための現金が用意できなければ、株式の一部を売却・返還せざるを得ないケースも。
「遺留分に関する民法の特例」(経営承継円滑化法)
後継者と推定相続人全員の合意により、①株式を遺留分算定の基礎財産から除外する(除外合意)、または②株式価額を合意時の評価額に固定する(固定合意)ことができます。家庭裁判所の許可が必要です。
STRATEGY 01
生前贈与・遺言の組み合わせ
経営者の存命中に後継者へ計画的に株式を贈与し、相続時点での株式保有数を抑えておく。遺言と生前贈与税特例の組み合わせで相続税・贈与税コストも最適化できる。
STRATEGY 02
遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)
経営承継円滑化法の遺留分特例を活用し、株式を遺留分計算から除外または価額固定する。推定相続人全員の合意と家庭裁判所の許可が必要。
STRATEGY 03
種類株式の発行
議決権制限株式を非後継者に渡し、後継者には議決権のある普通株式を集中させる。株式数は分散していても経営支配権は維持できる。
STRATEGY 04
持株会社(ホールディングス)の設立
事業会社の株式を持株会社に移し、持株会社の株式のみを相続対象にすることで、事業会社の支配権を間接的に守る構造を作る。
ここで一度、学んだことを整理してみます。
・相続順位と配偶者の相続分の「数字の組み合わせ(1/2・2/3・3/4)」は、語呂合わせでもなんでも、確実に暗記しておく必要があります。試験では計算の途中で出てくる数字なので、迷いなく使えることが大切です。
・遺留分の「直系尊属のみなら1/3、その他は1/2、兄弟姉妹はゼロ」も頻出。兄弟姉妹に遺留分がないのは「第三者への遺贈を容易にするため」という趣旨からだそうです。
・2019年改正の「遺留分侵害額請求権(金銭請求に一本化)」は、改正前との比較で問われることがあります。「物権的効力がある旧制度では不動産が共有状態になった」という課題が改正の背景にあった、という流れで覚えておくと混乱しにくいかと思います。
過去問で確認する
Aには配偶者B、長男C、長女D(Cより先に死亡)、長女Dの子E(Aの孫)がいる。Aが死亡した場合の法定相続分として、最も適切なものはどれか。なお、遺言はなく、相続放棄もしないものとする。
- ア B:1/2、C:1/4、E:1/4
- イ B:1/2、C:1/4、E:1/4(DはCより先に死亡のためEが代襲相続)
- ウ B:1/2、C:1/2(長女Dが先に死亡しているためEは相続しない)
- エ B:2/3、E:1/3(長男Cは放棄したとみなす)
解答と解説
正解はイ。配偶者Bの相続分は1/2。残り1/2を子(第1順位)で分けます。長男Cと長女D(代襲者E)の2人分として各1/4。長女Dは先に死亡していますが、その子Eが代襲相続によってDの取り分(1/4)を相続します。代襲相続は相続欠格・廃除・死亡の場合に生じますが、相続放棄の場合は代襲相続は発生しない点に注意が必要です。
Aが死亡し、相続人は配偶者Bと子C・Dの3人。Aは生前に「すべての財産をNPO法人に遺贈する」という遺言を残していた。遺産総額が4,800万円の場合、配偶者Bの遺留分侵害額として最も適切なものはどれか。
- ア 400万円
- イ 600万円
- ウ 1,200万円
- エ 2,400万円
解答と解説
正解はウ。相続人に子がいるため遺留分全体は財産の1/2。配偶者Bの法定相続分は1/2。したがって配偶者Bの遺留分は1/2(遺留分割合)× 1/2(法定相続分)= 1/4。遺留分侵害額は 4,800万円 × 1/4 = 1,200万円。NPO法人への遺贈(全額)によりBの遺留分はすべて侵害されているため、Bは1,200万円の金銭支払いを請求できます。
遺言および遺留分に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
- ア 自筆証書遺言は全文を遺言者が自書しなければならないが、財産目録についてはパソコンで作成することもできる。
- イ 公正証書遺言を作成する際には、証人が2人以上必要であり、推定相続人はその証人となることができない。
- ウ 兄弟姉妹には遺留分が認められており、遺留分侵害額請求権を行使することができる。
- エ 遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅する。
解答と解説
正解はウ(不適切な記述)。兄弟姉妹には遺留分が認められていません(民法1042条)。遺留分権利者は、配偶者・子(直系卑属)・父母(直系尊属)のみです。ア・イ・エはいずれも正しい記述です。エについては、知ったときから1年(相続開始から10年の消滅時効もある)が正確な条文の内容です。
まとめ
相続法は、計算問題・正誤問題の両方で出題される分野です。「誰が・どれだけ・なぜ」を構造として押さえておくと、問題の場面に応じて対応できます。
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配偶者は常に相続人。法定相続分は子と1/2・父母と2/3:1/3・兄弟姉妹と3/4:1/4
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相続順位は子(代襲何代でも)→父母→兄弟姉妹(代襲1代のみ)。先順位がいれば後順位は相続しない
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相続放棄した者の子は代襲相続できない(欠格・廃除の場合は代襲可)
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遺留分権利者:配偶者・子・父母。兄弟姉妹には遺留分なし
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遺留分割合:直系尊属のみの場合は1/3、それ以外は1/2(財産全体に対する割合)
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2019年改正:遺留分減殺請求権→遺留分侵害額請求権(金銭請求に一本化)
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事業承継では遺留分特例(除外合意・固定合意)・種類株式・生前贈与等を組み合わせて株式集中を図る
相続と事業承継を別々に学ぶと、「遺留分が出てきたとき、これはどっちの話?」と混乱します。でも最初から「会社の株式は相続財産になる」という前提で整理すると、両方の知識がつながって理解しやすくなりました。特に遺留分侵害額請求権の2019年改正は、問題文に「改正後」「改正前」の文言が出てくることがあるので、新旧の違いを一度確認しておくと安心です。遺言の3種類(自筆・公正・秘密)については、「誰が作るか・誰が保管するか・検認は必要か」の3軸で対比すると覚えやすいかもしれません。
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この記事を書いた人
中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。