財政政策まとめ | 中小企業診断士1次試験 経済学・経済政策

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「財政出動すれば景気が回復するはず」と思いきや、「でもクラウディングアウトが起きると効果が薄れる」という話が出てきて混乱した記憶があります。財政乗数・租税乗数・均衡財政定理・ビルトイン・スタビライザーをひとつの流れとして整理してみました。

財政政策とは、政府が歳出(公共投資・補助金)や歳入(税制)を調整することで、GDP・雇用・物価に影響を与えるマクロ経済政策です。財政乗数の計算から、クラウディングアウトによる効果の限界まで、試験で問われる論点を系統立てて整理します。

1/MPS
政府支出乗数
限界消費性向をcとするとき乗数k=1/(1-c)=1/MPS
c/MPS
租税乗数
増税の場合は符号マイナス。−c/(1-c)=−c/MPS
1
均衡財政定理
同額の歳出増+増税でGDPは歳出増と同額だけ増加する
目次

財政乗数と租税乗数:大きさが違う理由

政府が公共投資を1兆円増やすと、GDPはそれ以上(1/MPS倍)増えます。これが財政乗数の効果です。ところが1兆円の減税の効果は財政乗数より小さくなります。その差はどこから来るのでしょうか。

政府支出乗数
政府が公共投資ΔGを行うと、その全額が直接GDPへの需要増加となり、さらに乗数倍の波及効果が生じます。
ΔY = ΔG × 1/(1-c) = ΔG/MPS
c:限界消費性向(MPC)。cが大きいほど乗数は大きくなる。
租税乗数
減税ΔTを行っても、家計はその全額を消費せず一部(MPS分)を貯蓄します。そのためGDPへの影響は政府支出乗数より小さくなります。
ΔY = −ΔT × c/(1-c) = −ΔT×c/MPS
マイナスは増税の場合。減税(ΔT<0)ならGDPは増加する。絶対値は政府支出乗数より小さい。
政府支出乗数
(c=0.8のとき)
5倍
租税乗数
(c=0.8のとき)
4倍

※ c=0.8(MPC80%)のとき:政府支出乗数=1/(1-0.8)=5、租税乗数=0.8/(1-0.8)=4

なぜ乗数が違うのか:政府支出は需要として100%直接GDPに入ります。一方、減税で家計に1万円渡しても、MPS(例:20%)分の2千円は貯蓄されてしまい、消費(需要)に回るのは8千円だけ。最初の一歩が小さいため、乗数の効果も小さくなります。

均衡財政定理(ハーベイロード原則)

「歳出を1兆円増やしつつ、増税で同額の1兆円を集める(均衡財政)」としたとき、GDPへの影響はゼロになるでしょうか——実は1兆円分だけGDPが増えるという、やや意外な結果になります。

均衡財政乗数 = 政府支出乗数 + 租税乗数 = 1/MPS − c/MPS = 1/MPS × (1−c) = 1 → 同額のΔG=ΔTの場合でも、ΔY=ΔG×1=ΔGとなる(乗数は1)
→ 増税による消費抑制よりも、政府支出の直接効果が大きいため、正の効果が残る
具体例で確認(c=0.8、ΔG=ΔT=1兆円)

政府支出の効果:ΔY₁ = 1兆円 × 5(政府支出乗数)= 5兆円のGDP増加

増税の効果:ΔY₂ = −1兆円 × 4(租税乗数)= −4兆円のGDP減少

純効果:5兆円 − 4兆円 = 1兆円のGDP増加(歳出増と同額)

クラウディングアウト効果:財政政策の限界

「財政出動すれば景気が良くなる」は短期的に正しいですが、IS-LMのフレームワークで考えると、クラウディングアウト(crowding out)という問題が浮かびあがります。

段階何が起きるか効果の方向
① 財政出動政府が国債を発行して公共投資を増やすIS曲線が右にシフト → GDPが増加方向
② 国債供給増加国債の売り出しにより市場の資金需要が増える利子率が上昇し始める
③ 民間投資減少利子率上昇で民間の設備投資コストが高くなる民間投資が抑制される(クラウディングアウト)
④ 純効果財政出動の効果が民間投資減少で一部相殺されるGDPの増加は乗数理論より小さくなる
クラウディングアウトが大きい場合
LM曲線が急勾配(垂直に近い)のとき。利子率が大きく上昇し、民間投資への抑制が強くなる。古典派的なケース。
財政政策の実効性が低い。金融政策の方が有効。
クラウディングアウトが小さい場合
LM曲線が緩い(水平に近い・流動性の罠)のとき。利子率がほとんど上昇せず、民間投資への影響が小さい。
財政政策の実効性が高い。ケインズ的な状況。
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IS-LMモデルと組み合わせて考えると、「LM曲線が急なほど財政政策の効果が薄れ、金融政策が有効」「LM曲線が緩いほど財政政策が有効、金融政策は無効」というパターンが見えてきます。ムンデル=フレミングモデルにも通じる論点です。

ビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置)

財政政策には「政府が意図的に行う裁量的政策」のほかに、景気変動を自動的に和らげるビルトイン・スタビライザー(内蔵安定装置)という機能があります。

仕組み好景気のとき不景気のとき
累進所得税所得↑→税収↑(消費の増加を抑制)所得↓→税収↓(消費の減少を緩和)
失業給付失業者↓→給付減(政府支出が自然と減少)失業者↑→給付増(家計の所得を下支え)
農業補助金農産物価格↑→補助減(価格上昇を抑制)農産物価格↓→補助増(農家の収入を保護)

裁量的政策との違い:ビルトイン・スタビライザーは政府が意思決定しなくても自動的に作動します。国会承認や実施の遅れがなく、「タイムラグ」の問題がない点が長所です。ただし、景気安定化の力は裁量的政策より小さいという限界もあります。

日常の場面で考えてみると:コロナ禍の給付金で乗数を考える

2020年のコロナ禍で実施された「特別定額給付金(一人10万円)」は、財政乗数を実際に考えるよい素材です。

給付金の乗数効果はなぜ低かったのか

給付金は「減税」と同じ効果(家計への移転)と考えることができます。租税乗数の公式では乗数は c/MPS です。しかし実際には、不確実性が高い局面では家計が消費を控えて貯蓄に回すため、限界消費性向 c が低下します。

加えて、「景気回復のため使ってほしい」という意図があっても、貯蓄率が上昇した場合は貯蓄のパラドックスが働き、個々人の節約行動が経済全体の需要減少につながります。給付金の効果が期待ほど大きくならなかった背景はここにあります。

過去問で確認:財政政策の出題パターン

出題例:乗数に関する問題 経済学・経済政策
限界消費性向が0.75のとき、政府が公共投資を100億円増やした場合と、同額の減税を実施した場合で、GDPの増加額が大きいのはどちらか。また、その差は何億円か。
  • ア 減税の方が大きく、差は100億円
  • イ 公共投資の方が大きく、差は100億円
  • ウ 公共投資の方が大きく、差は75億円
  • エ 両者の効果は等しい
正解:イ
c=0.75、MPS=0.25。政府支出乗数=1/0.25=4。ΔY(公共投資)=100×4=400億円。租税乗数=0.75/0.25=3。ΔY(減税)=100×3=300億円。差は400−300=100億円。この差は「均衡財政定理の乗数=1」であることとも対応しています(政府支出乗数−租税乗数=1/MPS−c/MPS=1/MPS×(1−c)=1)。
出題例:クラウディングアウトに関する問題 経済学・経済政策
クラウディングアウトが生じやすい状況として、最も適切なものはどれか。
  • ア LM曲線が水平(流動性の罠)の状態で財政政策を行うとき
  • イ 利子率に対して投資需要が非弾力的なとき
  • ウ LM曲線が急勾配で、財政出動に伴う国債発行が利子率を大きく上昇させるとき
  • エ 名目賃金が硬直的で価格調整が働かないとき
正解:ウ
クラウディングアウトは財政出動→国債供給増→利子率上昇→民間投資抑制、という流れで生じます。LM曲線が急勾配のとき、財政出動がIS曲線を右シフトさせると利子率が大きく上昇し(LMが急なので利子率の調整が大きい)、民間投資が強く圧迫されます。逆に流動性の罠ではLM曲線が水平なので利子率はほとんど上昇せず、クラウディングアウトは起きません。

Uのメモ

  • 政府支出乗数=1/MPS(1/(1-c))。租税乗数=c/MPS(絶対値)。政府支出乗数の方が常に1だけ大きい
  • 均衡財政定理:同額の歳出増+増税でも、乗数=1。GDPは歳出増額と同じだけ増える
  • クラウディングアウト:財政出動→国債供給→利子率↑→民間投資↓。LM曲線が急なほど大きい
  • ビルトイン・スタビライザー:累進課税・失業給付が自動的に景気変動を和らげる。タイムラグなし
  • 流動性の罠のとき:LM曲線が水平→クラウディングアウトなし→財政政策が最大の効果を発揮

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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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