U「LM曲線って何?」「なぜ利子率が上がると貨幣需要が減るの?」流動性選好説の仕組みと、LM曲線の導出ロジックを、IS曲線との連携まで含めて丁寧に整理します。貨幣市場を理解すれば、金融政策の効果が自然に見えてきます。
貨幣需要の3つの動機——なぜ人は貨幣を持つのか
ケインズは「なぜ人々は利子をもたらさない貨幣を保有するのか」を分析し、貨幣需要には3つの動機があると主張しました。この分析を「流動性選好説」といいます。貨幣は最も「流動性」(すぐに交換・支払に使える性質)が高い資産です。
日常的な取引・支払のために貨幣を保有する動機。給料日から次の給料日までの買い物・家賃支払などのために現金が必要。
- 決定要因:所得(Y)の水準に依存
- 所得が高いほど取引量が増え、より多くの貨幣が必要
- 利子率とは関係が薄い(どんな利子率でも取引には貨幣が必要)
予期しない支出・緊急事態に備えて貨幣を保有する動機。病気・事故・突然の失業など、将来の不確実な支出への備え。
- 決定要因:所得(Y)の水準に依存
- 所得が高いほど「念のため」の備えも増える傾向
- 取引的動機と合わせて「所得の関数」として扱われることが多い
将来の資産価格変動に備え、機会を待って貨幣を保有する動機。「今は債券より現金で持っておいた方が得」という判断から生まれる。
- 決定要因:利子率(r)に依存
- 利子率が高い → 債券の価格が低い → 「今が買い時」として債券購入 → 貨幣需要は減少
- 利子率が低い → 債券の価格が高い → 「これ以上上がらない」として債券売却・現金保有 → 貨幣需要は増加
| 貨幣需要の動機 | 決定要因 | 利子率との関係 | 所得との関係 |
|---|---|---|---|
| 取引的動機 | 所得(Y) | 関係薄い | 正の関係(所得↑→需要↑) |
| 予備的動機 | 所得(Y) | 関係薄い | 正の関係(所得↑→需要↑) |
| 投機的動機 | 利子率(r) | 逆の関係(r↑→需要↓) | 直接の関係なし |
貨幣需要関数と貨幣市場の均衡
3つの動機を合わせた貨幣需要(L)は、所得(Y)の増加関数、利子率(r)の減少関数として表せます。
貨幣供給量は中央銀行(日本では日本銀行)によって外生的に決定されます。「外生的」とは「市場メカニズムではなく、政策判断で決める」という意味です。
- 中央銀行は公開市場操作(国債の売買)や準備率操作で貨幣供給量を調整
- 貨幣供給は利子率に関係なく一定(IS-LMモデルでは垂直な供給曲線)
LM曲線の導出——貨幣市場均衡の軌跡
「貨幣市場が均衡するような利子率(r)と国民所得(Y)の組み合わせの軌跡」をLM曲線といいます。L = 流動性選好、M = 貨幣供給の頭文字です。LM曲線上のすべての点で M = L(Y, r) が成立しています。
所得(Y)が増加すると:
- 取引的・予備的動機による貨幣需要(L)が増加する
- 貨幣供給(M)は変わらないのにLが増えると → 貨幣が不足
- 均衡に戻すためには、投機的需要を減らす必要がある
- 投機的需要を減らすには → 利子率(r)が上昇する必要がある
- 結論:所得↑ → 利子率↑(右上がりの曲線)
| 条件 | LM曲線の形状 | 意味 |
|---|---|---|
| 投機的貨幣需要の利子率弾力性が大きい(利子率の変化に敏感) | 緩やかな右上がり(水平に近い) | 少しの利子率上昇で大きく均衡が回復 |
| 投機的貨幣需要の利子率弾力性が小さい(利子率の変化に鈍感) | 急な右上がり(垂直に近い) | 均衡回復に大きな利子率変化が必要 |
| 流動性の罠(Liquidity Trap) | 水平(完全に水平) | 利子率が低すぎて全員が現金を保有。金融政策が無効 |
LM曲線のシフト——何が曲線を動かすか
- 貨幣供給量の増加(中央銀行が金融緩和を実施)→ 貨幣が余る → 利子率が下がる
- 物価の下落(実質マネーサプライの増加と同等)
→ 同じ所得水準でも、より低い利子率で均衡できる
- 貨幣供給量の減少(中央銀行が金融引き締めを実施)→ 貨幣が不足 → 利子率が上がる
- 物価の上昇(実質マネーサプライの減少と同等)
→ 同じ所得水準でも、より高い利子率でないと均衡できない
金融政策(貨幣供給の変化)はLM曲線をシフトさせますが、IS曲線(財市場)はシフトしません。財政政策(政府支出・税の変化)はIS曲線をシフトさせますが、LM曲線はシフトしません。この違いがIS-LMモデルの政策分析の核心です。
流動性の罠——金融政策が無効になるケース
利子率が非常に低い水準(ほぼゼロ)まで下がると、人々は「これ以上債券価格は上がらない(利子率は上がるしかない)」と考え、保有する資産をすべて現金で持とうとします。このとき、貨幣需要は利子率に対して完全弾力的(貨幣需要曲線が水平)になり、LM曲線も水平になります。
| 通常の状況 | 流動性の罠 | |
|---|---|---|
| LM曲線の形状 | 右上がり | 水平(ゼロ金利近辺) |
| 金融政策の効果 | 有効(LM右シフト → r低下 → I増加) | 無効(貨幣をいくら増やしても利子率が下がらない) |
| 財政政策の効果 | クラウディング・アウトで部分的に打ち消される | 完全に有効(クラウディング・アウトが起きない) |
| 現実の例 | — | 日本の長期デフレ・ゼロ金利政策期間 |
IS-LMモデルにおけるLM曲線の役割
IS曲線(財市場均衡)とLM曲線(貨幣市場均衡)を組み合わせることで、財市場と貨幣市場が同時に均衡する「均衡国民所得」と「均衡利子率」が決まります。
- 右下がりの曲線
- 利子率↑ → 投資↓ → 所得↓
- 財政政策でシフト(G↑→IS右シフト)
- 右上がりの曲線
- 所得↑ → 貨幣需要↑ → 利子率↑
- 金融政策でシフト(M↑→LM右シフト)
| 政策 | シフトする曲線 | 効果 | 条件 |
|---|---|---|---|
| 財政政策(G↑) | IS曲線→右シフト | 所得増加(ただしクラウディング・アウトあり) | LM曲線が急なほど効果小 |
| 金融政策(M↑) | LM曲線→右シフト | 利子率低下→投資増加→所得増加 | LM曲線水平(流動性の罠)で効果なし |
試験対策まとめ
- 貨幣需要の3動機:取引的・予備的(所得の関数)、投機的(利子率の関数)
- 投機的動機は利子率と逆の関係(利子率↑→貨幣需要↓)
- LM曲線は「貨幣市場均衡の軌跡」で右上がり
- 貨幣供給増加(金融緩和)→ LM曲線が右シフト
- 流動性の罠:LM曲線が水平→金融政策無効・財政政策は完全有効
- IS曲線と交差する点が均衡国民所得・均衡利子率
よくある質問
貨幣市場とLM曲線は、経済学の後半で登場する IS-LM モデルの「もう一つの柱」です。IS曲線(財市場)と組み合わせることで、財政政策・金融政策の効果を「利子率と所得の同時均衡」という視点から分析できます。流動性の罠と金融政策の限界、クラウディング・アウトと財政政策の限界——これらは試験の定番論点ですので、グラフの形と論理を結びつけて理解してください。









