外部性・ピグー税・コース定理と市場の失敗 | 中小企業診断士1次試験 経済学・経済政策

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工場の煤煙で近隣住民が被害を受けているのに、市場では何も起きない——この「価格がついていないコスト」が経済学の大きな問いです。外部性を学ぶと、なぜ環境税や補助金が政策として登場するのか、その根拠が見えてきます。

外部性(externality)とは、ある経済主体の行動が市場を通じずに第三者に影響を与えることです。この影響がコスト(費用)として現れる場合を負の外部性、便益として現れる場合を正の外部性と呼びます。

負の外部性(外部不経済)
第三者に損害をもたらすが、その費用が市場価格に反映されない状態。生産量が社会的最適を上回る過剰生産になります。
工場の大気汚染・騒音・交通渋滞による時間損失など
正の外部性(外部経済)
第三者に便益をもたらすが、その利益が市場価格に反映されない状態。生産量が社会的最適を下回る過少生産になります。
予防接種(感染症予防効果)・教育(社会全体の生産性向上)など
外部性の種類 市場の問題 価格との関係 対応策
負の外部性 過剰生産(Q市場 > Q最適) 市場価格が社会的費用を下回る ピグー税・規制
正の外部性 過少生産(Q市場 < Q最適) 市場価格が社会的便益を下回る 補助金・義務化
目次

ピグー税と補助金による内部化

外部性の解決策として経済学者ピグーが提唱したのが、価格メカニズムを通じた内部化です。外部費用・外部便益を当事者の価格・費用に組み込むことで、市場の失敗を修正します。

ピグー税(負の外部性への対応)
外部費用(社会的費用-私的費用)に等しい税を課す
生産コストが上昇 → 供給曲線が左上シフト
均衡生産量が社会的最適水準に低下
炭素税・環境税はピグー税の実例です。税収は政府が環境対策に使うこともできます。
補助金(正の外部性への対応)
外部便益(社会的便益-私的便益)に等しい補助金を出す
生産コストが低下 → 供給曲線が右下シフト
均衡生産量が社会的最適水準に増加
ワクチン接種補助・教育費補助・太陽光発電補助金などが実例です。

コース定理:交渉で解決できるケース

ロナルド・コースは「取引費用がゼロであれば、財産権が明確に定義されている限り、当事者間の交渉によって外部性の問題は解決される」と論じました。これをコース定理といいます。

コース定理を身近な場面で考えてみる

あなたが静かな環境を好む住人だとします。隣の工場の騒音で毎日1万円分の被害を受けていますが、工場は操業で1日5,000円の利益を得ています。

工場に「静かにする権利」があると仮定すると:住人はあなたが工場に操業停止の対価として5,001円〜9,999円の間で支払えば、交渉成立。工場は操業をやめ、住人は被害(1万円)より少ない費用で解決できます。

逆に住人に「静かな環境の権利」があれば:工場が住人に「操業を続けさせてほしい」と対価を払って交渉できます。いずれの場合も、取引費用がゼロなら同じ資源配分が実現されます——これがコース定理の核心です。

コース定理の前提条件 現実との差
取引費用がゼロ 交渉・情報収集・法的コストが現実には存在
財産権が明確 「大気を汚さない権利」などは定義が難しい
関係者が少数 大気汚染など被害者が多数の場合は交渉不可能

取引費用が高い場合や関係者が多数の場合は、コース定理は成立せず、ピグー税や規制などの政府介入が必要となります。

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コース定理を学んで「財産権を誰が持つかが重要」という視点が面白いと感じました。ただ現実の環境問題では取引費用が莫大で交渉が難しいことが多いので、ピグー税のような政策が登場するわけですね。

過去問で確認する

令和5年度 第9問(経済学・経済政策) 外部性・ピグー税
外部性に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 正の外部性が存在するとき、市場均衡における生産量は社会的最適水準を上回る。
  • イ 負の外部性が存在するとき、ピグー税を課すことで社会的に最適な生産量を実現できる。
  • ウ コース定理によれば、取引費用がある場合でも財産権の配分が明確であれば外部性の問題は解決される。
  • エ 正の外部性が存在するとき、補助金を与えると市場均衡生産量は社会的最適水準を下回る。
解答・解説
正解:イ
ア:正の外部性では社会的便益が私的便益を上回るため、市場均衡生産量は社会的最適水準を下回ります(過少生産)。上回るは誤り。
イ:正しい。負の外部性では外部費用が私的費用に含まれないため過剰生産になります。ピグー税で外部費用分を課税すると、私的費用=社会的費用となり社会的最適生産量が実現します。
ウ:コース定理の成立条件は「取引費用がゼロ」かつ「財産権が明確」です。取引費用がある場合は外部性の問題は解決されません(誤り)。
エ:正の外部性への補助金は生産コストを下げ、供給を増加させます。市場均衡生産量は社会的最適水準に近づく(増加方向)であり、下回るは誤り。
令和元年度 第10問(経済学・経済政策) コース定理・外部不経済
コース定理に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 取引費用がゼロであっても、財産権の配分によって資源配分の結果が異なる。
  • イ コース定理は外部性が存在する場合、政府の介入なしには効率的な資源配分が実現されないことを主張している。
  • ウ 取引費用がゼロで財産権が明確に定義されていれば、当事者間の交渉によって効率的な資源配分が実現される。
  • エ コース定理は多数の利害関係者が存在する場合でも有効である。
解答・解説
正解:ウ
ア:コース定理では、取引費用がゼロであれば財産権の配分(誰が権利を持つか)に関わらず、交渉の結果として同じ効率的な資源配分が実現されます(誤り)。
イ:コース定理はむしろ「財産権が明確で取引費用がゼロなら政府介入なしでも効率的配分が実現する」という主張であり、政府介入が必要とは言っていません(誤り)。
ウ:正しい。コース定理の核心的な主張です。
エ:多数の利害関係者が存在する場合は取引費用が増大し、交渉が困難になるため、コース定理は有効ではありません(誤り)。

まとめ

外部性・ピグー税・コース定理 整理メモ
  • 負の外部性→過剰生産(市場Q>社会的最適Q)→ピグー税で修正
  • 正の外部性→過少生産(市場Q<社会的最適Q)→補助金で修正
  • ピグー税額=外部費用(社会的費用-私的費用)
  • コース定理:取引費用ゼロ+財産権明確 → 交渉で効率的配分が実現
  • コース定理:財産権の配分と関係なく同じ資源配分(ただし所得分配は異なる)
  • 取引費用が大きい・関係者多数の場合はコース定理成立せず→政府介入が必要
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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