UIS-LMモデルが「利子率と所得」の平面だったのに対して、AD-ASモデルは「物価水準と実質GDP」の平面で経済を分析します。インフレや景気後退の原因が「需要側」なのか「供給側」なのかを判断するうえで、とても役立つ枠組みです。
AD-ASモデルは、横軸に実質GDP・縦軸に物価水準をとり、総需要(AD)曲線と総供給(AS)曲線の交点で均衡物価水準と均衡実質GDPを決定するモデルです。マクロ経済の物価変動・景気変動を分析する際の基本ツールです。
長期AS:垂直(すべての価格が柔軟→生産量は自然産出量で決定)
需要ショックと供給ショックの効果
経済に「ショック(外的な変化)」が加わると AD か AS がシフトし、物価と産出量が変化します。ショックの種類と方向を整理することが試験のポイントです。
| シフト | 物価水準 | 実質GDP | 原因の例 |
|---|---|---|---|
| AD右シフト | 上昇 | 増加 | 財政支出拡大・金融緩和 |
| AD左シフト | 低下 | 減少 | 財政緊縮・金融引締・消費減退 |
| AS右シフト | 低下 | 増加 | 技術進歩・生産性向上 |
| AS左シフト | 上昇 | 減少 | 原油価格高騰(スタグフレーション) |
短期AS・長期ASの違い:ケインズ派 vs 古典派
AS曲線の形状は、「名目賃金(や価格)がどれだけ柔軟か」によって変わります。この点が、ケインズ派と古典派の大きな相違点でもあります。
物価が上昇すると実質賃金が低下 → 企業は雇用・生産を増やす → 実質GDPが増加。
ケインズ派的なアプローチで、短期の景気分析に使います。
実質GDPは「自然産出量(潜在GDP)」に固定され、物価水準が変化しても産出量は変わらない。
古典派的なアプローチで、長期の成長分析に使います。



「物価が上がったのに景気も良くなってる」→ ADショック、「物価が上がったのに景気が悪い」→ ASショック(スタグフレーション)と原因を仕分けられるのが AD-ASモデルの便利なところです。1970年代の石油危機がまさに典型例ですね。
コロナ禍の経済ショックで考えてみると
2020年のコロナ禍を AD-AS で整理してみましょう。外出自粛や観光需要の蒸発は、総需要を一気に押し下げました(AD左シフト)。これにより物価が低下傾向となり、実質GDPも大幅に落ち込みました。
同時にサプライチェーンの混乱で生産コストが上昇し(AS左シフト)、一部の財では物価が上昇する面も見られました。これは AD と AS が同時にシフトした複合的なショックでした。
政府は給付金・持続化補助金などで AD を支え(AD右シフト)、ワクチン接種で生産活動を正常化させる(AS右シフト)という両面から対応しました。AD-AS の枠組みがあると、こうした政策の意図が読み取りやすくなります。
過去問で確認する
- ア 原油価格が高騰すると、AS曲線が右シフトし、物価が低下・実質GDPが増加する。
- イ 技術進歩が生産性を高めると、AS曲線が左シフトし、スタグフレーションが生じる。
- ウ 原油価格が高騰すると、AS曲線が左シフトし、物価が上昇・実質GDPが減少する(スタグフレーション)。
- エ 供給ショックが発生した場合、財政政策によって物価・産出量をともに元の水準に戻すことができる。
ア:原油価格高騰は生産コスト上昇 → AS左シフト。物価上昇・実質GDP減少(誤り)。
イ:技術進歩は生産コスト低下 → AS右シフト。物価低下・実質GDP増加(スタグフレーションは生じない)(誤り)。
ウ:正しい。原油高騰はAS左シフトの典型で、物価上昇と実質GDP減少が同時に起こるスタグフレーションです。
エ:AS左シフトに財政政策(AD右シフト)で対応すると、産出量は回復しますが物価はさらに上昇します。物価と産出量をともに元の水準に戻すことは一般に不可能です(誤り)。
- ア 長期AS曲線は右上がりであり、物価水準が上昇すると実質GDPが増加する。
- イ 短期AS曲線は垂直であり、需要ショックが発生しても実質GDPは変化しない。
- ウ 短期AS曲線が右上がりになるのは、名目賃金が短期的に硬直的であるためである。
- エ AD曲線が右下がりになる理由は、物価上昇が消費者の実質所得を増加させるためである。
ア:長期AS曲線は垂直です(すべての価格が柔軟で実質GDPは自然産出量で決まる)(誤り)。
イ:短期AS曲線は右上がりです。垂直は長期AS曲線の特徴(誤り)。
ウ:正しい。名目賃金が硬直的なため、物価上昇 → 実質賃金低下 → 雇用・生産増加 → 実質GDPが増加し、短期AS曲線が右上がりになります。
エ:AD曲線が右下がりになるのは、物価低下が①実質貨幣残高増加→支出増加(実質残高効果)②利子率低下→投資増加(利子率効果)③輸出増加(海外需要効果)を通じて需要を高めるためです。「実質所得増加」という説明は不正確(誤り)。
まとめ
- AD曲線(右下がり):物価↓→実質残高↑/利子率↓/輸出↑ → 総需要↑
- 短期AS(右上がり):名目賃金硬直的 → 物価↑→実質賃金↓→生産↑
- 長期AS(垂直):すべての価格が柔軟 → 産出量は自然産出量で決定
- AD右シフト→物価↑・GDP↑ / AS左シフト→物価↑・GDP↓(スタグフレーション)
- スタグフレーションの典型例:原油価格高騰(1970年代石油危機)
- AS右シフト→物価↓・GDP↑(技術進歩・生産性向上の効果)









