自然失業率・NAIRUと長期フィリップス曲線 | 中小企業診断士1次試験 経済学・経済政策

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フィリップス曲線を学ぶと「インフレと失業はトレードオフ」と学びますが、「長期では垂直になる」と聞いて最初は戸惑いました。「インフレをどれだけ許容しても失業率はある水準より下がらない」という自然失業率の考え方を、フリードマンの期待修正フィリップス曲線と合わせて整理してみます。

目次

失業の種類 — 「なくせる失業」と「なくせない失業」

失業はすべて同じではありません。景気が良くなっても完全にはなくならない失業と、景気対策で減らせる失業があります。

摩擦的失業
転職活動中の一時的な失業。
求人情報を探している間・引越し後の就職活動中など。
仕事は存在するが、マッチングに時間がかかる。
自然失業率に含まれる
構造的失業
産業構造の変化で技術・職種が陳腐化した失業。
例:AIで代替された職種、製造業からサービス業への転換。
スキルの転換が必要で時間がかかる。
自然失業率に含まれる
季節的失業
季節の変動による一時的な失業。
例:農業・観光業・建設業の閑散期。
季節が変われば解消する。
自然失業率に含む場合も
循環的失業(景気的失業)
景気後退による総需要不足が原因の失業。
財政・金融政策で総需要を回復させれば解消できる。
自然失業率には含まれない
政策で対応可能
自然失業率(Natural Rate of Unemployment)
摩擦的失業+構造的失業(+季節的失業)から構成される、景気循環に関係なく存在する失業率。
完全雇用の状態でも自然失業率分の失業は存在します(これが「完全雇用」の定義)。

NAIRU — インフレを加速させない失業率

NAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)とは、「インフレ率を加速させない失業率」のことで、自然失業率とほぼ同じ概念です。

NAIRUのポイント
・失業率がNAIRUより低い状態 → 労働市場が逼迫 → 賃金上昇圧力 → インフレが加速
・失業率がNAIRUより高い状態 → 労働市場に余剰 → 賃金上昇が抑制 → インフレが鈍化
・失業率 = NAIRU → インフレ率が安定(加速もしない・減速もしない)

中央銀行はNAIRUを意識して金融政策を運営します。失業率がNAIRUを大きく下回ると、将来のインフレリスクに備えて利上げを検討します。

長期フィリップス曲線 — なぜ垂直になるのか

フリードマンとフェルプスは、短期のインフレ・失業トレードオフは期待インフレ率の変化によって消えてしまうと主張しました。

01
政府が拡張政策を実施(失業率↓を狙う)
総需要を増やすと、短期的に失業率がNAIRUを下回る。企業は生産を増やし、雇用を拡大。
02
インフレが発生・期待インフレ率が上昇
物価が上がり始めると、労働者は「実質賃金が下がった」と気づき、名目賃金の引き上げを要求する。期待インフレ率が上方修正される。
03
短期フィリップス曲線が上方シフト
期待インフレ率が上がると、同じ失業率でより高いインフレが発生するようになる(曲線が上方にシフト)。
04
失業率は自然失業率に戻る
企業が実質賃金上昇に対応して雇用を減らすと、失業率が元のNAIRUに戻る。残るのは高いインフレ率だけ。
長期の結論
長期的には、インフレ率がどんな水準でも失業率はNAIRUに収束します。つまり長期フィリップス曲線は自然失業率の位置で垂直になります。

→ インフレで失業を永続的に下げることはできない(政策の長期的無効性)
→ 失業を減らすには摩擦的・構造的失業を減らす供給サイド政策が必要
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「長期フィリップス曲線が垂直」というのは最初は抽象的に感じましたが、「インフレを高めても、人々が慣れてしまえば元の失業率に戻る」と考えると腑に落ちました。期待インフレ率の修正が、短期のトレードオフを消してしまうわけです。

自然失業率を下げるには — 供給サイド政策

政策効果狙い
職業訓練・リスキリング支援 構造的失業を減少 スキルミスマッチを解消
求職情報の整備(ハローワーク等) 摩擦的失業を減少 求人と求職のマッチング効率化
最低賃金の適切な設定 構造的失業への影響 賃金格差縮小・就労意欲向上
労働市場の規制緩和 摩擦的失業を減少 転職・採用コストの低減

過去問で確認する

中小企業診断士 1次試験 経済学・経済政策 自然失業率・長期フィリップス曲線
【問題】自然失業率と長期フィリップス曲線に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • 自然失業率は循環的失業(景気的失業)のみから構成される。
  • 拡張的財政政策を継続することで、失業率を自然失業率以下に永続的に維持できる。
  • 長期フィリップス曲線は自然失業率の水準で垂直になり、インフレと失業のトレードオフは長期には存在しない。
  • NAIRUより失業率が低い状態ではインフレ率が低下する。
解説
ア:自然失業率は摩擦的・構造的失業から構成される。循環的失業は景気回復で解消でき、自然失業率には含まれない
イ:長期的には期待インフレ率の上昇により失業率はNAIRUに戻る。永続的な引き下げは不可能
ウ:正解。長期フィリップス曲線は垂直。
エ:NAIRUより失業率が低い状態では労働市場が逼迫 → 賃金上昇 → インフレ率が上昇(加速)。
中小企業診断士 1次試験 経済学・経済政策 NAIRU・期待インフレ
【問題】フリードマンの期待修正フィリップス曲線に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • 期待インフレ率が上昇すると、短期フィリップス曲線は下方にシフトする。
  • 期待インフレ率が上昇すると、短期フィリップス曲線は上方にシフトし、同じ失業率でより高いインフレが発生する。
  • 期待インフレ率の変化は短期フィリップス曲線のシフトに影響しない。
  • 長期的には高いインフレを維持することで低失業率を達成できる。
解説
期待インフレ率が上昇 → 労働者が高い名目賃金を要求 → 企業のコスト上昇 → 同じ失業率でもインフレ率が高くなる
→ 短期フィリップス曲線が上方にシフト → ウが正解

ア:上方シフトが正しい(逆)
ウ:期待インフレ率の変化はシフトの主要因
エ:長期的には失業率はNAIRUに収束し、残るのは高いインフレのみ

まとめ

  • 自然失業率:摩擦的失業+構造的失業。景気に関係なく存在。循環的失業は含まない
  • NAIRU:インフレを加速させない失業率。失業率がNAIRU以下 → インフレ加速、以上 → インフレ鈍化
  • 期待インフレ率上昇 → 短期フィリップス曲線が上方シフト → 長期的に失業率はNAIRUに収束
  • 長期フィリップス曲線:自然失業率の位置で垂直。インフレと失業のトレードオフは長期には存在しない

関連ツール:暗記カードでフィリップス曲線を整理 / 学習進捗トラッカーで経済学の習熟度を確認

Uのメモ

「短期フィリップス曲線は右下がり(トレードオフ)、長期は垂直(トレードオフなし)」というコントラストが試験で問われます。短期と長期の違いを「期待インフレ率が修正されるかどうか」で理解すると、シフトの方向も迷わなくなります。

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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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