Uクールノー・ベルトラン・シュタッケルベルク、名前が出てくるたびにどれがどれかわからなくなります。今日、完全に整理します。
寡占市場とは何か——独占と完全競争の間の世界
寡占(オリゴポリー)とは、少数の企業が市場を支配している状態です。完全競争(多数の企業)と独占(1社)の中間に位置します。
| 市場構造 | 企業数 | 価格支配力 | 相互依存性 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 完全競争 | 多数 | なし | なし | 農産物市場 |
| 寡占 | 少数(2〜10社程度) | あり | 高い(相手の行動が自社に影響) | 自動車・航空・家電 |
| 独占的競争 | 多数 | 一定あり | 低い | レストラン・衣料品 |
| 独占 | 1社 | 大きい | なし | 地域電力会社(かつて) |
クールノー競争——産出量で争う均衡
クールノー(1838年)は、企業が「相手企業の産出量を所与として、自社の利潤を最大化する産出量を決定する」という仮定でモデルを構築しました。
この「相手の産出量を所与とした最適反応」を関係式で表したものが反応関数(最適反応関数)です。
クールノー均衡の計算例(2社・線形需要)
市場需要:P = 100 − Q(Q = q₁ + q₂)、限界費用:MC₁ = MC₂ = 10
企業1の反応関数の導出:
- 企業1の総収入:TR₁ = P × q₁ = (100 − q₁ − q₂) × q₁
- 限界収入:MR₁ = 100 − 2q₁ − q₂
- MR₁ = MC₁ より:100 − 2q₁ − q₂ = 10
- 企業1の反応関数:q₁ = 45 − q₂/2
企業2も対称的に:q₂ = 45 − q₁/2
クールノー均衡の解:連立方程式を解くと q₁ = q₂ = 30。市場全体の産出量 Q = 60、均衡価格 P = 40。
各企業の利潤:π = (40−10)×30 = 900
クールノー均衡の特徴
- 2社対称の場合:各社は独占産出量の2/3を生産(市場全体では独占の4/3)
- 価格は完全競争の価格(限界費用)よりも高く、独占価格よりも低い
- 企業数が増えるにつれ、クールノー均衡は完全競争均衡に近づく(n社の場合、価格は限界費用に近づく)
ベルトラン競争——価格で争うと完全競争になってしまう逆説
ベルトランは1883年に、クールノーとは異なり「企業が価格を意思決定変数とする」という仮定でモデルを構築しました。
財が同質(同じ品質)であれば、消費者はわずかでも安い方から購入します。この状況で何が起きるか?
- 企業1が価格p₁を設定すると、企業2は p₁ より1円でも安くすれば市場全体を独占できる
- 企業1もすぐに対抗して下げる
- この価格競争が繰り返され……
- 均衡では両社の価格が限界費用に等しくなる(P = MC)
ベルトランのパラドックスが成立しない条件
- 財が差別化されている(ブランド・品質の差がある)場合
- 生産能力に制約がある場合(価格を下げても需要を満たせない)
- 繰り返しゲームで協調が維持される場合(暗黙の協調・タシット・コラージョン)
現実の寡占市場では完全に均一な財は少ないため、ベルトランのパラドックスは緩和されます。
シュタッケルベルク競争——先手を打つ先導者の優位
シュタッケルベルクモデルは、企業が逐次的(順番)に産出量を決定する状況を分析します。先に行動する企業を先導者(リーダー)、後から反応する企業を追随者(フォロワー)と呼びます。
先導者は追随者の反応関数を知ったうえで、自分に最も有利な産出量を選びます(後ろ向き帰納法)。
シュタッケルベルク均衡の計算例
先ほどと同じ設定(P = 100−Q、MC = 10)
追随者(企業2)の反応関数:q₂ = 45 − q₁/2(クールノーと同じ)
先導者(企業1)は q₂ をこの反応関数で置き換えて利潤最大化:
- P = 100 − q₁ − (45 − q₁/2) = 55 − q₁/2
- MR₁ = 55 − q₁、MR₁ = MC より:55 − q₁ = 10
- q₁ = 45(先導者)
- q₂ = 45 − 45/2 = 22.5(追随者)
市場産出量 Q = 67.5、均衡価格 P = 32.5
先導者の利潤:(32.5−10)×45 = 1,012.5 > クールノーの900
追随者の利潤:(32.5−10)×22.5 = 506.25 < クールノーの900
3モデルの徹底比較
| 比較項目 | クールノー | ベルトラン | シュタッケルベルク |
|---|---|---|---|
| 意思決定変数 | 産出量(q) | 価格(P) | 産出量(q)、逐次 |
| 意思決定のタイミング | 同時 | 同時 | 逐次(先導者→追随者) |
| 均衡概念 | ナッシュ均衡(反応関数の交点) | ナッシュ均衡(P = MC) | 部分ゲーム完全均衡 |
| 均衡産出量(2社対称・同設定) | 各社30(合計60) | 各社(競争的水準) | 先導者45・追随者22.5(合計67.5) |
| 均衡価格(同設定) | 40 | 10(=MC) | 32.5 |
| 完全競争との比較 | 価格高め・産出量少なめ | 完全競争と同じ | クールノーより産出量多め・価格低め |
| 独占との比較 | 産出量多め・価格低め | 産出量多め・価格低め | 最も産出量多め・価格低め |
屈折需要曲線モデル——寡占価格の硬直性
スウィージー(1939年)は、現実の寡占市場で価格が変化しにくい(価格硬直性)現象を「屈折需要曲線」で説明しました。
基本的な仮定:
- 自社が値上げすると:競合他社はつき合わず、自社の需要が大きく落ちる(需要は弾力的)
- 自社が値下げすると:競合他社も同様に値下げし、シェアはほぼ変わらない(需要は非弾力的)
→ 現在の価格水準を境に、需要曲線が「折れ曲がった」形(屈折)になります。
→ この屈折点では限界収入(MR)に不連続な部分が生まれます。
→ この不連続な範囲内で限界費用(MC)が変化しても、均衡価格は変わらない=価格硬直性が生まれます。
カルテルと囚人のジレンマ——協調の難しさ
カルテルとは、寡占企業が暗黙または明示的に価格・産出量を協調させて独占利潤を分け合う行為です。日本では独占禁止法により原則禁止されています。
カルテルの誘惑:もしすべての企業が協力して独占産出量を分担すれば、各社の利潤はクールノー均衡より大きくなります。
しかしカルテルは維持が難しい——囚人のジレンマ:
囚人のジレンマの構造
企業AとBが「協調(カルテル遵守)」か「裏切り(こっそり増産)」を選択する状況:
| 企業Bが協調 | 企業Bが裏切り | |
|---|---|---|
| 企業Aが協調 | A: 1000 / B: 1000(双方高利潤) | A: 200 / B: 1200(Aが大損) |
| 企業Aが裏切り | A: 1200 / B: 200(Bが大損) | A: 600 / B: 600(双方中程度) |
各企業は「相手が協調しようが裏切ろうが、自分は裏切りを選ぶ方が得(支配戦略)」と考えます。→ 結果として双方が裏切りを選び、「A:600, B:600」の均衡(ナッシュ均衡)に落ち着きます。
→ 個々に合理的な行動が、集団的に非合理な結果をもたらすのが囚人のジレンマの本質です。
ゲーム理論の基本——ナッシュ均衡と支配戦略
ナッシュ均衡とは:すべてのプレイヤーが相手の戦略を所与として、自分の戦略を変える誘因がない状態。「誰も後悔しない」均衡です。
支配戦略とは:相手がどの戦略を選んでも、自分にとって最も有利な戦略。支配戦略が存在する場合、合理的なプレイヤーは必ずそれを選びます。
| 概念 | 意味 | 囚人のジレンマでの例 |
|---|---|---|
| 支配戦略均衡 | 両プレイヤーともに支配戦略を持ち、それぞれが支配戦略を選ぶ均衡 | 「裏切り・裏切り」が支配戦略均衡 |
| ナッシュ均衡 | 相手の戦略所与で自分が変更する誘因なし | 「裏切り・裏切り」はナッシュ均衡でもある |
| パレート最適 | 誰かを悪化させずには誰も改善できない状態 | 「協調・協調」はパレート最適だが達成が難しい |
よく出る過去問パターンと解き方
まとめ——試験直前チェックポイント
| テーマ | 必ず覚えること |
|---|---|
| 寡占の特徴 | 少数企業・相互依存性・参入障壁。価格は独占>クールノー>シュタッケルベルク>ベルトラン(MC) |
| クールノー競争 | 産出量を同時決定。反応関数の交点がナッシュ均衡。企業数増加で完全競争に収束 |
| ベルトラン競争 | 価格を同時決定。同質財ならP=MCのパラドックス。差別化・容量制約があれば回避 |
| シュタッケルベルク競争 | 産出量を逐次決定。先導者有利(先行者利益)。追随者の反応関数を先読みして決定 |
| 屈折需要曲線 | 価格硬直性の説明。値上げは需要弾力的、値下げは需要非弾力的という非対称性 |
| 囚人のジレンマ | カルテル維持が難しい理由。支配戦略=裏切り。ナッシュ均衡は非協力的解。繰り返しで協調可能 |
| ナッシュ均衡 | 相手の戦略所与で変更誘因なし。支配戦略均衡はナッシュ均衡の特殊ケース |
寡占市場のモデルは「何を意思決定変数とするか(産出量か価格か)」と「意思決定のタイミング(同時か逐次か)」の2軸で整理するとスッキリします。クールノー・ベルトラン・シュタッケルベルクの3モデルを常に比較表で確認しながら、それぞれの均衡の特徴を押さえていきましょう。









