事業譲渡まとめ|会社分割との違い・手続き・競業避止義務を図解で整理

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「会社分割と事業譲渡、どちらも”売る”なのに何が違うの?」——M&Aの記事を読んでいてその疑問が浮かんだとき、正直うまく答えられませんでした。どちらも会社の一部を切り出すような話なのに、手続きも、債務の引き継ぎ方も、従業員の扱いも全然違う。今回はその違いを、事業譲渡を中心に丁寧に整理してみました。

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を契約によって他社へ売却する取引です。同じく「一部を切り出す」手法である会社分割とは似て非なるもので、試験でもその違いを問う問題が繰り返し出題されています。本記事では、事業譲渡の定義から手続き・競業避止義務・反対株主の扱いまでを体系的に整理し、会社分割・株式譲渡との3方式比較も図表で示します。

目次

事業譲渡とは

定義
事業譲渡とは
会社の事業の全部または一部を、他の会社や個人に対して売却する契約行為です。「事業」そのもの(資産・負債・契約・ノウハウ・人材など)をひとつのかたまりとして取引します。
会社法第467条〜第470条
法的性質
「契約行為」である点が核心
事業譲渡は売買契約の一種です。組織再編(合併・会社分割)とは異なり、法律上の「組織再編行為」ではありません。そのため、何が移転するかは当事者間の合意によって決まります。
民法上の売買契約+会社法の手続き規定
株式譲渡との違い
「事業ごと」と「株式ごと」
株式譲渡は株主が保有する株式を売却するもので、会社はそのまま存続します。対して事業譲渡は会社が特定の事業を売却するもので、売却後も売り手の会社法人は残ります。
売り手目線では「事業の一部を手放す」行為
会社分割との違い
「個別同意」と「包括承継」
会社分割では権利義務が包括的に移転します。一方、事業譲渡では債権・債務・契約・従業員の一人ひとりについて、それぞれ個別に同意が必要です。この差が実務でも試験でも最重要論点です。
個別同意の要否が最大の区別点
467
条〜470条
事業譲渡に関する会社法の条文範囲
2/3
以上
株主総会特別決議の可決要件(定足数の過半数出席かつ)
20
年(デフォルト)
競業避止義務の存続期間(特約がない場合)
1/5
以下
簡易事業譲渡の要件(純資産比)

事業譲渡の手続き

事業譲渡には、会社法が定める一定の手続きが必要です。原則として株主総会の特別決議を経た上で契約を締結します。ただし取引の規模によっては、手続きが省略または簡略化される例外が認められています。

01
取締役会決議
事業譲渡の方針・相手先・条件について取締役会で決議します。株主総会に付議するための前提手続きです。取締役会非設置会社では取締役の過半数の同意で対応します。
02
株主総会の特別決議(原則)
事業の全部または重要な一部を譲渡する場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法第467条)。「特別決議」は議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成を要します。
会社法309条2項11号
03
譲渡契約の締結・各種個別同意の取得
株主総会決議後、買い手との間で事業譲渡契約を締結します。同時に、移転する資産・債権・債務・契約・従業員それぞれについて、相手方または本人からの個別の同意を取得する必要があります。
04
引き渡し・クロージング
契約に定めた効力発生日に、資産・従業員・取引関係等を実際に移転させます。事業譲渡に登記は原則不要ですが、不動産が含まれる場合は不動産登記が別途必要です。
試験頻出:「重要な一部」の判断基準
「重要な一部」かどうかは、譲渡する資産の帳簿価額が総資産額の20%を超えるかどうかで判定されます(会社法467条1項2号)。この数値は「簡易事業譲渡の要件(1/5以下)」と表裏の関係にあります。

手続き上の重要な例外として、規模の大小によって株主総会決議が不要になる場合があります。

簡易事業譲渡(譲渡側)

譲渡する事業の資産の帳簿価額が、譲渡会社の総資産額の1/5(20%)以下の場合、株主総会決議を省略できます。

取引が小規模で株主への影響が軽微なため、迅速な手続きが認められています。

略式事業譲渡(特別支配会社)

譲渡の相手方(買い手)が譲渡会社の総株主の議決権の90%以上を保有する特別支配会社の場合、株主総会決議を省略できます。

買い手がほぼすべての議決権を持つため、結果がほぼ確定しているという前提での簡略化です。

譲渡される資産と引き継がれないもの

事業譲渡における最大の特徴は「個別同意主義」です。組織再編の会社分割が権利義務を包括的に引き継ぐのとは異なり、事業譲渡では移転するものの一つひとつについて、相手方の同意が必要です。

対象 移転のルール 会社分割との違い
有形固定資産
(設備・備品等)
契約に明記すれば移転可能 どちらも移転可能(方法は異なる)
債権 債務者への通知または承諾が必要(民法467条) 会社分割では通知なしに包括承継
債務 債権者の個別同意が必要(免責的債務引受) 会社分割では債権者保護手続きで対応
取引契約・リース 契約相手方の個別同意が必要 会社分割では包括承継(反対権あり)
従業員 従業員一人ひとりの同意が必要 会社分割では労働契約承継法が適用
許認可・免許 原則として引き継げない(再取得が必要) 会社分割でも原則引き継げない場合あり
のれん・ブランド・顧客関係 契約に含めることで移転可能 どちらも含めることが可能
ポイント:自動で移転するものは基本的にない
事業譲渡では「契約に書いてあるもの」だけが移転します。何も書かなければ、債務は売り手に残ったまま、従業員も異動しません。会社分割の「包括承継」とは対極にある仕組みです。この認識が試験での正誤判断の軸になります。

事業譲渡 vs 会社分割 vs 株式譲渡:3方式の比較

M&Aの手法として選択される3つの方式を、主要な論点ごとに横並びで整理します。選択肢に並んだとき、どの軸で区別するかが解答の鍵です。

比較軸 事業譲渡 会社分割 株式譲渡
手続きの種類 売買契約(契約行為) 組織再編行為 株式の売買契約
権利義務の移転 個別同意・個別移転 包括承継(自動移転) 会社ごと移転(株式のみ動く)
債務の引き継ぎ 債権者の個別同意が必要 包括承継(債権者保護手続き) 会社の債務は変わらず存続
従業員の引き継ぎ 従業員個人の同意が必要 労働契約承継法による 雇用関係は変わらず継続
株主総会決議 原則:特別決議
例外あり
原則:特別決議
簡易・略式あり
原則:不要
株主間で完結
登記の要否 原則不要
(不動産含む場合は別途)
効力発生時に登記必要 不要
(株主名簿書換のみ)
競業避止義務 会社法21条で規定
(20年・特約あり)
明文規定なし
(契約で定める)
明文規定なし
(契約で定める)
許認可の引き継ぎ 原則不可(再取得) 原則不可(再取得) 会社がそのまま存続するため引き継ぎ可
反対株主の
買取請求権
あり
(全部・重要な一部の場合)
あり 原則なし
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この比較表を見て、「株式譲渡が一番シンプル」と感じました。株主間で株を売買するだけで、会社の中身はそのまま。手続きも少なく、従業員も動かなくていい。ただ、許認可や取引関係が整ったまま「会社ごと買える」メリットがある一方で、「知らない負債も一緒に引き受けてしまう」リスクも同時に抱えることになります。

競業避止義務

事業譲渡に特有の法的効果として、会社法は売り手(譲渡会社)に競業避止義務を課しています。買い手が取得した事業の価値を守るための規定です。

根拠条文
会社法第21条。譲渡会社は、当事者間に別段の特約がない限り、競業行為を行ってはなりません。
禁止される期間(デフォルト)
同一の市町村および隣接する市町村の区域内において、事業を譲渡した日から20年間、同一の事業を行ってはならないとされています。
特約による変更
当事者間の特約で、期間を30年まで延長することができます。また、特約で期間を短縮したり、地域を拡大・縮小したりすることも可能です。
「同一の事業」の範囲
譲渡した事業と同じ種類・性質の事業が対象です。異業種への参入は原則として禁止されません。何が「同一」かは取引の内容によって判断されます。
試験でのひっかけポイント
「競業避止義務は特約がなければ存在しない」は誤りです。会社法21条によって、特約なしでも自動的に20年間の競業避止義務が発生します。また「20年を超える特約は無効」ではなく「30年まで延長できる」が正確な表現です。

反対株主の株式買取請求権

株主総会の特別決議が必要な事業譲渡において、その決議に反対した株主は、自己の保有する株式を「公正な価格」で会社に買い取ることを請求できます(会社法第469条)。

発動条件
どの場合に請求できるか
事業の全部の譲渡、または重要な一部の譲渡に際して株主総会決議が必要な場合に、反対株主に買取請求権が認められます。簡易事業譲渡(株主総会不要)の場合は原則として請求権は発生しません。
手続き
請求の方法と期間
株主総会の決議の日の20日前から前日までに会社に対して反対の意思を通知し、効力発生日の20日前から前日までに買取価格を明示して請求します。
価格決定
「公正な価格」の決め方
当事者間で協議し、合意できない場合は裁判所に対して価格決定の申立てを行います。価格は事業譲渡がなければ実現していたであろう価値を基準に判断されます。

身近な場面で考えてみると

日常の例で整理すると
個人経営のカフェが事業譲渡で新オーナーへ

A さんが10年間経営してきた小さなカフェを、B さんに事業譲渡することになりました。店舗・厨房設備・レシピ・常連客リストを「カフェ事業」としてひとまとめに売却します。このとき、何が引き継がれて、何が残るのかを確認してみましょう。

  • 設備・什器(契約で明記されたもの):譲渡される。エスプレッソマシンも冷蔵庫も、契約書に書かれていれば引き渡し。
  • 常連客のリスト・レシピ・ブランド名(契約に含めれば):移転可能。のれんとして価値があり、これが事業譲渡の本体的な対象になることも多い。
  • テナントのリース契約:大家(貸主)の個別同意が必要。大家が「Bさんには貸せない」と言えば、店舗を引き継げない可能性もある。
  • 業者への買掛金(債務):食材仕入れ業者に「Bさんへの切り替えを承諾してください」と個別に同意をもらう必要がある。同意なしにはBさんに移せない。
  • アルバイトスタッフ3名:「BさんのカフェでもOKです」という個人の同意がなければ、引き継げない。「一緒に移ります」と言わなければ退職扱い。
  • 飲食店営業許可:Bさんが新たに取得し直す必要がある。許認可は人・法人に帰属するため、自動的には引き継げない。

この例から見えるとおり、事業譲渡では「売り手と買い手が合意した部分だけが移転する」というのが原則です。会社分割のように「組織ごと丸ごと移る」わけではないため、関係者が多い事業ほど、事前の調整コストがかかります。

試験での頻出ポイント

経営法務における事業譲渡の出題は、数値と例外条件の組み合わせで「正しいものを選べ」という形式が多いです。以下の5点を押さえておくと、選択肢の絞り込みがしやすくなります。

1. 包括承継か個別同意か
会社分割=包括承継、事業譲渡=個別同意。この対比は必ず問われます。「自動的に引き継がれる」と書いてあれば会社分割、「各相手方の同意が必要」なら事業譲渡。
2. 競業避止義務は20年(特約で30年まで)
特約なし=20年、特約あり=最長30年。「特約なければ義務なし」「10年で終わる」は誤り。「30年を超える特約も可能」も誤り。
3. 特別決議が必要な数値基準
「重要な一部」=総資産の20%超。20%以下は簡易事業譲渡で決議不要。略式は90%以上保有の特別支配会社が相手の場合。この数値の混同に注意。
4. 従業員は個別同意が必要
事業譲渡では、一人ひとりの従業員の同意なしに雇用関係を買い手に移すことはできません。「当然に引き継がれる」は誤りで、労働契約承継法は会社分割のルールです。
5. 事業譲渡に登記は不要(原則)
会社分割は効力発生時に登記が必要ですが、事業譲渡自体に登記義務はありません。ただし不動産が含まれる場合は不動産登記が別途必要です。

過去問で確認する

経営法務 — 事業譲渡・競業避止義務(H27年度改題) 改題形式
A 株式会社は、その事業の一部(帳簿価額が総資産の25%相当)をB 株式会社に譲渡することを検討している。この事業譲渡に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア. 本件は「重要な一部の事業」の譲渡に該当しないため、株主総会決議は不要である。
  • イ. 本件では、A社の株主総会の特別決議が必要となる。
  • ウ. 事業譲渡が完了すれば、A社に雇用されていた従業員は自動的にB社に引き継がれる。
  • エ. A社は事業譲渡後、競業避止義務を負わない(特約なしの場合)。
正解と解説
正解:イ
帳簿価額が総資産の25%は「1/5(20%)超」に該当するため、「重要な一部の事業」の譲渡に当たります(会社法467条1項2号)。よって株主総会の特別決議が必要です。

ア:20%を超えているため簡易事業譲渡には該当せず、誤り。
ウ:従業員は個別の同意がなければ自動的には引き継がれません。誤り。
エ:特約なしでも会社法21条により20年間の競業避止義務が自動的に発生します。誤り。
経営法務 — 会社分割 vs 事業譲渡(R3年度改題) 改題形式
吸収分割と事業譲渡の相違点に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア. 吸収分割では、分割される事業に関する債務を引き受けるにあたり、各債権者の個別の同意が必要である。
  • イ. 事業譲渡では、会社の意思決定のみで従業員の労働契約を承継させることができる。
  • ウ. 吸収分割では、分割する事業に係る権利義務が包括的に承継会社に移転する。
  • エ. 事業譲渡では、効力発生日に登記を行う義務がある。
正解と解説
正解:ウ
吸収分割(会社分割)は組織再編であり、分割する事業の権利義務は「包括承継」として自動的に承継会社に移転します。個別の同意は不要です(債権者保護手続きは別途必要)。

ア:吸収分割では包括承継のため、各債権者の個別同意は不要です。誤り。
イ:事業譲渡では従業員一人ひとりの個別同意が必要です。誤り。
エ:事業譲渡自体に登記義務はありません(不動産が含まれる場合は別途必要)。誤り。
U のメモ
事業譲渡を整理していて気づいたのは、「何が移転するか」がすべて当事者間の合意で決まるという自由度の高さと、だからこそ個別対応のコストが膨らみやすいという裏側が表裏一体になっているということです。会社分割の「丸ごと移る」便利さと比較すると、事業譲渡は「選んで買える」代わりに「一つひとつ交渉しなければならない」手法。規模が小さいほど向いていて、規模が大きくなるほど会社分割や株式譲渡が選ばれやすい理由もそこにありそうです。試験でも「どちらがどちら」を問う問題は必ず出るので、比較表を自分で書いてみるのが一番定着するかもしれません。
U

事業譲渡は「契約行為」なので、何が引き継がれるかは契約書の内容次第です。自動で動くものは基本的になく、債権・債務・契約・従業員はすべて個別の確認が必要——この原則を軸に置くと、選択肢の正誤がかなり判断しやすくなると感じています。

この記事のまとめ

  • 事業譲渡は「売買契約」であり、組織再編(会社分割)とは根本的に異なる法的性質を持つ
  • 権利義務の移転は「個別同意主義」。債権・債務・契約・従業員はすべて個別の同意が必要(包括承継ではない)
  • 株主総会の特別決議が原則必要。簡易(総資産の1/5以下)・略式(90%超の支配会社)で省略できる例外あり
  • 競業避止義務は会社法21条により特約なしでも20年間発生。特約で最長30年まで延長可能
  • 反対株主は株式買取請求権を行使できる(事業の全部・重要な一部の譲渡が対象)
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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