過去問の選択肢に「会社が原始的に特許を受ける権利を取得できる」という文章が出てきたとき、「えっ、それって2015年より前の話?それとも後?」と手が止まりました。職務発明は改正前後で権利の流れがまったく変わっているので、年度を意識しないと正誤を逆に判断してしまうのです。改めて条文と改正内容を並べて整理してみました。
職務発明と職務著作は、どちらも「会社と個人のどちらに権利が帰属するか」を扱いますが、根拠となる法律も原則もまったく異なります。特許法35条と著作権法15条を軸に、改正前後の変化・相当の利益の計算方法・試験で問われやすい例外規定をまとめました。
35条
特許法の根拠条文
(職務発明)
15条
著作権法の根拠条文
(職務著作)
2015
職務発明の権利帰属
改正施行年
目次
職務発明とは
「
従業者等がした発明であって、その性質上
使用者等の業務範囲に属し、かつその発明をするに至った行為が
従業者等の職務に属する発明」を職務発明という。3つの要件がすべてそろって初めて「職務発明」と認定されます。
要件 01
使用者の業務範囲内
その発明が、会社(使用者)の事業活動の範囲に含まれていること。電子部品メーカーなら電子部品に関する発明が該当します。
要件 02
従業者等の職務
発明した人(従業者)の担当職務と関係があること。研究開発部門の社員が業務として取り組んだ発明などが典型例です。
要件 03
職務遂行の結果
職務を行う過程で生まれた発明であること。趣味・休日の活動から偶然生まれた発明は、要件02を満たしていても職務発明にはなりません。
3つの要件を1つでも欠く場合は「自由発明」として扱われ、権利は発明者個人に帰属します。フリーランスや業務委託先の外部エンジニアが行った発明も、雇用関係がないため職務発明にはなりません。
職務発明の権利帰属(2015年改正後)
2015年(平成27年)の特許法改正は、職務発明における権利帰属の原則を大きく転換しました。改正前は「発明者帰属の原則」が基本でしたが、改正後は契約・勤務規則によって会社が原始的に権利を取得できるようになっています。
改正後(2015年10月〜)
発明者は
相当の利益を受ける権利あり(金銭以外も可)
| 項目 |
改正前(〜2015年) |
改正後(2015年〜) |
| 権利帰属の原則 |
発明者(従業者)に原始帰属 |
契約・勤務規則で決定(定めなければ発明者帰属) |
| 特許を受ける権利 |
発明者に帰属、特約で承継可 |
会社が原始取得することが可能 |
| 会社の権利(定め無し時) |
無償の通常実施権 |
無償の通常実施権(変わらず) |
| 発明者への補償 |
相当の対価(金銭のみ) |
相当の利益(金銭・現物・休暇等) |
| 不合理性の判断 |
金額の相当性を裁判所が判断 |
手続きの公正性・不合理性を判断 |
改正前は発明者に帰属した権利を会社が
「承継」する(権利が移転する)のが流れでした。改正後は規則等に定めることで、最初から会社に権利が
「帰属する」ため承継のステップが不要になります。この「発生時点から会社のもの」という状態を
原始帰属と呼びます。
相当の利益の決定方法
会社が職務発明の権利を取得した場合、発明者は「相当の利益」を受ける権利が保障されています。改正後は「金銭」に限定されなくなり、現物給付・昇給・有給休暇の付与なども含まれます。決定方法については以下の手続きが必要です。
協議(従業者との話し合い)
使用者と従業者が相当の利益の内容・算定方法について話し合う機会を設けること。一方的に会社が決定するだけでは不十分です。
意見の聴取
策定した支給基準について、従業者代表等から意見を聴取する機会を確保すること。意見の内容に拘束されるわけではありませんが、プロセスとして必要です。
不満・苦情への対応(苦情処理手続き)
発明者が「この利益は不当に低い」と感じたときに申し出られる手続きを整備すること。社内に解決手段があるかどうかも評価されます。
裁判所による「不合理性」の審査
上記の手続きを経たうえで、裁判所は支給額ではなく「決定プロセスが不合理でなかったか」を基準として判断します。改正前のような「金額の相当性」の直接審査とは異なる点に注意が必要です。
金銭的なもの:報奨金・発明補償金・株式・新株予約権
金銭以外:有給休暇の付与・特別賞与(金銭以外の現物)・昇給・昇格
ただし、利益の内容が著しく低い場合や手続きが形骸化している場合は、裁判所が「不合理」と判断することもあります。
職務著作(著作権法15条)
著作権法における「職務著作」は、職務発明とは根拠法も構造も異なります。一定の要件を満たすと、著作物を実際に作成した個人ではなく法人等が著作者となります。
要件 01
法人等の発意(指示・企画)
法人や使用者の発案・命令によって作成されたこと。自発的な個人活動ではなく、会社の業務として取り組まれたことが必要です。
要件 02
従業者等が職務上作成
雇用された従業者が、職務の一環として作成した著作物であること。副業・趣味で作成した著作物は含まれません。
要件 03
法人名義で公表(原則)
著作物が法人・使用者の名義で公表されること。個人名義で公表された場合は、原則として職務著作になりません。ただしプログラムは例外(要件03不要)。
要件 04
契約等に別段の定めなし
契約や就業規則に「著作者は従業者とする」等の取り決めがないこと。別段の定めがあれば、その定めが優先されます。
著作権法15条2項により、
プログラム著作物については要件03(法人名義での公表)が不要です。公表されないまま社内で使用されるシステム・ソフトウェアも、他の3要件を満たせば職務著作として法人が著作者になります。これは試験で頻繁に出題される例外規定のひとつです。
職務発明 vs 職務著作 — 横並び比較
| 比較項目 |
職務発明(特許法35条) |
職務著作(著作権法15条) |
| 根拠法 |
特許法第35条 |
著作権法第15条 |
| 対象 |
発明(特許を受ける権利) |
著作物(著作権) |
| 原則帰属先 |
発明者(従業者)※規則で変更可 |
創作者(従業者)※4要件で法人へ |
| 法人帰属の条件 |
契約・勤務規則に定めがある場合 |
4要件すべてを満たす場合 |
| 発明者・著作者への権利 |
相当の利益を受ける権利あり |
特段の規定なし(労働対価として処遇) |
| 公表名義 |
特段の要件なし |
法人名義が必要(プログラムは不要) |
| 試験の出題ポイント |
2015年改正・原始帰属・相当の利益 |
4要件・プログラムの例外・法人著作者 |
身近な場面で考えてみると
ソフトウェア会社で働くエンジニアを例に、職務著作の適用を考えてみます。同じ人が作るプログラムでも、業務中か休日かで著作者がまったく変わります。
ケース A — 業務中に開発したシステム
会社の指示のもと、エンジニアが業務時間中に社内の在庫管理システムを開発。
発意=会社 / 職務上=○ / 公表名義=不要(プログラム) / 別段の定め=なし
著作者 → 会社(法人)。エンジニア個人には著作権は生じません。
ケース B — 休日に個人で作ったアプリ
同じエンジニアが休日に個人の趣味として家計管理アプリを作成。会社の業務指示は一切なし。
発意=個人(会社の発意なし)
著作者 → エンジニア個人。職務著作の要件(発意)を満たさないため。
同じロジックで職務発明に置き換えると、業務中に開発した製品改良アルゴリズム(会社勤務規則に定めあり)は会社が原始取得、休日に思いついた新製品のアイデアは個人の自由発明、となります。「発意・職務・名義・別段の定め」の4点を、具体的な場面に当てはめて確認する練習が有効です。
試験での頻出ポイント
職務発明は2015年改正で「原始帰属」が可能に。改正前は発明者に帰属した権利を会社が「承継」する形だったが、改正後は契約・勤務規則に定めることで会社が最初から権利を取得できる。年度をまたぐ選択肢は慎重に。
職務著作はプログラムのみ「公表名義不要」。著作権法15条1項の原則では法人名義での公表が必要だが、2項でプログラムは例外とされている。「社内システムは公表されないが職務著作になるか」という形でよく出題される。
相当の利益は金銭に限らない。改正後は現物給付・有給休暇の付与も「相当の利益」に含まれる。「金銭のみ」という選択肢は誤りなので注意が必要。
フリーランスの発明は職務発明にならない。雇用関係がなければ「従業者等」に該当しないため、3要件のうち「職務の範囲内」という要件を満たせない。業務委託・請負の外部スタッフにも同様に適用される。
職務著作は個人への特段の補償規定がない。職務発明では発明者に「相当の利益」が保障されているが、職務著作では従業者への著作権的な補償は法定されていない。両者の違いとして出題されることがある。
過去問で確認する
職務発明に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 職務発明の場合、使用者は常に特許を受ける権利を原始取得する。
- ウ フリーランスのエンジニアが委託先企業の製品改良を行った場合、その発明は職務発明に該当する。
- エ 職務発明について従業者が特許を受ける権利を承継した場合、使用者に相当の対価を支払う義務が生じる。
- イ 2015年改正後、使用者は契約または勤務規則に定めることで、職務発明に係る特許を受ける権利を原始的に取得できる。
解説
正解はイ。2015年(平成27年)の特許法改正により、契約・勤務規則等に定めがあれば使用者が原始取得できるようになりました。
ア:「常に」が誤り。定めがなければ発明者に帰属します。
ウ:フリーランスは雇用関係がないため職務発明に該当しません。
エ:承継した使用者が「従業者」に対価を支払う義務を負うのであり、記述が逆になっています。
著作権法における職務著作に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 職務著作が成立するためには、著作物が必ず法人名義で公表されなければならない。
- ウ 職務著作として法人が著作者になった場合、制作した従業者は著作者人格権を持つ。
- エ 職務著作の要件を満たした場合、従業者は著作権法上の相当の対価を請求できる。
- イ プログラムの著作物については、法人名義での公表という要件がなくても、他の要件を満たせば職務著作として法人が著作者になる。
解説
正解はイ。著作権法15条2項により、プログラムの著作物については「法人名義での公表」の要件が不要とされています。社内のみで使用されるシステムも職務著作になりえます。
ア:プログラムについては公表名義不要のため「必ず」が誤りです。
ウ:職務著作の場合、著作者人格権も含めて法人に帰属します。
エ:職務著作には職務発明のような「相当の利益」の規定はありません。
職務発明は「会社のルールで決まる」、職務著作は「著作権法の要件で決まる」——この対比を軸に置くと、改正前後・プログラムの例外・相当の利益の射程がすっきり整理できるように感じています。根拠条文(特許法35条・著作権法15条)と改正年(2015年)を入り口にして、選択肢を一つずつ検証していくと誤りを見つけやすくなるようです。
職務発明と職務著作を混同しがちだったのですが、「職務発明は特約・勤務規則次第で柔軟に変わる」「職務著作は要件が揃えば法律上自動的に法人著作者」という違いを意識するようにしました。プログラムだけ公表名義が不要な理由は、ソフトウェアは外部に公開されないまま社内で使われることが多いから、という実態に合わせた規定だそうです。知ると覚えやすくなりました。
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