UIS-LMで最初に詰まったのは、曲線のシフト方向でした。「財政政策を実施するとどこがどちらへ動くのか」——何度テキストを読んでも、試験本番になると一瞬迷う。そこで自分なりに「なぜそうなるのか」を因果フローから整理し直してみました。根拠から理解すると、暗記ではなく”納得”で解けるようになるのです。
IS-LM分析の全体像
IS-LM分析は、財市場と貨幣市場という2つの市場を同時に均衡させるマクロ経済の分析手法です。一方の市場だけを見ていると見落としてしまう「政策の波及経路」を、2本の曲線の交点として視覚的に把握できます。
LM:Liquidity preference(流動性選好=貨幣需要) = Money supply(貨幣供給)の均衡条件から命名。
IS曲線の導き方
IS曲線がなぜ右下がりになるのか——この理由を因果フローで理解すると、暗記ではなく論理として身につきます。
利子率の低下からGDP拡大への因果フロー
r ↓
借入費用↓
I ↑
AD ↑
Y ↑
「r↓ → I↑ → Y↑」という関係から、利子率が低いほどGDPが大きい点が均衡になることがわかります。縦軸に利子率(r)、横軸にGDP(Y)をとると、IS曲線は左上から右下へと向かう右下がりの曲線になります。
IS曲線のシフト要因(財政政策)
| 要因 | シフト方向 | 理由 |
|---|---|---|
| 政府支出増加(G↑) | 右シフト | 総需要が直接拡大 → 同じ利子率でもGDPが大きい均衡点に移動 |
| 減税(T↓) | 右シフト | 可処分所得増 → 消費拡大 → 総需要増加 → GDP増加 |
| 政府支出削減(G↓) | 左シフト | 総需要縮小 → 同じ利子率でもGDPが小さい均衡点に移動 |
| 増税(T↑) | 左シフト | 可処分所得減 → 消費縮小 → 総需要減少 → GDP減少 |



「右下がりになる理由」を因果フロー(r↓→I↑→Y↑)で理解してから、シフトの方向がようやく迷わず判断できるようになりました。「財政政策はIS曲線を動かす」という事実よりも、「なぜ動くのか」のほうが長く記憶に残るのです。
LM曲線の導き方
LM曲線がなぜ右上がりになるのか——こちらも因果フローから確認します。貨幣市場では「取引需要」と「投機的需要」の2種類の需要が利子率の決定にかかわります。
GDP増加から利子率上昇への因果フロー
Y ↑
決済に必要な現金↑
L > M
債券価格↓
r ↑
「Y↑ → 取引需要↑ → r↑」という関係から、GDPが大きいほど均衡利子率が高くなることがわかります。縦軸に利子率(r)、横軸にGDP(Y)をとると、LM曲線は左下から右上へ向かう右上がりの曲線になります。
LM曲線のシフト要因(金融政策)
| 要因 | シフト方向 | 理由 |
|---|---|---|
| 貨幣供給増加(Ms↑) 例:日銀の買いオペ |
右シフト | 貨幣が潤沢 → 同じGDPでも低い利子率で市場が均衡 → 曲線全体が下方(右)へ |
| 貨幣供給減少(Ms↓) 例:日銀の売りオペ |
左シフト | 貨幣が不足 → 同じGDPでも高い利子率が必要 → 曲線全体が上方(左)へ |
投機的需要(Speculative demand):債券と現金の間で有利な方を保有しようとする需要。利子率が低いほど増加(債券を持つメリットが薄れる)。
LM曲線が右上がりになるのは、主に取引需要のGDP依存性によるものです。
IS-LM均衡と政策効果
IS曲線とLM曲線の交点が2市場同時均衡の点です。財政政策はIS曲線を、金融政策はLM曲線を動かすことで、均衡点が変化します。
財政政策と金融政策の効果比較
| 政策 | 動く曲線 | 金利(r) | GDP(Y) | 特記 |
|---|---|---|---|---|
| 拡張的財政政策 G↑ または T↓ |
IS 右シフト | ↑ 上昇 | ↑ 増加 | クラウディングアウトの恐れ |
| 緊縮的財政政策 G↓ または T↑ |
IS 左シフト | ↓ 低下 | ↓ 減少 | — |
| 緩和的金融政策 Ms↑(買いオペ等) |
LM 右シフト | ↓ 低下 | ↑ 増加 | 流動性の罠では無効 |
| 引き締め金融政策 Ms↓(売りオペ等) |
LM 左シフト | ↑ 上昇 | ↓ 減少 | — |
金融緩和(LM右シフト):貨幣供給増 → 貨幣超過供給 → 金利低下(r↓)
この「r の向きが逆」という点が試験でよく問われます。GDP(Y)はどちらも増加しますが、金利の変化方向に注目することが大切です。
クラウディングアウト
クラウディングアウト(Crowding Out)とは、拡張的財政政策によって利子率が上昇し、民間投資が減少することで財政政策の効果が部分的に相殺される現象です。「政府が民間を市場から締め出す(crowding out)」というイメージです。
クラウディングアウトの因果フロー
G ↑
乗数効果
貨幣需要↑
r ↑
I ↓
効果の一部相殺
クラウディングアウトの大きさはLM曲線の傾きに依存します。LMが急(垂直に近い)ほど財政政策の効果は相殺され、LMが水平(流動性の罠)ほど金利が上昇しないためクラウディングアウトは発生しません。
流動性の罠
流動性の罠(Liquidity Trap)とは、利子率が極めて低い水準に達したとき、人々が「将来、利子率が上がれば債券価格が下落する。今は現金で保有していた方が得だ」と判断して投機的需要が無限大に膨らみ、貨幣供給を増やしても利子率がそれ以上下がらなくなる状態です。
ほぼゼロ
投機的需要∞
r変化なし LM水平
I 変わらず
Y 変化なし
身近な場面で考えてみると
IS-LMの枠組みは教科書の中だけの話ではありません。コロナ禍の経済政策を振り返ると、IS-LMの動きがそのまま現実に対応していたことがわかります。
- 大規模財政出動(給付金・補助金):政府支出G↑ → IS曲線が右シフト。GDPの急落を財政で下支えしようとした動きです。
- 中央銀行の量的緩和・ゼロ金利政策:Ms↑ → LM曲線が右シフト。ただし日本では既に金利が極めて低く、流動性の罠に近い状態だったため金融政策単独の追加効果は限定的でした。
- 財政と金融の同時実施(財政優位の組み合わせ):流動性の罠下では財政政策の効果が最大化されます。財政でIS右シフト → 金利上昇なし(LMが水平)→ クラウディングアウトが発生せず → GDPが乗数倍で増加。まさにこの教科書的な状況でした。
- コロナ後の金利上昇局面(2022年以降):財政拡張が続く中で物価・需要が回復し、流動性の罠を脱出。LMが通常形状に戻るとクラウディングアウトが再び問題になり始めます。IS-LMの「どのフェーズにいるか」で政策の有効性は大きく変わるのです。
過去問で確認する
IS-LM分析に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア IS曲線は財市場と貨幣市場を同時に均衡させる利子率とGDPの組み合わせを示す
- イ LM曲線は利子率が下がるほどGDPが大きくなるため右下がりの形状をとる
- ウ IS曲線は右下がり、LM曲線は右上がりとなり、その交点で財市場と貨幣市場の同時均衡が実現する
- エ 金融政策の変更はIS曲線をシフトさせ、財政政策の変更はLM曲線をシフトさせる
イ(×):これはIS曲線の説明。LM曲線は「GDPが増えるほど取引需要が増し、利子率が上がる」ため右上がりとなります。
ウ(○):IS曲線(右下がり)とLM曲線(右上がり)の交点が、2市場を同時に均衡させるY*・r*を決定します。
エ(×):逆です。財政政策はIS曲線を、金融政策はLM曲線をシフトさせます。
クラウディングアウトおよび流動性の罠に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア クラウディングアウトとは、金融緩和によって民間投資が政府に締め出される現象である
- イ LM曲線が垂直のとき、財政政策は完全にクラウディングアウトされ、GDPは変化しない
- ウ 流動性の罠のもとでは、金融政策がとりわけ強い効果を発揮する
- エ 流動性の罠のもとでは、財政拡張を行っても利子率が上昇しないためクラウディングアウトは発生しない
イ(×):「GDPは変化しない」の部分が正しい(完全クラウディングアウト)のですが、「LM曲線が垂直のとき」という条件は正しい。ただし選択肢の表現として他の選択肢と比較した場合、エのほうが正確です。本問ではエを選びます。
ウ(×):流動性の罠では、Ms↑してもrが変化しないため投資・GDPも変わらない。金融政策が無効になる状況です。
エ(○):LM曲線が水平(流動性の罠)の場合、IS右シフトしても利子率は変化しない。したがって民間投資も変わらず、クラウディングアウトはゼロになります。財政政策が最大限有効になる状況です。
Uのまとめメモ
- IS曲線は右下がり(r↓→I↑→Y↑)、LM曲線は右上がり(Y↑→取引需要↑→r↑)。形状の理由を因果で覚えると迷わない。
- 財政政策→IS、金融政策→LMがシフトする。拡張的財政はr↑Y↑、金融緩和はr↓Y↑と金利の変化方向が逆になる。
- クラウディングアウトは「財政拡張→r↑→I↓」。LM曲線が急(古典派)ほど大きく、水平(流動性の罠)ではゼロになる。
- 流動性の罠ではLMが水平、金融政策が無効、財政政策が最大効果、クラウディングアウトがゼロ——この3点をセットで押さえる。
- コロナ禍の財政出動と金融緩和の同時実施は、流動性の罠に近い状況での財政優位の組み合わせとして教科書と照合できる。現実と理論をつなぐと理解が深まる。









