U診断士の勉強を始めたころ、テキストを何周読んでも「読んだ気がするけど思い出せない」という状態が続いていました。ところが、白紙にフレームワークを書き起こして、自分の言葉で声に出して説明してみた日から、記憶への定着がはっきり変わった感じがしたんです。あとから調べてみると、これは「マルチモーダル学習」と呼ばれる、認知科学で裏付けられた学習の仕組みだとわかりました。今回は、その内容を整理してみます。
「学習スタイル」についての誤解と、科学が示す本当のこと
「自分は視覚派だからテキスト中心」「聴覚派だから講義動画が向いている」という「学習スタイル」の考え方は、広く知られています。ところが、2008年のパシュラーらの大規模なメタ分析をはじめ、多くの研究が「得意な学習スタイルに合わせて学んでも成績は向上しない」という結論を示しています。
しかし、これは「感覚を使い分けることに意味がない」ということではありません。科学が示しているのは「複数の感覚を同時に使うほど記憶が強くなる」という、むしろ逆の方向性です。
大切なのは「自分に合ったスタイルを探す」のではなく、「できるだけ多くの感覚を同時に動かす」という発想の転換です。
マルチモーダル学習が記憶を強化する3つの仕組み
記憶が重複する
理解が深まる
思い出しやすくなる
「深い処理」と「浅い処理」の差
認知心理学者クレイクとロックハートの「処理水準説」によると、情報を処理する際の「深さ」が記憶の強さを決めます。文字を視覚的に認識するだけ(浅い処理)より、意味を理解して自分の言葉で説明する(深い処理)ほど、記憶は長期間保持されます。マルチモーダル学習は、複数のアクションを組み合わせることで必然的に「深い処理」が起きる構造になっています。
感覚別・具体的なアウトプット手法
「複数の感覚を使う」といっても、具体的に何をすればいいか、整理してみました。
| アクション | 感覚の種類 | 具体的な行動例 | 処理の深さ |
|---|---|---|---|
| 読む | 視覚・言語 | テキスト・問題集を読む、赤シートで隠して確認する | 浅〜中 |
| 見る・描く | 視覚・空間 | 図解・マインドマップを見る、フレームワークを手書きで再現する | 中 |
| 書く | 身体・視覚 | ノートにまとめる、白紙に見ないで再現する、キーワードを繰り返し書く | 中〜深 |
| 聴く | 聴覚 | 解説動画・音声教材を聴く、自分の声を録音して繰り返し聴く | 浅〜中 |
| 話す・説明する | 聴覚・言語・身体 | 声に出して説明する、架空の生徒に教えるつもりで話す、録音して聴き返す | 深 |
| 解く(検索練習) | 複合 | 過去問を解く、問題文を読んで答えを書く、解説を声に出して確認する | 最も深い |



「声に出して説明する」のは最初かなり恥ずかしかったのですが、誰もいない部屋でやってみると、すぐに「あ、ここが実は理解できていなかった」という穴に気づけるようになりました。スラスラ言えない部分こそ、まだ定着していない箇所だとわかるので、復習の優先順位をつけるのにも役立っています。
新しい料理を覚えるときのことを思い浮かべてみると
少し話が変わりますが、マルチモーダル学習の効果を実感しやすい例として、「料理を覚えるとき」の経験を思い出してみてください。
診断士試験の学習も構造は同じです。SWOT分析を「テキストで読む」だけでなく、「図を描き、口で説明し、問題を解く」という複数のアクションを組み合わせると、知識が「試験本番で使える状態」で定着していきます。
科目別・推奨する感覚の組み合わせ
すべての科目に同じアプローチが最適というわけではありません。科目の性質に合わせた感覚の組み合わせを整理してみました。
| 科目 | 推奨する組み合わせ | ポイント |
|---|---|---|
| 企業経営理論 | 読む + 図解描く + 声に出す | SWOTやPPMなどフレームワークは絵で覚えてから言葉で説明する順番が定着しやすい |
| 財務・会計 | 読む + 書く(計算手順) + 声読み | 計算の手順を声に出しながら書くと抜け漏れが減る。仕訳は体で覚えるまで繰り返す |
| 経済学・経済政策 | 読む + グラフを手で描く + 変化を声で説明 | 需要・供給曲線のシフトは手で描くことで「動き」として定着する |
| 運営管理 | 読む + 工程図を描く + 計算して確認 | 工場・店舗レイアウトや生産計画は実際に図で再現することで理解が固まる |
| 経営情報システム | 読む + 図描く + 語呂合わせ(聴覚) | OSI参照モデル等の階層構造は図で、用語は音の響きで覚えるのが実用的 |
| 中小企業政策・経営法務 | 読む + 聴く + 書く(語呂・数字) | 暗記中心の科目は多感覚での繰り返しが最も効果的。音声教材との組み合わせが強い |
実践!4ステップで始めるマルチモーダル学習
初日からすべての感覚を使おうとすると負担が大きくなります。まず2〜3の組み合わせから始めて、徐々に増やしていくのがおすすめです。



この4ステップで特に重要とされているのが、STEP 3の「声に出す」です。読んだり書いたりは黙々とできますが、「声に出して説明する」には自分の理解を言葉に変換する力が必要です。その変換作業自体が深い処理になると言われており、これからの学習で意識して取り入れていくつもりです。
まとめ
- 「自分に合った学習スタイルだけに絞る」という考え方は、科学的に支持されていない。大切なのは複数の感覚を組み合わせること
- マルチモーダル学習が効く理由は「多重符号化」「能動的処理による深い理解」「検索経路の多様化」の3つ
- 処理が深いほど記憶が定着しやすい。「解く」「声で説明する」は最も深い処理にあたる
- 実践は「読む → 書く・描く → 話す → 解く」の4ステップが基本。初日からすべてやる必要はない
- 科目の性質に合わせた組み合わせを選ぶことで、効率が上がる
- 多感覚を組み合わせすぎて認知負荷が上がらないよう、学習フェーズに合ったステップ数を選ぶ



マルチモーダル学習の考え方を知ってから、「読んだのに覚えられない」という状態への向き合い方が変わりました。覚えられないのは能力の問題ではなく、「処理の深さが足りなかっただけ」と捉えられるようになったことで、少し気が楽になりました。書いて、声に出して、問題を解く。この繰り返しを少しずつ積み上げていくことが、最終的に合格という結果につながると信じて続けています。同じように学んでいる方に、少しでもお役に立てましたら嬉しいです。









