U「景気が良くなるとインフレになる」という話は聞いたことがありましたが、その裏には「失業率が下がるとインフレ率が上がる」というトレードオフが隠れていました。フィリップス曲線を学んでそれが見えてきたのですが、1970年代の石油危機ではこの関係が崩れ、「インフレなのに失業率も高い」スタグフレーションが起きました。今回はその仕組みを整理してみます。
フィリップス曲線の基本:インフレ率と失業率の負の相関
1958年にA.W.フィリップスが発見したこの曲線は、「失業率が低い(景気が良い)ときにインフレ率が高い」という傾向を示します。政府は「低失業か低インフレか」を選ぶしかないという政策上のジレンマを描いています。
π
インフレ率
物価上昇率。景気過熱時に上昇する傾向
u
失業率
景気が良いと求人増→失業率低下
u*
自然失業率
摩擦的・構造的失業のみの長期均衡失業率
景気拡大期(曲線の左上)
総需要↑ → 雇用↑失業率↓
賃金↑ → コスト↑ → 価格↑インフレ率↑
バブル期の日本(1988〜90年)がこの状態。完全雇用に近く、物価上昇が加速していた。
景気後退期(曲線の右下)
総需要↓ → 解雇↑失業率↑
需要不足 → 価格競争インフレ率↓
リーマンショック後(2009年)の各国。急激な失業増と低インフレ・デフレ傾向が同時に進んだ。
目次
短期と長期のフィリップス曲線
短期と長期では、フィリップス曲線の形が大きく異なります。マネタリストのフリードマンとフェルプスは「長期的にはトレードオフは存在しない」と主張しました。
| 期間 | 曲線の形状 | 政策の有効性 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 短期 | 右下がりの曲線 | 有効(トレードオフ存在) | 期待インフレ率が固定されている間は政策効果あり |
| 長期 | 垂直線(自然失業率 u* で) | 無効(トレードオフなし) | 期待が完全に調整されると失業率は u* に戻る |
なぜ長期は垂直になるのか?
政府が失業を減らすために拡張的な財政・金融政策を行うと、短期的には失業率が下がります。しかし時間が経つと、人々は「インフレが続く」と予測するようになり、賃金交渉でインフレ分を織り込みます(期待インフレ率の上昇)。その結果、実質賃金は元に戻り、失業率も自然失業率 u* に戻ります。政策効果は一時的で、残るのはインフレだけ——これが長期垂直フィリップス曲線の意味です。
政府が失業を減らすために拡張的な財政・金融政策を行うと、短期的には失業率が下がります。しかし時間が経つと、人々は「インフレが続く」と予測するようになり、賃金交渉でインフレ分を織り込みます(期待インフレ率の上昇)。その結果、実質賃金は元に戻り、失業率も自然失業率 u* に戻ります。政策効果は一時的で、残るのはインフレだけ——これが長期垂直フィリップス曲線の意味です。
スタグフレーション:トレードオフが崩れた時代
1970年代の石油危機は、「インフレ率と失業率は反比例する」というフィリップス曲線の常識を覆しました。高インフレと高失業が同時に起きる「スタグフレーション」の到来です。
1973年
第一次石油危機(オイルショック)
OPECが原油価格を約4倍に引き上げ。エネルギーコスト急騰 → 企業の生産コスト上昇 → 物価上昇(インフレ)と同時に生産量縮小・失業増。
1973〜75年
先進国でスタグフレーション発生
米国のインフレ率は11%超、失業率も8%超に同時上昇。フィリップス曲線が「右上にシフト」する現象として説明される。
学術的影響
ケインズ政策への批判が高まる
スタグフレーションはケインズ経済学の「需要管理政策で景気をコントロールできる」という考え方に疑問を投げかけた。マネタリズム(フリードマン)や合理的期待形成(ルーカス)が台頭。
スタグフレーションのメカニズム
通常のフィリップス曲線は「需要ショック」(総需要の増減)を想定しています。しかし石油危機は「供給ショック」——コスト上昇によって総供給曲線が左にシフトする現象です。これにより、物価上昇(インフレ)と生産縮小(失業増)が同時に発生し、フィリップス曲線が右上方向へシフトします。
通常のフィリップス曲線は「需要ショック」(総需要の増減)を想定しています。しかし石油危機は「供給ショック」——コスト上昇によって総供給曲線が左にシフトする現象です。これにより、物価上昇(インフレ)と生産縮小(失業増)が同時に発生し、フィリップス曲線が右上方向へシフトします。



フィリップス曲線で印象的だったのは、「短期と長期では経済の見え方がまったく違う」という点です。短期は「政策で失業を減らせる」のに、長期は「結局インフレが残るだけ」になってしまう。人々の期待が変化することで、同じ政策でも効果が消えていく——経済は単純な方程式では動かないという奥深さを感じます。
Uのメモ
MEMO
・フィリップス曲線:横軸=失業率u、縦軸=インフレ率π、右下がり(負の相関)。
・短期フィリップス曲線:右下がり → 低失業か低インフレかのトレードオフが存在。
・長期フィリップス曲線:自然失業率 u* で垂直 → 長期的にはインフレと失業はトレードオフなし。
・期待インフレ率が上がると → 短期フィリップス曲線が右上にシフト。
・スタグフレーション = 高インフレ + 高失業の同時発生。供給ショック(石油危機)が原因。
・自然失業率 u*:摩擦的失業(転職中)+構造的失業(スキルミスマッチ)のみ残る状態。
・短期フィリップス曲線:右下がり → 低失業か低インフレかのトレードオフが存在。
・長期フィリップス曲線:自然失業率 u* で垂直 → 長期的にはインフレと失業はトレードオフなし。
・期待インフレ率が上がると → 短期フィリップス曲線が右上にシフト。
・スタグフレーション = 高インフレ + 高失業の同時発生。供給ショック(石油危機)が原因。
・自然失業率 u*:摩擦的失業(転職中)+構造的失業(スキルミスマッチ)のみ残る状態。
この記事のまとめ
- フィリップス曲線:失業率↓ ⇔ インフレ率↑ の負の相関(短期的なトレードオフ)
- 短期:右下がり曲線(財政・金融政策でトレードオフを選べる)
- 長期:自然失業率 u* で垂直(期待調整後はトレードオフなし・インフレのみ残る)
- スタグフレーション:高インフレ+高失業の同時発生。供給ショック(石油危機)によりフィリップス曲線が右上シフト
- 自然失業率:摩擦的失業+構造的失業のみ存在する長期均衡の失業率









