UNPVがマイナスでも「投資すべき」ケースがある——その判断に使うのがリアルオプションです。「数字がマイナスなのになぜ投資するの?」という問いへの答えが、この理論にあります。
リアルオプション(Real Options)とは、不確実性の高い環境における投資意思決定の柔軟性に価値を与える考え方です。従来のNPV(正味現在価値)法は「今すぐ投資するか、しないか」という二択で評価しますが、現実のビジネスには「様子を見ながら判断を先送りする」「好機が来たら拡大する」「うまくいかなければ撤退する」という選択肢があります。この柔軟性の価値を定量化する概念がリアルオプションです。
NPVが「−」でも投資すべきケースがある
製薬会社が新薬の臨床試験に着手するかどうかを考えてみましょう。単純にNPVを計算すると「開発コストが高すぎてマイナス」という結果が出ることがあります。ここで通常の意思決定なら「投資しない」となるはずです。
しかし実際には、臨床試験を開始する判断には次のような「オプション(選択肢)」が含まれています。
・有効性が確認できたら → Phase2(中期臨床)に進む権利を得る
・Phase2が成功したら → Phase3(大規模試験)に進む権利を得る
・Phase3が成功したら → 上市(市場投入)して大きな利益を得る権利を得る
・どこかで失敗したら → 開発中止して損失をそこで止める権利がある
リアルオプションという名前は、金融市場のオプション取引(コール・プット)の概念を「現実(Real)の投資プロジェクト」に応用したことから来ています。株のコールオプションが「将来一定価格で株を買う権利」であるように、リアルオプションは「将来の事業機会を実行する権利」です。
金融オプション vs リアルオプション:対比で理解する
試験では「金融オプションとリアルオプションの対比」が出題されることがあります。構造的に同じ概念であることを理解していると、問題に対処しやすくなります。
| 概念要素 | 金融オプション(株式) | リアルオプション(投資プロジェクト) |
|---|---|---|
| 原資産 | 対象株式の現在価値 | 投資プロジェクトの現在価値(PV of cash flows) |
| 行使価格 | オプション行使時の購入価格 | プロジェクトの投資コスト |
| 満期(期間) | オプションの有効期限 | 投資意思決定を先送りできる期間 |
| ボラティリティ | 株価の変動率 | プロジェクトキャッシュフローの不確実性 |
| 無リスク利子率 | 無リスク資産の利回り | 無リスク資産の利回り(同じ) |
| オプション価値 | オプションプレミアム | リアルオプション価値(ROV) |



「不確実性が高いほどオプション価値が上がる」——これは最初、直感に反すると感じる方が多いです。でも考えてみると、「当たれば大きい、外れたら止められる」という状況があってこそ、大きな賭けに出られる。柔軟性がないなら、不確実な状況ほどリスクが怖い。柔軟性があるなら、不確実性は「チャンスの幅の広さ」に変わるのです。
リアルオプション5類型カード
リアルオプションには代表的な5つの類型があります。試験では「どのオプションがどの状況に対応するか」を問われることがあります。具体的な例と一緒に覚えると定着します。
製薬会社の意思決定ツリー:段階的投資の可視化
リアルオプションの価値が最も分かりやすく現れるのが、製薬会社の新薬開発プロセスです。「今すぐ全額投資するか否か」ではなく、「段階的に投資し、各フェーズで継続・中止を判断できる」構造がリアルオプション価値を生んでいます。
このツリーを見ると分かるように、製薬会社は最初から「Phase1〜3すべての費用+上市費用」を一括で投資しているわけではありません。各フェーズで「次に進むかどうか」を判断しながら、段階的にリスクにさらされる金額をコントロールしています。これが「延期オプション」と「撤退オプション」の連鎖です。
拡張NPV = 通常NPV + リアルオプション価値
リアルオプションの考え方を取り入れた投資評価の枠組みが「拡張NPV(Expanded NPV)」です。これが、「NPVがマイナスでも投資すべきケースがある」という冒頭の問いへの答えになります。
・リアルオプション価値 = +350万円(失敗時に撤退・成功時に拡大できる柔軟性の価値)
「では具体的にリアルオプション価値をどう計算するのか?」——ブラック・ショールズ式や二項モデルを使う方法がありますが、試験ではこの計算は問われません。診断士試験で求められるのは、概念の理解と定性的な判断力です。
試験での出題ポイント
中小企業診断士1次試験(財務・会計)におけるリアルオプションの出題は、「定義と定性的な理解」を確認するレベルが中心です。複雑な計算よりも概念的な問いが出やすいと言われています。
| 出題パターン | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 定義問題 | 「リアルオプションとは何か」の選択肢選び | 「不確実性下での柔軟性の価値」を一言で言えるようにする |
| 類型問題 | 5類型(延期・拡張・縮小・撤退・切替)の名称と説明のマッチング | 各類型の具体例(製薬・不動産・多店舗展開)と対応させて覚える |
| NPVとの関係 | 「拡張NPV = NPV + ROV」の概念理解 | NPVマイナスでも投資すべきケースがある論理を説明できる |
| 金融オプションとの対比 | 原資産・行使価格・ボラティリティの対応関係 | 対比テーブルの3〜4項目を覚える |
| 不確実性との関係 | 「不確実性が高いほどROVは上がる」の論理 | 「柔軟性があれば不確実性は価値に変わる」という逆説を理解する |
まとめチェックリスト
- リアルオプションとは「不確実性下における投資の柔軟性(選択肢)に価値を与える概念」であると説明できる
- 金融オプションとリアルオプションの対比(原資産・行使価格・ボラティリティ)を3項目以上説明できる
- 5類型(延期・拡張・縮小・撤退・切替)をそれぞれ具体例とともに説明できる
- 拡張NPV = 通常NPV + リアルオプション価値 の式の意味を理解し、NPVマイナスでも投資する論理を説明できる
- 不確実性が高いほどリアルオプション価値が上がる理由(柔軟性がチャンスに変える)を説明できる
- 試験では計算よりも定義・類型・定性理解が問われると把握している









