企業価値評価・DCF法まとめ|WACC・CAPMを図解で整理


企業価値はどうやって計算するのか、DCF法・WACC・株式価値の3ステップで整理します。財務の教科書に出てくる式は一見複雑に見えるのですが、順番に分解すると構造はシンプルです。
高頻度難易度 ★★★

企業価値評価(バリュエーション)は、M&Aや投資判断の場面で用いられる手法だ。中小企業診断士の試験でも「WACC」「CAPM」「ターミナルバリュー」といったキーワードが頻出する。この記事では、DCF法を中心に計算ステップを丁寧に整理する。

目次

企業価値評価の3つのアプローチ

企業価値の評価方法は大きく3つに分類される。それぞれ根拠とする情報が異なり、目的に応じて使い分けられる。

INCOME APPROACH
インカムアプローチ
将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する。
  • DCF法(代表的手法)
  • 配当割引モデル(DDM)
  • 収益還元法

将来予測に依存するため不確実性があるが、理論的根拠が強い。

MARKET APPROACH
マーケットアプローチ
類似企業・類似取引の市場データを参照して評価する。
  • PER(株価収益率)倍率法
  • EV/EBITDA倍率法
  • PBR(株価純資産倍率)倍率法

市場の実態を反映するが、比較対象の選定に恣意性が入る。

COST APPROACH
コストアプローチ
貸借対照表の純資産をベースに評価する。
  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • 修正純資産法

客観性が高いが、将来の収益性が反映されにくい。

試験ポイント:インカムアプローチのDCF法が最も出題頻度が高い。WACC・CAPM・ターミナルバリューの計算式をセットで覚えること。

DCF法の計算ステップ(4ステップ)

DCF法(Discounted Cash Flow)は、事業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引き、その合計で企業価値を求める手法だ。

STEP 1
FCFを予測する
各年のフリーCFを試算
STEP 2
WACCを計算する
割引率を算定
STEP 3
ターミナルバリューを求める
予測期間外の価値
STEP 4
現在価値を合計する
企業価値=事業価値
FCF(フリーキャッシュフロー)の基本
FCF = EBIT × (1 - 税率) + 減価償却費 - 設備投資 - 運転資本の増加

EBITは利息・税引前利益。税引後の営業利益に非現金費用を加算し、投資支出を差し引いた形。

企業価値(EV)の計算式
EV = FCF₁/(1+WACC)¹ + FCF₂/(1+WACC)² + … + FCFₙ/(1+WACC)ⁿ + TV/(1+WACC)ⁿ

TV(ターミナルバリュー)は予測期間終了後の価値を一括で表したもの。

WACC とタックスシールド

WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)は、株主資本コストと負債コストを資本構成の割合で加重平均した割引率だ。

WACC の公式
WACC = rE × (E/V) + rD × (1 - t) × (D/V)

rE:株主資本コスト E:株主資本の市場価値
rD:負債コスト(利子率) D:有利子負債の市場価値
t:実効税率 V:企業価値(E + D)

タックスシールドとは
節税効果が割引率を下げる
負債の利息は損金算入(税控除の対象)となるため、実質的な負債コストは rD × (1 - t) となる。これをタックスシールド(節税効果)という。

例:rD = 4%、t = 30% の場合
実質コスト = 4% × 0.7 = 2.8%

WACC 計算例
具体的な数値で確認
  • 株主資本コスト(rE)= 10%
  • 負債コスト(rD)= 4%
  • 実効税率(t)= 30%
  • E/V = 60%、D/V = 40%

WACC = 10% × 0.6 + 4% × 0.7 × 0.4
= 6% + 1.12% = 7.12%

CAPM と β(ベータ)

株主資本コスト(rE)は CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)を用いて算出するのが一般的だ。

CAPM の公式
rE = Rf + β × (Rm - Rf)

Rf:リスクフリーレート(無リスク利子率、例:国債利回り)
Rm:市場ポートフォリオの期待収益率
β:個別株式の市場リスクに対する感応度
(Rm – Rf):マーケットリスクプレミアム(市場超過収益率)

β の値 意味 リスクの位置づけ
β = 0 市場と無相関 市場リスクなし 国債(理論上)
β = 1 市場と同じ動き 平均的なリスク 市場インデックス
β < 1 市場より小さい変動 低リスク 公益事業・食品株
β > 1 市場より大きい変動 高リスク IT・バイオ株
計算例:Rf = 2%、β = 1.2、Rm = 8% の場合
rE = 2% + 1.2 × (8% – 2%) = 2% + 7.2% = 9.2%

ターミナルバリュー(TV)の計算

DCF法では通常5〜10年の予測期間を設定するが、企業はその後も事業を継続する。予測期間終了後の価値をまとめて評価したものがターミナルバリュー(TV)だ。

ターミナルバリューの公式(永久成長モデル)
TV = FCF(n+1) ÷ (WACC - g)

FCF(n+1):予測期間終了翌年のフリーキャッシュフロー
WACC:加重平均資本コスト
g:永久成長率(通常はGDP成長率程度、1〜3%が多い)

TV 計算例
数値で確認する
  • FCF(n+1) = 500万円
  • WACC = 8%
  • 永久成長率 g = 2%

TV = 500 ÷ (0.08 – 0.02)
= 500 ÷ 0.06 = 8,333万円

注意点
TVが企業価値の大半を占める
DCF法ではターミナルバリューが企業価値全体の60〜80%を占めることも多い。永久成長率の仮定が結果に大きく影響するため、感度分析(シナリオ分析)とあわせて解釈する必要がある。

その他の企業価値評価指標

DCF法以外にも、試験で問われる評価指標を整理しておく。

配当割引モデル(DDM)— 定率成長型
株式価値 P = D₁ ÷ (rE - g)

D₁:来期の予想配当 rE:株主資本コスト g:配当の永久成長率

指標 計算式 意味・用途 目安・補足
PER
株価収益率
株価 ÷ EPS
(1株あたり純利益)
収益に対して株価が割高・割安かを判断 業種平均との比較が基本
PBR
株価純資産倍率
株価 ÷ BPS
(1株あたり純資産)
純資産に対して株価が割高・割安かを判断 1倍割れ = 解散価値以下
EV/EBITDA EV ÷ EBITDA 企業価値が利益の何倍かを示す 資本構成・税制の違いを排除できる
株式価値 EV – 有利子負債 + 現金等 株主に帰属する価値 1株あたり価値 = 株式価値 ÷ 発行済株式数
EV(Enterprise Value)とは企業全体の価値(株主価値 + 有利子負債 – 余剰現金)を指す。株式時価総額だけでは負債を無視してしまうため、M&A等ではEVを用いることが多い。

過去問 演習(2問)

令和4年度 財務・会計 第10問(改題)
WACC の計算

ある企業の資本構成と各コストが以下のとおりのとき、WACCを求めよ。

  • 株主資本コスト(rE)= 12%
  • 負債コスト(rD)= 5%
  • 実効税率(t)= 40%
  • 株主資本(E)= 600、有利子負債(D)= 400(V = 1,000)
解答・解説

WACC = rE × (E/V) + rD × (1 – t) × (D/V)
= 12% × (600/1,000) + 5% × (1 – 0.4) × (400/1,000)
= 12% × 0.6 + 5% × 0.6 × 0.4
= 7.2% + 1.2% = 8.4%

タックスシールドを忘れずに (1-t) を乗じる点に注意。負債コストは税引後で計算する。

令和3年度 財務・会計 第9問(改題)
CAPM による株主資本コストの計算

以下の条件のとき、CAPM を用いて株主資本コスト(rE)を求めよ。

  • リスクフリーレート(Rf)= 1.5%
  • 市場ポートフォリオの期待収益率(Rm)= 7.5%
  • β = 1.4
解答・解説

rE = Rf + β × (Rm – Rf)
= 1.5% + 1.4 × (7.5% – 1.5%)
= 1.5% + 1.4 × 6%
= 1.5% + 8.4% = 9.9%

(Rm – Rf) がマーケットリスクプレミアム。β が1を超えているため、市場平均より高いリターンが要求されていることになる。

まとめ

企業価値評価・DCF法 重要ポイント6箇条

  • 企業価値評価の3手法:インカム/マーケット/コストアプローチ。試験ではインカムアプローチ(DCF法)が最重要
  • DCF法は「FCFを予測→WACCで割り引く→ターミナルバリューを加算→合計が企業価値」の4ステップ
  • WACC = rE × (E/V) + rD × (1-t) × (D/V)。負債コストにはタックスシールド (1-t) を忘れずに
  • 株主資本コストはCAPMで算出:rE = Rf + β × (Rm-Rf)。β=1が市場平均、>1なら高リスク高リターン
  • ターミナルバリュー TV = FCF(n+1) ÷ (WACC-g)。永久成長率gの設定が企業価値全体に大きく影響する
  • 株式価値 = 企業価値(EV)- 有利子負債 + 余剰現金。EV/EBITDAやPER・PBRも合わせて押さえる
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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