U物価が上がること=インフレ、と知っていても「なぜ上がるのか」の原因が違うと、政策対応も全く変わります。ディマンドプルとコストプッシュの違いがわかると、ニュースの「物価上昇」がより具体的に読めるようになりました。
物価の変動は経済の健康状態を示すバロメーターです。インフレーション(物価の持続的上昇)とデフレーション(物価の持続的下落)は、なぜ起きるかによって適切な政策が全く異なります。
まず大きな軸を整理しておきます。インフレが起きる理由は「需要側」と「供給側」の2方向から考えられます。
ディマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレ
AD-AS図:AD曲線が右シフト → 物価上昇+生産量増加
例:好景気時の消費・投資の拡大、戦時中の政府支出急増
AD-AS図:AS曲線が左シフト → 物価上昇+生産量減少
例:オイルショック(1973年)・円安による輸入物価上昇
スタグフレーション:最も厄介な状況
スタグフレーション(Stagflation)とは、景気停滞(Stagnation)と物価上昇(Inflation)が同時に起きる状態です。通常、景気が悪い(需要が少ない)ときは物価は下がるはずです。しかしスタグフレーションではその逆が起きます。
| 状況 | 物価 | 生産量・雇用 | 主な原因 |
|---|---|---|---|
| ディマンドプル・インフレ | 上昇 | 増加 | 需要の過熱 |
| コストプッシュ・インフレ | 上昇 | 減少(悪化) | 原材料費・賃金コスト上昇 |
| スタグフレーション | 上昇(インフレ) | 減少(不況) | コストプッシュ圧力が継続・激化 |
| デフレ | 下落 | 減少 | 需要不足・デフレスパイラル |
スタグフレーションの典型例は1970年代のオイルショック(第一次:1973年、第二次:1979年)です。原油価格の急騰でコストが押し上げられ、日本でも「狂乱物価」と呼ばれるインフレと不況が同時に発生しました。



スタグフレーションの怖さは「インフレ対策をすると景気が悪化し、景気対策をするとインフレが悪化する」というジレンマにあります。フィリップス曲線でいうと「失業とインフレのトレードオフ」が崩れる状態なんですね。
デフレーションとデフレスパイラル
デフレーションは物価の持続的な下落です。一見「物が安くなって良いこと」に思えますが、経済全体には深刻な影響があります。
この悪循環を「デフレスパイラル」といいます。日本は1990年代後半から2000年代にかけてこの状態に陥ったとされています。
デフレの問題点:
実質債務の増加(名目の借金は変わらないのに物価が下がると実質負担が増える)
投資・消費の先送り(今より安くなると思えば、みんな買い控える)
金融政策の限界(名目金利はゼロ以下にしにくい→流動性の罠)
AD-ASモデルでの整理
| インフレ・デフレの種類 | AD-ASの変化 | 物価 | 生産量(GDP) |
|---|---|---|---|
| ディマンドプル・インフレ | AD右シフト | 上昇 | 増加 |
| コストプッシュ・インフレ | AS左シフト | 上昇 | 減少 |
| 需要不足デフレ | AD左シフト | 下落 | 減少 |
| 技術革新によるデフレ(良いデフレ) | AS右シフト | 下落 | 増加 |
過去問で確認する
- ア 総需要(AD)曲線の右シフトにより発生する。
- イ 物価上昇と生産量の増加が同時に起きる。
- ウ 原材料価格の上昇など生産コストの増大によって引き起こされ、AS曲線の左シフトとして表れる。
- エ 金融緩和(金利引き下げ)を行うことで効果的に抑制できる。
ア:AD右シフトはディマンドプル・インフレ。
イ:物価上昇と生産量「増加」はディマンドプルの特徴(コストプッシュは生産量減少)。
エ:金融緩和は需要を刺激するためコストプッシュには効果がなく、むしろインフレをさらに加速させるリスクがあります。
- ア スタグフレーションは、総需要(AD)の急増によって引き起こされる。
- イ スタグフレーション下では、物価と生産量がともに上昇する。
- ウ スタグフレーションとは、景気停滞と物価上昇が同時に生じる状況であり、通常の金融政策での対処が難しい。
- エ スタグフレーションは1990年代の日本で典型的に発生した現象である。
ア:AD急増はディマンドプル・インフレの原因(景気は良くなる)。コストプッシュが原因。
イ:スタグフレーションでは生産量は減少し、物価は上昇(悪い組み合わせ)。
エ:1990年代日本の典型はデフレ。スタグフレーションの典型例は1970年代のオイルショック(日本・欧米)。
まとめ
- ディマンドプル:需要増→AD右シフト→物価↑・生産量↑。対策は金融引き締め・財政緊縮
- コストプッシュ:コスト増→AS左シフト→物価↑・生産量↓。対策が難しい
- スタグフレーション:停滞+インフレの同時発生(1970年代オイルショックが典型例)
- デフレスパイラル:物価下落→企業収益悪化→賃金低下→消費減→物価下落の悪循環
- AD-ASで「どちらの曲線がどの方向にシフトするか」をセットで把握する









