U「信用創造の計算が分からない」「IS-LMに金融政策を加えたらどうなるの?」——貨幣供給・金融政策・IS-LMは、経済学の中でも「点と点がつながる」感覚が大切な論点です。
今日は貨幣の基礎から信用乗数の計算、金融政策のIS-LMへの影響、流動性の罠まで、体系的に整理していきます。
貨幣の機能と種類(M1・M2・M3)
経済学における「貨幣」の理解から始めましょう。貨幣はただの紙切れや金属片ではなく、社会的制度として3つの機能を果たしています。
① 交換手段(媒介手段):物とサービスの交換を仲介する
→ 物々交換の非効率性(二重の一致問題)を解消する
② 価値貯蔵手段:価値を将来に持ち越す
→ 穀物やサービスは保存が難しいが、貨幣は持ち越せる
③ 価値尺度(計算単位):すべての財・サービスの価値を統一単位で表す
→ 「このリンゴは100円、あの服は5,000円」と比較可能にする
貨幣供給量(マネーサプライ)は、何を「貨幣」に含めるかによって複数の指標があります。
| 指標 | 内容 | 流動性 |
|---|---|---|
| M1 | 現金通貨+預金通貨(当座預金・普通預金) | 最も高い(すぐ使える) |
| M2 | M1+準通貨(定期預金・外貨預金等)+CD(譲渡性預金) | 中程度 |
| M3 | M2+郵便貯金等の一部(広義の貨幣) | 低い(換金に時間がかかる) |
日本銀行が政策として管理・注目するのは主にM2〜M3の動向です。M1は日々の取引に使われる「即時使用可能な貨幣」を示します。
信用創造のメカニズム
銀行が貸し出しを行うことで、社会全体の貨幣量が増えていく——この仕組みを信用創造(Credit Creation)といいます。最も重要な計算問題のテーマです。
① 中央銀行がA銀行に1,000万円を供給
② A銀行は準備金100万円(10%)を残し、900万円をX社に貸し出す
③ X社は900万円をB銀行に預金
④ B銀行は準備金90万円(10%)を残し、810万円をY社に貸し出す
⑤ Y社は810万円をC銀行に預金
⑥ これが繰り返され……
合計預金量 = 1,000 + 900 + 810 + 729 + … = 1,000 ÷ 0.1 = 10,000万円
信用乗数 = 1 ÷ 預金準備率(法定準備率)
例:準備率が5%なら → 信用乗数 = 1 ÷ 0.05 = 20
例:準備率が10%なら → 信用乗数 = 1 ÷ 0.1 = 10
貨幣供給量 = ハイパワードマネー(マネタリーベース) × 信用乗数
ハイパワードマネー(高powered money)とは、中央銀行が供給する「お金の元」のことで、市中銀行の日銀当座預金残高+流通している現金の合計です。中央銀行はこのハイパワードマネーを操作することで、信用乗数を通じて実際の貨幣供給量をコントロールします。
「準備率が変化したとき、最大預金創造額はいくらか」という計算問題が頻出です。公式「貨幣供給=本源的預金÷準備率」を確実に使えるようにしましょう。
中央銀行の政策手段:3つのツール
中央銀行(日本では日本銀行)は、貨幣供給量・利子率を通じて経済に影響を与えます。伝統的な政策手段は3つです。
| 政策手段 | 内容 | 貨幣供給への効果 |
|---|---|---|
| 公開市場操作 | 国債等の売買により市中の貨幣量を調節。最も頻繁に使われる手段。 | 買いオペ→貨幣供給増。売りオペ→貨幣供給減 |
| 公定歩合(基準貸付利率) | 中央銀行が市中銀行に貸し出す際の利率。現在は「補完貸付制度」として機能。 | 引き下げ→銀行の資金調達コスト低下→貸出増→貨幣供給増 |
| 預金準備率操作 | 市中銀行が日銀に預ける準備金の割合を変更。信用乗数を通じて作用。 | 引き下げ→信用乗数増大→貨幣供給増 |
買いオペ(買いオペレーション):日銀が国債を市中銀行から買い取る
→ 日銀が代金を支払う→市中に現金(マネタリーベース)が増える→貨幣供給増加
売りオペ(売りオペレーション):日銀が国債を市中銀行に売る
→ 市中銀行が代金を支払う→市中から現金が吸い取られる→貨幣供給減少
IS-LM分析の基礎:IS曲線とLM曲線
IS-LM分析は、財市場と貨幣市場の同時均衡を表す、マクロ経済分析の中心的フレームです。
投資(I)=貯蓄(S)が成立する利子率(r)と国民所得(Y)の組み合わせ。
→ 右下がり:rが下がる→投資増加→Y増加
→ 財政政策(G増加)→IS右シフト(同じrでも高いYで均衡)
→ 増税→IS左シフト
貨幣需要(L)=貨幣供給(M)が成立する利子率(r)と国民所得(Y)の組み合わせ。
→ 右上がり:Yが増える→取引需要増加→均衡させるにはr上昇が必要
→ 金融緩和(貨幣供給増)→LM右シフト(同じYでも低いrで均衡)
→ 金融引締め→LM左シフト
| 比較 | IS曲線 | LM曲線 |
|---|---|---|
| 均衡する市場 | 財市場 | 貨幣市場 |
| 形状 | 右下がり | 右上がり |
| 右シフトの条件 | G増加・減税・消費意欲上昇 | 貨幣供給増加 |
| 左シフトの条件 | G減少・増税・消費意欲低下 | 貨幣供給減少 |
| 影響する政策 | 財政政策 | 金融政策 |
IS曲線とLM曲線の交点が財市場・貨幣市場を同時に均衡させる利子率と国民所得の組み合わせ(マクロ均衡点)です。
金融政策のIS-LMへの影響(波及経路)
金融緩和政策がどのようにYを増加させるのか、IS-LMの枠組みで追ってみましょう。
① 日銀が買いオペ → マネタリーベース増加 → 貨幣供給(M)増加
② M増加 → LM曲線が右シフト
③ LM右シフト → 均衡利子率(r)が低下
④ r低下 → 企業の投資(I)が増加(借入コスト低下)
⑤ I増加 → 乗数効果により国民所得(Y)が増加
⑥ Y増加 → 消費増加 → さらにY増加(乗数プロセス)
この波及経路を「金利チャネル」と呼びます。現実の金融政策の効果は、この他にも「信用チャネル」(銀行の貸出姿勢の変化)・「資産価格チャネル」(株・不動産価格の上昇→消費増)・「為替チャネル」(通貨安→輸出増)など複数経路を通じて働きます。
| 金融政策 | LM曲線 | 利子率 | 投資 | 国民所得 |
|---|---|---|---|---|
| 金融緩和(買いオペ・準備率引下げ) | 右シフト | 低下 | 増加 | 増加 |
| 金融引締め(売りオペ・準備率引上げ) | 左シフト | 上昇 | 減少 | 減少 |
流動性の罠:金融政策が無効になる局面
流動性の罠(Liquidity Trap)は、ケインズが提唱した概念で、金融緩和が景気刺激に効果を失う状況を指します。試験でも頻出の重要論点です。
利子率が非常に低い水準(ゼロ近傍)になると、人々は「これ以上利子率が下がることはない(=債券価格がこれ以上上がることはない)」と予想し、将来の値下がりを恐れて債券を保有せず、全員が現金・預金の形で資産を保有しようとする。
→ この状態では、中央銀行が貨幣供給をいくら増やしても、すべてが現金(流動性)として吸収され、利子率が下がらない
→ LM曲線が水平になる
→ 金融政策(LMシフト)は有効でなくなる
| 状況 | LM曲線の形状 | 金融政策の効果 | 財政政策の効果 |
|---|---|---|---|
| 通常時 | 右上がり | 有効(LM右シフト→r低下→I増) | 有効だがクラウディングアウトあり |
| 流動性の罠 | 水平 | 無効(貨幣増でもrが下がらない) | 完全有効(IS右シフト→Yのみ増加) |
| 投資の利子非弾力性 | 右上がり | 有効(LM右シフト・r低下) | 完全有効(IS右シフト→rが変化せずYのみ増) |
日本の1990年代後半〜2000年代の低金利・デフレ状況、および2008年リーマンショック後の先進国の金融政策において、流動性の罠的な状況が議論されました。日銀がゼロ金利政策・量的緩和を導入しても貸出が増えず景気回復が鈍かった状況はその文脈で語られます。
「LM曲線が水平なとき(流動性の罠)、財政政策は完全有効・金融政策は無効」
「LM曲線が垂直なとき(貨幣数量説的状況)、財政政策は完全無効(完全クラウディングアウト)・金融政策は完全有効」
この2つの極端なケースは出題頻度が高いです。
クラウディングアウトの仕組み
IS-LM分析で財政政策を考えると、完全雇用前の経済でも一定の「クラウディングアウト」が起きることが分かります。
① 政府支出増加 → IS曲線が右シフト
② IS右シフト → 均衡点でY増・r上昇
③ r上昇 → 民間投資(I)が減少(借入コスト上昇)
④ I減少 → 財政出動による需要増加を一部相殺
→ 財政乗数が純理論値より小さくなる
クラウディングアウトの大きさはLM曲線の傾きに依存します:
| LM曲線の傾き | クラウディングアウト | 財政政策効果 |
|---|---|---|
| 水平(流動性の罠) | ゼロ(rが上昇しない) | 完全有効 |
| 通常の右上がり | 部分的(rが上昇し民間投資が一部減少) | 部分的に有効 |
| 垂直 | 完全(rが大幅上昇→投資が財政出動と同額減少) | 完全に無効 |
貨幣数量説とフィッシャーの交換方程式
金融政策の理論的背景として、貨幣数量説とフィッシャーの交換方程式も押さえておきましょう。
MV = PY
M:貨幣量、V:貨幣流通速度、P:物価水準、Y:実質国民所得(取引量)
貨幣数量説では、V(貨幣流通速度)は短期的に一定と仮定します。
すると:M増加 → P上昇(インフレ)または Y増加(景気拡大)
長期的にはYは自然産出量に収束するため → M増加 → P上昇(インフレのみ)
貨幣数量説はマネタリスト(フリードマン等)の理論的基盤で、「インフレは常に貨幣的現象である」という主張につながります。短期的には金融政策がYに影響を与えられるが、長期的には物価に影響するだけ(貨幣の中立性)という含意があります。
過去問・練習問題で理解を確認する
問:準備率が5%の場合、銀行システム全体での本源的預金1億円に対する最大の信用創造額はいくらか。
ア 5億円
イ 10億円
ウ 20億円
エ 100億円
→ 答え:ウ
信用乗数 = 1 ÷ 0.05 = 20。預金総額 = 1億円 × 20 = 20億円。信用創造額は元の預金を含むのでそのまま20億円。
問:中央銀行が公開市場操作(買いオペ)を実施した場合、IS-LM図ではどのような変化が生じるか。
ア IS曲線が右シフトし、利子率が上昇する
イ LM曲線が左シフトし、利子率が上昇する
ウ LM曲線が右シフトし、利子率が低下する
エ IS曲線が左シフトし、利子率が低下する
→ 答え:ウ
買いオペ→貨幣供給増→LM右シフト→均衡利子率低下。
問:流動性の罠に陥っている状態を示す記述として最も適切なものはどれか。
ア LM曲線が垂直であり、財政政策は完全に無効である
イ LM曲線が水平であり、金融政策は完全に無効である
ウ IS曲線が垂直であり、金融政策は完全に無効である
エ IS曲線が水平であり、財政政策は完全に無効である
→ 答え:イ
流動性の罠ではLM曲線が水平。貨幣供給を増やしてもrが下がらないため金融政策は無効。財政政策はIS右シフト→Yのみ増加で完全有効。
よくある質問(FAQ)
まとめ:試験直前の整理ポイント
① 貨幣の機能:交換手段・価値貯蔵・価値尺度の3つ
② 信用乗数:1÷準備率。貨幣供給=ハイパワードマネー×信用乗数
③ 金融緩和の波及経路:買いオペ→M増→LM右シフト→r低下→I増→Y増
④ 流動性の罠:LM水平→金融政策無効・財政政策完全有効
⑤ LM垂直(貨幣数量説的):財政政策完全無効(完全クラウディングアウト)・金融政策完全有効
貨幣・信用創造・金融政策・IS-LMは「つながった一つの体系」です。中央銀行がお金を増やす→LM曲線がシフトする→利子率が変わる→投資が変わる→GDPが変わる、という連鎖を一本の流れとして理解することが、最も効率的な学習法です。流動性の罠とLM垂直の2つの特殊ケースは毎年出題されるので確実に押さえましょう。









