企業価値評価(バリュエーション)は、M&Aや投資判断の場面で用いられる手法だ。中小企業診断士の試験でも「WACC」「CAPM」「ターミナルバリュー」といったキーワードが頻出する。この記事では、DCF法を中心に計算ステップを丁寧に整理する。
企業価値評価の3つのアプローチ
企業価値の評価方法は大きく3つに分類される。それぞれ根拠とする情報が異なり、目的に応じて使い分けられる。
- DCF法(代表的手法)
- 配当割引モデル(DDM)
- 収益還元法
将来予測に依存するため不確実性があるが、理論的根拠が強い。
- PER(株価収益率)倍率法
- EV/EBITDA倍率法
- PBR(株価純資産倍率)倍率法
市場の実態を反映するが、比較対象の選定に恣意性が入る。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
- 修正純資産法
客観性が高いが、将来の収益性が反映されにくい。
DCF法の計算ステップ(4ステップ)
DCF法(Discounted Cash Flow)は、事業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引き、その合計で企業価値を求める手法だ。
各年のフリーCFを試算
割引率を算定
予測期間外の価値
企業価値=事業価値
FCF = EBIT × (1 - 税率) + 減価償却費 - 設備投資 - 運転資本の増加
EBITは利息・税引前利益。税引後の営業利益に非現金費用を加算し、投資支出を差し引いた形。
EV = FCF₁/(1+WACC)¹ + FCF₂/(1+WACC)² + … + FCFₙ/(1+WACC)ⁿ + TV/(1+WACC)ⁿ
TV(ターミナルバリュー)は予測期間終了後の価値を一括で表したもの。
WACC とタックスシールド
WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)は、株主資本コストと負債コストを資本構成の割合で加重平均した割引率だ。
WACC = rE × (E/V) + rD × (1 - t) × (D/V)
rE:株主資本コスト E:株主資本の市場価値
rD:負債コスト(利子率) D:有利子負債の市場価値
t:実効税率 V:企業価値(E + D)
rD × (1 - t) となる。これをタックスシールド(節税効果)という。
例:rD = 4%、t = 30% の場合
実質コスト = 4% × 0.7 = 2.8%
- 株主資本コスト(rE)= 10%
- 負債コスト(rD)= 4%
- 実効税率(t)= 30%
- E/V = 60%、D/V = 40%
WACC = 10% × 0.6 + 4% × 0.7 × 0.4
= 6% + 1.12% = 7.12%
CAPM と β(ベータ)
株主資本コスト(rE)は CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)を用いて算出するのが一般的だ。
rE = Rf + β × (Rm - Rf)
Rf:リスクフリーレート(無リスク利子率、例:国債利回り)
Rm:市場ポートフォリオの期待収益率
β:個別株式の市場リスクに対する感応度
(Rm – Rf):マーケットリスクプレミアム(市場超過収益率)
| β の値 | 意味 | リスクの位置づけ | 例 |
|---|---|---|---|
| β = 0 | 市場と無相関 | 市場リスクなし | 国債(理論上) |
| β = 1 | 市場と同じ動き | 平均的なリスク | 市場インデックス |
| β < 1 | 市場より小さい変動 | 低リスク | 公益事業・食品株 |
| β > 1 | 市場より大きい変動 | 高リスク | IT・バイオ株 |
rE = 2% + 1.2 × (8% – 2%) = 2% + 7.2% = 9.2%
ターミナルバリュー(TV)の計算
DCF法では通常5〜10年の予測期間を設定するが、企業はその後も事業を継続する。予測期間終了後の価値をまとめて評価したものがターミナルバリュー(TV)だ。
TV = FCF(n+1) ÷ (WACC - g)
FCF(n+1):予測期間終了翌年のフリーキャッシュフロー
WACC:加重平均資本コスト
g:永久成長率(通常はGDP成長率程度、1〜3%が多い)
- FCF(n+1) = 500万円
- WACC = 8%
- 永久成長率 g = 2%
TV = 500 ÷ (0.08 – 0.02)
= 500 ÷ 0.06 = 8,333万円
その他の企業価値評価指標
DCF法以外にも、試験で問われる評価指標を整理しておく。
株式価値 P = D₁ ÷ (rE - g)
D₁:来期の予想配当 rE:株主資本コスト g:配当の永久成長率
| 指標 | 計算式 | 意味・用途 | 目安・補足 |
|---|---|---|---|
| PER 株価収益率 |
株価 ÷ EPS (1株あたり純利益) |
収益に対して株価が割高・割安かを判断 | 業種平均との比較が基本 |
| PBR 株価純資産倍率 |
株価 ÷ BPS (1株あたり純資産) |
純資産に対して株価が割高・割安かを判断 | 1倍割れ = 解散価値以下 |
| EV/EBITDA | EV ÷ EBITDA | 企業価値が利益の何倍かを示す | 資本構成・税制の違いを排除できる |
| 株式価値 | EV – 有利子負債 + 現金等 | 株主に帰属する価値 | 1株あたり価値 = 株式価値 ÷ 発行済株式数 |
過去問 演習(2問)
ある企業の資本構成と各コストが以下のとおりのとき、WACCを求めよ。
- 株主資本コスト(rE)= 12%
- 負債コスト(rD)= 5%
- 実効税率(t)= 40%
- 株主資本(E)= 600、有利子負債(D)= 400(V = 1,000)
WACC = rE × (E/V) + rD × (1 – t) × (D/V)
= 12% × (600/1,000) + 5% × (1 – 0.4) × (400/1,000)
= 12% × 0.6 + 5% × 0.6 × 0.4
= 7.2% + 1.2% = 8.4%
タックスシールドを忘れずに (1-t) を乗じる点に注意。負債コストは税引後で計算する。
以下の条件のとき、CAPM を用いて株主資本コスト(rE)を求めよ。
- リスクフリーレート(Rf)= 1.5%
- 市場ポートフォリオの期待収益率(Rm)= 7.5%
- β = 1.4
rE = Rf + β × (Rm – Rf)
= 1.5% + 1.4 × (7.5% – 1.5%)
= 1.5% + 1.4 × 6%
= 1.5% + 8.4% = 9.9%
(Rm – Rf) がマーケットリスクプレミアム。β が1を超えているため、市場平均より高いリターンが要求されていることになる。
まとめ
企業価値評価・DCF法 重要ポイント6箇条
- 企業価値評価の3手法:インカム/マーケット/コストアプローチ。試験ではインカムアプローチ(DCF法)が最重要
- DCF法は「FCFを予測→WACCで割り引く→ターミナルバリューを加算→合計が企業価値」の4ステップ
- WACC = rE × (E/V) + rD × (1-t) × (D/V)。負債コストにはタックスシールド (1-t) を忘れずに
- 株主資本コストはCAPMで算出:rE = Rf + β × (Rm-Rf)。β=1が市場平均、>1なら高リスク高リターン
- ターミナルバリュー TV = FCF(n+1) ÷ (WACC-g)。永久成長率gの設定が企業価値全体に大きく影響する
- 株式価値 = 企業価値(EV)- 有利子負債 + 余剰現金。EV/EBITDAやPER・PBRも合わせて押さえる

