U近所に大型ショッピングモールができたとき、「あの個人商店は大丈夫だろうか」と思ったことはありませんか。実はこの「どちらの店に客が流れるか」という問いに、確率を使って答えを出せる数式があります。ハフモデルと呼ばれるその式を知ったとき、立地や商圏という概念が”感覚の話”ではなく”計算できる話”になる、という驚きがありました。今日はそのイメージごと整理してみます。
小売業にとって、「どこに出店するか」は事業の成否を左右する最重要の意思決定です。商圏分析は、店舗がどの範囲の顧客を集客できるか、競合との間でどのように顧客が分配されるかを定量的に把握するための手法群です。
試験ではハフモデルを中心に、ライリーの小売引力の法則との違い、商圏の種類が頻出テーマとして出題されます。
商圏とは何か:お客様が「来る範囲」を地図で考える
商圏とは、店舗が集客できる地理的な範囲のことです。店から遠くなるほど来店頻度は下がるため、商圏は同心円状に広がり、距離によって1次・2次・3次に分けて考えます。
| 商圏の区分 | 定義 | 来店頻度の目安 |
|---|---|---|
| 1次商圏 | 売上の多くを占めるコア顧客層の居住範囲 | 週1回以上など高頻度 |
| 2次商圏 | 1次商圏の外側。来店頻度は低下 | 月1〜数回程度 |
| 3次商圏 | 最外圏。遠方や他店の選択肢もある顧客 | 年数回・特定目的のみ |
商圏の広がり方は業態によって大きく異なります。日常食品のコンビニや近隣型スーパーは商圏が狭く、家電量販店やショッピングモールは広域から集客します。
| 業態 | 商圏距離の目安 | 来店目的 |
|---|---|---|
| コンビニエンスストア | 半径500m程度 | 日用品・緊急購買 |
| 近隣型スーパー | 半径1〜2km程度 | 食料品・日常消耗品 |
| 地域型ショッピングセンター | 半径5〜10km程度 | 衣料・家庭用品・外食 |
| 広域型ショッピングモール | 半径10〜30km以上 | 専門品・レジャー・一括購買 |
この「業態によって商圏距離が違う」という感覚が、後述するハフモデルの距離抵抗係数λを理解するうえでとても役立ちます。
ハフモデル:「どの店に行くか」を確率で計算する
1963年にD.L.ハフが提唱したハフモデルは、「ある地点に住む消費者が、複数の店舗のうちどの店を選ぶか」を確率として算出する数式です。
直感的には次の2つの原則だけです。
この2つの原則を組み合わせたのがハフモデルの数式です。
Sj:店舗 j の売場面積(店舗規模・魅力の代理変数)
Tij:地点 i から店舗 j までの距離(または移動時間)
λ(ラムダ):距離抵抗係数。標準は 2。業態によって変わる(後述)
Σ(シグマ):競合するすべての店舗 k についての合計
式の読み方はシンプルです。「店 j の面積を距離の2乗で割った値」が、その店の”引力スコア”です。そのスコアを「全店舗のスコア合計」で割ると、比率として確率が求まります。
λが小さい → 距離の影響が弱い(遠くてもわざわざ行く価値がある店)
実例で計算してみる:近所のスーパー vs イオン
実際に数字を入れて計算してみましょう。自宅の近くに2つの店舗があるとします。
| 店舗 | 売場面積(S) | 自宅からの距離(T) |
|---|---|---|
| 店舗A(近所のスーパー) | 500 m² | 1 km |
| 店舗B(大型ショッピングモール) | 20,000 m² | 4 km |
λ = 2 として、各店舗の引力スコアを計算します。
店舗Bのスコア:20,000 ÷ 4² = 20,000 ÷ 16 = 1,250
店舗Bへの来店確率:1,250 ÷ 1,750 ≒ 71.4%
この結果が示す意味は明確です。大型モールが1km先ではなく4km先にあっても、面積(品揃えの魅力)が40倍あれば十分に競合商圏内に入ってきます。個人商店が立地戦略を考えるとき、「距離だけでは守れない」という現実がこの式から読み取れます。
| 条件変更 | 店舗Aの確率 | 店舗Bの確率 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| λ=3 に変更(距離抵抗を強める) | 500÷1³=500 → 500÷(500+313)≒61.5% |
20000÷4³=313 → 313÷813≒38.5% |
食料品など日常購買はλが大きく、近い店が有利になる |
| λ=1 に変更(距離抵抗を弱める) | 500÷1=500 → 500÷(500+5000)≒9.1% |
20000÷4=5000 → 5000÷5500≒90.9% |
専門品・高級品はλが小さく、大型・専門店が圧倒的に有利になる |
ライリーの小売引力の法則との違い
ハフモデルとともに試験に出るのが「ライリーの小売引力の法則」です。2つは混同しやすいので、対比で整理しておきます。
ある地点の消費者が「各店舗を選ぶ確率(0〜100%)」
適用場面
複数の競合店舗が存在する場合の集客シェア分析
特徴
個人・地点ベース。面積と距離から確率を算出。λで業態調整が可能
2つの都市(商業地)の間にある「商圏の境界点」
適用場面
どの都市が近隣の小都市の顧客を引き付けるかの境界分析
特徴
都市間ベース。人口と距離から境界点を求める。コンバースがさらに発展
d:都市aと都市bの間の距離
Pa、Pb:それぞれの都市の人口(規模の指標)
人口の大きい都市ほど境界点が遠くなる(広い商圏を持つ)というシンプルな原理です。
| 比較軸 | ハフモデル | ライリーの法則 |
|---|---|---|
| 分析の単位 | 個人(地点)の選択確率 | 2都市間の境界点 |
| 魅力の指標 | 売場面積(S) | 都市の人口(P) |
| 出力 | 来店確率(0〜1) | 境界までの距離(km) |
| 距離調整 | λ(業態別に変更可) | 距離の2乗(固定) |
| 競合数 | 複数店舗に対応 | 2都市間のみ |



ハフモデルを学んでいて気づいたのが、λ値は固定ではないという点です。食料品なら2〜3、家電・自動車なら1前後——業態が変わると「距離に対する消費者の感度」が変わる、という発想が面白くて。大型モールが強いのは「広さ(面積)」だけでなく、「業態のλが小さい専門店を多く揃えている」からでもあるんですよね。
試験での出題ポイント
商圏分析・ハフモデルの分野で、試験に出やすいポイントを整理します。
- ハフモデルの式の意味を正確に読める:分子は「その店の引力スコア」、分母は「全店舗の引力スコアの合計」
- λ(距離抵抗係数)の意味:大きいほど距離の影響が強い。日用品スーパーは大、専門品店は小
- 確率の計算:引力スコア(S÷T²)を各店舗で求め、対象店÷合計で求める
- ライリーとの違い:ハフは個人の確率、ライリーは都市間の境界点——「何を求めるか」で区別する
- 商圏の3区分(1次・2次・3次)と、業態別の商圏距離の違いを覚えておく
- コンバースの分岐点公式:ライリーを発展させ小都市サイドの境界点を求める式。d/(1+√(Pa/Pb)) ではなくコンバース版は d/(1+√(Sa/Sb)) など出題形式を確認する
「λは全業態で2に固定」→ 誤り(業態によって異なる)
まとめ:商圏分析の全体像
- 商圏は「店舗が集客できる地理的範囲」で、1次・2次・3次に区分される。業態によって広さが異なる
- ハフモデルは「消費者がある店を選ぶ確率」を、面積÷距離²の引力スコアの比率で算出する
- λ(距離抵抗係数)は業態の特性を反映する。日用品は大きく(近さ重視)、専門品は小さい(品揃え重視)
- ライリーの法則は「2都市間の商圏境界点」を求める手法で、ハフモデルとは目的が異なる
- 試験では「ハフ=確率」「ライリー=境界点」の対応と、λの意味・計算問題が頻出









