企業価値評価とセールスミックス | 中小企業診断士2次試験 事例IV

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会社の値段はどうやって決まるのか?——この問いへの答えが、企業価値評価の設問の核心です。事例IVでは「DCF法」「純資産法」「類似会社比較法」の3手法と、製品ラインナップを最適化する「セールスミックス」が問われます。計算ルールは決まっているので、構造を理解してから手順を覚えると得点に直結します。

企業価値評価は、M&Aや事業再生の場面で実際に使われる実務スキルです。事例IVでは3手法の特徴と計算手順、特にDCF法によるフリーキャッシュフロー(FCF)ベースの計算が最重要です。セールスミックスは「どの製品を優先して生産するか」という限界利益率視点の意思決定問題で、制約条件の有無で解法が変わります。
目次

企業価値評価の3手法(DCF法・純資産法・類似会社比較法)

企業の値段を求める手法は大きく3種類に分かれます。試験ではDCF法が最重要ですが、純資産法・類似会社比較法の特徴と使い分けも問われるため、それぞれの定義・計算方法・メリット・デメリットを整理しておきましょう。

手法 定義・考え方 計算方法 メリット デメリット 頻出度
DCF法
Discounted Cash Flow
将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引き、その合計を企業価値とする ① 各年度のFCFを予測
② 資本コストで割り引く
③ 継続価値を加算
④ 負債を差し引き株式価値を算出
将来の収益力を反映できる。理論的に最も厳密 将来CFの予測と割引率の設定に主観が入りやすい。計算が複雑
純資産法
Net Asset Approach
貸借対照表の純資産(資産合計 − 負債合計)をそのまま企業価値とみなす ① 時価ベースの資産合計を算定
② 負債合計を差し引く
③ 残額が株式価値(純資産価値)
計算がシンプル。貸借対照表から直接算定できる 将来の収益力を反映しない。収益性の高い企業を過小評価しやすい
類似会社比較法
Market Approach
上場している類似企業の株価倍率(PER・PBR・EV/EBITDAなど)を参考に企業価値を算定する ① 類似上場企業を選定
② 倍率(マルチプル)を計算
③ 対象企業の指標に倍率を掛ける
市場の実態を反映できる。計算が比較的シンプル 類似企業の選定に主観が入る。非上場企業には「流動性ディスカウント」が必要になる場合も

頻出度は5段階です。DCF法は最重要(5/5)。純資産法は概念問題・定性設問で出題(3/5)。類似会社比較法は選択肢問題や用語説明レベル(2/5)です。

DCF法によるFCFベースの企業価値計算(最重要)

DCF法の計算は「フリーキャッシュフロー(FCF)の計算 → 現在価値への換算 → 継続価値の算定 → 合計して企業価値を求める」という4ステップで構成されます。特にFCFの計算ルートを正確に理解することが、正答率を上げるカギです。

1
フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する
FCFは「事業が実際に生み出した現金」です。損益計算書の利益とは異なり、設備投資や運転資本の増減も加味します。試験ではこの計算式の各要素が正確に把握できているかが問われます。
FCF = EBIT × (1 − 税率)+ 減価償却費 − 設備投資額 − 運転資本増加額
  (EBIT = 営業利益 = 売上高 − 売上原価 − 販管費)
EBIT(Earnings Before Interest and Taxes):支払利息・税金控除前の利益。営業利益と一致することが多い。
運転資本増加額の符号に注意:運転資本(売掛金+棚卸資産-買掛金)が増えると現金が出ていくため「マイナス(流出)」となる。
設備投資がない年度:問題文に設備投資の記載がなければゼロとして扱う。
2
各年度のFCFを現在価値に換算する
将来のFCFを資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値に換算します。WACCは「加重平均資本コスト」で、負債コストと株主資本コストを資本構成の比率で加重平均したものです。
現在価値 = FCF ÷ (1 + WACC)ⁿ  または  FCF × 現価係数(n年)
WACC = 負債コスト × (1 − 税率)× 負債比率 + 株主資本コスト × 株式比率
WACCの計算:問題文にWACCが直接与えられる場合と、各コストと比率から自分で計算する場合がある。負債コストには節税効果(× (1 − 税率))が乗じられる点を忘れない。
3
継続価値(ターミナルバリュー)を算定する
予測期間(通常3〜5年)を超えた以降も企業は事業を続けます。その「永続的な価値」をひとつの数値にまとめたのが継続価値です。試験では予測最終年度の翌年から永続成長すると仮定したゴードン・モデルが使われます。
継続価値(TV)= FCFₙ₊₁ ÷ (WACC − g)
  FCFₙ₊₁ = 最終予測年度のFCF × (1 + g)  g = 永続成長率
永続成長率 g = 0 の場合:TV = FCFₙ₊₁ ÷ WACC で計算できる。試験ではg=0が多い。
継続価値の現在価値換算:継続価値はn年後時点の価値なので、さらにn年分の現価係数を掛けて今の価値に直す必要がある。
4
企業価値・株式価値を算出する
予測期間のFCF現在価値の合計と、継続価値の現在価値を足したものが「企業価値(事業価値)」です。さらに非事業用資産(余剰現金など)を加え、有利子負債を差し引くと「株式価値(株主に帰属する価値)」になります。
企業価値 = 予測期間のFCV現在価値の合計 + 継続価値の現在価値
株式価値 = 企業価値 + 非事業用資産 − 有利子負債
1株当たり株式価値の算出:問題文に「1株当たりの理論価値を求めよ」とある場合は「株式価値 ÷ 発行済株式数」を計算する。
DCF法 計算例
予測期間3年、WACC = 10%、FCF:1年目200万円 / 2年目220万円 / 3年目240万円、g = 0
1年目FCF現在価値(× 0.909)181.8万円
2年目FCF現在価値(× 0.826)181.7万円
3年目FCF現在価値(× 0.751)180.2万円
予測期間FCF現在価値の合計543.7万円
継続価値 TV = 240 ÷ 0.102,400万円
継続価値の現在価値(× 0.751)1,802.4万円
企業価値合計2,346.1万円
現価係数はWACC10%の場合:1年目0.909、2年目0.826、3年目0.751(試験では問題文に与えられることが多い)。
継続価値は「3年目時点の価値」なので、3年目の現価係数(0.751)で割り引いて今の価値に換算する。

セールスミックス(製品ミックス最適化)の考え方と計算

セールスミックスは「複数の製品・サービスをどの割合で売るか」を最適化する問題です。事例IVでは「限界利益率が高い製品を優先する」という判断軸と、機械時間・材料などの制約条件がある場合の優先順位付けが問われます。

製品優先順位の判断フロー
制約条件がない場合——限界利益率(= 限界利益 ÷ 売上高)が高い製品を優先して生産・販売する
制約条件がある場合(機械時間・材料など)——「制約1単位当たりの限界利益」が高い製品を優先する(=限界利益 ÷ 制約量)
需要上限がある場合——優先製品を需要上限まで生産してから、次順位の製品に残余資源を割り当てる

限界利益の用語整理

指標名 計算式 意味・使い方
限界利益 売上高 − 変動費 固定費の回収と利益に使える金額。製品1個当たりで考えると「貢献利益」とも呼ぶ
限界利益率 限界利益 ÷ 売上高 制約なしの場合の優先順位指標。高い製品ほど1円売るたびに多くの固定費を回収できる
制約単位当たり限界利益 限界利益 ÷ 制約量(時間・材料など) 制約がある場合の優先順位指標。機械時間1時間当たり・材料1kgあたりで稼げる限界利益
セールスミックス 計算例
製品A・B・Cがあり、機械時間の制約が月間1,000時間。各製品の限界利益と必要機械時間は下記のとおり。
製品 売価(円) 変動費(円) 限界利益(円) 機械時間(時間/個) 機械時間1h当たり限界利益 需要上限(個) 優先順位
A 1,000 600 400 2 200円/h 200 2位
B 800 400 400 1 400円/h 300 1位
C 1,500 1,200 300 3 100円/h 100 3位
1位:製品Bを需要上限300個生産(300個 × 1h = 300h使用)残り700h
2位:製品Aを需要上限200個生産(200個 × 2h = 400h使用)残り300h
3位:製品Cは残り300h ÷ 3h = 100個(需要上限以内)残り0h
限界利益合計 = B:400×300 + A:400×200 + C:300×100230,000円
「限界利益率が高い製品(A・B共に50%)が同じなら、機械時間当たりの限界利益が大きいBを優先」——これが制約条件あり問題の核心です。
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セールスミックスで最初につまずいたのが「限界利益率が同じ製品が複数あるとき」でした。制約条件(機械時間)が加わった瞬間に「1時間あたりいくら稼げるか」という視点に切り替えることが大切で、そこに気づいてからは問題の構造がすっきり見えるようになりました。

試験での出題パターンと対策(計算例付き)

事例IVで企業価値評価・セールスミックスが出題される際の典型パターンを整理します。問題文の「キーワード」に反応して、使うべき計算ルートをすぐに選択できるようにしましょう。

パターン1
FCFを計算して企業価値を求める
問題文に「フリーキャッシュフロー」「FCF」「EBIT」「WACC」「継続価値」が登場したらDCF法の計算問題。ステップ1のFCF計算式を正確に当てはめることが最優先。
FCF = EBIT × (1 − t)+ 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加額
企業価値 = 予測期間FCF現在価値 + 継続価値の現在価値
パターン2
WACCを算出してから企業価値を計算する
「負債コスト○%、株主資本コスト○%、負債比率○%」というデータが与えられたらWACC計算が先行する問題。節税効果(負債コスト × (1 − 税率))を忘れずに乗じること。
WACC = 負債コスト × (1 − t)× 負債比率 + 株主資本コスト × 株式比率
→ 算出したWACCを割引率として企業価値を計算する
パターン3
制約条件あり・セールスミックスの最適化
「生産能力の上限○時間」「材料の調達量が最大○kg」という記述があれば、制約単位当たり限界利益で優先順位を決める問題。まず各製品の「制約1単位当たりの限界利益」を計算し、高い順に需要上限まで割り当てる。
優先順位 = 制約1単位当たりの限界利益(= 限界利益 ÷ 制約量)の降順
→ 高い製品から需要上限まで生産 → 残余制約で次順位を生産
パターン4
純資産法・類似会社比較法の定性問題
「3手法のうち〇〇法の特徴として適切なものを選べ」「M&Aでどの手法を採用すべきか理由とともに述べよ」という形式。各手法のメリット・デメリットを論理的に説明できるようにしておく。
DCF法:将来収益力を反映/純資産法:計算シンプルだが収益力を無視/類似会社法:市場実態を反映するが類似企業選定に主観が入る

まとめ

  • 企業価値評価の3手法(DCF法・純資産法・類似会社比較法)の定義・メリット・デメリットをセットで覚え、問題の文脈に応じて使い分けられるようにする
  • DCF法のFCF計算式「EBIT×(1−t)+減価償却費−設備投資−運転資本増加額」を完全に暗記し、各要素の符号ミスをなくす
  • 継続価値はn年後時点の価値なので「現在価値への換算(× 現価係数)」を必ず行う。換算漏れが最大のミスポイント
  • セールスミックスは「制約なし → 限界利益率の高い順」「制約あり → 制約1単位当たり限界利益の高い順」という判断軸を問題文の記述で即座に切り替えられるようにする
  • WACCの計算では「負債コスト × (1 − 税率)」の節税効果を必ず適用する。税引前の負債コストをそのまま使うミスが多い
Uのメモ
企業価値評価の問題で最初に戸惑ったのは「FCFと利益は違う」というところでした。損益計算書では費用として計上した減価償却費を「足し戻す」のと同様に、設備投資は損益に出てこないのに現金としてはマイナスになる——利益とキャッシュの乖離を意識することが、FCF計算の前提になっています。

セールスミックスは「1円売るといくら残るか(限界利益率)」から「1時間使うといくら残るか(時間当たり限界利益)」に視点を切り替えるだけなのですが、問題文に制約条件の記述があるかどうかで完全に解法が変わります。本番では問題文を丁寧に読んで「制約ありか否か」を最初に確認する癖をつけようと思っています。
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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