【中小企業診断士試験令和7年度過去問財務会計 第6問 解説】繰延資産の分類・一時償却・開発費を図解で整理

U

繰延資産の問題を解いていて、ある違和感に気づきました。「研究開発費」と「開発費(繰延資産)」——名前が似ているのに、会計ルールがまったく正反対なんです。これ、意図的に混同させようとしているとしか思えない……と思ったら、案の定、試験で罠として出てきました。今回は、混乱しやすいポイントを図解でまるごと整理していきます。

この記事では令和7年度 第6問「繰延資産」を解説します。
繰延資産は5種類の区分と、「研究開発費 vs 開発費」という名前の罠が核心です。
図・表・物語形式で、試験問題を正確に解けるまで整理していきます。
令和7年度 第1次試験|財務・会計|第6問 知識問題
繰延資産に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 会社設立時にかかった株式発行費用と新株発行時にかかった株式発行費用を繰延資産とする場合には、株式交付費に含める。
  • イ 会社の設立のためにかかった費用や開業準備にかかった費用は、繰延資産に属する創立費として資産計上することができる。
  • ウ 研究開発費は発生時に費用化することが求められているため、開発費は繰延資産とすることができない。
  • エ 支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、未償却残高を一時に償却する。 ✓
目次

この問題の位置づけ

財務・会計
└ 第2章 決算整理
├ 減価償却(有形固定資産)
├ 棚卸資産の評価
├ 有価証券の評価
├ 引当金(貸倒引当金)
繰延資産← 今ここ

頻出度・難易度・試験戦略

頻出度
★★★
数年に一度。出ると必ず「区別の細かさ」を問う
難易度
★★★
計算なし。「名前が似た別物」の混同が難しい
費用対効果
覚える種類は5つのみ。一度整理すれば盤石
目安時間
1〜2分
知識問題。計算不要。即判定できる

繰延資産とは何か — 「先払い費用」の発想から

会社を立ち上げるとき、登記費用・定款作成費用・開業準備費用……多くのコストが、事業が動き出すに一気にかかります。もし「支出した年に全額費用化」というルールしかなければ、創業初年度の損益計算書だけが赤字まみれになり、翌年以降は費用ゼロという歪な状態が続きます。

繰延資産の発想はシンプルです。「この費用は、将来の複数の期間にわたって事業に効果をもたらす。だから、その期間にわたって少しずつ費用化しよう」——これが繰延資産の本質です。将来への効果に対する”前払い費用”の一形態と考えると、スッと腑に落ちます。

種類 内容 タイミング 償却期間
創立費 会社設立のための費用(登記費・定款作成等) 設立前 5年以内
開業費 設立後・開業前の準備費用(広告・人件費等) 設立後〜開業前 5年以内
株式交付費 新株発行のための費用(登録税・印刷費等) 増資時(設立後) 3年以内
社債発行費 社債発行のための費用 社債発行時 社債の償還期限まで
開発費 新技術・新市場開拓のための特別支出 開発活動時 5年以内

※ 償却方法はいずれも「均等額以上の任意償却」。固定資産の定額法・定率法とは異なる。

「いつかかったか」で区分が変わる — 設立タイムライン

ア・イの選択肢の罠は、「設立前」「設立後〜開業前」「設立後の増資時」というタイミングの違いで区分が変わることを理解できているか、を問うています。

PHASE 1
会社設立前
登記費用
定款作成費
設立時の
株式発行費用
→ 創立費
PHASE 2
設立後・開業前
広告宣伝費
スタッフ採用費
オフィス準備費
→ 開業費
PHASE 3
設立後・増資時
新株発行の
登録税
印刷費
→ 株式交付費
5
年以内
創立費・開業費・開発費の償却期間
3
年以内
株式交付費の償却期間(短い!)
任意
償却
全種類、均等額以上なら早期全額償却もOK
U

「研究開発費」と「開発費(繰延資産)」——名前が似ているのに、まったく別のルールが適用されているんですよね。最初は「え、同じじゃないの?」と思いましたが、これは意図的に区別されています。なぜかを理解すると、ウの選択肢がすぐに見破れるようになります。

正解への道筋 — 4つの選択肢を判定する

選択肢ア ✗ 不正解
設立時の株式発行費用 ≠ 株式交付費
設立時の費用は「創立費」。株式交付費は設立後の増資時のみ。タイミングで区分が変わる。
選択肢イ ✗ 不正解
開業費は「創立費」ではなく独立した区分
設立前の費用が創立費、設立後・開業前の費用が開業費。「創立費として」という限定が誤り。
選択肢ウ ✗ 不正解
研究開発費(費用化義務) ≠ 開発費・繰延資産(任意計上可)
名前が似ているが別概念。繰延資産の「開発費」は新技術・新市場のための特別支出であり、資産計上できる。
選択肢エ ✓ 正解
効果がなくなれば → 未償却残高を一時に費用処理(一時償却)
繰延資産は将来の効果への前払い。効果がゼロになったなら、残りを一括返還(費用化)するのは会計の論理として自然な帰結。
正解:エ

選択肢の解剖 — 罠の構造を見破る

選択肢 主張の内容 正誤 罠にはまる思考パターン
設立時+増資時の費用を全部「株式交付費」に含める 「株式発行に関係あるなら全部株式交付費」と大雑把に括る
設立費用+開業準備費用を「創立費」として計上 文章の半分が正しいため「なんとなく合っている」と感じる
研究開発費が費用化必須 → だから開発費も繰延資産不可 「研究開発費=開発費(繰延資産)」という名前の罠
効果がなくなった繰延資産は未償却残高を一時に償却 会計の論理として正しい処理

最大の罠 — 「研究開発費」vs「開発費(繰延資産)」

この2つは名前が似ているだけで、適用されるルールがまったく異なります。なぜ違うかを理解すると、試験本番でも迷いません。

研究開発費(R&D費)
発生した期に
全額費用化(義務)
将来の成果が不確実なため資産計上不可
根拠:企業会計基準第7号
繰延資産に計上できない
開発費(繰延資産)
繰延資産として
資産計上できる(任意)
新技術・新市場のための特別支出で効果が見込まれる
根拠:会社計算規則
5年以内で任意償却
ウの選択肢が巧妙な理由
1
前半「研究開発費は発生時に費用化」→ 正しい知識を踏み台にする
2
だから開発費も繰延資産にできない」→ この「だから」が嘘
3
正しい知識から誤った結論を導く構造。正しい前提に安心してしまうと、誤った結論をそのまま受け入れてしまう。

身近な場面で考える — 選択肢をイメージで理解する

✗ 不正解 設立時+増資時の費用 → 全部「株式交付費」
あなたが会社を設立した。登記費用・定款の作成費・このときの株式発行費用がかかった。
3年後、事業拡大のために増資した。また株式発行のコストがかかった。

「どちらも株式発行に関係あるんだから、まとめて『株式交付費』でいいよね」——この発想が、罠の正体です。
会社を「生み出す」ための費用と、すでに動いている会社が「規模を大きくする」ための費用は、性格が違います。
設立時の費用は創立費、設立後の増資時の費用が株式交付費です。「株式発行が共通点」という見た目だけで同じ箱に入れようとするところが罠です。
設立時は創立費。増資(新株発行)のときだけ株式交付費。「いつの費用か」で区分が変わる。
✗ 不正解 設立費用+開業費 → 全部「創立費」として計上
会社の設立が決まり、定款を作り、登記をした——これが設立前の費用(創立費)。
設立が終わった後、開業に向けて広告を出し、スタッフを集め、オフィスを整えた——これが設立後・開業前の費用(開業費)。

「どちらも会社を始めるためにかかったんだから、全部『創立費』でしょ」——惜しいですが、それは違います。
「創立」は会社が法的に誕生するまでのフェーズ。誕生した後の準備は開業費という独立した繰延資産の区分に収まります。
「どちらも繰延資産に属する」という点は正しいのですが、「創立費として」という限定が誤りです。文章の半分が正しいために「なんとなく合っている」と感じさせる、典型的な部分正解型の罠です。
会社が生まれるまで=創立費。生まれた後の準備=開業費。フェーズが異なる別の区分。
✗ 不正解 研究開発費が費用化 → だから開発費も繰延資産にできない
あなたの会社が新製品の研究・開発にコストをかけた。これは会計ルール上、発生した年に全額費用処理しなければならない。

……では、新技術の開発のために「今後3年で成果を出す」と具体的な計画を立てて特別に支出した費用は、どうでしょうか?
「研究開発費と同じだから費用化するしかない」——そう思ったとしたら、名前の罠にはまっています。
研究開発費(費用化義務)と開発費・繰延資産(任意計上可)は、名前が似ていても適用ルールが正反対です。
研究開発費が費用化必須なのは「将来の成果が不確実」だから。一方、繰延資産の「開発費」は「成果が見込まれる特別支出」という前提があって初めて認められます。同じ「開発」という文字に引きずられないことが、この問題の核心です。
「研究開発費」(義務)と「開発費・繰延資産」(任意)は別物。名前の類似に惑わされない。
✓ 正解 効果がなくなった繰延資産は未償却残高を一時に償却する
5年かけて均等に費用化するつもりで、繰延資産に計上した費用があった。
ところが2年後、「この事業は撤退することになった」と判断した。
残り3年分の未償却残高がある。でも、もう効果は見込めない。

このまま「資産」として帳簿に残し続けるのは、実態を歪めることになります。
だから——残りの未償却残高をまとめて、その期の費用として認識する。これが「一時償却」です。
繰延資産は「将来への前払い」の発想で計上するものです。その将来の効果がゼロになったなら、前払いを即時返却(費用化)するのは会計の論理として自然な帰結です。
効果があり続ける限りは少しずつ費用化し、効果が消えた瞬間に一括返還する——このシンプルな原則がエの正しさを支えています。
繰延資産=将来への前払い。効果ゼロになったら一括返還(一時償却)。これが会計の論理。

一時償却のしくみ — フローで整理する

繰延資産を計上している
→ 支出の効果はまだ期待できるか?
YES(効果あり) 均等額以上を毎期
少しずつ費用化
(任意償却)
NO(効果なし) 未償却残高を
一括で費用化
(一時償却)

繰延資産の一時償却は、固定資産の「減損処理」と同じ発想です。将来の効果が見込めなくなった資産を、帳簿上に残し続けることは実態の歪みになる——その会計の原則から来ています。

1次試験から2次試験への橋渡し

2次試験との関係

繰延資産が2次試験で直接問われることは多くありませんが、事例企業の財務諸表に繰延資産が登場したとき、その意味を読む力として活きます。

「この会社が開発費を繰延資産として多額に計上している」→ 将来への投資姿勢・今後のキャッシュフロー・リスク(効果が出なければ一時償却で損失急増)を読む文脈として使えます。

また「研究開発費は費用化必須」という知識は、2次試験で費用構造を分析するとき、P/Lの費用の性格を見極める基礎にもなります。

まとめ — 繰延資産の核心を3行で押さえる

  • 繰延資産5種類:創立費(5年)・開業費(5年)・株式交付費(3年)・社債発行費(償還期限まで)・開発費(5年)。タイミングで区分が変わる。
  • 研究開発費(費用化義務)≠ 開発費・繰延資産(任意計上可)。名前が似ているだけで別物。根拠となる法規・理由がまったく異なる。
  • 効果がなくなれば一時償却。繰延資産は「将来への前払い」。将来の効果がゼロなら、未償却残高を即時全額費用化する。
  • 次にこの論点と出会ったとき、最初に立てる問いは「これはどのタイミングで、どの区分に属する話か?」。その一手間が全ての罠を回避してくれます。

また、Uのメモスペースとして——繰延資産の5種類を語呂で覚えるなら「そう・かい・かぶ・しゃ・かい(創・開・株・社・開)」。償却が短いのは「株式交付費(3年)」だけ、と覚えると試験本番でも迷いません。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

目次