【中小企業診断士試験令和7年度過去問財務会計 第7問 解説】投資有価証券売却益・移動平均法を図解で整理
令和7年第7問を解いていて、気づいたことがありました。問題文に「前期末株価620円」という数字が堂々と書いてある。でも、その数字を使ってはいけない。試験委員が意図的に置いた「使いたくなる罠」だったのです。移動平均法の計算手順はもちろん、「なぜその数字を使ってはいけないのか」という本質まで、図解で整理してみます。
以下の投資有価証券に関する資料に基づき、当期の投資有価証券売却益として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
【資料】
・当社はA社株式を長期保有目的で保有している。
・当期において、過去に数度にわたって徐々に購入してきたA社株式1,000株のうち800株を、1株700円で売却した。
・購入履歴:(a) 7期前 300株×500円 (b) 5期前 500株×660円 (c) 3期前 200株×650円
・前期までに減損は生じていない/前期末株価:620円
・取得単価の計算方法:移動平均法を採用
- ア 64,000円
- イ 72,000円 ← 正解
- ウ 80,000円
- エ 90,000円
POINT
移動平均法=購入のたびに平均単価を更新する。3回の購入で平均単価610円が確定し、800株売却の損益を計算する。前期末株価620円は罠の数字——使う場面は減損判定のみ。
財務・会計
├── 第1章 財務会計の基礎
├── 第2章 決算整理
│ ├── 減価償却
│ ├── 棚卸資産の評価(先入先出・移動平均)
│ ├── 有価証券の評価 ← 今ここ
│ │ ├── 分類(売買目的・満期保有・子会社等・その他)
│ │ ├── 取得単価の計算(移動平均法・総平均法)
│ │ └── 売却損益の計算
│ └── 引当金
├── 第3章 原価計算
└── 第4章 財務分析
★★★★
頻出度
有価証券は毎年何らかの形で出題。移動平均法は近年の定番
★★★
難易度
計算自体は掛け算と割り算のみ。「どの数字を使うか」の判断が難所
必答
得点戦略
手順を習得すれば確実に得点できる。3〜4分で解答したい
目次
なぜ有価証券を4種類に分けるのか
もし「有価証券を全部同じルールで処理していい」としたら、何が起きるでしょうか。
経営者は「株価が上がった時だけ売却して利益を計上し、下がった時は売らずに持ち続ける」という行動を自由に選べてしまいます。利益を意図的に操作できる抜け穴が生まれる。それを防ぐために、会計基準は「なぜ持っているか」という目的で分類を決め、目的ごとに評価ルールを変えるのです。
4つの分類と、それぞれの会計処理を整理します。今回の問題に登場する「長期保有目的」がどの分類に当たるかを確認してください。
目的短期的な売買で利益を得る
評価期末に時価評価(強制)
差額当期損益(P/Lに計上)
例デイトレーダーが持つ株、短期運用の債券
目的満期まで持ち続けて利息を得る
評価原価法(時価評価なし)
差額なし(償却原価法の場合のみ)
例10年後に満期の国債、社債
目的支配力・影響力の維持
評価原価法(時価評価なし)
差額なし
例グループ会社の株式、持分法適用会社
その他有価証券 今回はここ
固定資産(投資有価証券)
目的上記以外。長期保有目的もここ
評価期末に時価評価(強制)
差額純資産(OCI)に計上——P/Lには出ない
例取引先との関係維持目的の株式
移動平均法とは何か|「混ぜるたびに更新する」仕組み
コーヒー豆を仕入れているカフェを想像してください。豆は産地や時期によって仕入れ価格が変わります。一度目は「キロ500円の豆」、二度目は「キロ660円の豆」。この2種類の豆をブレンドして大きなタンクに入れたとき、「今この豆の原価はいくら?」という問いに答えるために、混ぜた瞬間に新しい平均単価を計算し直す——これが移動平均法の本質です。
「先入先出法」は「古い豆から順番に使う」という前提を置きますが、移動平均法は「もう混ざって区別できない」という前提に立ちます。問題文に「移動平均法を採用している」と書いてあれば、個々の購入を追いかけるのではなく、その都度の平均単価を使う計算をします。
→
7期前|300株購入
500円
平均単価
300株 × 500円 = 150,000円
÷ 300株 = 500円
→
5期前|500株追加
600円
更新後の平均単価
150,000+330,000 = 480,000円
÷ 800株 = 600円
→
3期前|200株追加
610円
最終確定の平均単価
480,000+130,000 = 610,000円
÷ 1,000株 = 610円
3回の購入を丁寧に計算する|ステップ解説
01
7期前:300株を1株500円で購入
これが最初の購入。平均単価はそのまま取得単価と一致する
| 区分 | 株数 | 単価 | 金額 |
| 購入(今回) | 300株 | 500円 | 150,000円 |
| 累計・平均単価 | 300株 | 500円 | 150,000円 |
平均単価 = 150,000円 ÷ 300株 = 500円
02
5期前:500株を1株660円で追加購入
既存の300株(単価500円)と新たな500株(単価660円)を混ぜる。ここで平均単価が動く
| 区分 | 株数 | 単価 | 金額 |
| 既存(前ステップから) | 300株 | 500円 | 150,000円 |
| 新規購入(今回) | 500株 | 660円 | 330,000円 |
| 合計・更新後平均 | 800株 | 600円 | 480,000円 |
合計金額 = 150,000円 + 330,000円 = 480,000円
平均単価 = 480,000円 ÷ 800株 = 600円
第3回購入(3期前の200株)を無視してSTEP02で計算を止めてしまうと、平均単価は600円になります。売却益 = 800株 × (700円 − 600円) = 80,000円。惜しいですが、移動平均法ではすべての購入を漏れなく反映する必要があります。
03
3期前:200株を1株650円でさらに追加購入
800株(単価600円)に200株(単価650円)を追加。3回目の混合で最終単価が確定する
| 区分 | 株数 | 単価 | 金額 |
| 既存(STEP02から) | 800株 | 600円 | 480,000円 |
| 新規購入(今回) | 200株 | 650円 | 130,000円 |
| 合計・最終確定平均 | 1,000株 | 610円 | 610,000円 |
合計金額 = 480,000円 + 130,000円 = 610,000円
平均単価(確定) = 610,000円 ÷ 1,000株 = 610円
04
当期:800株を1株700円で売却
売却価額(700円)から帳簿価額(移動平均610円)を引けば売却損益が出る
投資有価証券売却益の計算
帳簿価額(売却分の原価)
800株 × 移動平均単価610円
488,000円
投資有価証券売却益
560,000 − 488,000
72,000円
「620円」は罠の数字|前期末株価を使ってはいけない理由
問題文には「前期末のA社株式の株価は620円である」という一文があります。一見すると計算に使えそうな数字です。実際、選択肢アの64,000円はこの620円を使った場合の答えです。
しかしこれは意図的に置かれた罠です。620円はあくまでも「市場でついている価格」であり、「自分が実際に払った金額の平均」とは別物です。
帳簿価額(売却原価に使う)
610円
移動平均法で計算した取得単価。3回の購入を平均した結果。「自分が実際に支払ってきた原価の平均」。これが売却損益計算の基準になる。
→ 売却価額700円 − この610円 = 90円/株の利益
売却損益の計算に使う
前期末時価(減損判定に使う)
620円
前期末時点での市場価格。毎日動く株価の、ある一時点のスナップショット。取引先がつけた値段であり、自分の支払い原価とは無関係。
→ 使い道:「帳簿価額610円より高いから減損不要」という確認のみ
売却損益の計算には使わない
「前期末株価620円」は何に使うのか?
→ 減損が必要かどうかのチェックのみ
↓
時価 ≥ 帳簿価額(今回のケース)
620円 > 610円
→ 減損処理不要
帳簿価額はそのまま610円
時価が著しく下落した場合
例:時価が400円まで下落
→ 強制評価減(減損)
帳簿価額を時価まで切り下げ
4つの選択肢をイメージで理解する
スマートフォンの証券アプリを開くと、A社株式の現在値が表示されていました。「そうか、この620円が今の株の価値だ。これを原価として使えば計算できる」と思い、700円から620円を引いて計算しました。
800株 × (700円 − 620円) = 64,000円
← 620円は「前期末の市場価格」であり、取得原価ではない
アプリの「現在値」は株式市場の需給で決まる数字です。それに対して「取得原価」は、過去に実際に支払った金額の記録。620円は「前期末の市場価格(時価)」であり、売却損益の計算には使いません。時価と帳簿価額を混同した場合に辿り着く答えです。試験委員が最も引っかけたい選択肢でもあります。
正しくは:帳簿価額=移動平均単価610円を使う
カフェのオーナーが豆の仕入れ台帳を開きます。3回に分けて仕入れた豆は今ごちゃ混ぜになっているから、仕入れのたびに計算し直した「今の平均原価」を使って売上原価を出す。台帳に記録された610円/kg——これが移動平均法の答えです。
平均単価:610,000円 ÷ 1,000株 = 610円
売却益:800株 × (700円 − 610円) = 72,000円
3回の購入をすべて反映して移動平均を計算し、その単価(610円)を売却原価として使用した正解です。「前期末株価620円」は減損判定のための参考値とし、計算には使わない——この判断が正解への分かれ道でした。
覚え方:移動平均 =「混ぜるたびに台帳を更新」、売却原価は「台帳の数字」から引く
「購入履歴が3つあるけど、3回目の200株は少ないし、最初の2回で800株購入して平均を出せばいいか」。面倒な計算を省略して、7期前と5期前だけで平均600円を計算しました。
(300株×500円 + 500株×660円) ÷ 800株 = 600円 ← 3回目を無視
800株 × (700円 − 600円) = 80,000円
移動平均法はすべての購入を反映します。3回目の200株×650円を加えることで平均単価は600円から610円に上昇します。その10円の差が800株分に効いて、最終的に8,000円の計算誤差になります。「面倒だから省略」が命取りになる典型例です。
正しくは:3回目の購入後、610,000円 ÷ 1,000株 = 610円が正しい平均単価
「一番最初に仕入れた豆から順番に使うべきだ」と考え、7期前に購入した300株(500円)を先に売ったものとして計算しました。残りの500株は5期前購入の660円……。でも移動平均法の問題でこの発想は違います。
300株×500円 + 500株×660円 の先入先出的な計算を試みた場合
または:800株 × (700円 − 500円) = 160,000円…数字が合わない
← 「90,000円」の出所は別のミスパターンだが、移動平均法の否定が根本
問題文に「移動平均法を採用している」と明記されています。先入先出法(古いものから順に売ったとみなす方法)の発想で計算すると、まったく異なる答えが出ます。問題を読む際に「どの計算方法か」を最初に確認することが、この設問の最重要ポイントです。
立て直し:「移動平均法」と「先入先出法」の違いを棚卸資産の計算で復習する
速解きのチェックポイント|本番で迷わないために
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まず「計算方法」を確認する——移動平均法か総平均法か。問題文に必ず書いてある。ここを読み飛ばすと全く違う答えに辿り着く
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購入履歴を古い順に並べ、1件ずつ平均を更新する——移動平均法は「購入のたびに(既存帳簿価額 + 新規購入金額)÷ 総株数」を繰り返すだけ
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前期末株価は減損チェックにのみ使う——売却損益の計算には絶対に使わない。帳簿価額(移動平均単価)から引くのが正しい
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セルフチェック:最終平均単価 × 総株数 = 合計帳簿価額が成立するか確認する。610円 × 1,000株 = 610,000円 ✓
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「長期保有目的」=その他有価証券(投資有価証券)——B/Sの固定資産に計上。売却損益はP/Lの「投資有価証券売却益」に計上される
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この記事を書いた人
中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。