U令和7年度の過去問を解いていて、選択肢イで「90千円」という計算が出たとき、思わず○をつけそうになりました。でも答えはウ。後から確認すると、イは計算の数字は合っているのに「繰延税金負債」と「繰延税金資産」のラベルが逆でした。税効果会計は「計算できるだけでは足りない」——この問題でその怖さを実感しました。
- ア 期首に備品を購入し、減価償却方法を定額法とすると、取得原価10,000千円、残存価値1,000千円、会計上の耐用年数が5年、税務上の耐用年数が4年の場合、1年目の終わりには135千円の繰延税金負債が計上される。
- イ 期首に備品を購入し、減価償却方法を定額法とすると、取得原価10,000千円、残存価値1,000千円、会計上の耐用年数が5年、税務上の耐用年数が6年の場合、1年目の終わりには90千円の繰延税金負債が計上される。
- ウ 前期に計上した賞与引当金3,000千円が全額損金不算入となり、繰延税金資産が900千円計上されていたとする。当期末に賞与引当金3,300千円を設定し、同額が損金不算入になった場合、繰延税金資産は90千円だけ増加することになる。 ← 正解
- エ 当期に積立金方式による圧縮記帳を行ったことにより将来減算一時差異が10,000千円生じた場合、当期末には3,000千円の繰延税金資産が計上される。
前期末残高900千円→当期末残高990千円、差額の純増加が90千円。他の3つは一時差異の「向き」または「資産・負債の判定」が誤り。
税効果会計がなぜ必要か|「会計と税務のズレ」を今見える化する理由
会計上「今期の費用」として計上した金額を、税務が「今期の損金」として認めるとは限りません。このズレを放置すると、P/Lの税金費用が「実態と合わない金額」になってしまいます。税効果会計は、そのズレを繰延税金資産・負債という形で見える化し、財務諸表を実態に近づける仕組みです。
会計と税務のズレで実際の納税額は250万円になった場合——
P/Lに「法人税等:250万円」と記載すると、
利益率が毎期バラバラに見える。財務諸表の比較ができない。
→ 差額50万円を繰延税金負債としてB/Sに積む
→ P/Lの税金費用は「理論上の300万円」に揃う
税引後利益が「税引前利益×70%」に近づき、財務諸表が実態を映す。
税務上で今期「得をした」なら将来にツケが来る(負債)。今期「損をした」なら将来に取り戻せる(資産)。この感覚を持っておくと、どの場面で何が生じるかが自然に判断できるようになります。
一時差異の向きを見極める地図|「今期どちらが費用を多く計上したか」が出発点
「将来加算」「将来減算」という言葉は直感に反しやすいですが、「今期、会計と税務のどちらが費用を多く計上したか」という一点から出発すると、方向が自然に決まります。
(どちらが「今期」多く計上しているか?)
→ 今期の課税所得が低い(税金少)
→ 将来は税務上の費用が少なくなり課税所得が増える
→ 今期の課税所得が高い(税金多)
→ 将来は税務上の費用が増え課税所得が下がる
| 状況 | 一時差異の種類 | B/Sに計上 | この問題での例 |
|---|---|---|---|
| 税務上の費用 > 会計上 | 将来加算一時差異 | 繰延税金負債 | ア(税務耐用4年 < 会計5年) |
| 会計上の費用 > 税務上 | 将来減算一時差異 | 繰延税金資産 | イ(税務耐用6年 > 会計5年)・ウ(賞与引当金) |
| 積立金方式の圧縮記帳 | 将来加算一時差異 | 繰延税金負債 | エ(問題文の記述が逆になっている) |



実は「繰延税金資産」と「繰延税金負債」の名前を入れ替えると全部間違いになる、という逆から確認する方法が有効だと学びました。「資産」は将来に税金が減るから「資産(有利)」、「負債」は将来に税金が増えるから「負債(不利)」——この対応さえ体に入れておくと、計算の前に方向を確認できます。
アとイの計算を並べて比較する|耐用年数の「長短」で向きが逆転する
ア・イはどちらも「会計と税務で耐用年数が異なる備品」の問題です。計算の手順は同じですが、耐用年数のどちらが短いかで、一時差異の向きがまるごと逆になります。
| 計算ステップ | ア(税務4年・会計5年) | イ(税務6年・会計5年) |
|---|---|---|
| 会計上の償却費 | (10,000 − 1,000) ÷ 5年 = 1,800千円 | (10,000 − 1,000) ÷ 5年 = 1,800千円 |
| 税務上の償却費 | (10,000 − 1,000) ÷ 4年 = 2,250千円 | (10,000 − 1,000) ÷ 6年 = 1,500千円 |
| どちらが多い? | 税務上が多い(2,250 > 1,800) | 会計上が多い(1,800 > 1,500) |
| 差異と向き | 450千円 → 将来加算一時差異 | 300千円 → 将来減算一時差異 |
| 計上されるもの | 450 × 30% = 135千円の繰延税金負債 ✓ | 300 × 30% = 90千円の繰延税金資産(イは「負債」→ ✗) |
税務上の耐用年数が6年(会計より長い)→ 今期は会計上の費用の方が多い → 将来減算一時差異 → 繰延税金「資産」が正しい。計算が合っていると安心してラベルの確認を飛ばしてしまう——これがイの罠の本体です。
ウの正解を読み解く|賞与引当金の「前期・当期中・当期末」を時系列で追う
ウは賞与引当金の税効果を「前期末→当期中→当期末」の3ステップで追う問題です。省略された動きを1つ1つ丁寧に確認すると、どこから90千円が来るのかがはっきりします。
繰延税金資産 = 3,000 × 30% = 900千円(前期末の残高)
繰延税金資産 = 3,300 × 30% = 990千円(当期末の残高)
= 当期末残高(990千円)− 前期末残高(900千円)
= 90千円の増加 → ウ 正解



整理してみると、賞与引当金の税効果は毎期「取り崩し→新規計上」を繰り返すサイクルで動いています。前期末残高と当期末残高の差がそのまま純増減になる——引当金の差額補充法と同じ発想ですね。第1問の貸倒引当金で学んだ構造が、ここでも使えます。
選択肢をイメージで理解する|4つの選択肢を日常の場面で解剖する
試験本番のチェックポイント|「計算が合っていても区分が逆」という罠を防ぐ
- 計算の前に「向き」を確認する習慣をつける — 税務上の費用が多い→将来加算→負債 / 会計上が多い→将来減算→資産。この一軸を先に決めてから計算する
- 「資産」は将来の税金割引・「負債」は将来のツケ払い — 感覚として持っておくと、計算後に「この結果は筋が通るか?」と確認できる
- 引当金の税効果は「前期末残高と当期末残高の差」が純増減 — 取り崩しと新規計上を省略して純額で捉えることができる(差額補充法と同じ発想)
- 積立金方式の圧縮記帳は必ず「将来加算→繰延税金負債」 — 直感と逆になりがちな論点。「会計上の資産価値が高いまま残る→将来に余分な課税」という流れで覚える
- イのようなひっかけに注意:計算が合っていても答えが違う — 計算後に「資産か負債か」のラベルを必ず再確認する癖をつける









