【中小企業診断士試験令和7年度過去問財務会計 第9問 解説】税効果会計・繰延税金資産・繰延税金負債を図解で整理

U

令和7年度の過去問を解いていて、選択肢イで「90千円」という計算が出たとき、思わず○をつけそうになりました。でも答えはウ。後から確認すると、イは計算の数字は合っているのに「繰延税金負債」と「繰延税金資産」のラベルが逆でした。税効果会計は「計算できるだけでは足りない」——この問題でその怖さを実感しました。

令和7年度 第1次試験 財務・会計 第9問
税効果会計に関する記述として、最も適切なものはどれか。なお、法人税等の実効税率を30%として計算していることを前提とする。また、繰延税金資産の回収可能性は考慮しなくてよい。
  • ア 期首に備品を購入し、減価償却方法を定額法とすると、取得原価10,000千円、残存価値1,000千円、会計上の耐用年数が5年、税務上の耐用年数が4年の場合、1年目の終わりには135千円の繰延税金負債が計上される。
  • イ 期首に備品を購入し、減価償却方法を定額法とすると、取得原価10,000千円、残存価値1,000千円、会計上の耐用年数が5年、税務上の耐用年数が6年の場合、1年目の終わりには90千円の繰延税金負債が計上される。
  • ウ 前期に計上した賞与引当金3,000千円が全額損金不算入となり、繰延税金資産が900千円計上されていたとする。当期末に賞与引当金3,300千円を設定し、同額が損金不算入になった場合、繰延税金資産は90千円だけ増加することになる。 ← 正解
  • エ 当期に積立金方式による圧縮記帳を行ったことにより将来減算一時差異が10,000千円生じた場合、当期末には3,000千円の繰延税金資産が計上される。
正解・論点
答え:ウ 繰延税金資産は90千円増加
前期末残高900千円→当期末残高990千円、差額の純増加が90千円。他の3つは一時差異の「向き」または「資産・負債の判定」が誤り。
頻出度
★★★★☆
数年に1度は出題。計算込みの複合問題として近年増加傾向
難易度
★★★★☆
「向きの判定」と「資産・負債の区分」が重なって混乱しやすい
得点戦略
やや難
計算ミスより「向きの逆転ミス」に注意。概念の整理が先決
目次

税効果会計がなぜ必要か|「会計と税務のズレ」を今見える化する理由

会計上「今期の費用」として計上した金額を、税務が「今期の損金」として認めるとは限りません。このズレを放置すると、P/Lの税金費用が「実態と合わない金額」になってしまいます。税効果会計は、そのズレを繰延税金資産・負債という形で見える化し、財務諸表を実態に近づける仕組みです。

税効果会計がない場合
税引前利益1,000万円に対して、理論上の税金は300万円のはずなのに、
会計と税務のズレで実際の納税額は250万円になった場合——

P/Lに「法人税等:250万円」と記載すると、
利益率が毎期バラバラに見える。財務諸表の比較ができない。
税効果会計がある場合
「今期250万円しか払っていないが、将来に50万円のツケが来る」
→ 差額50万円を繰延税金負債としてB/Sに積む
→ P/Lの税金費用は「理論上の300万円」に揃う

税引後利益が「税引前利益×70%」に近づき、財務諸表が実態を映す。
核心をひとことで:税効果会計は「税金の先払い・後払いのズレ」を今の財務諸表に反映する技術
税務上で今期「得をした」なら将来にツケが来る(負債)。今期「損をした」なら将来に取り戻せる(資産)。この感覚を持っておくと、どの場面で何が生じるかが自然に判断できるようになります。

一時差異の向きを見極める地図|「今期どちらが費用を多く計上したか」が出発点

「将来加算」「将来減算」という言葉は直感に反しやすいですが、「今期、会計と税務のどちらが費用を多く計上したか」という一点から出発すると、方向が自然に決まります。

今期の費用を比べる:会計上の費用 vs 税務上の費用
(どちらが「今期」多く計上しているか?)
税務上の費用が多い
今期は税務上で多く損金算入
→ 今期の課税所得が低い(税金少)
→ 将来は税務上の費用が少なくなり課税所得が増える
将来加算一時差異 → 繰延税金「負債」
会計上の費用が多い
今期は会計上で多く費用認識
→ 今期の課税所得が高い(税金多)
→ 将来は税務上の費用が増え課税所得が下がる
将来減算一時差異 → 繰延税金「資産」
状況 一時差異の種類 B/Sに計上 この問題での例
税務上の費用 > 会計上 将来加算一時差異 繰延税金負債 ア(税務耐用4年 < 会計5年)
会計上の費用 > 税務上 将来減算一時差異 繰延税金資産 イ(税務耐用6年 > 会計5年)・ウ(賞与引当金)
積立金方式の圧縮記帳 将来加算一時差異 繰延税金負債 エ(問題文の記述が逆になっている)
U

実は「繰延税金資産」と「繰延税金負債」の名前を入れ替えると全部間違いになる、という逆から確認する方法が有効だと学びました。「資産」は将来に税金が減るから「資産(有利)」、「負債」は将来に税金が増えるから「負債(不利)」——この対応さえ体に入れておくと、計算の前に方向を確認できます。

アとイの計算を並べて比較する|耐用年数の「長短」で向きが逆転する

ア・イはどちらも「会計と税務で耐用年数が異なる備品」の問題です。計算の手順は同じですが、耐用年数のどちらが短いかで、一時差異の向きがまるごと逆になります。

計算ステップ ア(税務4年・会計5年) イ(税務6年・会計5年)
会計上の償却費 (10,000 − 1,000) ÷ 5年 = 1,800千円 (10,000 − 1,000) ÷ 5年 = 1,800千円
税務上の償却費 (10,000 − 1,000) ÷ 4年 = 2,250千円 (10,000 − 1,000) ÷ 6年 = 1,500千円
どちらが多い? 税務上が多い(2,250 > 1,800) 会計上が多い(1,800 > 1,500)
差異と向き 450千円 → 将来加算一時差異 300千円 → 将来減算一時差異
計上されるもの 450 × 30% = 135千円の繰延税金負債 ✓ 300 × 30% = 90千円の繰延税金資産(イは「負債」→ ✗)
イのひっかけ:「90千円」という計算は正しい。でも「負債」と「資産」が逆。
税務上の耐用年数が6年(会計より長い)→ 今期は会計上の費用の方が多い → 将来減算一時差異 → 繰延税金「資産」が正しい。計算が合っていると安心してラベルの確認を飛ばしてしまう——これがイの罠の本体です。

ウの正解を読み解く|賞与引当金の「前期・当期中・当期末」を時系列で追う

ウは賞与引当金の税効果を「前期末→当期中→当期末」の3ステップで追う問題です。省略された動きを1つ1つ丁寧に確認すると、どこから90千円が来るのかがはっきりします。

01
前期末|賞与引当金3,000千円を計上(損金不算入)
会計上は「今期の費用」として3,000千円を賞与引当金に計上しました。ところが税務上は「まだ払っていない」という理由で損金として認めてもらえません。会計上の費用が税務上より多い→将来減算一時差異→繰延税金資産が生じます。
将来減算一時差異:3,000千円
繰延税金資産 = 3,000 × 30% = 900千円(前期末の残高)
02
当期中|前期の賞与3,000千円を実際に支払い(差異が解消)
当期に実際に賞与を支払ったことで、税務上も損金として認められます。「将来減算」の「将来」が来た瞬間です。一時差異が解消し、前期末に計上した繰延税金資産900千円を取り崩します。
繰延税金資産 900千円を取り崩す(−900千円)
03
当期末|新たに賞与引当金3,300千円を設定(また損金不算入)
翌期に支払うボーナス分として、当期末に新たに3,300千円の賞与引当金を設定します。また同じパターンが繰り返され、新しい繰延税金資産を計上します。
将来減算一時差異:3,300千円
繰延税金資産 = 3,300 × 30% = 990千円(当期末の残高)
繰延税金資産の純増加額
= 当期末残高(990千円)− 前期末残高(900千円)
90千円の増加 → ウ 正解
U

整理してみると、賞与引当金の税効果は毎期「取り崩し→新規計上」を繰り返すサイクルで動いています。前期末残高と当期末残高の差がそのまま純増減になる——引当金の差額補充法と同じ発想ですね。第1問の貸倒引当金で学んだ構造が、ここでも使えます。

選択肢をイメージで理解する|4つの選択肢を日常の場面で解剖する

耐用年数:税務4年・会計5年 → 135千円の繰延税金負債 正解
AさんとBさんが同じ仕事を分担します。Aさん(税務)は4年で終わらせ、Bさん(会計)は5年かけます。今年はAさんの方が多く仕事をしている(費用が多い)。でも将来、Aさんの仕事が終わった5年目には、Bさんだけが仕事を続けることになります。将来はBさん(会計)だけに費用が残り、Aさん(税務)には費用がない→課税所得が増える→「将来のツケ」が増える。
税務上の耐用年数が短い(4年)→今期の税務上の費用が多い→将来加算一時差異→繰延税金負債が計上されます。差異450千円×30%=135千円の繰延税金負債。記述通りで正しい。
「税務が先に終わる=今期得して将来払う=繰延税金負債」
耐用年数:税務6年・会計5年 → 90千円の繰延税金「負債」と言っているが… 不正解 | 資産が正しい
今度はBさん(会計)が5年で終わり、Aさん(税務)が6年かけます。今年はBさんの方が多く仕事をしている(会計上の費用が多い)。今期の課税所得はAさん(税務)の方が費用が少ない分だけ高くなります。でも将来の6年目、今度はAさんだけが仕事を続け、課税所得が下がる→税金が減る→「将来の取り戻し」が待っている。
会計上の耐用年数が短い(5年)→今期の会計上の費用が多い→将来減算一時差異→繰延税金「資産」が正しい。計算(300千円×30%=90千円)は合っているが、「負債」ではなく「資産」です。
「計算が合っても、資産か負債かを必ず確認する」
賞与引当金 3,000千円→3,300千円 → 繰延税金資産が90千円増加 正解
会社が「来春のボーナス用に300万円を積立」した場合を想像してください。家計簿(会計)には今期の費用として記録しますが、税務署は「まだ払っていない」と損金を認めません。翌年、実際にボーナスを払ったとき(損金算入)に差異が解消し、さらに今期末に330万円の積立(引当金設定)をやり直す。前期末の積立(税効果資産)と今期末の積立の差が、そのまま繰延税金資産の純増加額になります。
前期末:繰延税金資産900千円 → 当期中:取り崩し900千円 → 当期末:新規計上990千円(3,300×30%)。純増加=990-900=90千円増加。記述通りで正しい。
「前期末残高と当期末残高の差が純増減」
積立金方式の圧縮記帳 → 「将来減算→繰延税金資産」と言っているが… 不正解 | 将来加算→繰延税金負債が正しい
国から補助金をもらって機械を買った場合。積立金方式は「機械の帳簿価額を下げない」方式です。帳簿上の機械価値は高いまま(会計)、でも税務上は圧縮損を認めて価値を低く見ている。将来、この機械を減価償却するとき、会計上の費用の方が多くなる→課税所得が増える→将来に税金のツケが来る→「将来加算一時差異」→繰延税金「負債」です。
積立金方式の圧縮記帳では「会計上の帳簿価額 > 税務上の帳簿価額」→将来加算一時差異→繰延税金「負債」が正しい。選択肢は「将来減算一時差異」「繰延税金資産」と、向きも区分も両方逆になっています。
「積立金方式の圧縮記帳 = 将来加算(負債)。方向を逆に覚えると両方外れる」

試験本番のチェックポイント|「計算が合っていても区分が逆」という罠を防ぐ

  • 計算の前に「向き」を確認する習慣をつける — 税務上の費用が多い→将来加算→負債 / 会計上が多い→将来減算→資産。この一軸を先に決めてから計算する
  • 「資産」は将来の税金割引・「負債」は将来のツケ払い — 感覚として持っておくと、計算後に「この結果は筋が通るか?」と確認できる
  • 引当金の税効果は「前期末残高と当期末残高の差」が純増減 — 取り崩しと新規計上を省略して純額で捉えることができる(差額補充法と同じ発想)
  • 積立金方式の圧縮記帳は必ず「将来加算→繰延税金負債」 — 直感と逆になりがちな論点。「会計上の資産価値が高いまま残る→将来に余分な課税」という流れで覚える
  • イのようなひっかけに注意:計算が合っていても答えが違う — 計算後に「資産か負債か」のラベルを必ず再確認する癖をつける
U のメモ
この問題を解いて気づいたことがあります。税効果会計は、会計と税務の間にある「時間差」を今の財務諸表に映す技術なんですよね。賞与引当金でいえば「今期は費用を先に計上したけれど、税務上の認識は来期」——この時間差が生む不一致を、繰延税金資産という形で見える化しているわけです。制度の「なぜ」を理解すると、どの方向で資産・負債が生じるかが暗記ではなく理屈で出てくるようになりました。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

目次