Uスーパーで「198円」の値札を見て、「200円より安い」と感じたことはありますか。
差はたった2円なのに、なんとなくお得に感じてしまう——この感覚に「端数価格」という正式な名前があると知ったのは、価格戦略を勉強してからです。
身近な買い物の場面に、こんなにも理論が隠れていたのかと少し驚いています。
価格は「4P」のひとつでありながら、最も即効性のある競争変数のひとつとされています。どのような根拠で価格を設定するか——その考え方を3つのアプローチに分けて、心理的な工夫と合わせて整理します。
APPROACH 01
コスト志向型
かかったコストに利益を上乗せして価格を決める。計算しやすい半面、市場の実態が反映されにくい。
APPROACH 02
需要志向型
消費者がどのくらいの価値を感じているかを起点に価格を決める。知覚価値が高いほど高価格が成立する。
APPROACH 03
競争志向型
競合他社の価格を基準に設定する。業界の価格水準が安定しやすい半面、利益が圧迫されやすい。
目次
価格設定の3つのアプローチ
コスト志向型価格設定
代表的な手法:コストプラス法・マークアップ法
製品の原価(材料費・労務費・製造間接費)に、目標利益率を上乗せして価格を決める方法。
例:原価1,000円 × 1.3(30%マークアップ)= 販売価格1,300円
例:原価1,000円 × 1.3(30%マークアップ)= 販売価格1,300円
特徴:計算が明確で社内説明がしやすい。市場の需要水準や競合の動向が考慮されないため、価格が実態とズレる可能性がある。
需要志向型価格設定
代表的な手法:知覚価値価格設定・需要曲線ベース
「消費者がどれだけの価値を感じているか」を起点に価格を設定する方法。原価ではなく、顧客の価値認識が基準となる。
例:同じ水でも空港の自販機なら高めでも買う。
例:同じ水でも空港の自販機なら高めでも買う。
特徴:市場の実態に近い価格を設定できる。高い知覚価値がなければ高価格は維持できないため、ブランドや体験の質が重要になる。
競争志向型価格設定
代表的な手法:市場価格追随・実勢価格法
業界の標準価格や主要競合の価格を基準に自社の価格を決める方法。ガソリンや穀物など差別化が難しい市場で多く見られる。
特徴:業界の価格水準が安定しやすい。ただし競合追随だけでは自社のコスト構造が反映されず、利益が圧迫されることがある。
| アプローチ | 価格の決め方 | 向いているケース |
|---|---|---|
| コスト志向 | 原価+利益率で算出 | 原価が明確な製造業・小売業 |
| 需要志向 | 顧客の価値認識から逆算 | 高級ブランド・体験型サービス |
| 競争志向 | 競合他社の価格を基準に設定 | 差別化が難しいコモディティ市場 |
心理的価格設定の4つの手法
消費者の心理的な反応を利用して、より魅力的に感じさせる価格設定の手法です。試験でも頻出で、具体例とセットで覚えておくと選択肢の絞り込みがしやすくなります。
TYPE 01
端数価格(はしたかかく)
198円 / 2,980円
キリのよい数字より少しだけ低い価格をつけることで、実際より安く感じさせる手法。「198円は200円よりずっと安い」という感覚を意図的に作り出します。
TYPE 02
威光価格(いこうかかく)
高価格=高品質の演出
あえて高い価格をつけることで「品質が高い」「特別なもの」という印象を与える手法。高級ブランドや高級レストランが用いるプレミアム価格です。
TYPE 03
慣習価格(かんしゅうかかく)
自動販売機の缶コーヒー
長年の慣習で消費者が「この価格が当然」と思い込んでいる価格帯。値上げすると強い抵抗感が生まれ、需要が大きく落ち込む可能性があります。
TYPE 04
段階価格(松・竹・梅)
3段階の価格帯を用意
複数の価格帯を用意して、選択肢によって消費者の購買を誘導する手法。多くの場合、中間価格の「竹」が最も選ばれやすいという傾向があります。
新製品の価格戦略:スキミングとペネトレーション
新製品を市場に投入するとき、「高い価格で始めて徐々に下げるか」「最初から低い価格でシェアを取りに行くか」——この2つの方向性が繰り返し出題されます。
SKIMMING PRICE
上澄み吸収価格
初期価格高価格でスタート
推移段階的に引き下げ
狙い初期購入者から高利益を回収
有効な条件革新性が高く模倣困難
身近な例スマートフォン新機種発売直後
PENETRATION PRICE
市場浸透価格
初期価格低価格でスタート
推移シェア拡大後に引き上げ
狙い素早い市場浸透・競合参入阻止
有効な条件価格弾力性が高く大量生産可能
身近な例サブスクの初月無料・試用期間
価格弾力性との関係
価格戦略を選ぶうえで、「その商品の需要はどれだけ価格変化に敏感か」を測る需要の価格弾力性が重要な判断軸になります。
需要の価格弾力性(E)= 需要量の変化率(%) ÷ 価格の変化率(%)
弾力性 高い(E > 1)
価格変化に対して需要変化が大きい
少し値上げするだけで需要が大きく落ち込む。逆に値下げすると需要が増え、売上(価格×数量)が伸びる可能性がある。
例:贅沢品・旅行・外食・代替品の多い商品
→ ペネトレーション価格が有効なケース
→ ペネトレーション価格が有効なケース
弾力性 低い(E < 1)
価格変化に対して需要変化が小さい
多少値上げしても需要はあまり変わらない。値上げによって売上を増やせる可能性がある。
例:医薬品・ガソリン・塩などの生活必需品
→ スキミング価格・値上げ戦略が成立するケース
→ スキミング価格・値上げ戦略が成立するケース
コンビニの商品で考えてみると
日常の場面から整理する
コンビニの棚を思い浮かべながら、学んだ理論を当てはめてみます。
ふだん何気なく見ている価格表示に、いくつもの理論が重なっていることに気づきます。
PB商品 vs NB商品
コンビニのプライベートブランド弁当は、メーカー品より低価格。原価を抑えて低価格でも利益が出る構造は、コスト志向+市場浸透的な考え方です。
コーヒーのS・M・L
100円・150円・180円の3段階。多くの人がMを選ぶ傾向があるのは「段階価格(松竹梅効果)」によるものだと考えられます。
178円という表示
「178円」は180円でなく、あえて端数にした「端数価格」。わずかな差でも視覚的に「安い」と感じさせる効果を意図しています。
缶コーヒーの慣習価格
自動販売機の缶コーヒーは長年130円が標準でした。値上げすると消費者の抵抗感が強く、需要が急落しやすい「慣習価格」の典型例です。
過去問に挑戦
過去問① 新製品の価格戦略
企業経営理論
新製品を市場に投入する際の価格設定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア スキミング価格政策は、低価格で大量販売することで市場シェアを素早く獲得するための戦略である。
- イ スキミング価格政策は、当初高価格を設定し段階的に価格を引き下げることで、異なる顧客層から利益を回収する戦略である。
- ウ ペネトレーション価格政策は、高い利益率を確保するために当初から高価格を設定する戦略である。
- エ ペネトレーション価格政策は、製品の革新性が高く模倣困難なケースに特に有効である。
解説
正解はイです。スキミング(上澄み吸収)は「高価格スタート→段階的値下げ」、ペネトレーション(市場浸透)は「低価格スタート→シェア拡大」。アはペネトレーションの説明であり、ウ・エはスキミングとペネトレーションを逆に説明しています。名称と内容のセットで覚えることが重要です。
過去問② 心理的価格設定
企業経営理論
心理的価格設定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 慣習価格とは、高い価格をつけることで品質が高いという印象を与える価格設定法である。
- イ 威光価格とは、消費者が長年の慣れによって「適正」と思い込んでいる価格水準のことである。
- ウ 端数価格とは、198円や980円のように端数を用いることで、消費者に安さを印象づける価格設定法である。
- エ 段階価格とは、製品の単価を1つに絞ることで購買決定を単純化させる価格設定法である。
解説
正解はウです。端数価格は「キリのよい数字の直前の価格で安く見せる手法」。アは威光価格の説明、イは慣習価格の説明(アとイが入れ替わった典型的なひっかけ)。段階価格は複数の価格帯を用意する手法なので、エも誤りです。各名称と内容の対応をセットで確認しておきましょう。
U のメモ
価格戦略で整理に時間がかかったのは、「3つのアプローチ」「心理的価格の4手法」「新製品の2戦略」が別々の概念として並んでいることでした。それぞれ「どう決めるか」「どう感じさせるか」「どう投入するか」と役割が違う、と整理してからスッキリしました。
過去問では、スキミングとペネトレーションの説明が入れ替わったひっかけが多いです。「上澄み=高価格スタート」「浸透=低価格スタート」というキーワードを確実に覚えておこうと思っています。
過去問では、スキミングとペネトレーションの説明が入れ替わったひっかけが多いです。「上澄み=高価格スタート」「浸透=低価格スタート」というキーワードを確実に覚えておこうと思っています。









