知識経営論まとめ|SECIモデル・暗黙知・形式知・組織学習を図解で整理

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地域の工場で長年働いていたベテランの職人さんが退職されたとき、その方の技が誰にも引き継がれないまま失われてしまったという話を読んで、それが「暗黙知の喪失」というビジネス課題に直結していると知りました。知識経営論はそういう問題意識から生まれた理論なのだと、入口から引き込まれた分野です。

知識経営論は、企業がどのように知識を創造・活用・継承するかを扱う理論です。中小企業診断士の試験では「SECIモデル」「暗黙知・形式知」「組織学習」の3テーマが頻出で、それぞれが密接に関連しています。まず知識の分類を整理してから、創造のプロセスへと進みましょう。
目次

暗黙知と形式知|ポランニーの知識分類

暗黙知(Tacit Knowledge)
言葉にしにくい、主観的な知識
言語化・数値化が難しい主観的な知識。長年の経験や感覚の中に蓄積され、本人も意識しないまま使っていることが多い。
  • 職人の勘・身体的技能
  • 熟練営業マンの交渉感覚
  • 経験則・ノウハウ・直感
例:自転車の乗り方(体で覚えるもの。言葉で説明するのが難しい)
形式知(Explicit Knowledge)
言語化・文書化できる、客観的な知識
言語・数式・図表・マニュアルで表現できる客観的な知識。記録・共有・伝達が容易で、組織の資産として管理しやすい。
  • 業務マニュアル・手順書
  • 財務諸表・設計図・仕様書
  • データベース・研究論文
例:自転車の構造解説書(部品名・寸法・仕組みを文字と図で記述できる)

SECIモデル(野中郁次郎)|知識変換の4プロセス

→ 暗黙知へ
→ 形式知へ
暗黙知
から ↓
共同化(Socialization)S
暗黙知 → 暗黙知
体験・観察・模倣を通じて、他者の暗黙知を自分の暗黙知として共有するプロセス。言語を介さず、ともに経験することが重要。
OJT・見習い修行・職場同行・ブレインストーミング
表出化(Externalization)E
暗黙知 → 形式知
暗黙知を言語・図・概念・比喩に変換して形式知にするプロセス。SECIの中で最もイノベーションの核心とされる。
マニュアル化・コンセプト創造・ベストプラクティス文書化
形式知
から ↓
内面化(Internalization)I
形式知 → 暗黙知
形式知を学習・実践を通じて体得し、自分の暗黙知とするプロセス。「学んで身につける」段階。
マニュアルを読み込んで習得・e-learning・シミュレーション訓練
連結化(Combination)C
形式知 → 形式知
既存の形式知を組み合わせ・編集・再分類して、新たな形式知を生み出すプロセス。
データベース統合・業績レポート作成・社内ナレッジポータル
知識創造スパイラル:S(共同化)→ E(表出化)→ C(連結化)→ I(内面化)→ S(共同化)…と循環し、組織全体の知識が螺旋状に拡大していく。
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SECIの4つの中で試験で最も問われるのは「表出化(E)」です。暗黙知をマニュアルやコンセプトに変換するこのプロセスが、言語化できなかった知識を組織の資産に変える——つまりイノベーションの出発点になるという位置づけで、出題者も重視している印象があります。

ba(場)の概念|知識創造の場を設計する

01
創出の場(Originating ba)対面・個人
個人が直接経験・対面接触を通じて感情・感覚・経験を共有する場。共同化(S)を支える。
OJT / 職場同行 / メンター制度
02
対話の場(Dialoguing ba)対面・集合的
個人の暗黙知を対話・比喩・コンセプトで表現し、チーム全体の形式知にする場。表出化(E)を支える。
合宿 / ワークショップ / ブレスト会議
03
システムの場(Systemizing ba)仮想・集合的
テクノロジーを介して形式知を組み合わせ・共有・編集する場。連結化(C)を支える。
グループウェア / 社内Wiki / データベース
04
実践の場(Exercising ba)仮想・個人
個人が形式知を実践・訓練を通じて自分の暗黙知として体得する場。内面化(I)を支える。
e-learning / シミュレーション / 業務実践

組織学習(アージリス&ション)

シングルループ学習
既存の枠組みの中での問題解決
既存の行動規範・前提・価値観はそのままにして、結果のエラーを修正・改善する学習。「どうやれば目標を達成できるか」を問い直す。
  • 売上が下がったので値引きする
  • 不良率が上がったので製造手順を改善
  • 既存商品のコスト削減を継続
特徴:効率的だが「そもそも目標設定は正しいか」を疑わない。漸進的改善に向く。
ダブルループ学習
前提・価値観そのものを問い直す学習
既存の行動規範・前提・支配的価値観そのものを見直し、変革する深い学習。「なぜその目標を追うのか」を問い直す。
  • そもそもこの商品を売り続けるべきか
  • 事業の前提を見直した戦略転換
  • 組織の支配的価値観を問い直す変革
特徴:組織・個人両レベルで起こる。イノベーションや抜本的変革の基盤となる。
比較項目 シングルループ学習 ダブルループ学習
問い直す対象 行動・方法(How) 目標・前提・価値観(Why)
変化の規模 漸進的改善 抜本的変革・イノベーション
発生レベル 個人・組織 個人・組織(両方で起こる)
身近な例 値引きで売上を回復 そもそも事業モデルを見直す

過去問で確認する

企業経営理論 — SECIモデル H29年度 第21問 改
野中郁次郎のSECIモデルに関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 共同化とは、形式知を組み合わせて新たな形式知を生み出すプロセスである。
  • イ 表出化とは、暗黙知を形式知に変換するプロセスであり、コンセプト創造等が該当する。
  • ウ 連結化とは、形式知を体験や実践を通じて暗黙知として身につけるプロセスである。
  • エ 内面化とは、体験・観察・模倣により暗黙知を他者に移転するプロセスである。
解説
正解は。表出化(E)=暗黙知 → 形式知の変換。コンセプト創造・マニュアル化がその典型。
ア:「形式知を組み合わせて新たな形式知」→ 連結化(C)の説明(×)。
ウ:「形式知を実践を通じて暗黙知として体得」→ 内面化(I)の説明(×)。
エ:「体験・観察・模倣により暗黙知を移転」→ 共同化(S)の説明(×)。
企業経営理論 — 組織学習 H27年度 第19問 改
ダブルループ学習に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア ダブルループ学習は、既存の行動規範の範囲内で問題を解決する学習である。
  • イ シングルループ学習は、前提や価値観そのものを問い直す深い学習である。
  • ウ ダブルループ学習は組織の支配的価値観や前提を見直し、行動規範自体を変革する学習である。
  • エ ダブルループ学習は個人レベルでのみ起こり、組織レベルでは生じない。
解説
正解は。ダブルループ学習の核心は「前提・価値観・行動規範そのものを変革する」点にある。
ア:「既存の行動規範の範囲内での問題解決」→ シングルループ学習の説明(×)。
イ:「前提や価値観そのものを問い直す」→ ダブルループの説明。シングルとダブルが逆になっている(×)。
エ:ダブルループ学習は個人レベルでも組織レベルでも生じる(×)。

Uのまとめメモ

MEMO — 整理してわかったこと
  • 暗黙知(言語化しにくい経験・感覚)と形式知(マニュアル・数式)は、ポランニーの知識分類が起点。まずここを押さえる
  • SECIモデルはS・E・C・Iの順で「暗黙知と形式知がどう変換されるか」を示した螺旋モデル。4つの向きを混同しないよう2×2グリッドで覚える
  • 試験頻出は表出化(E)。「暗黙知 → 形式知」「コンセプト創造・マニュアル化」がセットで問われる
  • ba(場)の4分類は、SECIの4モードと対応している。「どの場がどのモードを支えるか」まで押さえておく
  • 組織学習のシングル・ダブルの違いは「行動を変えるか/前提ごと変えるか」。ダブルは個人にも組織にも起こる点に注意
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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