「頑張れば報われると思えているか」——過去問を解いていて、ふとこの問いが浮かびました。期待理論を初めて目にしたとき、「そういえば自分が勉強を続けられるのも、受かるという見込みがあるからかもしれない」と感じて。プロセス理論をまとめてみたら、モチベーションの仕組みがずいぶん整理されてきたので、ここに書き残しておこうと思います。
モチベーション理論には大きく2つの系統があります。「何がやる気を生むか」を問う内容理論と、「どのようにやる気が形成されるか」を問うプロセス理論です。前回の記事(マズロー・ハーズバーグ)は内容理論を扱いました。この記事では、プロセス理論の3つ——ブルームの期待理論、アダムズの公平理論、ロックの目標設定理論——を整理していきます。診断士試験では両系統とも問われるため、分類ごとに頭に入れておくと応用がきくようです。
内容理論(Content Theory)
マズロー(欲求5段階)、ハーズバーグ(2要因)、マクレランド(達成・権力・親和)
プロセス理論(Process Theory)
ブルーム(期待理論)、アダムズ(公平理論)、ロック(目標設定理論)
試験での分類ポイント:「期待理論・公平理論・目標設定理論=プロセス理論」とすぐに紐付けられるかどうかが問われます。選択肢に「プロセス理論」「期待理論」という語が出てきたときに、迷わず対応できるように整理しておきたいところです。
目次
期待理論(ブルーム)
ブルーム(Vroom, 1964)の期待理論は、「人は期待と報酬への魅力を掛け合わせて行動を選ぶ」という考え方です。人がどれほど努力するかは、3つの認知的評価の積で決まるとされています。
FACTOR 01
期待(Expectancy)
努力すれば成果が出るという確信。「頑張れば達成できる」という見込み。値は 0〜1 で表される。
低下要因:目標が高すぎる・スキル不足・劣悪な環境
FACTOR 02
手段性(Instrumentality)
成果が報酬につながるという確信。「結果を出せば評価される」という見込み。値は −1〜+1。
低下要因:評価制度への不信・成果と報酬の不連動
FACTOR 03
誘意性(Valence)
その報酬に対する魅力の強さ。「その報酬は欲しい」という度合い。値は −1〜+1。0で無関心、マイナスで嫌悪。
低下要因:報酬への関心がない・むしろ負担に感じる
「掛け算なので1つでも0になると全体が0」という部分が、過去問でよく問われるポイントのようです。たとえば給与(誘意性)は高くても、「どうせ評価されない」(手段性=0)と感じてしまったら、やる気は消えてしまう。理論として整理すると、腑に落ちる感覚があります。
公平理論(アダムズ)
アダムズ(Adams, 1963)の公平理論は、「人は報酬の絶対額ではなく、他者との比較によって不満を感じる」という考え方です。自分の投入量(Input)と成果(Output)の比率を他者と比べて、不公平だと感じるとモチベーションが低下するとされています。
自分の Input
労力・時間
スキル・経験
学歴・資格
/
自分の Output
給与・昇進
評価・地位
やりがい
他者の Input
労力・時間
スキル・経験
学歴・資格
/
他者の Output
給与・昇進
評価・地位
やりがい
不公平感を感じたとき、人は次の6つのいずれかで対処しようとするとされています。
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1
自分の Input を減らす——手を抜く・手間をかけなくなる
-
2
自分の Output を増やそうとする——昇給交渉・待遇改善の要求
-
3
比較相手の Input を歪めて認識する——「あの人はもっと楽をしているはず」
-
4
比較相手の Output を歪めて認識する——「あの人の評価はそれほどでもないはず」
-
5
比較対象を変える——もっと条件が近い人や別の職場と比べ直す
-
6
職場を去る——異動・転職・退職
診断士試験のポイント:公平理論は「絶対的な報酬額ではなく、他者との比較で不満が生まれる」という点が核心です。「同期より給与が低い」と感じたときに不満が高まるのは、この理論で説明できます。選択肢では「比較」「投入量と成果の比率」というキーワードが目印になります。
目標設定理論(ロック)
ロック(Locke, 1968)の目標設定理論は、「目標の質そのものがパフォーマンスに直接影響する」という考え方です。単に「頑張ろう」と思うより、具体的で困難な目標を設定したほうが最もパフォーマンスが高くなるとされています。
S
Specific
具体的であること。曖昧な表現ではなく、明確な内容で設定する。
M
Measurable
測定可能であること。達成・未達成が判定できる基準を持つ。
A
Achievable
達成可能であること。難しいが不可能ではないレベルに設定する。
R
Relevant
関連性があること。本人の価値観・目的と結びついている目標。
T
Time-bound
期限があること。いつまでに達成するかが明確に定まっている。
目標の難易度とパフォーマンスの関係は、次のように整理できます。
フィードバックの重要性:目標設定だけでなく、進捗に関するフィードバックがあるとさらにパフォーマンスが高まるとされています。「どこまで進んでいるか」がわかる状態を作ることが大切です。
身近な場面で考えてみると
「試験勉強のモチベーションが続かない」という経験は、多くの方にあるのではないかと思います。この状態を3つの理論から眺めてみると、少し見え方が変わってくるかもしれません。
期待理論(ブルーム)から見ると
「どれだけ勉強しても合格できるかわからない」と感じているなら、期待(E)が低下しています。また「合格しても収入が増えるかわからない」なら手段性(I)が下がっています。3つのうち1つでも確信が持てなければ、やる気の式全体が崩れてしまいます。
公平理論(アダムズ)から見ると
「同じ勉強時間なのに、あの人は模試でずっと高得点だ」と感じたとき、自分の投入量と成果の比率が他者より低いように見えてきます。これが不公平感となり、「もう手を抜こうか」という気持ちにつながることがあります。
目標設定理論(ロック)から見ると
「いつかは合格する」という漠然とした目標では、パフォーマンスは上がりません。「〇年〇月の試験で財務を60点以上取る」という具体的かつ期限のある目標に落とし込むことで、行動が変わってくるとされています。
3つの理論を並べてみると、「やる気が出ない理由」を自分で診断する道具になるのが面白いところです。どの理論が自分に当てはまるかを考えながら読むと、記憶にも残りやすいと感じています。
過去問で確認する
ブルームの期待理論に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア モチベーションは、報酬の絶対額の大きさによってのみ決まる。
- イ モチベーションは、期待・手段性・誘意性の積として表される。
- ウ 期待とは、成果が報酬に結びつくという確信を指す。
- エ 誘意性がプラスであれば、手段性がゼロでもモチベーションは維持される。
解説
正解はイ。モチベーション(F)=期待(E)×手段性(I)×誘意性(V)の積で表されます。ウは「期待」と「手段性」の定義が逆になっています。期待=努力が成果につながる確信、手段性=成果が報酬につながる確信です。エは掛け算のため手段性が0なら全体が0になるため誤りです。
アダムズの公平理論において、不公平感が生じたときの対処行動として、最も不適切なものはどれか。
- ア 自分の投入量(Input)を減らす。
- イ 自分の成果(Output)を増やすよう働きかける。
- ウ 比較対象を設けず、自分の絶対的な評価基準のみで判断し直す。
- エ 組織を離れる(転職・退職)。
解説
正解はウ。公平理論では、不公平感は「他者との比較」によって生まれます。「比較対象を設けない」という行動は理論の枠外にあたります。対処行動6つ(Input削減・Output増加・他者InputやOutputの認知的歪め・比較対象の変更・離職)はすべて比較を前提にしています。
ロックの目標設定理論に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 目標は達成しやすい水準に設定するほど、モチベーションは高まる。
- イ 目標を設定するだけで十分であり、フィードバックは不要である。
- ウ 困難ではあるが達成可能な具体的な目標が、最も高いパフォーマンスを引き出す。
- エ 目標の内容よりも報酬の大きさのほうが、行動に対する影響が大きい。
解説
正解はウ。目標設定理論の核心は「具体的で困難(だが達成可能)な目標が最大のパフォーマンスを生む」という点です。アは逆(簡単すぎると低パフォーマンス)。イはフィードバックの重要性を否定しており誤り。エは報酬ではなく目標の質に着目する理論です。
プロセス理論3つを整理して気づいたのは、それぞれが「モチベーションが下がる原因」を違う角度から説明しているということです。期待理論は「見込みの崩れ」、公平理論は「比較による不満」、目標設定理論は「目標の質の低さ」——それぞれ別のレイヤーで機能しています。試験でどの理論が問われているかを素早く判別するために、キーワードを整理しておきます。
・期待理論 → 「期待・手段性・誘意性の積」「ブルーム(Vroom)」
・公平理論 → 「Input/Output比較」「他者との比較」「アダムズ」
・目標設定理論 → 「具体的・困難な目標」「フィードバック」「ロック」
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内容理論(何が)とプロセス理論(どのように)を分類できる
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期待理論:F=E×I×V の式と各要素の定義を言える
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公平理論:比較による不公平感と6つの対処行動を押さえている
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目標設定理論:SMART・困難で具体的な目標・フィードバックの3点を理解している
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各理論の提唱者名(ブルーム・アダムズ・ロック)と年代を紐付けられる
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