U過去問を解いていて「WACCを割引率として使う」という一文で手が止まりました。WACCって何を表しているのか、なぜそれを割引率に使うのか——そこを整理しないまま式を暗記しても、応用が利かないと感じて、改めて一から整理してみました。
WACCは「企業が資金を調達するためにかかるコストの平均」を表す指標です。負債(借入)と株主資本の2つの資金源を、それぞれの比率で加重平均して計算します。投資判断・企業価値評価・最適資本構成の検討など、財務・会計の中核に位置する概念のひとつです。この記事では計算の手順・CAPMによる株主資本コストの算出・タックスシールド・MM理論まで、順を追って整理しています。
資本コストとは
利息を支払う
加重平均コスト
配当・値上がり益
資本コストは「お金を調達するためにかかるコスト」です。借入ならば利息、株主資本ならば株主への期待リターンがそれに当たります。企業が投資を行うとき、その投資のリターンが資本コストを上回らなければ、資金提供者(銀行・株主)の期待に応えられません。WACCはこの「最低限クリアすべきハードルレート」を表しています。
WACCの計算式
式の意味を言葉にすると「負債の割合 × 税引き後の負債コスト」と「株主資本の割合 × 株主資本コスト」を足し合わせたものです。それぞれの資金源が全体に占める比率で重み付けするため、「加重平均」と呼ばれます。
▍数値例で計算する(負債1,000万円・株主資本2,000万円・rd=3%・re=8%・t=30%)
= 0.70% + 5.33%
= 約 6.03%
D 1,000 + E 2,000
3%×(1−0.3)
この投資の最低収益率
この例でいえば、企業がある投資を行うとき、年間6.03%以上の収益率を達成して初めて「資金提供者の期待に応えた」と言えます。それを下回るなら投資しない方がよい——というのがWACCを使った投資判断の基本的な考え方です。
CAPM(株主資本コストの求め方)
CAPMの核心は「リスクに見合ったリターン」という考え方です。β(市場感応度)が高いほど不確実性が大きく、株主はより高いリターンを要求します。企業側からすれば「株主が満足する収益率=株主資本コスト」として、WACCの計算に組み込むことになります。



β(ベータ)は最初「何の感応度?」と混乱しました。「市場全体が1%動いたとき、この株が何%動くか」という直感を掴んでから、CAPMの式がすっと入ってきた気がします。
タックスシールド(節税効果の仕組み)
負債(借入)には税務上の優遇があります。支払利息は損金として計上できるため、課税所得が減り、法人税の負担が軽くなります。この節税効果を「タックスシールド(税の盾)」と呼びます。
→ 税額:300万円
→ 税引き後利益:700万円
法人税30% → 税額:270万円
→ タックスシールド = 30万円の節税
- 課税所得が減る
- 実質コストが下がる
- タックスシールドが生まれる
- 課税後の利益から配当
- 節税効果はない
- 株主資本コストは高め
タックスシールドがあるため、負債の実質コストは株主資本コストより低くなりやすいです。「それなら借入を増やせば増やすほどWACCが下がってお得では?」という疑問が生まれます。その答えが次の最適資本構成の話につながります。
最適資本構成とMM理論
この「タックスシールドの現在価値 = 倒産コストの現在価値」となる点が最適資本構成と考えられています。



MM理論は「完全市場なら資本構成は関係ない」という前提から出発して、現実の不完全性(税金・倒産コスト)を足していく流れで理解すると整理しやすかったです。試験では「タックスシールドがあるから負債は有利」「でも倒産コストとのトレードオフ」というセットで押さえておくと対応しやすいと感じています。
WACCとNPVの関係
WACCは投資判断の場面で「割引率」として使います。NPV(正味現在価値)の計算では、将来のキャッシュフローを現在価値に換算するために割引率が必要です。その割引率にWACCを使うのが一般的なアプローチです。
「WACCを割引率として使う意味」は「この企業の資金調達コストを基準にして、投資案を評価する」ということです。企業ごとにWACCは異なるため、同じ投資案でも「採算が合う企業」と「合わない企業」が生じるのはこのためです。日常の場面に引き寄せると——住宅ローン金利1%の人と金利5%の人では、「この物件を買うべきか」の判断基準が変わるのと同じ発想です。
過去問で確認する
- ア 5.12%
- イ 7.36% ← 正解
- ウ 8.00%
- エ 9.20%
税引き後の負債コスト = 4% × (1 − 0.3) = 2.8%。
WACC = 40% × 2.8% + 60% × 10% = 1.12% + 6.00% = 7.12%。
※出題によって数値が微妙に異なる場合があります。計算ステップ(構成比 → 税引き後負債コスト → 加重平均)の順序を確実に押さえることが重要です。
- ア βは市場ポートフォリオに対する感応度であり、1より小さければリスクはゼロである
- イ 株主資本コストは re = rf + β × (rm − rf) で求められる ← 正解
- ウ リスクフリーレートは株式市場全体の期待収益率を指す
- エ βが大きいほど株主資本コストは低くなる
ア:β<1はリスクが市場より小さいことを意味しますが、ゼロではありません。
ウ:リスクフリーレートは国債利回りなど。市場全体の期待収益率は rm です。
エ:βが大きいほど市場感応度が高く、株主資本コストは高くなります。
- ア 完全市場では負債比率を高めるほど企業価値が増加する
- イ タックスシールドとは株主資本の節税効果を指す
- ウ タックスシールドの現在価値分だけ、負債活用により企業価値が高まる ← 正解
- エ 倒産コストが存在しても最適資本構成は存在しない
ア:完全市場(MM第1命題)では資本構成は企業価値に無関係です。
イ:タックスシールドは「負債(借入)利息」の節税効果です。
エ:倒産コストとタックスシールドのトレードオフにより、最適資本構成が存在します。
WACCを整理して、いくつか腑に落ちた点があります。
まず「なぜ負債コストに(1−t)を掛けるのか」——これはタックスシールドを組み込んでいるからで、利息の節税効果をWACC自体に反映させているということ。式を丸暗記するのではなく、この理由をわかってから式を見ると、構造がずっと見えやすくなりました。
次にCAPMのβ。業種や企業によって異なる「リスクの度合い」を数値化したもので、βが高い企業は株主も高いリターンを要求する = 株主資本コストが高い = WACCも上がりやすい、という連鎖が見えると、財務の各概念がつながって感じられます。
試験での出題は計算問題が多いですが、「WACCとは何のコストか」「なぜそれを割引率に使うのか」という概念を先に押さえておくと、問題文の読み違えが減ると感じています。
▍この記事のまとめ
- WACCは「負債コスト × 負債比率 + 株主資本コスト × 株主資本比率」の加重平均。負債コストには(1−t)で税引き後調整を忘れずに。
- 株主資本コストはCAPMで算出。re = rf + β × (rm − rf)。βが大きいほど株主資本コストは高くなる。
- タックスシールド = 利息 × 税率。負債利息は損金算入できるため、実質的な負債コストは下がる。
- MM第1命題:完全市場では資本構成は企業価値に無関係。修正MM理論:タックスシールドの分だけ負債活用で企業価値が上がる。
- 最適資本構成は「タックスシールドの現在価値 = 倒産コストの現在価値」となる点(トレードオフ理論)。
- NPV計算の割引率にWACCを使う。NPV > 0 なら投資実行、NPV < 0 なら見送りが基本的な判断基準。









