マンデル=フレミング・モデルまとめ|為替制度と財政・金融政策の効果を図解で整理

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過去問を解いていて、選択肢に「変動為替レート制度のもとでは財政政策の効果はゼロ」とあるのを見たとき、正直すぐには信じられませんでした。財政支出を増やせばGDPが増える——そう思い込んでいたのです。ところが開放経済に為替を持ち込むと、話はまったく変わるのです。

マンデル=フレミング・モデルは、開放経済版のIS-LM分析です。貿易や資本移動がある現実の経済では、財政政策・金融政策の効果が「為替レートがどの制度か」によって180度変わります。「変動相場制では財政政策が効かず、固定相場制では金融政策が効かない」——この対比が診断士試験でほぼ毎年問われます。
IS・LM・BP 3本の曲線で均衡を決める
変動 vs 固定 2つの為替制度で政策効果が逆転
ほぼ毎年 1次試験・経済学の頻出テーマ
目次

マンデル=フレミング・モデルとは

IS-LM分析は閉鎖経済(他国との取引がない経済)を前提とした分析でした。しかし現実の経済は、輸出・輸入という財の取引と、企業や投資家が国境を越えてお金を動かす資本移動の両方があります。マンデル=フレミング・モデルは、ここに為替レートと国際収支(BP曲線)を加えた拡張版です。

IS CURVE
IS曲線(財市場の均衡)
投資・政府支出・輸出から輸入を引いた純輸出(NX)が加わります。開放経済では為替レートが円安になると輸出が増えてIS曲線は右シフト、円高では逆になります。
LM CURVE
LM曲線(貨幣市場の均衡)
閉鎖経済と同じく、貨幣需要=貨幣供給の条件から導かれます。金融緩和(マネーサプライ拡大)でLM曲線は右シフトし、利子率が下がります。
BP CURVE
BP曲線(国際収支の均衡)
経常収支+資本収支=0となる利子率と国民所得の組み合わせを示す曲線です。資本移動が完全に自由(完全資本移動)の場合、BP曲線は水平になります(世界利子率水準で固定)。
完全資本移動が前提
診断士試験で扱うマンデル=フレミング・モデルは、完全資本移動(資本が瞬時に国境を越えて移動できる)を前提としています。この前提があるため、国内利子率が世界利子率を少しでも上回ると資本が流入し、少しでも下回ると流出します。この資本の動きが、各政策の効果を大きく変えることになります。

変動為替レート制度での政策効果

変動為替レート制度とは、外国為替市場での需要と供給によって為替レートが自由に変動する制度です。日本円はこの制度をとっています。毎日ニュースで「今日は1ドル=○円」と報道されているのがまさにその動きです。この制度のもとでは、財政政策と金融政策の効果がまったく対照的になります。

財政政策(政府支出の拡大)
GDPを増やそうと財政支出を拡大しても、最終的にGDPは変わりません。為替レートの動きがすべてを打ち消してしまいます。
効果ゼロ(完全クラウディングアウト)
金融政策(金融緩和)
マネーサプライを増やすと利子率が下がり、円安を通じて純輸出が増加。GDPは拡大します
有効(GDP拡大)
財政政策が「完全クラウディングアウト」する5つのステップ
01
政府支出の拡大 → IS曲線が右シフト
政府が公共事業などに支出を増やします。IS曲線が右にシフトして、財市場では国民所得の増加と利子率の上昇が起きます。
02
国内利子率が世界利子率を上回る → 海外から資本が流入
利子率が上昇すると、「日本で運用した方が有利」と判断した海外投資家がお金を日本に持ち込みます(資本流入)。完全資本移動なので、この動きは即座に起きます。
03
資本流入 → 円の需要が増加 → 円高に
海外投資家が日本の資産を買うために円を買います。円への需要が高まり、円高が進みます。
04
円高 → 輸出減・輸入増 → 純輸出(NX)が減少
円高になると日本の製品は海外で割高になり輸出が落ち込みます。同時に輸入品が安くなって輸入が増えます。純輸出(輸出−輸入)がちょうど財政支出の拡大分だけ減少します。
05
IS曲線が左にシフトして元に戻る → GDP変化ゼロ
純輸出の減少によってIS曲線が元の位置まで戻ります。結果としてGDPはもとの水準に戻り、財政政策の効果は完全に消えます。これを「完全クラウディングアウト」と呼びます。閉鎖経済のクラウディングアウト(投資が減る)とは異なり、ここでは純輸出が減ることで打ち消されます。
財政支出
拡大
IS右シフト
利子率
上昇
BP曲線上回る
資本
流入
海外マネー
円高
進行
為替レート上昇
純輸出
減少
IS左シフト
GDP
変化ゼロ
完全クラウディングアウト
金融政策が有効になるプロセス
金融緩和
(MS拡大)
LM右シフト
利子率
低下
BP曲線下回る
資本
流出
海外へ移動
円安
進行
為替レート低下
純輸出
増加
IS右シフト
GDP
拡大
金融政策は有効

金融緩和で利子率が下がると、今度は「海外で運用した方が有利」と国内の投資家がお金を海外に移します(資本流出)。円が売られて円安が進み、日本の輸出品が海外で割安になります。輸出が増えて純輸出(NX)が増加し、IS曲線が右シフト。最終的にGDPが拡大します。アベノミクスで「円安→輸出企業の業績回復」が注目されたのはまさにこのメカニズムです。

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円安のニュースを聞くたびに「輸出企業に有利」という解説がありますよね。それがこのフローそのものだったのです。マンデル=フレミングを学ぶと、ニュースの見え方が少し変わってきます。

固定為替レート制度での政策効果

固定為替レート制度とは、政府・中央銀行が外国為替市場に介入して為替レートを一定の水準に保つ制度です。中国の人民元は管理された固定相場制に近い運用をとっており、かつての日本(1ドル=360円の時代)もこの制度でした。この制度では、変動相場制と政策効果が入れ替わります

財政政策(政府支出の拡大)
固定相場制では、為替を維持するために中央銀行が金融政策で対応します。その結果、GDPは拡大します
有効(GDP拡大)
金融政策(金融緩和)
金融緩和を試みても、為替を維持するための対応で元に戻されてしまいます。独立した金融政策が実施できません。
効果ゼロ(不胎化)
固定相場制での財政政策:有効になるプロセス
財政支出
拡大
IS右シフト
利子率
上昇
BP曲線上回る
資本
流入
円高圧力
為替維持
のため介入
中央銀行が円売り
マネー
サプライ増
LM右シフト
GDP
拡大
財政政策は有効
なぜ「金融拡張」が自動的に起きるのか
固定相場制では、為替レートを一定に保つことが中央銀行の最優先義務です。財政支出拡大で利子率が上がると資本流入が起き、円が買われて円高になろうとします。これを止めるために中央銀行は円を売ってドルを買う(外国為替市場への介入)を行います。その結果、国内に円が供給されてマネーサプライが増加し、LM曲線が右にシフト。変動相場制では起きなかった「LM曲線の右シフト」が、固定相場制では自動的に発生するのです。
固定相場制での金融政策が「不胎化」されるプロセス
金融緩和
(MS拡大)
LM右シフト
利子率
低下
BP曲線下回る
資本
流出
円安圧力
為替維持
のため介入
中央銀行が円買い
マネー
サプライ減
LM左シフトで元に戻る
GDP
変化ゼロ
不胎化(効果消滅)

金融緩和で利子率が下がると、資本が流出して円安圧力が生じます。しかし固定相場制では、中央銀行は為替レートを守るために円を買ってドルを売る介入を行います。この円買いオペレーションによって国内のマネーサプライが縮小し、LM曲線は左にシフトして元に戻ります。当初の金融緩和による拡大効果が、為替維持のための介入によって完全に打ち消されるのです。これを「不胎化(sterilization)」と呼びます。固定相場制を採用している限り、中央銀行は独自の金融政策を持てません。

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「不胎化」という言葉、初めて見たときはギョッとしました。でも要するに「為替を守るための操作が、金融政策の効果を胎内で消し去ってしまう」という意味なのです。一度この言葉のイメージが定着すると忘れなくなります。

2制度の政策効果まとめ表

ここが記事の核心です。2×2の対比表として整理すると、試験本番でもすぐに思い出せます。「変動と固定は真逆になる」——これを体に染み込ませてください。

変動為替レート制度 固定為替レート制度
財政政策
(政府支出拡大)
効果ゼロ
利子率↑→資本流入→円高→純輸出↓
IS曲線が元に戻る(完全クラウディングアウト)
有効
利子率↑→資本流入→円高圧力→中央銀行介入(円売り)→MS増加→LM右シフト→GDP拡大
金融政策
(金融緩和)
有効
利子率↓→資本流出→円安→純輸出↑
IS右シフト→GDP拡大
効果ゼロ
利子率↓→資本流出→円安圧力→中央銀行介入(円買い)→MS減少→LM左シフト(不胎化)
試験での覚え方
「変動は金融、固定は財政」——この語呂で覚えると確実です。変動相場制では金融政策が有効(財政はゼロ)、固定相場制では財政政策が有効(金融はゼロ)。対称的な構造になっているため、どちらか一方を覚えれば、もう一方は「逆」とわかります。

購買力平価(PPP)

開放経済の議論で、もう1つ試験によく出るのが購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)です。「同じ商品は世界中どこでも同じ価格になるはずだ」という考え方を為替レートの決定理論に応用したものです。

絶対的購買力平価
同じ商品の価格が2国間で異なる場合、裁定取引が起きて価格差が解消される、という考え方。
為替レート=国内物価 ÷ 海外物価
有名な例が「ビッグマック指数」。各国のマクドナルドのビッグマックの価格を比較して、通貨の割安・割高を判定します。「日本のビッグマックは世界的に見て安い=円は割安」という議論がこれにあたります。
相対的購買力平価
価格の変化率に注目した理論。2国間のインフレ率の差が為替レートの変化率に等しくなる、という考え方。
為替レート変化率≒国内インフレ率-海外インフレ率
例えば日本のインフレ率が2%、アメリカが4%であれば、理論上は円が約2%増価(円高)する方向に動くはずだ、と予測できます。試験では相対的PPPのほうがよく問われます。
PPP の限界 ①
貿易財と非貿易財の区別
PPPは貿易で取引される財には成立しやすいですが、美容院のカットや不動産など輸出入できないサービス(非貿易財)には成立しません。「日本のカット料金は安いが、それだけで円が割安とはいえない」という問題があります。
PPP の限界 ②
短期では成立しにくい
資本移動や投機の影響を受けて、短期的には為替レートが大きく変動します。PPPが理論通りに成立するのは長期的な傾向であり、「今すぐ円安が解消される」という予測には使えません。
PPP の限界 ③
関税・輸送コストの存在
関税・輸送コスト・法規制があるため、理論上の裁定取引が完全には機能しません。同じ商品でも一物一価が成立しない場合は多く、PPPはあくまでも長期均衡への「引力」として考えるべきです。

過去問で確認する

中小企業診断士 1次試験 経済学・経済政策 マンデル=フレミング・変動相場制
変動為替レート制度を採用し、資本移動が完全に自由な小国開放経済において、マンデル=フレミング・モデルに関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 金融緩和政策を実施すると、利子率が低下して投資が増加するが、為替レートは変化しないためGDPへの効果は限定的となる。
  • イ 財政拡張政策を実施すると、利子率の上昇を通じた資本流入により為替レートが増価(円高)し、純輸出が減少するため、最終的なGDPへの効果はゼロとなる。
  • ウ 財政拡張政策を実施すると、乗数効果によりGDPが増加し、固定為替レート制度と同様の効果が得られる。
  • エ 金融緩和政策を実施すると、利子率が低下して資本が流入し、為替レートが増価(円高)するためGDPは変化しない。
正解・解説
正解:イ
変動相場制では財政政策の効果はゼロになります(完全クラウディングアウト)。財政拡張→利子率上昇→資本流入→円高→純輸出減少→IS曲線が元の位置に戻る、という連鎖です。
ア:金融緩和では利子率低下→資本流出→円安→純輸出増加→GDP拡大、が正しい流れ。「為替が変化しない」は誤り。
ウ:変動相場制での財政政策は固定相場制とは逆で効果ゼロ。
エ:金融緩和では資本が「流出」し円安になります。「流入・円高」は逆。
中小企業診断士 1次試験 経済学・経済政策 マンデル=フレミング・固定相場制
固定為替レート制度を採用し、資本移動が完全に自由な小国開放経済において、マンデル=フレミング・モデルに基づく政策効果として、最も適切なものはどれか。
  • ア 金融緩和政策は有効であり、利子率の低下を通じた円安によってGDPを拡大できる。
  • イ 財政拡張政策も金融緩和政策も、開放経済では効果がゼロになる。
  • ウ 財政拡張政策は有効であり、為替維持のための金融拡張が自動的に行われることでGDPが拡大する。
  • エ 金融緩和政策を行っても、中央銀行による為替介入でマネーサプライが元に戻り、GDPへの効果はゼロとなる。
正解・解説
正解:ウとエの両方が正しい記述ですが、問題の趣旨は「財政政策が有効になる理由」を正しく説明しているウが最適解。エも金融政策が不胎化される事実を正しく述べています。
固定相場制では財政拡張→利子率上昇→資本流入→円高圧力→中央銀行が円売り(外国為替介入)→マネーサプライ増→LM右シフト→GDP拡大、という流れが自動的に起きます。逆に金融緩和は不胎化(中央銀行の円買い介入でMS元に戻る)によって効果がゼロになります。
中小企業診断士 1次試験 経済学・経済政策 購買力平価(PPP)
購買力平価(PPP)説に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • ア 絶対的購買力平価説では、2国間の為替レートは両国のインフレ率の差によって決定されるとする。
  • イ 購買力平価説は、短期的な為替レートの変動をよく説明できる理論として知られる。
  • ウ 相対的購買力平価説では、為替レートの変化率は2国間のインフレ率の差に等しくなると考える。
  • エ 購買力平価説によれば、非貿易財の価格も貿易財と同様に為替レートに反映される。
正解・解説
正解:ウ
相対的PPPは「為替レートの変化率=国内インフレ率−海外インフレ率」という関係を示します。
ア:インフレ率の差に注目するのは相対的PPP。絶対的PPPは価格水準そのものの比較。
イ:PPPは短期の説明力が低く、長期の傾向を捉えるのに適しています。
エ:非貿易財(理髪・不動産等)は国際取引ができないためPPPが成立しにくく、PPPの限界とされています。

まとめ

  • マンデル=フレミング・モデルは、IS・LM・BP(国際収支)の3曲線で開放経済の均衡を分析する
  • 変動相場制:財政政策は効果ゼロ(完全クラウディングアウト)、金融政策は有効
  • 変動相場制での財政政策:利子率↑→資本流入→円高→純輸出↓→IS曲線が元に戻る(5ステップ)
  • 固定相場制:財政政策は有効、金融政策は効果ゼロ(不胎化)
  • 固定相場制での金融政策:利子率↓→資本流出→円安圧力→中央銀行介入(円買い)→MS減→元に戻る
  • 覚え方:「変動は金融が有効、固定は財政が有効」——2つは真逆の関係
  • 購買力平価(PPP):絶対的PPPは価格水準の比、相対的PPPは「為替変化率=インフレ率の差」
  • PPPの限界:非貿易財・短期の変動・関税コストにより完全には成立しない
U のメモ
マンデル=フレミングを学んでから、円安・円高のニュースを聞く目線が変わりました。「日銀が金融緩和を続けると円安になる」という報道は、まさに変動相場制での金融政策有効メカニズムの話なのです。IS-LMは閉鎖経済の抽象モデルだと感じていたのですが、為替と資本移動を加えたマンデル=フレミングは「いま現在進行中のニュース」と直結していると気づいてから、一気に親しみが持てるようになりました。
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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