U株主と経営者の利害は本当に一致しているのか。この問いに真剣に向き合ったのがエージェンシー理論でした。株主は「利益を最大化してほしい」、経営者は「自分の地位や報酬を守りたい」。目標が微妙にずれているとき、何が起きるのか。それを解き明かす理論が、コーポレートガバナンスの根底にあります。
プリンシパル=エージェント関係とは
エージェンシー問題の根本は「目標の不一致(利害の相違)」と「情報の非対称性」にあります。プリンシパルはエージェントの行動をすべて観察・監視できるわけではなく、エージェントは自分に有利な情報だけを開示しがちです。
試験頻出の具体例:株主(プリンシパル)は企業価値最大化を望む。しかし経営者(エージェント)は自分の在任期間中の業績を優先し、長期投資より短期利益を選ぶ誘因を持つことがある。この利害の不一致がエージェンシー問題の典型です。
エージェンシー問題の3類型
例:固定給の従業員が手抜きをする。火災保険に入ると火の扱いが雑になる。
例:中古車市場で買い手は品質を事前に知れず、良質な車が市場から消える。健康保険に不健康な人が多く加入する。
例:部品メーカーが特定の発注元向けに専用設備を投資した後、発注元が価格引き下げを要求する。



モラルハザードは「契約後」の問題、逆選択は「契約前」の問題という区別が大切です。どちらも情報の非対称性が原因ですが、発生タイミングが違います。試験では「契約前か後か」という視点で選択肢を読むと判断しやすくなります。
エージェンシーコストの3種類
エージェンシー問題の解決策
| 解決アプローチ | 具体的手段 | 機能 |
|---|---|---|
| インセンティブ設計 | 業績連動報酬・ストックオプション | エージェントの目標をプリンシパルに近づける |
| モニタリング強化 | 取締役会・監査役・社外取締役 | エージェントの行動を観察・牽制する |
| 情報開示 | 財務諸表・IR・有価証券報告書 | 情報の非対称性を縮小する |
| 競争圧力 | 経営者市場・買収市場(TOB) | 無能・不正な経営者が市場から退出する仕組み |
| 所有と経営の一致 | オーナー経営・MBO | 経営者自身が株主となりエージェンシー問題を内部化 |
取引コスト理論との関係(ウィリアムソン)
オリバー・ウィリアムソンの取引コスト理論(TCE)は、エージェンシー理論と密接に関連します。市場取引か組織内取引(垂直統合)かの選択は、取引コストの大小によって決まるという理論です。
| 取引コストの要因 | 内容 | 取引コストへの影響 |
|---|---|---|
| 資産特殊性 | 特定取引にしか使えない資産への投資度合い | 高いほど取引コスト大(ホールドアップリスク↑) |
| 不確実性 | 将来の取引環境の予測困難性 | 高いほど契約コスト大 |
| 取引頻度 | 同じ取引相手との繰り返し度 | 頻度が低いと組織化のメリットが薄い |
試験頻出:「資産特殊性が高い取引は内製化(垂直統合)が合理的」という命題はそのまま出題されます。資産特殊性が高い=ホールドアップリスクが高い=市場取引コストが大きい=内部化を選ぶ、という論理の流れを押さえましょう。
過去問で確認する
ア.プリンシパルとエージェントは常に同一の目標を持つため、利害対立は生じない。
イ.モラルハザードとは、契約前の情報の非対称性によって質の低い相手が選ばれる問題である。
ウ.エージェンシーコストには、モニタリングコスト・ボンディングコスト・残余損失が含まれる。
エ.ストックオプションの付与はエージェンシー問題を悪化させる手段として利用される。
ア.資産特殊性が低い取引ほど、垂直統合による内部化が合理的である。
イ.取引の不確実性が高いほど、契約コストが低下し市場取引が有利になる。
ウ.資産特殊性が高い取引では、ホールドアップ問題のリスクが高まり内部化が合理的になる。
エ.取引コスト理論によれば、すべての取引は市場で行うべきである。
ア.固定給の従業員が、成果給の従業員より努力しなくなる。
イ.健康保険制度に不健康な人が相対的に多く加入しやすくなる。
ウ.経営者が在任期間中の業績を優先して長期投資を抑制する。
エ.部品メーカーが専用設備投資後に発注元から価格引き下げを要求される。









