意思決定論まとめ|サイモンの限定合理性・カーネギーモデル・ゴミ箱モデルを図解で整理

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「合理的に判断する」という言葉をよく使いますが、人間はそもそも完全に合理的になれない、とサイモンは言います。情報は常に不完全で、処理能力にも限りがある。それなのに私たちは毎日意思決定している。その「現実の意思決定」を正面から捉えようとしたのが意思決定論でした。

意思決定論は、組織や個人がどのように意思決定を行うかを研究する分野です。ハーバート・サイモンが提唱した「限定合理性」を起点に、マーチとサイアートの「カーネギーモデル」、コーエン・マーチ・オルセンの「ゴミ箱モデル」へと発展しました。中小企業診断士試験では、限定合理性・満足化原理・プログラム化された意思決定の3概念を中心に出題されます。
目次

サイモンの限定合理性(Bounded Rationality)

古典的経済学は「人間は完全な情報をもとに効用を最大化する合理的意思決定者(経済人モデル)」を前提としていました。しかしサイモンは、現実の意思決定者は認知能力・情報・時間すべてに限りがあると指摘し、「経済人」に対して「経営人(Administrative Man)」モデルを提唱しました。

CONCEPT 1
限定合理性
人間の合理性は認知能力・情報量・処理時間によって限定されている。「最適解」を探すことは現実的には不可能。
CONCEPT 2
満足化原理
最大化(maximizing)ではなく、一定の満足水準を超えた時点で意思決定を打ち切る「満足化(satisficing)」を行う。
CONCEPT 3
注意の希少性
組織内で「注意(attention)」は希少資源。何に注目するかが意思決定を左右する。問題の発見自体が能動的な行為。
ECONOMIC MAN
経済人モデル(古典的)
情報完全情報を保有
目標効用・利益の最大化
方法全代替案を比較・最適解を選択
前提無限の認知・計算能力
ADMINISTRATIVE MAN
経営人モデル(サイモン)
情報不完全・断片的な情報
目標満足できる水準の達成(満足化)
方法限られた代替案から「十分良い」案を選択
前提認知・時間・計算能力に限界あり

試験頻出:サイモンはこの研究でノーベル経済学賞(1978年)を受賞。「最適化(最大化)ではなく満足化」という対比は必ず押さえておきましょう。

プログラム化された意思決定 vs 非プログラム化

サイモンはまた、意思決定を繰り返しの程度で2種類に分類しました。

PROGRAMMED
プログラム化された意思決定
性質定型的・反復的・構造化済み
対処標準手続き(SOP)・規則・組織慣行で対処
在庫補充の発注手続き・定期人事異動
担当層主に下位・中間管理職
NON-PROGRAMMED
非プログラム化された意思決定
性質非定型的・一回限り・構造化されていない
対処判断・創造性・問題解決プロセスが必要
新規事業参入・危機対応・M&A判断
担当層主にトップマネジメント
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「プログラム化=ITシステム」と混同しがちですが、ここでの「プログラム」は手順・ルーティンのこと。繰り返し同じ状況が生じて、対処手順が確立しているものがプログラム化された意思決定です。逆に「前例がない・正解が見えない」場面で求められるのが非プログラム化の意思決定。これがトップ層の本来の仕事といえます。

カーネギーモデル(マーチ&サイアート)

マーチとサイアートは1963年の著書『企業の行動理論』で、組織の意思決定は複数の利害関係者間の連合(coalition)によって行われると主張しました。

1
準解決(Quasi resolution of conflict)
組織内の対立を完全に解決するのではなく、各部門が「許容できる水準」を満たす形で問題を先送りしながら意思決定する。
2
不確実性の回避(Uncertainty avoidance)
将来の不確実性に向き合うより、短期的な問題への対応を優先し、長期予測よりも業界慣行・交渉に頼る傾向がある。
3
問題志向的探索(Problemistic search)
問題が発生したときだけ解決策を探す。問題が近い領域で(単純な)探索をまず行い、解決しなければ探索範囲を広げる。
4
組織学習(Organizational learning)
経験を通じて目標水準・注意規則・探索手順を変化させる。組織全体として「学習」が蓄積されていく。

ゴミ箱モデル(Cohen・March・Olsen)

1972年、コーエン・マーチ・オルセンは「組織化された無政府状態(organized anarchy)」と呼ばれる特殊な状況下での意思決定を記述しました。大学・病院・NPOなど、目標が曖昧で参加者が流動的な組織で起きる現象です。

問題(Problems)
組織内に漂う未解決の懸念事項。必ずしも解決策と結びつかない。
解決策(Solutions)
問題の有無にかかわらず提案されるアイデア。答えが問いを探している状態もある。
参加者(Participants)
意思決定の場に出入りする人々。関心度によって参加度が変わる。
選択機会(Choice opportunities)
予算決定・会議・採用など意思決定が求められる場面。ゴミ箱の役割を果たす。

この4つのストリームが偶発的に合流したときに意思決定が生じる、というのがゴミ箱モデルの核心です。合理的プロセスではなく、タイミングと偶然に左右されるという逆説的な洞察が特徴です。

試験頻出:「組織化された無政府状態」「4つのストリームの偶発的合流」というキーワードはそのまま選択肢に登場します。「ゴミ箱モデルは合理的意思決定の記述である」という引っかけ選択肢に注意。

3モデルの比較まとめ

モデル提唱者中心概念組織の前提
限定合理性・経営人モデルサイモン(1947)満足化・プログラム化認知に限界がある個人
カーネギーモデルマーチ&サイアート(1963)連合・準解決・問題志向探索利害が異なる複数の連合体
ゴミ箱モデルコーエン・マーチ・オルセン(1972)4ストリームの偶発的合流組織化された無政府状態

過去問で確認する

H29 第4問企業経営理論
サイモンの意思決定論に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア.人間は完全な情報をもとに効用を最大化する意思決定を行う。
イ.意思決定者は利用可能なすべての代替案を列挙・比較したうえで最適解を選択する。
ウ.人間の認知能力と情報には限界があるため、満足できる水準の代替案が見つかった時点で意思決定を行う。
エ.組織の意思決定は複数の利害関係者からなる連合体によって行われる。
正解:ウ ア・イは経済人モデルの記述。エはカーネギーモデルの記述(マーチ&サイアート)。ウがサイモンの「満足化原理」の説明として正しい。
R1 第5問企業経営理論
プログラム化された意思決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア.前例のない問題に対して創造的な解決策を探索するプロセスである。
イ.定型的・反復的な問題に対して標準手続きや規則を適用するプロセスである。
ウ.トップマネジメントが行う戦略的意思決定の主たる形態である。
エ.不確実性の高い環境下で行われる非構造的な意思決定を指す。
正解:イ ア・ウ・エは非プログラム化された意思決定の特徴。プログラム化はSOP(標準業務手続)・規則・慣行によって対処できる定型反復的な決定を指す。
R4 第3問企業経営理論
ゴミ箱モデルに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア.組織の意思決定は問題・解決策・参加者・選択機会の4つが偶発的に合流して生じる。
イ.組織化された無政府状態では、目標が明確で参加者が安定しているため合理的な意思決定が可能である。
ウ.問題が認識されてから解決策が体系的に探索されるプロセスを示したモデルである。
エ.ゴミ箱モデルはサイモンが提唱した限定合理性の精緻化モデルである。
正解:ア イ:目標が曖昧で参加者が流動的な状況が前提(逆)。ウ:偶発的な合流であって体系的探索ではない。エ:コーエン・マーチ・オルセンが提唱。
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この記事を書いた人

中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。

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