売掛金を現金化する手段として、手形は長らく企業間取引の中核を担ってきました。近年は電子記録債権(でんさい)への移行が進んでいますが、手形の仕組みと法的効力は経営法務で問われる基本知識です。約束手形・為替手形の違い、裏書・割引の流通、電子記録債権への移行を整理します。
目次
手形の2種類
約束手形(Promissory Note)
- 振出人が名宛人(受取人)に一定の金額を支払うことを約束する証券
- 当事者は2者(振出人・受取人)
- 振出人=支払義務者
- 例:仕入先への支払いとして手形を振り出す
為替手形(Bill of Exchange)
- 振出人が第三者(引受人・支払人)に対して、受取人への支払いを委託する証券
- 当事者は3者(振出人・引受人・受取人)
- 引受人が支払義務を負う(引受けが必要)
- 輸出入取引・荷為替手形として広く使われる
手形の必要記載事項
手形は形式的厳格性が高く、法定の記載事項が欠けると手形として無効になる。手形関係は民法の債権・時効の知識と合わせて理解しておくとよい。以下は約束手形の必要記載事項(手形法75条)。
| 必要記載事項 | 内容 |
|---|---|
| ① 手形文句 | 「約束手形」という文言(証券文中に記載) |
| ② 一定の金額の支払約束 | 支払金額(確定額) |
| ③ 満期 | 支払期日(省略時は一覧払いとみなす) |
| ④ 支払地 | 支払いが行われる場所 |
| ⑤ 受取人の名称 | 誰が代金を受け取るか |
| ⑥ 振出日・振出地 | 手形を発行した日と場所 |
| ⑦ 振出人の署名 | 振出人(支払義務者)の記名押印または署名 |
手形の流通:裏書・割引・取立
1
裏書(Endorsement)
手形の所持人が手形を第三者に譲渡する行為。手形の裏面に署名して被裏書人(譲受人)に交付する。裏書人は手形債務を保証したことになる(担保的効力)。
2
手形割引(Discounting)
満期前に銀行等に手形を売却し、満期までの利息(割引料)を差し引いた金額を受け取る。手形の期日前現金化の手段。
3
遡求(さかのぼり)権行使
満期日に振出人が支払いを拒絶した場合(不渡り)、手形の所持人は裏書人や振出人に対して遡及して支払いを請求できる。不渡り手形は6ヶ月以内に2回発生すると銀行取引停止となる。
手形の時効
| 権利の種類 | 時効期間 |
|---|---|
| 振出人に対する手形金請求権 | 満期から3年 |
| 裏書人に対する遡求権 | 拒絶証書作成日から1年 |
| 裏書人相互間の償還請求権 | 弁済日または訴えを受けた日から6ヶ月 |
電子記録債権(でんさい)
電子記録債権の概要
- 電子債権記録機関(でんさいネット等)のシステムに電子的に記録することで発生する債権
- 平成20年施行の「電子記録債権法」が根拠
- 手形の機能(譲渡・割引)を電子的に実現
- 中小企業省力化・コスト削減目的で普及推進中
紙手形との違い・メリット
- 印紙税が不要(コスト削減)
- 紛失・盗難リスクがない
- 分割して譲渡が可能(手形は分割不可)
- 郵送コスト・保管コストが不要
- 銀行口座への入金で完結(取立委任不要)
2026年以降の動向:全国銀行協会は2026年をめどに手形・小切手の利用廃止を推進している。企業間決済の電子化加速により、でんさいや振込への移行が進む見通し。
過去問で確認する
H25年 第37問
経営法務手形の記載事項
経営法務手形の記載事項
約束手形の必要記載事項として、最も適切なものはどれか。
解答のポイント:約束手形の必要記載事項に利率・利息の記載は不要。支払金額(確定額)・満期・支払地・受取人・振出日・振出地・振出人の署名の7項目が基本。「利率の記載がなくても手形は有効」という点が引っかけポイント。
H29年 第36問
経営法務手形の裏書・遡求
経営法務手形の裏書・遡求
手形の裏書に関する記述として、最も適切なものはどれか。
解答のポイント:裏書には担保的効力があり、裏書人は手形が不渡りになった場合に所持人から遡求される。「無担保裏書(裏書禁止文言)」を付記することで担保責任を免れることができる。裏書は手形の流通性(譲渡自由)を高める機能を持つ。
R3年 第35問
経営法務電子記録債権
経営法務電子記録債権
電子記録債権に関する記述として、最も適切なものはどれか。
解答のポイント:電子記録債権は電子記録債権法(H20年施行)を根拠とし、電子債権記録機関に記録することで発生する。紙の手形と異なり印紙税が不要で分割譲渡が可能。手形・売掛金に比べてコスト・リスクが低い企業間決済手段として普及推進されている。

