U第4問は「中小企業の会計に関する指針」の棚卸資産を問う問題です。4つの選択肢がそれぞれ別の論点を問うていて、どれかひとつでもあやふやだと迷ってしまいます。解いていて「ア」と「イ」で少し迷いました。
目次
令和7年度 第4問|問題を確認する
令和7年度 第1次試験|財務・会計 第4問
棚卸資産
「中小企業の会計に関する指針」における棚卸資産に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 借り入れた資金で商品を購入した場合、借入日から商品購入日までの利息をその商品の取得原価に算入することができる。
- イ 棚卸資産に係る簿価切下額のうち、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるものは、損益計算書上、特別損失として表示する。
- ウ 棚卸資産の評価基準としては、個別法、後入先出法、総平均法、移動平均法などが挙げられる。
- エ 棚卸資産は原則として期末における時価をもって、貸借対照評価額とすることが求められている。
与件の整理
「中小企業の会計に関する指針」の規定に沿って、①取得原価の範囲、②評価方法の種類、③評価損の表示区分、④貸借対照表の評価基準(原則)を判断する。
この問題の全体像における位置づけ
財務・会計
├─ 第1章 財務会計の基礎
├─ 第2章 決算整理
│ ├─ 減価償却
│ ├─ 棚卸資産の評価 ← 今ここ
│ │ ├─ 取得原価の計算(付随費用・利息の扱い)
│ │ ├─ 評価方法(先入先出法・総平均法 等)
│ │ └─ 評価損の処理(低価法・特別損失)
│ ├─ 有価証券の評価
│ └─ 引当金(貸倒引当金)
└─ 第3章 原価計算
├─ 第1章 財務会計の基礎
├─ 第2章 決算整理
│ ├─ 減価償却
│ ├─ 棚卸資産の評価 ← 今ここ
│ │ ├─ 取得原価の計算(付随費用・利息の扱い)
│ │ ├─ 評価方法(先入先出法・総平均法 等)
│ │ └─ 評価損の処理(低価法・特別損失)
│ ├─ 有価証券の評価
│ └─ 引当金(貸倒引当金)
└─ 第3章 原価計算
頻出度・難易度・試験戦略
★4
頻出度
棚卸資産は毎年何らかの形で出題される最頻出テーマのひとつ
★3
難易度
計算なし・知識問題。「後入先出法廃止」「利息の例外条件」が鍵
2〜3
分
必答。4つの誤りを順番に消去していく問題
過去の出題履歴
棚卸資産の評価方法・評価損・取得原価は令和元年・3年・5年・6年・7年と継続的に出題。「中小企業の会計に関する指針」との組み合わせは近年の出題トレンド。費用対効果が高い論点です。
解法と正解
ア
借入利息は商品購入の取得原価に算入できない → ✗
「中小企業の会計に関する指針」では、借入金の利息は原則として取得原価に含めないと定められています。例外が認められるのは「製造に長期間を要する棚卸資産の製造のために要した借入金の利子」のみです。商品を「購入」する場合の借入利息はこの例外に該当しません。
イ
臨時かつ多額の評価損は特別損失 → ✓ 正解
棚卸資産の簿価切下額(評価損)のうち、臨時の事象に起因し、かつ多額である場合には、損益計算書上の特別損失として表示することが認められています。「臨時」かつ「多額」の両方を満たすことが条件です。通常の評価損は売上原価または販管費に計上します。
ウ
後入先出法は2010年に廃止されており認められていない → ✗
2010年の会計基準改正で「後入先出法」は廃止されました。現在認められる棚卸資産の評価方法は個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6種類です。選択肢に「後入先出法」が含まれている時点でこの選択肢は不正解と判断できます。
エ
棚卸資産の評価の原則は取得原価であり、時価ではない → ✗
棚卸資産の貸借対照表価額は「取得原価」が原則です。低価法では「取得原価と時価の低い方」を使いますが、これは時価が下がったときの例外処理であり、時価が原則ではありません。時価評価が原則なのは売買目的有価証券などの金融商品です。
正解
イ 棚卸資産に係る簿価切下額のうち、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるものは、損益計算書上、特別損失として表示する。



「後入先出法が廃止されている」という知識があると、ウはすぐに消せます。残りのア・エも「原則の例外」と「原則そのもの」を混同させる引っかけでした。
チェックポイント|速解きのための判断軸
| 確認すべきポイント | 判断の軸 |
|---|---|
| 「後入先出法」が含まれているか | 含まれていたら即アウト(2010年廃止) |
| 「利息の取得原価算入」が話題か | 商品購入→不可。製造×長期間のみ例外 |
| 「時価評価が原則」という表現があるか | 棚卸資産の原則は取得原価。時価は下回った場合の例外処理 |
| 「評価損の表示区分」を問われているか | 臨時かつ多額 → 特別損失。通常 → 売上原価or販管費 |
選択肢の深掘り解説|罠の解剖と立て直しルート
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 選んでしまう人の思考パターン |
|---|---|---|---|
| ア | 商品購入の借入利息を取得原価算入できる | ✗ | 「製造の場合は例外あり」という知識が「商品も同じ」という誤解に変わる |
| イ | 臨時かつ多額の評価損を特別損失に計上 | ✓ | 正解 |
| ウ | 後入先出法が評価方法として挙げられている | ✗ | 古い参考書・古い知識のまま。2010年廃止を見落とす |
| エ | 時価をもって貸借対照表価額とするのが原則 | ✗ | 売買目的有価証券の時価評価と棚卸資産を混同する |
間違えた場合の立て直しルート
アを選んだ「棚卸資産の取得原価の範囲」へ戻る(利息算入は原則不可・製造×長期のみ例外)
ウを選んだ「棚卸資産の評価方法一覧」を確認(後入先出法は2010年廃止・現行6種)
エを選んだ「有価証券の時価評価 vs 棚卸資産の取得原価評価」の違いを整理する
ひっかけの構造|試験委員が狙った3つの罠
罠 01
「例外」の知識を「原則」に見せかける
選択肢アは「製造に長期を要する棚卸資産の利息は原価算入できる」という例外知識を持っている人ほど引っかかります。「利息を取得原価に算入できる場合がある」という知識は正しい。でも「商品購入」という限定詞が付いた瞬間に誤りになります。重要な条件が文章に紛れ込んでいる、という試験委員の典型的な手法です。
罠 02
廃止された知識を正しいように並べる
選択肢ウは「後入先出法」以外の評価方法は現在も正しく使われています。「個別法、総平均法、移動平均法」は見慣れた正しい用語なので、なんとなく全体が正しそうに見えます。廃止された1語だけが混入している構造です。最新の改正情報を知らないと、親近感で選んでしまいます。
罠 03
隣接する資産カテゴリの知識を混在させる
選択肢エは有価証券(売買目的)の時価評価の知識を棚卸資産に当てさせようとしています。「時価で評価する」という概念は会計の世界に存在しますが、それは有価証券の話です。「資産の評価」という共通点が、異なるカテゴリの知識を干渉させます。
この論点の基礎知識|棚卸資産の評価を体系で押さえる
「中小企業の会計に関する指針」とは
上場企業は金融商品取引法のもとで厳格な会計基準が義務づけられています。一方、多くの中小企業は会社法の計算規定に従えばよく、大企業向けの複雑な基準を全面適用するのは現実的ではありません。そのため日本公認会計士協会・日本税理士会連合会・日本商工会議所・企業会計基準委員会の4団体が「中小企業の会計に関する指針」を策定し、中小企業が使いやすい形で会計処理を整理しています。試験では「指針でどう定められているか」という切り口で出題されます。
| 論点 | 指針の規定 | 試験での引っかけ |
|---|---|---|
| 評価方法の種類 | 個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法 | 後入先出法を混入させる |
| 取得原価の範囲 | 購入代価+付随費用。借入利息は原則含まない(製造長期の場合のみ例外) | 商品購入でも利息算入できると見せかける |
| 貸借対照表の評価基準 | 取得原価が原則。時価が下回った場合は低価法(取得原価と時価の低い方) | 「時価が原則」と誤表現させる |
| 評価損の表示区分 | 通常の評価損→売上原価or販管費。臨時かつ多額→特別損失 | 全て同じ区分に計上させる |
| 最終仕入原価法 | 指針では認められている(実務で中小企業に広く使用) | 認められていないと思わせる |
棚卸資産の評価方法を選ぶと損益が変わる
先入先出法を使えば、古い(安い)原価が先に費用化されるため、物価上昇局面では利益が多く出ます。総平均法はその期間全体の平均コストで計算するため、価格変動の影響が平滑化されます。会計処理の選択が損益に影響するという現実を、経営者は意外と意識していないことが多いです。
選択肢をイメージで理解する|なぜ正解で、なぜ不正解なのか
4つの選択肢を、身近な場面に置き換えて整理します。「なんとなくわかった」を「腑に落ちた」に変えていきましょう。
ア
借り入れた資金で商品を購入した場合、借入利息を取得原価に算入できる?
✗ 誤り
スーパーの仕入れで考えてみます。
近所のスーパーが新商品の仕入れのために銀行から100万円を借りました。借りた月曜日から商品が届く木曜日まで3日間の利息が1,000円かかりました。
「この1,000円は商品の仕入れ原価に含めてよい」と言えるでしょうか?
近所のスーパーが新商品の仕入れのために銀行から100万円を借りました。借りた月曜日から商品が届く木曜日まで3日間の利息が1,000円かかりました。
「この1,000円は商品の仕入れ原価に含めてよい」と言えるでしょうか?
答えは「言えない」です。
この1,000円は「お金を調達するためにかかった費用(財務費用)」であって、商品そのものを手に入れるために直接かかったコスト(引取運賃・保険料など)とは性質が違います。
では、利息が原価に算入できる例外はどんな場合でしょうか。不動産デベロッパーがマンションを建てるのに3年かかったとします。その3年間の借入利息は「建物を完成させるために直接かかったコスト」として、取得原価に算入できます。
「製造」かつ「長期間」かつ「借入利息」という3つの条件が揃ったときだけです。スーパーが既製品を仕入れるだけなら、この例外は使えません。
この1,000円は「お金を調達するためにかかった費用(財務費用)」であって、商品そのものを手に入れるために直接かかったコスト(引取運賃・保険料など)とは性質が違います。
では、利息が原価に算入できる例外はどんな場合でしょうか。不動産デベロッパーがマンションを建てるのに3年かかったとします。その3年間の借入利息は「建物を完成させるために直接かかったコスト」として、取得原価に算入できます。
「製造」かつ「長期間」かつ「借入利息」という3つの条件が揃ったときだけです。スーパーが既製品を仕入れるだけなら、この例外は使えません。
原価算入できない(原則)
原価算入できる(例外)
スーパーが商品を購入するための借入利息
マンション・船・大型設備など「製造に長期を要する」棚卸資産の製造期間中の借入利息
📌 覚え方:利息は原則「費用」。原価に入るのは「製造×長期」の例外だけ。商品の購入は対象外。
イ
臨時かつ多額の評価損は、損益計算書上で特別損失として表示する?
✓ 正解
食品メーカーの倉庫に置き換えてみます。
ある食品会社が毎年、商品の値下がりで少し評価損が出ています。これは毎期起こり得ることです。
ところが今年は台風で倉庫が水没し、商品の9割が廃棄せざるを得なくなりました。金額も通常の評価損とは比べものにならないほど大きいです。
この2つの評価損は、同じ場所(売上原価)に計上すべきでしょうか?
ある食品会社が毎年、商品の値下がりで少し評価損が出ています。これは毎期起こり得ることです。
ところが今年は台風で倉庫が水没し、商品の9割が廃棄せざるを得なくなりました。金額も通常の評価損とは比べものにならないほど大きいです。
この2つの評価損は、同じ場所(売上原価)に計上すべきでしょうか?
別の場所に分けて表示するのが正しい処理です。
損益計算書には「経常損益(毎期起きるような損益)」と「特別損益(突発的・例外的な損益)」という区分があります。
投資家や取引先が損益計算書を見たとき「今年の利益が悪いのは、経営が下手だからか?それとも台風という不運のせいか?」を判断できるようにするためです。
損益計算書には「経常損益(毎期起きるような損益)」と「特別損益(突発的・例外的な損益)」という区分があります。
投資家や取引先が損益計算書を見たとき「今年の利益が悪いのは、経営が下手だからか?それとも台風という不運のせいか?」を判断できるようにするためです。
毎期起きる評価損
→
売上原価 or 販管費
臨時かつ多額の評価損
→
特別損失
📌 覚え方:特別損失=「普通は起きない」+「金額も大きい」の2条件セット。どちらか片方だけでは特別損失にはならない。
ウ
後入先出法は、棚卸資産の評価方法のひとつとして認められている?
✗ 誤り
本屋さんの棚で考えてみます。
本屋が同じ本を毎月仕入れています。1月仕入れ分は800円、2月仕入れ分は900円(値上がり)。
・先入先出法:1月の古い本(800円)から売る → 費用800円
・後入先出法:2月の新しい本(900円)から売る → 費用900円
本屋が同じ本を毎月仕入れています。1月仕入れ分は800円、2月仕入れ分は900円(値上がり)。
・先入先出法:1月の古い本(800円)から売る → 費用800円
・後入先出法:2月の新しい本(900円)から売る → 費用900円
先入先出法(現在使用可)
後入先出法(2010年廃止)
古い・安い原価を先に費用化
→ 物価上昇局面では利益が多く出る
→ 物価上昇局面では利益が多く出る
新しい・高い原価を先に費用化
→ 利益が圧縮され節税に使われやすい
→ 国際基準と一致せず廃止
→ 利益が圧縮され節税に使われやすい
→ 国際基準と一致せず廃止
物価が上がっている時代、後入先出法を使うと「新しい高い仕入れ原価」が費用になり、利益が小さくなります。利益が減れば税金も減ります。節税目的で使われやすいという問題があり、国際的な会計基準(IFRS)とも一致しないため、日本では2010年に廃止されました。
選択肢に「後入先出法」が含まれているという一点だけで、この選択肢は不正解と判断できます。
選択肢に「後入先出法」が含まれているという一点だけで、この選択肢は不正解と判断できます。
📌 覚え方:後入先出法は2010年廃止。「新しい高い原価→費用→利益圧縮→節税→国際基準と不一致→廃止」という流れで記憶。
エ
棚卸資産は、原則として期末時価で貸借対照表に計上する?
✗ 誤り
食料品店の倉庫で考えてみます。
倉庫に100個のキャベツが残っています。仕入れたときは1個100円でした。決算日に市場を調べたら、今日のキャベツは1個120円で売れるようです。
・取得原価で評価:100円 × 100個 = 10,000円
・時価で評価:120円 × 100個 = 12,000円
棚卸資産の評価の「原則」はどちらでしょうか?
倉庫に100個のキャベツが残っています。仕入れたときは1個100円でした。決算日に市場を調べたら、今日のキャベツは1個120円で売れるようです。
・取得原価で評価:100円 × 100個 = 10,000円
・時価で評価:120円 × 100個 = 12,000円
棚卸資産の評価の「原則」はどちらでしょうか?
答えは「取得原価(100円)」が原則です。
在庫は「実際にいくらで仕入れたか」というコストで管理するのが実態に即しています。毎日価格が変わる株式とは違い、キャベツの市場価格を毎日調べて評価額を更新するのは現実的ではありません。
では時価はどこで登場するでしょうか。キャベツが腐って60円にしかならなくなった場合(時価が原価を下回った場合)は「取得原価と時価の低い方(60円)」で評価します。これを低価法といいます。
在庫は「実際にいくらで仕入れたか」というコストで管理するのが実態に即しています。毎日価格が変わる株式とは違い、キャベツの市場価格を毎日調べて評価額を更新するのは現実的ではありません。
では時価はどこで登場するでしょうか。キャベツが腐って60円にしかならなくなった場合(時価が原価を下回った場合)は「取得原価と時価の低い方(60円)」で評価します。これを低価法といいます。
時価 > 取得原価
→
取得原価で評価(原則どおり)
時価 < 取得原価
→
時価で評価(低価法)
📌 覚え方:棚卸資産は「取得原価が原則」。時価は「下がったときだけ使う」例外処理。有価証券の時価評価と混同しない。
1次試験から2次試験への接続
2次試験(事例IV)での出題形式
2次試験では「評価方法の細かな規定」よりも「棚卸回転率・棚卸回転日数」という形で在庫管理の効率性を問われます。「在庫が多すぎる・少なすぎる」という経営判断の視点が中心です。1次では「何が認められていて何が廃止されたか」を正確に押さえておけば十分です。
まとめ|この問題で押さえる3つのポイント
- 後入先出法は2010年廃止。選択肢に含まれていたら即除外できる
- 借入利息の取得原価算入は「製造×長期間」の例外のみ。商品購入には使えない
- 臨時かつ多額の評価損は特別損失。「臨時」と「多額」の両方を満たすことが条件
- 棚卸資産の評価の原則は取得原価。時価評価が原則なのは有価証券(売買目的)
この4つの論点はそれぞれ独立しているようで、「会計処理の原則と例外」という共通した軸で問われています。次に同じテーマの問題と出会ったとき、「どの論点を問われているか」を最初に確認する習慣が、正解への一番の近道です。
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