活動基準原価計算(ABC) | 中小企業診断士1次試験 財務・会計
「なぜ従来の原価計算だとダメなの?」——ABCを最初に勉強したとき、この「なぜ」が分からなくて先に進めませんでした。間接費の配賦に「恣意性」があるという問題を理解してから、ABCの意義がようやく見えてきた気がします。
活動基準原価計算(ABC: Activity-Based Costing)は、間接費を「活動」という単位で把握し、その活動を引き起こした原因(コストドライバー)をもとに製品に配賦する原価計算手法です。「なぜ従来手法では不十分なのか」という問題意識がABC誕生の出発点であり、その理解がABCの本質を理解する鍵になります。
目次
従来の原価計算が抱えていた問題——「直接労務時間で割れば万事OK?」
工場で2種類の製品A・Bを作っているとします。製品Aは大量生産の定番品、製品Bは少量生産の特注品。従来の原価計算では間接費を「直接労務時間の比率」で2製品に按分することが多かったのですが、ここに問題が潜んでいます。
製品Aの実態(大量生産品)
月産10,000個。段取り替え(機械のセッティング変更)は月1回だけ。検査も抜き取り検査でOK。購買注文書は月数枚。
製品Bの実態(特注品)
月産100個。段取り替えは毎回必要で月50回。全数検査が必要。仕様変更が多く購買注文書は月100枚以上。
従来手法の問題
製品Bの製造は明らかに多くの管理活動を消費しているのに、「直接労務時間が少ない(生産数が少ない)」という理由で間接費が少ししか配賦されません。製品Bの原価が実態より低く見積もられ、赤字販売をしていても気づけないのです。
従来手法の根本的な問題
直接労務時間(または機械時間)ですべての間接費を按分する方法は、「労務時間をたくさん使う製品ほど間接費も多く消費する」という仮定に基づいています。しかし現代の製造業では、段取り・検査・購買管理・品質管理などの間接費は、生産数量ではなく「活動の回数・複雑さ」に比例することが多く、この仮定が成り立たなくなっています。
ABCの基本概念——「活動」を媒介にして原価を製品に届ける
ABCは「製品が直接コストを消費するのではなく、活動がコストを消費し、製品が活動を消費する」という考え方に立っています。
間接費(リソース)
設備費・人件費・電気代・消耗品費…
活動(Activity)コストプール
段取り活動・検査活動・購買活動・機械加工活動…
製品(Product)
製品A(大量生産品)・製品B(特注品)…
コストドライバーとは
活動コストを製品に配賦するための基準(ドライバー)のことです。「その活動のコストを最もよく説明する要因」を選びます。段取り活動なら「段取り回数」、検査活動なら「検査回数(or 検査時間)」、購買活動なら「発注件数」がコストドライバーになります。
ABCの4ステップ——順番に追ってみる
活動の特定
製品を作るために行われているすべての「活動」を洗い出します。段取り替え・機械加工・品質検査・材料調達・製品出荷など。活動の粒度(細かさ)は会社の状況に応じて決めます。
活動コストプールの設定
各活動に関連するコスト(人件費・設備費・消耗品費など)を集計します。「段取り活動コストプール」「検査活動コストプール」というように活動ごとに費用の「バケツ」を作るイメージです。
コストドライバーの選定
各活動コストを製品に配賦するための「基準」を選びます。段取りコストプール→段取り回数、検査コストプール→検査時間、購買コストプール→発注件数、のように設定します。
製品への配賦
コストドライバーのレート(活動コスト÷ドライバー数量)を計算し、各製品が消費したドライバー数量に掛けて製品に配賦します。製品Bが段取りを50回消費したなら、段取りコストの50回分が製品Bに配賦されます。
伝統的原価計算 vs ABC——具体的な数字で比べる
同じ間接費1,000万円を、2つの手法で製品A・Bに配賦するとどうなるか、具体的な数字で確認します。
前提条件
間接費合計:1,000万円(段取り費600万円、検査費400万円)
製品A:直接労務時間900時間、段取り回数1回、検査時間10時間
製品B:直接労務時間100時間、段取り回数50回、検査時間40時間
| 配賦方法 | 製品Aへの配賦額 | 製品Bへの配賦額 |
| 伝統的(直接労務時間按分) | 900万円(1,000×900/1,000) | 100万円(1,000×100/1,000) |
| ABC(段取り+検査それぞれで配賦) | 段取り:11.8万+検査:80万 = 91.8万円 | 段取り:588万+検査:320万 = 908万円 |
伝統的手法では製品Bに100万円しか間接費が配賦されなかったのが、ABCでは908万円になりました。製品Bの実際の「負担すべきコスト」がずっと大きかったことが、ABCを使うことで明らかになります。
実際にこの数字を計算してみると「製品Bは赤字だったかもしれない」という怖さが伝わってきます。ABCが「原価計算の革命」と言われる理由が、この数字の違いに凝縮されている気がしました。
ABMへの展開——原価計算を超えた活用
ABCはただの「正確な原価計算」にとどまらず、活動の管理・改善に活用する「ABM(Activity-Based Management: 活動基準管理)」へと展開できます。
付加価値活動 vs 非付加価値活動
ABMでは活動を「顧客に価値を提供する付加価値活動」と「そうでない非付加価値活動」に分類します。非付加価値活動(待ち時間・移動・手直しなど)は削減の対象になります。
コストドライバー分析による改善
「段取り回数が多い=段取りコストが高い」と分かれば、段取り回数を減らす(SMED手法など)または同一製品の生産をまとめる(ロットサイズ最適化)などの改善策が自然と浮かびます。
試験対策のポイントを整理する
POINT 01
コストドライバーの意味と選び方
「その活動のコストを最もよく説明する要因」がコストドライバーです。段取り→段取り回数、検査→検査時間、購買→発注件数という対応を問われることがあります。
POINT 02
ABCとABMの違い
ABC=原価計算(正確な原価を求めるツール)。ABM=管理会計・経営管理(ABCの情報を使って活動を改善するアプローチ)。「原価計算か、意思決定・管理か」で区別します。
ABCが有効な場面
間接費の比率が高い企業・多品種少量生産企業で特に有効です。伝統的原価計算で「見かけ上黒字だが実は赤字の製品」が生まれやすい状況をABCは解決します。
ABCの限界
活動の洗い出し・コストプールの設定・ドライバーの選定に多大な時間とコストがかかります。中小企業では導入コストが便益を上回る場合もあります。
ABCは「管理会計」の手法であることに注意
ABCは法律や制度で定められた「財務会計」の原価計算ではありません。企業が内部の意思決定のために任意で使う「管理会計」の手法です。「ABCを使わなければ法律違反」という誤りの選択肢には注意してください。
よくある質問
Q. コストドライバーと配賦基準の違いは何ですか?
広義では同じ意味で使われることが多いですが、ABC文脈では「コストドライバー」はコストの発生を引き起こす要因という意味合いが強いです。伝統的な配賦基準(直接労務時間・機械時間)はコストを「分けるための物差し」に過ぎませんが、コストドライバーは「なぜそのコストが発生するのか」という因果関係を反映しています。
Q. ABCを導入するとどのような意思決定が変わりますか?
最も典型的なのは「製品ミックスの見直し」です。伝統的手法では黒字に見えていた製品が、ABCで分析すると実は赤字だったことが判明し、その製品の生産中止や価格改定につながります。逆に「少量だから手間がかかる」と思っていた製品の方が高い付加価値を持っていることが分かる場合もあります。
Q. ABCとTD-ABC(時間駆動型ABC)の違いは何ですか?
TD-ABC(Time-Driven ABC)はABCの課題(活動特定の手間)を改善した発展版です。コストドライバーを「時間」だけに統一し、「その活動に何分かかるか」だけで配賦レートを計算します。試験では現時点ではTD-ABCの出題は少ないため、まず基本のABCをしっかり理解することをおすすめします。
Q. 間接費の比率が低い企業にはABCは向かないのですか?
一般的にはそう言われています。直接費(材料費・直接労務費)が大半を占める企業では、間接費の配賦方法を精緻化してもインパクトが小さいため、ABCの導入コストが見合わないことが多いです。間接費が総コストの30〜40%以上を占める企業で特に効果が高くなります。
Q. ABMで「非付加価値活動」とはどんなものが例として挙げられますか?
工場内での材料の移動・待ち時間・手直し(不良品の再加工)・検査(不良品が出ないなら本来不要)・在庫の保管などが典型例です。これらは顧客が「払いたいコスト」ではないため、削減の対象になります。ただし法的に必要な検査など削除できない活動もあります。
ABCの流れ(間接費→活動コストプール→製品)を最初に図で描いてみることをおすすめします。「バケツに費用を入れて、バケツごとに製品に注ぐ」というイメージが頭にあると、ステップを暗記しなくても自然に再現できるようになります。
試験では「コストドライバーの意味」と「ABCとABMの違い」が最もよく出る論点です。2つの計算手法の比較(数値問題)も過去に出題されているので、一度は手を動かして計算してみることをおすすめします。
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この記事を書いた人
中小企業診断士試験勉強中のアラフィフシングルマザーです。
大学卒業後から現在まで、数々の失敗をしながらずっと自営業として試行錯誤を重ねてきました。
もっときちんと経営やビジネスの知識を身につけて、将来は他の事業者の方のお役にも立てたらいいな、と思うようになり、中小企業診断士の試験に挑戦中です。