U「負債を増やすと企業価値が上がるの?下がるの?」という問いに対して、MM理論は「税金がなければ関係ない」「税金があれば負債の方が有利」という、直感に反する答えを出します。最初は「そんなはずない」と思いましたが、なぜそうなるのかを順を追って整理したら、しっかり腑に落ちました。
MM理論(モジリアーニ=ミラー理論)は、「企業価値は資本構成(負債と自己資本の比率)に影響されるか?」という問いに対する答えです。前提条件によって命題1・命題2の2つに分かれ、税金の有無が結論を大きく変えます。
目次
MM理論の2つの世界
完全市場(税なし)
命題Ⅰ:企業価値は資本構成に無関係
負債を増やしても、自己資本で調達しても、企業価値(V)は変わらない。
なぜ?→ 投資家が自分でレバレッジを調整できる(自家製レバレッジ)から、企業がわざわざ負債を使っても意味がない。
V = VU(無負債企業の価値)
負債を増やしても、自己資本で調達しても、企業価値(V)は変わらない。
なぜ?→ 投資家が自分でレバレッジを調整できる(自家製レバレッジ)から、企業がわざわざ負債を使っても意味がない。
V = VU(無負債企業の価値)
法人税あり
命題Ⅰ(修正):負債が多いほど企業価値が高い
負債の利息は損金算入できる(タックスシールド)→ 税負担が減る分だけ企業価値が上がる。
タックスシールドの現在価値 = 負債 × 実効税率
V = VU + D × T
(D=負債、T=実効税率)
負債の利息は損金算入できる(タックスシールド)→ 税負担が減る分だけ企業価値が上がる。
タックスシールドの現在価値 = 負債 × 実効税率
V = VU + D × T
(D=負債、T=実効税率)
タックスシールドとは
負債の利息は税務上の費用として認められます(損金算入)。支払利息が100万円で実効税率30%なら、税金が30万円減ります。この「節税効果」の現在価値がタックスシールドです。
タックスシールドの現在価値 = 支払利息 × 実効税率 ÷ 負債コスト = 負債残高 × 実効税率
タックスシールドの現在価値 = 支払利息 × 実効税率 ÷ 負債コスト = 負債残高 × 実効税率
命題Ⅱ:自己資本コストと負債比率の関係
命題Ⅱ:Re = Ra + (Ra − Rd) × D/E
Re:自己資本コスト Ra:無負債企業の資本コスト(総資産利益率)
Rd:負債コスト D/E:負債比率(負債÷自己資本)
Re:自己資本コスト Ra:無負債企業の資本コスト(総資産利益率)
Rd:負債コスト D/E:負債比率(負債÷自己資本)
命題Ⅱの直感的な意味
企業が負債を増やすと、株主が負う財務リスクが高まります(倒産時に優先的に返済されるのは債権者なので)。そのため株主は、より高いリターン(自己資本コスト)を要求します。
完全市場では、レバレッジで企業価値は変わらないけれど、株主の期待収益率は負債比率に比例して上昇する、という関係です。
完全市場では、レバレッジで企業価値は変わらないけれど、株主の期待収益率は負債比率に比例して上昇する、という関係です。
| 負債比率 D/E | Ra(無負債コスト) | Rd(負債コスト) | Re(自己資本コスト) |
|---|---|---|---|
| 0(無負債) | 10% | 5% | 10% |
| 0.5 | 10% | 5% | 10% + (10%−5%)×0.5 = 12.5% |
| 1.0 | 10% | 5% | 10% + (10%−5%)×1.0 = 15% |
| 2.0 | 10% | 5% | 10% + (10%−5%)×2.0 = 20% |
最適資本構成の考え方
MM理論(税あり)の結論
タックスシールドが増えるので、負債を増やすほど企業価値が高まる。理論上は「全部負債にすれば最高」になってしまう。
V ↑ = VU + D × T(Dが増えるほど高い)
トレードオフ理論
現実には、負債が増えると財務的困難コスト(倒産リスク)も増える。タックスシールドの便益と倒産コストが釣り合う点が最適。
最適点:タックスシールドPV = 財務的困難コストPV
ペッキングオーダー理論
情報の非対称性から、企業は①内部留保→②負債→③株式発行の順に資金調達を好む。最適資本構成は静的には存在しない。
調達優先順位:内部留保 > 負債 > 新株発行
WACCとの関係
完全市場(税なし):負債比率が変わっても WACCは一定(Re が上がる分だけ相殺される)
法人税あり:負債比率が上がると WACCは低下(タックスシールドの効果)
トレードオフ理論:財務的困難コストを考慮すると、WACCが最小になる点が最適資本構成
法人税あり:負債比率が上がると WACCは低下(タックスシールドの効果)
トレードオフ理論:財務的困難コストを考慮すると、WACCが最小になる点が最適資本構成
試験でよく出る3つの罠
1
「税なしMM理論→負債が多い方が有利」と間違える
税なし(完全市場)のMM理論では企業価値は資本構成に無関係です。「負債が多いほど有利」はタックスシールドが効く「税あり」の話です。前提条件(税なし/税あり)を必ず確認しましょう。
2
タックスシールドの現在価値を「支払利息×税率」と計算する
タックスシールドの現在価値は負債残高 × 実効税率です(永続する場合)。「支払利息 × 税率」は1年分の節税額で、現在価値ではありません。負債が永続するなら÷負債コストで現在価値化すると、D×T になります。
3
「命題Ⅱで負債を増やすとWACCが下がる」と思い込む
完全市場(税なし)では、負債を増やしてもWACCは変わりません。安い負債コストで調達しても、株主が要求するリターン(Re)が同じだけ上がるため相殺されます。WACCが下がるのは税あり(タックスシールド効果)の場合だけです。



MM理論は「現実には成り立たない前提」からスタートするので、最初は「何のための理論?」と感じました。ただ、「完全市場での基準点を示すことで、現実の不完全性(税・倒産コスト・情報の非対称性)の影響を測る」という役割だと理解してから、すっきりしました。
身近な例で考えると
1000万円のマンションを①全額自己資金②500万を借入で買う場合を比べます。
| 項目 | ①全額自己資金 | ②500万借入(税なし) | ②’500万借入(税あり) |
|---|---|---|---|
| 物件価値(本来) | 1,000万 | 1,000万 | 1,000万 |
| タックスシールド | 0 | 0 | 500万×30%=150万 |
| 企業価値(理論) | 1,000万 | 1,000万(変わらず) | 1,150万(UP) |
税なしでは借入の有無で価値は変わりません(MM命題Ⅰ)。税があると、ローンの利息が経費になる分だけ価値が上がります。ただし現実には、借入が増えると「返せなくなるリスク」も増えるため、どこかで最適なバランスがあります(トレードオフ理論)。
まとめ
- 完全市場(税なし):企業価値は資本構成に無関係(MM命題Ⅰ)
- 法人税あり:V = VU + D×T(負債のタックスシールド分だけ企業価値UP)
- 命題Ⅱ:Re = Ra + (Ra−Rd)×D/E(負債比率↑→自己資本コスト↑)
- トレードオフ理論:タックスシールドと財務的困難コストが拮抗する点が最適資本構成
- 完全市場では負債比率が変わってもWACCは一定。税あり・倒産コスト考慮でWACCが最小になる点が最適
Uのメモ
試験では「税なし命題Ⅰ→企業価値は変わらない」と「税あり命題Ⅰ→負債増で企業価値UP」の使い分けが頻出です。問題文に「法人税を考慮する/しない」という条件が必ず書いてあるので、見落とさないよう最初に確認するようにしています。
また、命題Ⅱの式は「Re = Ra + (Ra−Rd)×D/E」と覚えていますが、「無負債コストRaより高いコストで資金調達した分のリスクプレミアムが、D/Eに比例してReに上乗せされる」というイメージで理解すると式が自然に頭に入ります。
また、命題Ⅱの式は「Re = Ra + (Ra−Rd)×D/E」と覚えていますが、「無負債コストRaより高いコストで資金調達した分のリスクプレミアムが、D/Eに比例してReに上乗せされる」というイメージで理解すると式が自然に頭に入ります。









